くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの症状を引き起こすアレルギー性鼻炎。なかでも主にダニを抗原として、症状が一年中持続するアレルギー性鼻炎は、患者さんの生活の質(QOL)に大きく影響します。今回は、独立行政法人国立病院機構三重病院 耳鼻咽喉科 医長 増田佐和子先生に、通年性アレルギー性鼻炎の症状発見のポイント、薬物療法やアレルゲン免疫療法での注意点、薬剤師によるサポートの重要性などについてお話を伺いました。
- 通年性アレルギー性鼻炎に対する適切な治療で症状をコントロールし、QOLを改善する
- 小児では特有のしぐさにも注意しつつかぜやその他の鼻炎との鑑別を行う
- 鼻炎がアレルギー性であることを確認し、治療に向けて原因アレルゲンを同定する
- 抗原の除去・回避を基本とし、薬物療法やアレルゲン免疫療法を選択
- 小児では服薬できることを重視 患者へは新しい薬剤の情報提供も
- OTC薬では点鼻用血管収縮薬の連用による薬物性鼻炎に注意
- 保護者や他科と情報を共有 薬剤の重複投与を回避する
- 患者の理解が必要なアレルゲン免疫療法
- アレルゲン免疫療法は副反応に注意しながら治療を継続
- 舌下免疫療法の課題 アドヒアランスの維持・向上
- 患者の本音を聞き出せる関係性 薬剤師による患者の治療意欲アップに期待
- 通年性アレルギー性鼻炎では医師とともに患者のサポートを
通年性アレルギー性鼻炎に対する適切な治療で症状をコントロールし、QOLを改善する
アレルギー性鼻炎は、原因となるアレルゲン(抗原)の侵入によって生じる、鼻粘膜でのI型アレルギー反応です。主な症状は発作性反復性のくしゃみ、水様性の鼻漏(鼻水)、鼻閉(鼻づまり)ですが、鼻の症状のみならず、眼の症状や小児での鼻出血など、多様な症状が見受けられます。
アレルギー性鼻炎のうち、季節性の花粉症を季節性アレルギー性鼻炎、一年中症状が持続するものを通年性アレルギー性鼻炎といいます。通年性アレルギー性鼻炎のうち、最も多いのはダニを原因としたものです。症状は夏にやや改善し、秋から冬にかけて悪化することが多いですが、不定期に変化する場合もあります。
アレルギー性鼻炎は致死的な疾患ではありませんが、生活の質(QOL)に影響し、いったん発症すると自然治癒しにくく罹病期間が長いことから、適切な治療を行って症状をコントロールしていくことに大きな意義があります。
小児では特有のしぐさにも注意しつつかぜやその他の鼻炎との鑑別を行う
鼻の症状を訴えて受診された患者さんに対しては、丁寧な問診で訴えを聴き、アレルギー性鼻炎かどうかを見極めることが重要です(図1)。症状からだけでは、いわゆる鼻かぜであるウイルス性の急性鼻炎と鑑別しづらいことがありますが、急性鼻炎の初期であればおよそ2週間以内に症状が改善します。また、黄色や緑色の膿性鼻汁や粘膿性鼻汁があれば、細菌性鼻副鼻腔炎を考えます。発熱や後鼻漏、咳嗽、咽頭痛の有無なども参考になります。
問診 |
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症状を訴えづらい小児では特有のしぐさにも注意する 感冒や副鼻腔炎などとの鑑別 |
鼻腔内所見 |
アレルギー性か否かの検査 |
鼻汁好酸球検査、 (血液中好酸球、血清総IgE) |
抗原を同定する検査 |
血清特異的IgE抗体検査 皮膚テスト 鼻誘発試験(ハウスダスト) |
治療方針の決定 |
〈抗原の除去、回避が基本〉 薬物療法 アレルゲン免疫療法(皮下、舌下) 手術療法 |
増田氏の話をもとに編集部作成
