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片頭痛治療のニューノーマル 急性期治療とともに新たな予防療法を活用

2021年10月号
片頭痛治療のニューノーマル急性期治療とともに新たな予防療法を活用の画像

日本人の片頭痛の有病率は約8.4%。糖尿病に匹敵するほどの多くの患者が存在する片頭痛ですが、生活に何らかの支障が生じている人が片頭痛患者の7割以上にもかかわらず、医療機関を受診している人はわずか3割という報告があります。罹患者の男女比は1:4と女性に多く、特に30~40歳代の女性の有病率が高いとされます。2021年には片頭痛の新薬が登場しました。今回は、富永病院副院長 脳神経内科部長・頭痛センター長の竹島多賀夫氏に、片頭痛治療の最新情報を解説していただきます。

片頭痛の鑑別と特徴

頭痛は、一次性頭痛(片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛など)と、二次性頭痛(くも膜下出血、脳腫瘍など他疾患による頭痛)に大別されます。血液検査や画像診断で脳内の異常所見がない場合、一次性頭痛として鑑別していきます。片頭痛は、日常生活に支障が生じる度合いの痛み、痛みが拍動性、悪心・嘔吐を伴う、音・光・臭いといった刺激に過敏、といった臨床上の特徴があります。

緊張型頭痛との違いは? 緊張型頭痛+片頭痛=慢性片頭痛

片頭痛とともに知られているのが緊張型頭痛です。両者の違いを表1に示します。ただ、こうした違いはあるものの、実際は多くの患者さんが片頭痛と緊張型頭痛の症状を合わせ持っています。片頭痛はその名前から片側が痛むと位置づけられていましたが、実際は両側に痛みがあるケースも多いことも分かってきています。

表1 緊張型頭痛と片頭痛の違い
  緊張型頭痛 片頭痛
有病率 22.3% 8.4%
痛みの特徴 圧迫感または締め付け感
(非拍動性)
拍動性
痛みの程度 軽度~中等度 中等度~重度
痛みの部位 両側性 片側性
持続時間 30分~7日間 4~72時間
随伴症状 悪心や嘔吐はない、光過敏や音過敏はあってもどちらか一方のみ 悪心、光過敏、音過敏
誘因 肥満、運動不足、喫煙?
(確立されたものはない)
ストレス、精神的緊張、
疲れ、睡眠(過不足)、
月経周期、天候の変化、
温度差、頻回の旅行、臭い、
空腹、アルコール

竹島氏、日本イーライリリー株式会社ご提供

かつて、緊張型頭痛+片頭痛という診断がなされていましたが、現在、頭痛日数が多いケースでは、緊張型頭痛+片頭痛は「慢性片頭痛」という診断名になりました。慢性片頭痛は、1カ月に15日以上頭痛発作があり、そのうちの8日以上は片頭痛と解釈できるものと定義されます。片頭痛の方が痛みの程度が強いこともあり、片頭痛の症状が少しでもある患者さんは片頭痛として診療していきます。つまり、片頭痛と緊張型頭痛の区別は、現在はそこまで重要視されていないとも言えます。

片頭痛のメカニズム 血管系と神経系の両方に異常

片頭痛の痛み発作のメカニズムは、以前から血管系の異常(血管説)か、神経系の異常(神経説)かという議論がありましたが、現在はこの2つを融合した三叉神経血管説で説明されることが多くなっています(図1)。

図1 片頭痛のメカニズム 三叉神経血管説
竹島氏、日本イーライリリー株式会社ご提供

片頭痛の前兆 ギザギザの光やチクチクの痛み

片頭痛には、頭痛発作の起きる前に前兆が発生することがあります。よく知られているのは、ギザギザした稲妻様の光が現れ次第に広がって暗くなり見えなくなる閃輝暗点(せんきあんてん)と呼ばれる視覚症状です。チクチクとした痛みなどの感覚症状もしばしば発生します。頻度は低いものの失語性の言語障害もあります。
ろれつが回らないなどの脳幹性前兆、運動麻痺、単眼の視覚障害が片頭痛に伴って繰り返し発現するなどが頭痛発作の前に現れた場合、これらは典型的ではない前兆としてそれぞれ別に分類されます(図2)。

図2 片頭痛の分類
図2 片頭痛の分類
※1 典型的前兆ギザギザした稲妻様の光とそれが暗くなる(閃輝暗点)、チクチクした痛み、失語性など
※2 脳幹性前兆ろれつが回らないなど
※3 片麻痺性片頭痛運動麻痺などが前兆として現れる
※4 網膜片頭痛単眼の視覚障害が片頭痛に伴って繰り返し発現する
日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会訳 国際頭痛分類 第3版 医学書院 2018より作成

あくびや集中力の低下、食欲亢進など漠然とした前触れのようなものから頭痛発作が始まるものも「前兆のない片頭痛」として、また別に分類されます。こうした前兆の後、頭痛として諸症状が発生します(図3)。

図3 片頭痛の時間経過に伴う症状
図3 片頭痛の時間経過に伴う症状
竹島氏ご提供

片頭痛の急性期治療

片頭痛の急性期治療は薬物療法が中心で、重症度ごとに適した薬剤が選択されます。軽度~中等度の片頭痛には、アセトアミノフェン、アスピリンなどのNSAIDs、中等度~重度にはトリプタンが推奨されます。軽度~中等度であっても過去にNSAIDsで効果が乏しかった場合はトリプタンが選択されます。

