パーキンソン病は手足が震えたり、動作が緩慢になったりするなど、特徴的な運動機能障害が見られる神経変性疾患です。かつて、ひとたび罹ると寝たきりになって亡くなると怖れられたパーキンソン病ですが、特にこの20年でさまざまな治療薬が開発され、予後は劇的に改善しました。今回の特集では、わが国のパーキンソン病治療・研究の第一人者である、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター病院長の村田美穂氏にパーキンソン病の早期診断・治療の解説と服薬指導などについて助言していただきました。
パーキンソン病発病のメカニズム
神経変性疾患は、脳や脊髄の特定の神経細胞群が徐々に障害を受けて脱落する疾患です。その代表が、認知機能に関係する神経細胞が障害されるアルツハイマー病や運動機能に関係する神経細胞が障害されるパーキンソン病です。
脳内の神経間の信号伝達は神経伝達物質を介して行われます。神経伝達物質の1つであるドパミンは脳幹の一部である中脳の黒質という組織で作られます。また、ドパミンはカテコールアミンの一種で、アドレナリンやノルアドレナリンの前駆物質として運動機能を調節したり、情動に関与したりすることが知られています。
黒質は、線条体、淡蒼球、視床下核とともに、運動機能や認知機能などを司る大脳基底核を構成しています。黒質で作られたドパミンは神経線維を伝わって中脳から大脳基底核の線条体に運ばれ、そこで放出されます。線条体は神経細胞が集まった組織であり、脳のさまざまな部分と連携して身体運動が行われるようにプログラムされています。
ドパミンによって黒質から線条体に情報が伝達される行程では、神経細胞同士の接点であるシナプスが重要な役割を果たしています。情報の送り手となる黒質細胞のシナプス前末端の神経終末にはドパミンを蓄えたシナプス小胞が集まっています。情報が電気信号になって神経回路に伝わると、その刺激で小胞からドパミンが放出されます。放出されたドパミンは線条体の神経細胞に取り込まれ、情報はさらに脳の各部位に伝達されます。放出されたドパミンの一部は再生されたシナプス小胞に蓄えられ一定数が維持されます(図1)。
図1 情報が伝達される仕組み
村田美穂監 スーパー図解 パーキンソン病 法研 2014を参考に作成
パーキンソン病患者では何らかの原因で黒質のドパミン神経細胞が減少し、必要とされる量のドパミンが産生されなくなります。そのため、シナプス間隙に放出されるドパミンも少なくなり情報が十分に伝わらず、その結果、身体運動に影響が及びます。
中脳からのドパミン神経系は黒質・線条体系だけでなく、大脳前頭葉などにもドパミンを供給しています。パーキンソン病では、記憶や学習、満足感など、高次脳機能と関連するこの領域でもドパミン不足が起こることがあり、運動機能に加えて情動面にも障害が及び、抑うつ状態や不安状態に陥りやすくなります。
パーキンソン病の基礎知識
疫学
パーキンソン病は神経変性疾患の中ではアルツハイマー病に次いで頻度が高く、現在わが国の患者数は約15万人と推定され年々増加しています。これは、パーキンソン病に関する研究が進み診断がつきやすくなったことや、治療法が進歩して患者の寿命が延びていることが理由として考えられます。また、高齢者人口の増加に伴ってパーキンソン病を発症する人が増えており、70歳以上では100人に1人の割合となっています。黒質細胞は健康な人でも加齢に伴って減少しますから、日本人の寿命がさらに延びて、150歳まで生きるようなことになると、ほとんどの国民がパーキンソン病になるだろうともいわれています。
原因
パーキンソン病の原因についてはまだ完全には解明されていませんが、細胞内のミトコンドリアの障害、酸化ストレスなどが発病に関係していると考えられています。遺伝性パーキンソン病の研究から、通常の孤発性パーキンソン病の発症機構についても多くのことがわかってきましたが、患者のほとんどは遺伝性ではなく孤発性パーキンソン病です。
症状
パーキンソン病の代表的な症状は「四徴」として知られています。
安静時振戦
安静時振戦とは、リラックスしてテレビを見ている時などの安静時に起こり、何らかの動作をすると軽快する症状をいいます。パーキンソン病患者の半数以上が安静時の震えを最初に気づいた症状として挙げています。特に指先の振戦は1秒間に4~6回ほどの速さで、丸薬を丸めるような動きが特徴的です。
動作緩慢・無動