低年齢の子どもは自ら症状を訴えることがなかなかできないため、症状に加えて特有のしぐさにも注意します。例えば、朝起き抜けにくしゃみをしたり、鼻閉のためいつも口を開けている、いびきをかいているといった症状が見られます。特有のしぐさとしては、頻繁に鼻をすすりあげている、眼や鼻をこする、かゆみによって眼や鼻にしわをよせて顔をしかめている、鼻をもごもごと伸ばしているなどが挙げられます。また、かゆくて鼻をかいてしまうため鼻血を繰り返して受診し、アレルギー性鼻炎が見つかるケースもあります(表1)。子どものしぐさのみからアレルギー性疾患を疑うのは難しいかもしれませんが、よく鼻血を出すというケースでは、アレルギー性疾患が背景にある可能性を意識していただくとよいでしょう。
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増田氏の話をもとに編集部作成
また、小児の喘息では7~8割にアレルギー性鼻炎を認めます。アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー性疾患があって表1のような症状が出ている場合には、アレルギー性鼻炎の可能性も考慮して医療機関の受診につなげていただければと思います。
鼻炎がアレルギー性であることを確認し、治療に向けて原因アレルゲンを同定する
水様性の鼻漏や症状の持続期間などから見てアレルギー性鼻炎が疑われれば、鼻腔内の所見として下鼻甲介粘膜の腫脹や色調、水様性の鼻汁などを観察します。また鼻汁や血液中の好酸球数、血清総IgE値も参考になります。
通年性アレルギー性鼻炎の原因はダニが最も多いですが、犬や猫などのペットが原因のこともあります。また、通年性ではない季節性アレルギー性鼻炎でも、スギだけでなくヒノキ、イネ科、キク科など飛散時期が異なるさまざまな花粉により症状が長期間持続する患者さんもいますので、血清特異的IgE抗体検査や皮膚テスト、鼻誘発試験などで原因となるアレルゲンを検索します。
皮膚テストには、皮内テストやスクラッチテスト、プリックテストがあります。「2020年版(改訂第9版)鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-」(以下、ガイドライン)には、皮膚テストの前には、抗ヒスタミン薬や経口ステロイド薬、ステロイド軟膏などを一定期間中止する必要があることが記載されています。また、鼻誘発試験では、市販の誘発用抗原ディスク(ハウスダスト)を鼻内に挿入し、5分間におけるくしゃみや鼻のそう痒感、下鼻甲介粘膜の状態、鼻汁量を確認します。
症状のある患者さんで、鼻汁好酸球検査、皮膚テストまたは血清特異的IgE抗体検査、鼻誘発試験のうち2つ以上が陽性であればアレルギー性鼻炎と確定診断できます。
抗原の除去・回避を基本とし、薬物療法やアレルゲン免疫療法を選択
通年性アレルギー性鼻炎では、原因となっているアレルゲンの除去や回避が基本的な対策です。そのために、まずは特定のアレルゲンにより日々の症状が起きていることを患者さんによく理解していただくことが必要で、そのためにはアレルゲン検査の結果を示しながら患者さんとコミュニケーションを取ることが大切です。特に皮膚テストや鼻誘発試験は、同様のアレルギー反応が鼻で起こることを理解するのに役立ちます。
鼻の症状がつらくて生活に支障が出るなどQOLが障害されている場合には、治療の対象となります。薬物療法は、即効性はあるものの服薬を中止すると症状も元に戻ってしまう点で根治的な方法ではありませんが、症状を抑制して苦痛を軽減することは可能です。
薬物療法を長期に継続しなくてはならない方や、薬物療法を継続しても症状が十分に改善せず残存する方、副作用の懸念から薬物療法を希望しない方に対しては、長期の寛解を期待した「アレルゲン免疫療法」が選択肢となります。
