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関節リウマチ

2019年3月号
関節リウマチの画像
かつて関節リウマチ(rheumatoid arthritis : RA)は、関節の変形・拘縮などによる上下肢の機能障害によって著しいQOLの低下を招く病気だった。しかし、早期診断・治療が可能となり、早期から積極的に治療を開始することで関節破壊を阻止できるようになった。不治の病の代表格だった関節リウマチの治療目標は、今や患者の社会復帰であり、健常者と変わらない日常生活を送ることに向けられている。今回は、近年、劇的に変化を遂げた関節リウマチの薬物療法について、聖マリアンナ医科大学病院リウマチ・膠原病・アレルギー内科主任医長の鈴木豪氏にお話を伺った。

Check Points

 関節リウマチは関節炎を主徴とするが、他臓器にも病変が波及する全身性疾患
 薬物療法の進歩は寛解の長期間維持およびQOLの向上に貢献
 メトトレキサート(MTX)を中心に、その他の抗リウマチ薬、生物学的製剤、NSAIDs、副腎皮質ステロイドを組み合わせる
 長期の寛解維持と薬物減量・休薬を視野に治療する

個々の患者への最適医療をめざす治療アルゴリズム

治療薬の進歩と治療戦略で寛解率50%を超える

約70〜80万人が罹患している関節リウマチ(RA)は、多発する関節炎と進行性関節破壊を主症状とし、肺や腎臓、皮下組織などにも病巣が広がる全身性炎症疾患である。炎症症状は寛解と増悪を繰り返すが、目標達成に向けた治療(Treat to Target:T2T、表1)により寛解導入率は高くなっている。公益社団法人日本リウマチ友の会がリウマチ患者の実態調査の結果をまとめた『2015年リウマチ白書・総合編』によると、1年間の治療による症状改善状況は、2005年と2015年を比較すると、寛解率、改善率ともに2015年の方が向上している。オランダで行われたBeStスタディ(2011年)では、生物学的製剤(biological disease modifying anti rheumatic drug:bDMARD)とメトトレキサート(MTX)の併用により、2年以内に120例中77例(約64%)で寛解を達成し、77例全例がバイオフリー(生物学的製剤の中止)に移行した1)
このような治療成績の向上に伴い、患者の期待は「関節破壊の進行が止まる」、「関節の痛みや腫れがなくなる」といった症状の改善だけでなく、「健常者と同じように社会生活を送ることができる」といった高いQOLを期待する声が増えてきている。

表1 目標達成に向けた治療(Treat to Target:T2T)の基本的考え方
A 関節リウマチ治療は、患者とリウマチ医の合意に基づいて行われるべきである
B 関節リウマチの主要な治療ゴールは、症状のコントロール、関節破壊などの構造的変化の抑制、身体機能の正常化、社会活動の参加を通じて、患者の長期的QOLを最大限まで改善することである
C 炎症を取り除くことが、治療ゴールを達成するために最も重要である
D 疾患活動性の評価とそれに基づく治療の適正化による治療(T2T)は関節リウマチのアウトカム改善に最も効果的である

Smolen JS, et al. Ann Rheum Dis. 2010. 69: 631-637より引用

生物学的製剤の登場でRA治療は新たなステージに

かつてRAの治療は、いかに寛解を達成するかに主眼が置かれていた。1999年、MTXが登場して関節破壊の進行を遅らせることが可能になったが、承認時、国内では8mg/週までの使用しか認められず十分な効果が得られない場合も少なくなかった。しかし、2011年にMTX増量投与(最大16mg/週)が可能になった。また、2003年からはbDMARDが登場した。こうした治療環境の向上によって、関節破壊の進行を強固に抑制できるようになり、多くの症例で寛解導入が可能になった(表2)。現在では、T2Tの考え方が普及して、「寛解導入は(リウマチ専門医にとって)達成しなければいけない目標になりつつある」と、聖マリアンナ医科大学病院リウマチ・膠原病・アレルギー内科主任医長の鈴木豪氏は言う。

