QOLに大きな影響をおよぼす喘息。喘息増悪、さらには喘息死を防ぐだけでなく、寛解へと導くためにできることとして、一番取りかかりやすいのが徹底した吸入指導といえそうです。「ホー吸入」の普及活動に尽力されている近藤内科医院 院長の近藤りえ子氏にお話を伺いました。
- 全国的に喘息患者の約80%は非専門の開業医が診療している
- 喘息の病態発作の契機はアレルゲン
- 喘息診療の全体像
- 特異度が高いのは喘鳴、頻度が高いのは咳嗽 「冷気に当たると咳がでませんか?」
- 診断時点で治療薬による反応を確認
- 治療は中用量ICS/LABAからリリーバーはSABA
- 喘息の管理目標 症状をなくして治療薬をステップダウン
- 吸入薬の選択は?
- 初回の吸入指導は練習器でその患者に適したデバイスかどうか確認
- 効果的な吸入方法「ホー吸入」のやり方
- 薬剤師による吸入指導効果の把握に関する検討
- 吸入指導は喘息増悪を防ぐための一番の近道
- 吸入療法の資格認定試験が開始
- 薬剤師の吸入指導は喘息治療の非常に大きな力になる
全国的に喘息患者の約80%は非専門の開業医が診療している
全国的に喘息患者の約80%は、非専門の開業医が診療しています。となると、非専門の一般診療下でいかに適切な喘息診療が行われるかが重要となります。この観点から「喘息診療実践ガイドライン2024」は作成されており、スパイロメトリーなど専門の診断機器がない一般開業医での診断・治療が確実に行えるように、より実践的なフローが示されています。今回はこの「喘息診療実践ガイドライン2024」の情報をもとに最新の喘息診療について解説します。
喘息の病態発作の契機はアレルゲン
喘息の病態は主に、IL-4、IL-5、IL-13などの2型サイトカインにより惹起される、気道の慢性炎症で、「タイプ2炎症(2型炎症)」とされます。これらのサイトカインは、リンパ球(Th2)や2型自然リンパ球(ILC2)により産生されます。
小児喘息の大多数、成人喘息の過半数では、喘息の病態として病因のアレルゲンが関与していますが、これはタイプ2炎症の機序の一つです。アレルゲンの曝露は、特異的IgE抗体を介してマスト細胞を活性化して気道平滑筋を収縮させる、Th2細胞の分化を促進する、などのメカニズムを発生させ、気道が炎症する契機となります。喘息の病因アレルゲンとしては家塵ダニが多いですが、スギやヒノキもアレルゲンとなります。また、動物の毛は重症化しやすい点にも注意が必要です。
ただし、中には、タイプ2炎症ではないような喘息も一部存在します。これを病型として「タイプ2喘息(2型喘息)」に対し、「非タイプ2喘息(非2型喘息)」として区別されます。非タイプ2喘息ではTh17細胞などから産生されるIL-17などが気道炎症に関与しています。非タイプ2喘息は、重症喘息の一部ではありますが、ステロイドへの感受性が少ないため、生物学的製剤のほかにマクロライド系抗菌薬の長期投与が検討されることがあります。
喘息診療の全体像
喘息診療の全体像として、「喘息診療実践ガイドライン2024」では、基本的ロードマップが示されました。このロードマップは、①喘息を疑い、②臨床診断、③検査・評価・臨床特性(treatable traits*)の抽出、④治療の開始、⑤モニタリング、⑥コントロール状態による治療強度の変更という大きく7つのステップにより、喘息が診療されることが分かります。
- Treatable traits:治療可能な臨床特性。胃食道逆流症や不安/抑うつ、気道感染、肥満など喘息症状に影響を与える合併症。
特異度が高いのは喘鳴、頻度が高いのは咳嗽
「冷気に当たると咳がでませんか?」
喘息の診断では問診が重視されます。喘鳴(「ヒューヒュー」、「ゼーゼー」の呼吸音)、咳嗽、喀痰、胸苦しさ、息苦しさ、胸痛などの喘息を疑う症状があれば、その症状について詳細に確認していきます。吸入ステロイド薬によって呼吸器症状の改善があったか、3週間以上持続する咳嗽、息苦しい感じを伴う咳嗽、夜間を中心とした咳嗽のいずれかを経験したことがあるか、症状に日内変動や季節性があるか、といった症状の状況や、アレルギー性鼻炎があるか、ペットを飼い始めて1年以内である、などの背景も問診で確認します。
