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近視の世界に光を

2019年4月号
近視の世界に光をの画像

メガネやコンタクトレンズの装着はごく普通のことで、裸眼で過ごせる人がかえって珍しいくらい目が悪い現代の日本人。実は今、欧米などでも近視の人が急増しています。しかし最近、近視の進行抑制に関する新たな知見が報告され、近視の世界に一筋の光が射し込みました。今号では、薬剤師の業務であまり触れる機会がない近視について、慶應義塾大学医学部眼科学教室の鳥居秀成氏に解説していただきます。

世界的な近視人口の急増 2050年には世界人口の半数が近視に

近年、東アジアだけでなく欧米諸国なども含め世界中で近視の人口が増加しており、現在のペースで増加し続けた場合、2050年には全世界人口の約半数にあたる47億5800万人が近視に、失明リスクのある強度近視は全世界人口の約1割にあたる9億3800万人になることが推定されています1)。世界的な近視人口の増加とそれに伴う失明や合併症のリスクを考えると、近視の進行抑制が喫緊の課題であると言えます。

日本における近視人口の増加と、近視の遺伝・環境因子

もちろん、日本でも近視人口は増加しています。2000~2001年にかけて岐阜県多治見市の40歳以上を対象に行われた疫学調査では、-0.50ジオプトリー(D)未満の近視の有病率は41.8%、-5.0D未満の強度近視は8.2%と報告されています2)。さらに年代別の近視の有病率を見てみると、40歳代では約70%に対し70歳代では15%程度でした。
では、若年者の近視の有病率はどうなっているのでしょうか。1999年に報告された疫学調査では、 1984年に比べ1996年では、7歳頃から-0.50D未満の近視の有病率が上昇し、17歳時点では65.6%にも上ることが示されました3)。1984年の49.3%と比較すると、10年余りで明らかに若年者の近視人口が増加していることが分かります。
また、疫学調査ではありませんが、文部科学省の平成29年度学校保健統計調査を見ると、裸眼視力1.0未満の割合は、幼稚園24.48%、小学校32.46%、中学校56.33%、高等学校62.30%であり、調査が開始された1979年度から裸眼視力1.0未満の割合がほぼ増加し続けていることが分かります(図1)。この調査の低視力には、近視だけでなく遠視や乱視も含まれる可能性がありますが、やはり近視の増加が反映された結果であると考えられます。
いったいなぜ、ここまで近視人口が近年世界的に増加したのでしょうか。近視の進行においては、様々な因子が指摘されていますが、大別すると遺伝因子と環境因子の2つがあります。近視は遺伝因子の関与が指摘されており、両親とも近視でない子どもに比べて両親が近視の子どもは近視になりやすいと言われています。一方で、近年では、屋外で活動する時間が短いことが、近視の原因のひとつであるという認識も高まってきています。この他にも、近視進行に関与する可能性のある環境因子として、室内での近見作業などが挙げられています。近年の世界的な近視人口の急増原因は、遺伝子の変化というよりも、世界で共通する何らかの環境因子の変化が原因であると考えるのが自然だと思われます。

図1 若年者における裸眼視力1.0未満の割合の推移

図1 若年者における裸眼視力1.0未満の割合の推移の画像
文部科学省 平成29年度学校保健統計調査報告書より作成

屈折値を表す単位「ジオプトリー」

文部科学省の調査は、1.0といった一般的な視力を表す数値でデータが集計されているが、メガネやコンタクトレンズによる視力矯正などの場面では別の単位が用いられる。これが前述の「ジオプトリー(D)」である。これは屈折値を表す単位で、 100を文字などを認識できる距離(cm)で割った数がジオプトリーの値となる。大雑把な理解としては、たとえば裸眼の状態でピントが合う距離が25cmの場合は-4.00D、10cmの場合は-10.00Dといった具合である。
遠視の度数はプラス、近視の度数はマイナスでそれぞれ表記され、通常弱度近視は-0.50D未満-3.00D以上、中等度近視は-3.00D未満-6.00D以上、強度近視は-6.00D未満と分類されている。
専門施設で屈折値を評価する際は、オートレフラクトメータという機器を用いることが多い。眼科や眼鏡店にある「まっすぐな道路と、青空に浮かぶ気球の絵を覗き込む機器」といえば、思い浮かぶ方も多いのではないだろうか。
屈折値を表す単位「ジオプトリー」の画像