アレルゲン免疫療法は、アレルギー性鼻炎のすべての重症度・病型に適応があります。症状がひどいために治療を希望されるケースもありますし、特に小児などで、症状が悪化しないことを期待して軽い時点から選択するというのもひとつの考え方だと思います。アレルゲン免疫療法を実施すると、アレルギー性鼻炎の患児が喘息を発症する割合が低減したり、他のアレルゲンへの新規感作が起こりにくくなるといった研究データもあります。ただし、ダニのアレルゲン免疫療法はダニ以外の原因によるアレルギー性鼻炎には効果がありません。また、アレルゲン免疫療法は、皮下免疫療法に加え舌下免疫療法が普及してから導入のハードルが下がったように感じますが、効果が現れるまでには時間がかかるため、薬物療法との併用も検討します。
なお、鼻中隔が曲がっているなど鼻腔形態の異常がある場合や、粘膜の不可逆性の腫脹がある場合には、手術療法も選択肢となります(表2)。
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2020年版(改訂第9版)鼻アレルギー診療ガイドライン(-通年性鼻炎と花粉症-)より編集部作成
小児では服薬できることを重視 患者へは新しい薬剤の情報提供も
アレルギー性鼻炎の薬物療法で用いる治療薬は、抗ヒスタミン薬や、ケミカルメディエーター遊離抑制薬、抗ロイコトリエン薬、抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬、Th2サイトカイン阻害薬、ステロイド薬、血管収縮薬、抗IgE抗体薬など多くの種類があり、それぞれに特徴があります(表3)。
種類 | 剤形※1 |
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抗ヒスタミン薬 | 経口・鼻噴霧・貼付 |
ケミカルメディエーター遊離抑制薬 | 経口 |
抗ロイコトリエン薬 | 経口 |
抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬 | 経口 |
Th2サイトカイン阻害薬 | 経口 |
ステロイド薬 | 鼻噴霧・経口 |
血管収縮薬(α交感神経刺激薬) | 鼻噴霧・経口(配合剤) |
抗IgE抗体薬※2 | 注射 |
- 販売中止予定の薬剤は除外
- 適応は、通年性アレルギー性鼻炎ではなく、季節性アレルギー性鼻炎(既存治療で効果不十分な重症又は最重症患者に限る)
増田氏の話と各製品添付文書をもとに編集部作成
小児では確実に服薬できることが重要です。処方時には、錠剤が飲みやすいか、口腔内崩壊錠がよいか、粉末状でないとだめか、点鼻薬が使えそうかなど、剤形については特によく確認しています。そのほか、食事との関係での服薬のタイミング、1日の服薬回数について相談しながら処方を決定しています。
すでに処方されている薬剤に十分満足しているなど、特定の薬剤を患者さんが希望された際には、基本的には患者さんの意向を尊重しています。また、中学生・高校生など一定の年齢以上の患者さんでは、眠気が少ない薬剤を希望されることが多い印象です。抗ヒスタミン薬の効果と、副作用である眠気やインペアードパフォーマンスは相関しないことをきちんと説明し、副作用が少ない薬剤を医療者から情報提供することが必要だと考えています。また、患者さんのライフスタイルに合わせた服薬タイミングの情報も重要だと思います。
アレルギー性鼻炎の薬剤に関しては、血管収縮薬を除いて継続使用によって治療効果の減弱や症状悪化、薬剤依存が生じることはあまりなく、比較的安全に長期に使用できる薬剤が多いと思います。しかし、薬剤の長期投与が避けられない患者さんには、アレルゲン免疫療法も選択肢として提示します。薬剤を続けていても症状が悪化してきたと感じられるようなときは、薬剤を変更してみるだけでなく、他の新たなアレルゲンの関与や、アレルギー以外の鼻炎なども考える必要があります。
OTC薬では点鼻用血管収縮薬の連用による薬物性鼻炎に注意
症状の悪化時のみOTC薬を服用しているケースではさほど大きな問題はありませんが、OTC薬を長期に継続使用している方は、医療機関を受診していただいた方がよいでしょう。
特に、OTCの点鼻用血管収縮薬を使い続けている状態には注意が必要です。点鼻…