表2 RA薬物治療の変遷
1970〜80年代 適切な治療をしないと、半数は10年後に日常生活が不自由に。中心的薬剤は副腎皮質ステロイド。
1990年代 MTXが承認され関節破壊の進行抑制が期待されたが、寛解導入できないケースも少なくなかった。
2000年代 新しい作用機序の生物学的製剤の登場により関節破壊の進行を強く抑制できるようになってRA治療は新たなステージに入る。
2010年以降 ACR/EULAR分類基準が登場し、将来内部破壊を起こす可能性の高い患者を早期に特定できるようになる。
目標達成に向けた治療(T2T)が提唱され、RA治療は寛解達成後の患者のQOL向上と再発予防が目標となる。

編集部作成

早期の診断・治療により合併症の頻度が減少

従来、RAの診断は1987年に作成された米国リウマチ学会(ACR)の分類基準により行われてきたが、早期にRAを診断するために、現在では米国および欧州リウマチ学会(EULAR)が合同で発表した分類基準が使用されている(表3)。
この基準では、関節病変、血清学的検査、急性期反応物質、症状持続期間のスコアを合計し、6点以上なら関節リウマチと分類する。この基準は早期に抗リウマチ薬による治療開始が必要な患者を同定することも意図されており、日本リウマチ学会でも早期の関節リウマチの診断にも有用であることが示されている。
RAは、患者が有する合併症により治療が異なる。RAでは種々の合併症を併発するが、最も多いのが肺疾患だ。「初診時、すでに肺疾患を合併している患者さんもいるが、肺疾患を合併していない例が増えており、関節炎症が長期間続くことによる心血管合併症の頻度も改善してきている」(鈴木氏)。RAは内臓にも病変をきたす全身疾患だが、RAの中心的薬剤であるMTXの服用量やbDMARDの使用割合が増え治療が強化されたことにより、合併症を有する患者においても疾患活動性、身体機能障害度は改善されてきている。合併症が少ないほど治療の恩恵を受ける機会は多く、その意味でも早期に発見し標準的治療を開始することが大切である。

表3 2010年ACR/EULAR関節リウマチ分類基準
A. 関節病変*1 スコア
大関節*2 1ヵ所 0
大関節 2〜10ヵ所 1
小関節*3 1 〜3ヵ所(大関節病変の有無にかかわらず) 2
小関節 4 〜 10ヵ所(大関節病変の有無にかかわらず) 3
関節10ヵ所以上(少なくとも小関節1ヵ所を含む) 5
B. 血清学的検査(少なくとも1項目は必須)*4
RF、抗CCP抗体(ACPA)ともに陰性 0
RF、ACPAのいずれかが低値陽性 2
RF、ACPAのいずれかが高値陽性 3
C. 急性期反応物質(少なくとも1項目は必須)
血清CRP蛋白、赤沈とも正常 0
血清CRP蛋白異常、または赤沈亢進 1
D. 症状持続期間
<6週間 0
≧6週間 1

合計6点以上で関節リウマチと分類できる。
*1 腫脹または圧痛関節(MRI、超音波検査確認でもよい)
*2 肩、肘、股、膝、足関節
*3 手指、足趾、手関節など
*4 低値陽性:正常上限3倍まで、高値陽性:正常上限3倍以上

Aletaha D et al: Arthritis Rheum 62: 2569,2010を一部改変

RA治療の中心的薬剤はMTX内臓疾患をもつ患者は慎重投与

RAに使用される薬剤には抗リウマチ薬、免疫抑制薬、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、副腎皮質ステロイド、生物学的製剤があるが、発症3ヵ月以内の早期から抗リウマチ薬の使用が推奨されている。抗リウマチ薬の中で最も使用されているのはMTXで、RA治療の中心的薬剤(アンカードラッグ)として位置づけられている。
『関節リウマチ治療におけるMTX診療ガイドライン2016年改訂版』(以下『MTX診療ガイドライン』)では、MTXに含まれる成分に過敏症の既往歴を有し、あるいは胸水、腹水を認める患者、重症感染症や重大な血液・リンパ系障害、肝障害、高度な腎障害、高度な呼吸器障害を有する患者では投与禁忌とされ、軽度の臓器障害を有する患者や高齢者、低アルブミン血症を認める患者では慎重投与が必要だが、鈴木氏によれば、「およそ…

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