近視眼の見え方 網膜より前方(手前)でピントが合ってしまう

まず「ものが見える仕組み」を簡単に解説します。外部の光(平行光線)が角膜と水晶体を通り屈折して、網膜に像としてうつし出され、それを脳が認識することで「ものが見える」状態となります(図2)。その際、水晶体の厚さを変化させることで、対象物にピントを合わせようとする働きが起こります。人間の目は、リラックスした状態でいちばん遠くにピントが合うようにできており、水晶体は無調節の薄い状態です。一方、見る対象物が近い場合、水晶体を厚くしてピントを合わせようとします。
視力が正常な状態(正視)では、平行光線が屈折し交差する点がちょうど網膜に重なるため、網膜にうつる像のピントが合います(図2)。これに対し、近視では平行光線の交差点が網膜より前方のため、網膜にうつる像のピントが合わないまま脳が対象物を認識し、ぼやけて見えます(図3)。
近視は、原因別に2種類に大別されます。ひとつは、角膜と水晶体の屈折が強すぎる「屈折性近視」、もうひとつは、眼球の奥行き(眼軸長)が伸長してしまう「軸性近視」(図4)です。近視の多くは軸性近視であると言われています。

図2 ものが見える仕組み

図2 ものが見える仕組みの画像

平行光線が角膜と水晶体を通り屈折して、網膜に上下左右が反転した像としてうつし出される。
それを脳が認識し、再び反転させて「ものが見える」状態となる。

図3 近視眼において遠方がぼやける仕組み

図3 近視眼において遠方がぼやける仕組みの画像

近視では、平行光線の交差点が網膜より前方のため、網膜にうつる像のピントが合わないまま脳が対象物を認識し、遠方がぼやけた状態となる。

図4 軸性近視

図4 軸性近視の画像

軸性近視では、眼球が前後方向の楕円型となっているため、網膜の前方で光が交差する。

生まれてすぐに伸びゆく眼軸長 止まらずに近視へ移行

眼軸長の伸長は、実は出生直後から始まっています。成人の正常眼の眼軸長は約23~24mmと言われていますが、新生児の時点では約17mmと短く、いわば軽度の遠視のような状態です。その後、体全体の成長とともに眼球が大きくなり眼軸長も伸びていき、徐々に遠視から正視の状態に変化します。これは人の成長における生理的な変化なのですが、問題は正視になった段階で何らかの理由で眼軸長の伸長が止まらず、近視に移行してしまうことなのです。そのため、近視進行を抑制するには、主としていかに眼軸長を過剰に伸長させないようにするかが重要になります。

近視から強度近視へ 合併症や失明のリスクが高まる

日本では、近視であることがごく当たり前のように考えられている節がありますが、実は注意が必要です。近視が進行し続けると、網膜や脈絡膜へ負荷がかかり「強度近視」になることがあります。強度近視は、成人の視力障害・失明の原因疾患として上位にあがる疾患です。
近視の患者さんに発症しやすい合併症は、高度視力障害との関連が深いことが知られていますが、合併症の発症は「膨らんだ風船」をイメージすると理解しやすいと思います。風船を膨らませていくと、段々と薄くなりやがて破裂します。眼は破裂しませんが、眼軸長が伸びる近視眼では、膨らんだ風船のようにもろくなるため、障害が発生しやすい状態になっていると言えます。網膜や視神経がダメージを受ければ「緑内障」や「近視性視神経症」の発症の恐れがあります。また、眼軸長の伸長の際に網膜が薄くなり網膜剥離を起こしやすくなることがあり、黄斑部分が障害されると「近視性黄斑症」を発症することもあります。こうした合併症は、いずれも失明のリスクを含んでいます。

進行抑制のカギは屋外活動 バイオレットライトが寄与している可能性

強度近視に至る前に、近視の進行を抑制するためには…

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