脳からの指令がスムーズに伝わらず、動き出そうとしても時間がかかり、動作も緩慢です。表情の変化や瞬きなど無意識に行う動作が少なく、小さくなりやすく、声も小さく、抑揚がなくなってきます。
筋強剛
これは症状というよりは所見で、筋固縮ともいわれます。診察時に頸、手首、肘、足首、膝などの関節を他動的に動かすとカクカクした抵抗を検者が感じるものです。
姿勢反射障害
この症状はパーキンソン病では初期から出ることはなく、少し進行して初めて見られる症状です。バランスの変化に対応しにくくなり、歩行中に急に止まったり、すばやく方向を変えたりすることができにくくなります。前のめりになって、小走り(突進現象)になることがあります。
運動症状のほかに自律神経症状、精神症状、感覚障害や睡眠障害などが現れることもありますが、すべての患者にこれらの症状が現れるわけではありません。パーキンソン病で最も重要な症状は無動ですが、初発症状としては、安静時振戦約50%、歩行障害約25%、動作緩慢・無動約15%とされています。
ヤール重症度分類
パーキンソン病は進行性の疾患ですが、その程度はゆるやかです。疾患の進行度は通常「ヘーンとヤールによる重症度分類」(運動障害の程度を5段階で評価)と厚生労働省研究班の「生活機能障害度」(日常の生活機能障害を3段階に分類)を使って評価されます(表1)。
Hoehn&Yahr重症度 | 生活機能障害度 | ||
---|---|---|---|
StageⅠ | 一側性パーキンソニズム | 1度 | 日常生活、通院にほとんど 介助を要しない。 |
StageⅡ | 両側性パーキンソニズム | ||
StageⅢ | 軽〜中等度パーキンソニズム。 姿勢反射障害あり。 日常生活に介助不要。 |
2度 | 日常生活、通院に部分的介助を要する。 |
StageⅣ | 高度障害を示すが、歩行は介助なしにどうにか可能。 | ||
StageⅤ | 介助なしにはベッド 又は車椅子生活。 |
3度 | 日常生活に全面的介助を要し、独立では歩行起立不能。 |
厚生労働省HPを参考に作成
レヴィ小体型認知症との関係
パーキンソン病の中脳の黒質を顕微鏡で見ると、レヴィ小体という異常なたんぱく質の塊が神経細胞内に多く見られます。一方レヴィ小体型認知症は、大脳皮質にレヴィ小体が見られることから、パーキンソン病とレヴィ小体型認知症は同じスペクトラム上にある一連の病気という考えからレヴィ小体病として位置づけられています。認知機能の低下したパーキンソン病では大脳皮質にもレヴィ小体が認められます。
パーキンソン症候群(パーキンソニズム)
パーキンソン病以外にもパーキンソン病と同様の症状を呈する病態があり、パーキンソン症状を示す疾患群はまとめてパーキンソン症候群(パーキンソニズム)と呼ばれます。
パーキンソニズムの約20%を占める薬剤性パーキンソニズムは服薬によってパーキンソン症状が出現します。抗精神病薬、抗うつ薬、降圧薬、抗不整脈薬、制吐剤などさまざまな治療薬がパーキンソニズムの原因になります(表2)。特に、メトクロプラミドとドンペリドンは同じ制吐薬でも作用機序の違いから、血液脳関門を通過しやすいメトクロプラミドではパーキンソン症状の出現頻度が比較的高く、血液脳関門を通過しにくいドンペリドンではパーキンソン症状が出現するのは極めてまれです。
薬効分類 | 一般名 | 主な商品名 |
---|---|---|
定型抗精神病薬*1 |
クロルプロマジン レボメプロマジン ペルフェナジン ハロペリドール ピモジド スルピリド チアプリド |
ウインタミン コントミン ヒルナミン レボトミン ピーゼットシー セレネース リントン オーラップ ドグマチール グラマリール |
非定型抗精神病薬*2 |
リスペリドン ペロスピロン オランザピン クエチアピン |
リスパダール ルーラン ジプレキサ セロクエル |
抗うつ薬 |
選択的セロトニン 再取り込み阻害薬 |
パキシルなど |
消化性潰瘍薬 |
スルピリド*1 ファモチジン シメチジン |
ドグマチール ガスター タガメット |
制吐薬 |
メトクロプラミド*1 ドンペリドン*3 |
プリンペラン ナウゼリン |
降圧薬 |
レセルピン ベラパミル ニフェジピン アムロジピン マニジピン ジルチアゼム |
アポプロン ワソラン アダラート ノルバスク カルスロット ヘルベッサー |
抗不整脈薬 | アミオダロン | アンカロン |
抗真菌薬 | アムホテリシンB | ファンギゾン |
免疫抑制薬 |
シクロホスファミド シクロスポリン |
エンドキサン サンディミュン |