急性期治療の中心 トリプタン

トリプタンの作用機序

トリプタンは選択的セロトニン受容体作動薬です。セロトニン受容体である血管壁の5-HT1B/1D受容体を選択的に刺激して、拡張した硬膜血管の収縮や神経原性炎症を抑制し頭痛を抑えます。

トリプタンの服用タイミング

トリプタンは服用のタイミングが重要で、「頭痛が始まったら早めに服用」というのが最適です。繰り返す頭痛発作を恐れ予兆期の段階で服用してしまう患者さんがいますが、それでは早すぎて効きが悪くなってしまいます。医師や薬剤師の方でも「予感を感じたら早めに服用」という指導をされている場合がありますので注意が必要です。
一方で、頭痛発作から時間が経ってから服用しても効きが悪くなります。何回か服用するうちに患者さん自身でタイミングが分かってきますが、トリプタンの投与を始めた頃は、頭痛発作を患者さんが実感した際、頭を振って痛かったら飲んでください(頭を振って痛くなかったら少し我慢してください)、と指導することもあります。
頭痛発作の開始15分前以降の服用であれば有効という報告もありますが、多くの患者さんはそこまで正確に頭痛発作の開始を予測するのは難しいのです。なお、閃輝暗点があり、その15分後に頭痛発作が始まるといった発作開始が予測しやすい方には、閃輝暗点のタイミングで服用してもらうこともあります。
なお、NSAIDsなどトリプタン以外の急性期治療薬は、トリプタンよりもう少し前、発作が始まりそうな時点の服用が一番痛みに効くと言われています。

トリプタンの種類

トリプタンは、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタンの5種類で、剤形は経口薬のほかに点鼻液と注射剤があります(表2)。

表2 トリプタンの種類と選択する際のポイント
種類 剤形 選択する際のポイント
スマトリプタン
(イミグラン)
錠、点鼻液、
注射剤、
内用液
トリプタンとして最初に発売。標準的なトリプタンとして使用されている。消化管機能の低下により有効成分が胃に停滞し吸収が遅れるケースがあるため、吐き気や頭痛発作がひどい患者には点鼻液や注射剤が適している。
ゾルミトリプタン
(ゾーミッグ)
錠、OD錠、
RM錠
効果発現までの時間はスマトリプタンと同程度の印象。中枢移行性が他よりやや高く眠気やふらつきが生じることがあるが、中枢での抗片頭痛効果が有利に働くこともある。
エレトリプタン
(レルパックス)
錠、OD錠 「フワッと効いていく」タイプの薬剤が良いという患者に選択することが多い。比較的緩徐に効き始める一方で、効果時間が長く副作用が少ないという印象。
リザトリプタン
(マクサルト)
錠、OD錠、
RPD錠
「スパッと効く」タイプの薬剤が良いという患者に選択することが多い。効果発現までの時間が比較的早い一方で薬剤半減期も短いとされている。
ナラトリプタン
(アマージ)
「フワッと効いていく」タイプの薬剤が良いという患者に選択することが多い。比較的緩徐に効き始める一方で、効果時間が長く副作用が少ないという印象。ナラトリプタンは、月経片頭痛に選択することが多い。

各製品添付文書、竹島氏の話をもとに作成

片頭痛に対するトリプタンの効果を確認する際、1回の服用だけでその種類が有効か否かを判断することは難しく、3回程度の投与で状況を観察します。効果の有無は、トリプタン服用から2時間後の時点で痛みが消失または軽減しているか、服用後24時間以内に再発がないか、を指標とします。
トリプタンは、添付文書上、家族性片麻痺性片頭痛、孤発性片麻痺性片頭痛、脳底型片頭痛、眼筋麻痺性片頭痛の患者は投与不可とされています。各トリプタンの臨床試験ではこれらの片頭痛患者が対象外のため、安全性のデータがなく投与しないことになっているのです。しかし、実臨床では専門医のもとで慎重に投薬されているケースもあります。

その他の急性期治療薬

トリプタンやNSAIDs、アセトアミノフェン以外に、片頭痛の急性期治療薬として制吐薬のメトクロプラミドやドンペリドンなどが使用されることがあります。また、保険適応外ですが、重症や重積の発作の場合はプロクロルペラジン、ハロペリドールなどの抗精神病薬、副腎皮質ステロイドが使用されることもあります。
エルゴタミンは、カフェインと併用することによる相乗効果から配合剤として販売されていますが、24時間以内のトリプタンとの併用ができず、悪心・嘔吐の副作用が多いという点に注意が必要です。

片頭痛の予防療法 実施の基準は?

片頭痛では、急性期に治療をしても十分な効果が得られず日常に支障をきたす場合に予防療法が行われます。具体的な目安として、急性期治療の薬剤を服用から2時間後時点でも痛みで思うように行動ができない、または、服用2時間後時点である程度効果があるけれどそれが月に10回以上もある、こうした方に私は予防療法を検討します。ただ、これは現在の急性期治療薬と予防療法薬を相対的に考えた上で予防療法を勧める目安ですので、今後の薬剤の状況次第で変わることもあるでしょう。

2021年、予防療法に新薬が登場

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