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基礎から知る、不妊治療

2021年10月号
基礎から知る、不妊治療の画像

現在、少子高齢化社会を背景に不妊治療に関する保険適用の拡大が議論されています。適用拡大となれば、不妊治療の受診者数がさらに増える可能性があります。今回は、基本的な不妊治療の方法とその選択について東京医科大学病院産科・婦人科学教室教授、久慈直昭氏に解説いただきました。

1年以上の不妊期間で不妊症 晩婚化とともに伸びる不妊治療件数

子どもを望む健康な男女が、1年間、避妊をせずに夫婦生活を営んでいるにもかかわらず妊娠しない場合、「不妊症」と診断されます。ただし、年齢が高い場合には1年未満であっても、より早期に検査と治療を開始した方が良いと考えられています。近年、女性の社会進出やライフスタイルの多様化等を背景に晩婚化が進行し、それに伴い不妊治療の件数が年々増加しています。日本産科婦人科学会によると、2018年には体外受精によって5万6,979人(同年出生総数の約6%)の新生児が誕生しました。

ホルモンの変化と妊娠成立の過程

月経周期におけるホルモンの変化(図)と妊娠成立の過程は以下の通りです。

図 月経周期(28日周期)におけるホルモンの変化
図 月経周期(28日周期)におけるホルモンの変化
FSH卵巣に作用し、卵胞の成熟を促す
LH排卵、黄体形成を促す
エストロゲン子宮内膜を厚くし、着床の準備を促す
プロゲステロン排卵後、子宮内膜の状態を整えるよう促す
メルクマニュアル医学百科家庭版より編集部作図
  1. 卵胞刺激ホルモン(FSH)により複数の卵胞が成熟を開始し、その中から1つだけが成熟(成熟卵胞)する。黄体形成ホルモン(LH)が顕著に増加すること(LHサージ)で、排卵が誘発され、成熟卵胞から卵子が排出される。卵子を排出した後の卵胞は黄体に変化する。子宮内膜はエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)により増殖・肥厚して着床に備える。
  2. 卵子は卵管の先端にある卵管采に取り込まれ、卵管膨大部で精子を待つ。精子と出会えば受精が成立する。
  3. 受精卵は卵管の中を子宮に向かって移動し、受精後7日目には子宮内膜に潜り込んで根を張る(着床)。

この過程からわかるように精子以外はすべて女性の体内で起こるものであり、不妊治療は女性を中心に行われ、その負荷も女性にかかることが多くなります。

男性・女性双方の不妊要因 原因不明不妊も多い実情

不妊症は、男性要因が約1/3~1/2、残りが女性要因と考えられています。男性・女性要因の双方があるため、それぞれ検査で原因を探索していくことになります。複数の因子が重なっていたり、さまざまな検査をしても明らかな原因が見つからないことがあるのも実情です。

男性の主な不妊症の原因

主に以下の3つが挙げられます。
造精機能障害:精巣での精子形成や精巣上体での成熟過程に異常があると、精液内の精子数の減少や、運動率の低下、奇形率が増加する。精巣の上にある血管(静脈)が怒張する精索静脈瘤や低ゴナドトロピン性性腺機能低下症、精巣炎などに起因することもある。
性機能障害:有効な勃起が起こらず性行為がうまくいかない勃起障害(ED)と射精ができない射精障害がある。
精路通過障害:精子は作られているものの精子の通り道(精路)が閉塞しているため精液中に精子がない状態。

女性の主な不妊症の原因

排卵から着床に至るまでの生殖に関わる器官や機能に問題が生じている場合や、何らかの免疫異常で精子を異物として攻撃してしまう、あるいは精子の運動を妨げる抗体が生じて不妊となる抗精子抗体による場合などがあります。特に頻度が高いのは、排卵因子(排卵障害)と卵管因子(閉塞、狭窄、癒着)で、その他に子宮因子(一部の子宮筋腫や子宮内膜ポリープなど)、頸管因子(子宮頸管炎、子宮頸管からの粘液分泌異常など)などが挙げられます。
排卵因子(排卵障害):乳汁分泌ホルモンであるプロラクチンの分泌亢進による高プロラクチン血症、ゴナドトロピン※分泌異常や男性ホルモンの分泌亢進を特徴とする多嚢胞性卵巣症候群によるものがある。その他、精神的ストレス、短期間のダイエットによる大幅な体重減少も月経不順をきたして不妊症となることがある。
※ゴナドトロピン=FSHやLHなど下垂体から分泌されるホルモン
卵管因子::性器クラミジア感染症は卵管の閉塞や卵管周囲の癒着を招き、卵管に卵子が取り込まれにくくなる。過去に行った虫垂炎等の骨盤内の手術や子宮内膜症によって卵管周囲が癒着していることもある。