気分安定薬 | リチウム | リーマス |
抗てんかん薬 | バルプロ酸ナトリウム | デパケン |
抗認知症薬 | ドネペジル | アリセプト |
- パーキンソン症状出現頻度が比較的高いとされている。
- 非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬と比べてパーキンソン症状出現頻度は低い。
定型および非定型抗精神病薬以外はさらに頻度が少ないが、パーキンソン症状が起こることもあるという薬。 - 血液脳関門を通過しにくいため、パーキンソン症状の出現は極めてまれ。
村田美穂監 スーパー図解 パーキンソン病 法研 2014を参考に作成
パーキンソン症候群には、このほかに多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症など神経変性疾患でパーキンソン症状を呈しますが、パーキンソン病ではない病気もあります。
パーキンソン病の検査と診断
近年、パーキンソン病の診療は、検査機器の目覚ましい開発によって、以前に比べて格段に向上しています。パーキンソン病患者では、心臓の交感神経の変性・脱落が起こってノルエピネフリンに似た物質であるメタヨードベンジルグアニジン(MIBG)の心筋への取り込みが健康な人に比べて低下しています。MIBGを心筋に取り込ませて心臓の交感神経の機能を調べる画像検査がMIBG心筋シンチグラフィーです。
先述したように、ドパミン神経終末にはドパミンの再取り込みを行ってドパミン量を調節するドパミントランスポーター(DAT)が存在し、ドパミン神経が障害されるとDATも減少します。この変化を画像でとらえるのがDAT(ダット)スペクト検査(図2)で、日本でも2014年から使われるようになりました。DATスペクト検査は、放射線を出す123I-イオフルパンという検査薬をパーキンソン病患者に投与してDATの状態を調べることができます。
図2 DATスペクト検査画像
J-PPMI(パーキンソン病発症予防のための運動症状発症前バイオマーカーの特定研究)HP
DATスペクト検査の優れたところは、MRIなどでは鑑別の難しい、薬剤性パーキンソニズムや脳血管性パーキンソニズムなど、パーキンソン病に似た疾患のドパミン神経の状態がはっきりと確認できることです。
MIBG心筋シンチグラフィーとDATスペクト検査を組み合わせることにより、パーキンソン病の発症早期に正確な診断を行うことで効果的な治療につなげていくことが可能です。
レム睡眠行動障害との関連
パーキンソン病は、さまざまな治療薬が開発されたことで患者に合った治療ができるようになりました。ただし、現時点では優れた効果を発揮する薬剤でも完治に導くことはできません。というのも、その背景には克服しなければならない大きな課題があるからです。
実は、パーキンソン病という疾患は手足の震えが生じたり、歩く速度が遅くなったりした時点で、すでにドパミン神経は60~70%に減っているのです。そのため、神経細胞が脱落するのを遅らせたり止めたりするためには、このような運動症状が出る前に手を打つ必要があります。
私たちはパーキンソン病が発症する前に、パーキンソン病になり得る人をスクリーニングする方法を探ってきました。パーキンソン病の運動症状の前駆症状として嗅覚障害、抑うつ症状、便秘などが知られています。しかし、高齢者では便秘や抑うつ症状を訴える方は非常に多く、その中から比較的頻度の低いパーキンソン病をスクリーニングするのは現実的ではありません。
そこで着目したのがレム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder;RBD)です。海外の研究報告で、RBD患者ではパーキンソン病のほか、レヴィ小体型認知症や多系統萎縮症など、関連疾患を発症する確率が他の人よりも高いことがわかってきました。RBDと診断された人のおよそ75%が10年間でパーキンソン病などを発症するといった報告もあります。
ドパミン神経は加齢に伴って減少しますが、RBD患者では、同年齢の健康な人に比べてより速く減少していく可能性があります。DATスペクト検査を用いることでドパミン細胞の障害が始まっているかどうかを確認することができます。たとえば、RBD患者にDATスペクト検査をして経過観察を続けていくことでパーキンソン病の発症直前から発症時に生じる変化をとらえることができるでしょう。また、RBD患者でもパーキンソン病になる人とならない人との違いを探ることも可能です。