喘息を疑う症状の中で、喘息として特異度が最も高いのは喘鳴、頻度が高いのは咳嗽です。2024年版ではこのチェックリストの症状に「冷気によって呼吸器症状が誘発される」という項目が追加されています。この冷気というのは私自身も診療でもよく用いるワードです。例えば「スーパーの冷蔵・冷凍食品のコーナーで冷気に当たると咳がでませんか」などと症状の確認の際によく用いています。
診断時点で治療薬による反応を確認
問診チェックリストで喘息が疑われた場合、診断時点で治療薬による反応を確認します。胸部単純X線や胸部CTなどで器質的肺疾患を除外した上で、中用量の吸入ステロイド(Inhaled Corticosteroid;ICS)と、長時間作用性β2刺激薬(Long-Acting β2-Agonist;LABA)を3日以上投与し効果を確認します。
喘息が軽症~中等症の場合、投与3~7日程度で、呼吸機能や症状コントロールの改善が認められることが多いです。また重篤な症例では、高用量ICS/LABAに経口ステロイド(PSL換算で10~30mg)を1週間程度併用します。
上記治療で反応がありかつ吸入前に喘鳴があれば喘息と診断します。また喘鳴がなくても再現性があれば、喘息と診断します。
上記治療に反応がない場合や、反応があっても再現性がない場合は他疾患を考えます。
治療は中用量ICS/LABAからリリーバーはSABA
臨床診断確定後の治療としては、中用量ICS/LABAから開始し、急性増悪(発作)時にはリリーバーとして短時間作用性β2刺激薬:(Short-Acting β2-agonist;SABA)を使用します。中用量ICS/LABAでコントロール不十分/不良な場合は、個々の患者で胃食道逆流症や不安/抑うつ、気道感染、肥満など喘息症状に影響を与える合併症について評価し、不安/抑うつがあればカウンセリングや抗うつ薬、肥満があれば減量、喫煙があれば禁煙といった個々の合併症への対応が求められます。アドヒアランスが不良であれば、当然「吸入指導」が必要となります。
喘息の管理目標
症状をなくして治療薬をステップダウン
喘息の管理目標は、まずは喘息症状をなくすことです。そして、臨床的寛解*の達成を目指します。臨床的寛解にいたるまでの期間中、コントロール良好であれば治療薬の減量や中止を見据えて徐々に治療をステップダウンしていきます。実臨床では、医師が個々の患者さんの状態や生活状況を鑑みて判断します。例えば、花粉症の季節が過ぎたタイミングで薬剤の用量を若干減らし様子を見て、喘息症状が出ればまた元の用量に戻してコントロールしていく、といった具合です。
ただ、重症例では、高用量ICS/LABAや全身性ステロイドなどの長期管理薬による治療を実施してもコントロール不良の場合があり、生物学的製剤の導入を検討します。薬剤選択に当たっては、血中好酸球数、呼気中一酸化窒素濃度(Fractional exhaled Nitric Oxide;FeNO)、血清IgE値、アレルゲン特異的IgE抗体などのバイオマーカーを測定し、特に血中好酸球数とFeNOを軸として薬剤を選択します(表1)。
- 臨床的寛解:1年間喘息コントロールテスト(ACT) 23点以上、増悪なし、定期薬としての経口ステロイドなしの状態
一般名 | 製品名 | 対象 | |
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抗IgE抗体 | オマリズマブ | ゾレア | 重症のタイプ2喘息で血清総IgE値30~1,500IU/mL |
抗IL-5抗体 | メポリズマブ | ヌーカラ | 重症喘息で血中好酸球数150/μL以上または過去12ヶ月間に300/μL以上 |
抗IL-5Rα鎖抗体 | ベンラリズマブ | ファセンラ | 重症喘息で血中好酸球数150/μL以上または過去12ヶ月間に300/μL以上 |
抗IL-4Rα鎖抗体 | デュピルマブ | デュピクセント | 重症喘息で血中好酸球数150/μL以上またはFeNO25ppb以上、血清総IgE値167IU/mL以上 |
抗TSLP抗体 | テゼペルマブ | テゼスパイア | 重症喘息 |
各製品添付文書、インタビューフォームより作成