多岐にわたる要因の探索 検査のタイミングも重要

女性側の検査として、排卵状況を確認するため2~3か月分の基礎体温をみます。受診前から記録して持参すれば、他の検査や治療をよりスムーズに進めることができるでしょう。また、子宮筋腫など妊娠成立の障害となる疾患などを調べる経腟超音波検査、子宮の形態異常や卵管閉塞を調べる子宮卵管造影検査、クラミジア検査などを行います。血液検査では、LH、FSH、エストロゲン、プロラクチンといったホルモンの基礎値の測定や糖尿病など全身疾患を確認します。先述した抗精子抗体も血液検査で判定することが可能です。検査のタイミングも重要であり、ホルモン測定を行う血液検査は生理期間中、子宮卵管造影検査は生理終了後に実施するのが理想です。
男性側の検査では、精液量や精子濃度、運動率、精子の形態などを調べる精液検査が一般的に行われます。
こうした一般検査で妊娠成立を障害する要因が見つかった場合には、その要因に対する精密検査と治療を行ったうえで不妊治療を進めます。

治療法の種類とステップ 要因に応じた選択と切り替え

主な治療法は「タイミング法」、「排卵誘発法」、「人工授精」、生殖補助医療となる「体外受精」と「顕微授精」があります。子宮筋腫、子宮内膜ポリープ等の疾患を取り除く目的で、内視鏡手術も必要に応じて行います。選択した治療法で妊娠が得られない場合には、順に高度な治療法に切り替えていきます。

  1. タイミング法
    もっとも基本的な治療法で、排卵日を予測して性交のタイミングを合わせる治療です。特に明らかな原因がないカップルは、数回実施すれば妊娠成立となることもあります。これは、子宮卵管造影検査により、卵管が刺激されて卵管の動きや狭窄が改善されたことも影響していると考えられています。カップルの年齢が高い場合、2〜3回実施して結果が得られない際には次の段階の治療法に進んだ方が良いと考えます。
  2. 排卵誘発法
    排卵誘発剤の内服や注射で卵巣を刺激し、排卵を起こさせる方法です。排卵のない女性や排卵が起こりにくい女性を対象とする治療法ですが、タイミング法や後述する人工授精の成功率の向上や生殖補助医療時の採卵のために行うこともあります。
  3. 人工授精
    乏精子症(精子濃度1,500万/ml以下)や精子無力症(精子運動率40%以下)の方、特に何らかの理由で性交では精子が子宮内に届いていない方に有効な方法です。精液を採取後に洗浄し、運動性の良い精子を選んで排卵の時期にあわせて子宮腔内に注入します。ただし、調整後の総運動精子数が人工授精を行うに満たない場合、顕微授精がすすめられます。人工授精では卵子を体外に出すことがないので、胎児への影響もほぼありません。
  4. 体外受精・顕微授精(生殖補助医療)
    13で妊娠を得られない難治性不妊症が対象になります。体外受精は、腟から卵胞に穿刺し卵子を取り出します(採卵)。体外に取り出した卵子を精子と共存させ、得られた受精卵を数日間培養後、子宮に移植する(胚移植)治療法です。顕微授精は体外受精の一種ですが、極めて精子数が少ない、運動率が低い男性不妊症や卵子の受精障害など体外受精では受精が難しい場合に行います。卵子に1つの精子を注入して人工的に受精させる方法です。

治療に使用される主な薬剤

不妊治療に使用される主な薬剤を示します。処方に際しては主治医が患者さんの状態や症状にあわせて薬剤、使用期間、使用量等を決定します。
男性に用いる薬剤は、主に精子数が少ない、運動率が低い症例に投与されるものが多くなります(表1)。
女性に投与される薬剤(表2)は主に卵(卵胞)を多く作る目的で用いられます。卵巣刺激剤は、人工授精までの段階であれば内服薬を中心に使用することが多いでしょう。体外受精以降になると1回あたりの時間も費用も要します。できる限り成功率を上げて妊娠成立となるよう、内服薬よりも多数の卵を作る注射剤を使用する場合が多いと思います。

【注】令和4年4月の保険適用に関する全体像は未定であり、表内の適応等に関する記載は2021年9月30日時点での情報です。今後、変更となる可能性がございます。

表1 男性不妊に用いられる主な薬剤
分類 概要 主な薬剤
漢方製剤 男性不妊に効果があるとされる漢方薬 補中益気湯、桂枝茯苓丸、八味地黄丸

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