こうした臨床研究がパーキンソン病の予防薬や治療薬の開発につながっていくことを期待して、2014年からスタートしたのが「パーキンソン病発症予防のための運動症状発症前バイオマーカーの特定研究(J-PPMI)」です。略称のJはJapanのことです。すでにアメリカでは同様の発症前患者を対象とした研究が行われていますが、主体は遺伝性パーキンソン病のご家族になっており、J-PPMIの結果が注目されています。
J-PPMIは、60歳以上のRBD患者を対象に診察や画像検査、採血等をさせていただきながら経過を観察する研究です(2024年まで継続予定)。この研究は当センターと順天堂大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学の共同研究で進めています。
レム睡眠行動障害の症状
睡眠は「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」に区別されます。通常の睡眠では、ノンレム睡眠とレム睡眠がセットで80~120分ごとに、一晩に3~5回繰り返されています。夢の多くはレム睡眠中に現れることがわかっており、夢を見ているレム睡眠では、大脳が活発に活動し、眠りが浅く、小刻みな眼球運動が見られます。レム睡眠中は、神経のしくみによって手足の筋肉が緩んで力が入らないようになっています。しかし、50歳以上の男性で多く見られるレム睡眠行動障害は筋弛緩のメカニズムが障害されて、レム睡眠中でも夢で見ている行動がそのまま現実に現れてしまいます。また、夢は鮮明で、不快で暴力的な内容が多いといわれています。次のような症状はレム睡眠行動障害の可能性がありますので、睡眠科医や神経内科医にご相談ください。
- 睡眠中に大きな声で寝言を言ったり、笑ったり、怒ったりしているといわれたことがある
- 睡眠中に手を振ったり、足をばたつかせたり、板書するような格好をしたり、急に起き上がって話し始めたりするといわれる
- 夢の中で不吉なものを蹴飛ばしたら、現実に室内にあった置物に当たって家具などが壊れ、自分もけがをした
- 悪人に追われて逃げる夢の中で、近くの物を悪人に投げたら、現実に物を投げて室内が壊れた
- 夢を見て、隣で寝ているベッドパートナーの首を締めたことがある
- ベッドや布団から出て、そのまま家の外に出たことがある
- 目覚めた後、思い返すと、夢の内容と実際の異常行動が一致している
パーキンソン病の治療
パーキンソン病の治療は薬物療法を主体として外科手術、リハビリテーションを組み合わせて行います。
パーキンソン病の薬物療法の中心は脳内で不足するドパミンを補充するL-ドパ(レボドパ)と、ドパミンそのものではありませんが、ドパミン受容体に結合しドパミン機能をあげるドパミン受容体作動薬(ドパミンアゴニスト)です。L-ドパは治療効果が高く速効性に優れ、ドパミン過剰刺激による症状以外の副作用が少ないのが特徴です。L-ドパは体内で代謝されてドパミンに変わります。L-ドパが脳内で効率よく使われるようにするために、通常は脳以外で代謝する酵素の働きを抑えるカルビドパ、ベンセラジドを配合したL-ドパ合剤が使われます。一方、ドパミンアゴニストはL-ドパに比べて治療効果はやや弱く半減期が長いので、一日中穏やかで安定した効果が得られますが、幻覚、吐き気、眠気(非麦角系薬)などの副作用はL-ドパより多いです(表3)。
分類 | 作用 | 主な一般名 | 主な商品名 | 主な副作用、禁忌 | |
---|---|---|---|---|---|
L-ドパ合剤 | ドパ + カルビドパ |
|
L-ドパ・ カルビドパ配合(10:1) |
メネシット ネオドパストン ドパコール |
吐き気・食欲不振、便秘、ジスキネジア、幻覚・妄想、いらいら、起立性低血圧、突発的睡眠 |
ドパ + ベンセラジド |
L-ドパ・ ベンセラジド配合(4:1) |
マドパー イージー・ドパール ネオドパゾール |
|||
ドパミン受容体 刺激薬 |
麦角系薬 |
|
ブロモクリプチン | パーロデル | 吐き気・食欲不振、便秘、起立性低血圧、幻覚・妄想、興奮、眠気、むくみ、突発的睡眠、麦角系で心臓弁膜症、線維症 |
ペルゴリド | ペルマックス | ||||
カベルゴリン | カバサール | ||||
非麦角系薬 | プラミペキソール | ビ・シフロール ミラペックスLA |
|||
ロピニロール | レキップ、レキップCR | ||||
アポモルヒネ | アポカイン(注射薬) | ||||
ロチゴチン | ニュープロパッチ (貼付薬) |
||||
ドパミン遊離促進薬 |
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アマンタジン | シンメトレル |
口の渇き、食欲不振、便秘、 幻覚、むくみ |
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MAO-B阻害薬 |
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セレギリン | エフピー |
禁忌:三環系抗うつ薬、SSRI、SNRIとの併用。 L-ドパ合剤の副作用と同じ |
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COMT阻害薬 |
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エンタカポン | コムタン | L-ドパ合剤の副作用と同じ | |
ノルアドレナリン前駆物質 |
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ドロキシドパ | ドプス |
禁忌:閉塞隅角緑内障。 口の渇き、吐き気、食欲不振、幻覚、幻想 |
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抗コリン薬 |
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トリヘキシフェニジル | アーテン |
禁忌:緑内障。 排尿困難、口の渇き、食欲不振、便秘、妄想・興奮 |
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レボドパ賦活薬 |
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ゾニサミド | トレリーフ | 吐き気、食欲不振、幻覚、妄想、眠気 | |
アデノミンA2A受容体拮抗薬 |
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イストラデフィリン | ノウリアスト | ジスキネジア、便秘、幻覚、眠気、吐き気 |
編集部で作成
特に60歳以下で発症した方では、パーキンソン病が進行して年数を経ると薬効時間は徐々に短くなり、効果が切れるとウェアリング・オフ現象が現れるようになります。ウェアリング・オフは服薬時間に関連して症状の変動が出るのが特徴です。対策としてはL-ドパの用量や服用回数を増やすか、ドパミンアゴニストの追加・増量・変更を検討します。こうした調整で不随意運動(ジスキネジア)が現れれば、さらに薬剤の調整を検討します。ジスキネジアは意思に反して手足などが勝手に動く症状で、薬剤の血中濃度が高くなった時に見られます。2016年7月、L-ドパ・カルビドパ配合剤(商品名:デュオドーパ配合経腸用液)をポンプで胃瘻によって留置したチューブから持続的に注入する治療法が承認されました。同薬剤はゆっくり溶け出すゲル化製剤です。L-ドパは十二指腸から吸収されるため、L-ドパの吸収が安定し血中濃度を比較的一定に保つことが可能になりました。進行期の患者でもオフ時間が減少し、ジスキネジアも軽減することが期待できます。
薬物療法で症状を改善するのが困難な場合、外科的治療法の脳深部刺激療法を検討します。ウェアリング・オフ現象の改善や治療薬の減量が期待できますが、疾患の進行を止めることはできません。
近年、パーキンソン病の治療でリハビリテーションが果たす役割の重要性が認識されるようになりました。パーキンソン病と診断された時点から適切な薬物治療と共にリハビリテーションを開始することによって、生活に支障のない状態を維持し、薬物の使用を最小限に抑えることが可能です。
長い歴史を持つパーキンソン病の治療は、2004年に米国で行われたELLDOPA試験を境に方向転換されることになりました。発症初期のパーキンソン病患者をL-ドパ投与群とプラセボ投与群に分けて症状を比較した結果、服用中だけでなく、服用中止2-4週後もL-ドパ投与群ではプラセボ投与群より状態が良好だったことがわかりました。この研究から、それまでのパーキンソン病治療は不足するドパミンを補充するだけで薬による副作用の心配もあるので、治療開始を急ぐ必要はないという考え方から、早期の治療開始が重要であると大きく考え方が変わりました。
服薬指導のポイント
パーキンソン病治療の基本は、規則正しい生活を守りながら、処方どおりに服薬することに尽きます。特に、L-ドパの服薬のタイミングが食前と食後とでは血中濃度の変化が大きく異なります。食前に服用すると持続効果が得られず、必要以上に濃度が高くなることでウェアリング・オフ現象やジスキネジアが起こりやすくなるといわれています。
また、ドパミンアゴニストのように、少量から服薬を開始し、効果と副作用のバランスを見ながらゆっくり用量を増やしていくタイプの薬剤もあります。こうした治療戦略を患者に理解してもらう必要がありますが、説明が不十分だったり、患者に理解されないまま処方されたりするとどういうことが起きるでしょう。患者はその薬が十分量に到達する前に「効かない薬」と勝手に判断して、別の病院を新たに受診し、「××薬は効かなかった」と申告したとします。治療が中断された状態であることがわからないと、医師は××薬を除外して無駄な処方をさせられる可能性があります。
「○○などの副作用が出ることがありますから、その時は教えてくださいね」患者にこんな説明をして薬を渡すようなことはありませんか。1%に満たない程度の確率で出現する副作用も、このような言い方で説明された患者は副作用を必要以上に気にするようになることもあります。服薬指導としては適切とはいえません。処方どおりに服薬していて、本来その薬の有害事象ではない反応が現れたりすることがあります。それも一時的なもので、健康に影響がなくても、患者は重大な副作用かもしれないと思い込んでしまうかもしれません。こうした場合はたとえば、「何か気になることがあればご連絡ください」「処方箋どおりに薬を服用していて困ったことは全部お知らせください」などといった言い方が適当でしょう。
患者がパーキンソン病について正しい知識を持ち、疾患と上手に付き合っていけるように指導することが大切です。
iPS細胞を用いた再生医療 パーキンソン病で治験
iPS細胞(人工多能性幹細胞)によるパーキンソン病の再生医療計画を進めている京都大学iPS細胞研究所(高橋淳教授)の研究グループは、患者以外の人の細胞からiPS細胞由来神経細胞を作製し、移植(他家移植)をする臨床試験(治験)を2018年度中に開始すると、2017年2月3日に発表しました。
研究グループは2013年9月に、サルの脳にiPS細胞から作製したドパミン産生神経細胞を移植し、自家移植と他家移植における免疫反応を比較し、結果を報告しています。それによると、他家移植の場合、免疫反応を担うミクログリアやリンパ球が移植部位に集まっていることが確認できましたが、自家移植ではそうした免疫反応は見られませんでした。また、自家、他家のいずれにおいても移植されたドパミン産生神経細胞は3~4カ月後も免疫抑制剤を使わなくても生着していることが確認できたといいます。この結果から、パーキンソン病の臨床応用に向けては自家移植が望ましいことが示唆されるとともに、他家移植でも免疫抑制剤を使わなくても、多くのドパミン産生神経細胞が生着することもわかりました。
研究グループは、「免疫反応と生着の点で自家移植の有用性が示されたものの、自家移植ではコストや時間がかかる。また、パーキンソン病の患者から作製したドパミン産生神経細胞が正常に機能するかを検証する必要がある。さらに、HLA型を合わせたiPS細胞による他家移植で免疫反応がどの程度軽減されるかが今後の課題」と指摘しました。
こうした経緯から研究グループは、当初は自家移植を計画していましたが、2014年に医薬品医療機器等法(改正薬事法)の施行で再生医療等製品の規制環境が変わり、さらに2015年に同研究所から再生医療用iPS細胞のストックの提供が始まったため、計画を他家移植に切り替えました。これによって自家移植に比べ、コストを抑えることが可能で、実用化の時期が早まることも期待できるとしています。
研究グループは、2014年にヒトiPS細胞から臨床用のドパミン神経細胞の作製方法を確立しました。作製した細胞は動物実験では良好な結果が得られており、有効性と安全性が確認されれば計画は本格的にスタートすることになります。
この研究は今後、非臨床試験の実施および独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)への薬事戦略相談⇒治験審査委員会への申請および承認⇒PMDAを通じて厚生労働大臣へ治験計画届書の提出⇒治験の被験者となる患者募集(治験開始)⇒細胞移植の実施というプロセスで進められていく予定です。