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特集

目覚ましく進化しているアトピー性皮膚炎治療

2025年2月号
目覚ましく進化しているアトピー性皮膚炎治療の画像

アトピー性皮膚炎の治療では近年、寛解導入療法における新たな外用薬、難治例に対するJAK阻害内服薬や生物学的製剤が次々に登場し、治療効果や副作用のみならず医療費の負担も考慮した治療選択がますます重要になっています。今回は、変化するアトピー性皮膚炎の治療のなかで、疾患の特性や治療選択の判断、患者指導、薬薬連携などについて、東京医科大学病院 皮膚科 教授 伊藤友章氏にお話を伺いました。

湿疹の発生を繰り返し汗をかくとかゆみが出る

アトピー性皮膚炎では、特定の部位に左右対称に湿疹が発生し、増悪や軽快を慢性的に繰り返します。また、健常者では汗をかいても皮膚がかゆくなることはありませんが、アトピー性皮膚炎の患者では発汗異常が発生しているため、汗をかいたときに強いかゆみを感じます。アトピー性皮膚炎患者の多くは強いかゆみが出るのはごく普通のことに感じていますので、診察の際に汗によるかゆみは通常ではない点を指摘すると驚かれることがしばしばあります。

皮膚の状態から診断 重症度評価は医師も患者も

アトピー性皮膚炎の診断においては、小児では主に顔面、成人では肘窩、膝窩の特徴的な部位から発症します。乳児では2カ月以上、幼小児期以上の年齢層では6カ月以上、反復性かつ慢性的な症状がみられればアトピー性皮膚炎と診断します。通常は皮膚をこすると赤くなりますが、アトピー性皮膚炎の場合にはからだを掻くと皮膚が白くなるというのも臨床上の特徴です。
重症度評価では、医師による評価だけでなく患者による評価も行います。医師による評価では、頭頸部、体幹、上肢、下肢の皮疹の面積、各部位での紅斑、浸潤/丘疹、掻破痕、苔癬化を評価し、湿疹⾯積・重症度指数(Eczema Area and Severity Index;EASI)を算出します。患者によるかゆみの主観的な評価においてはNumerical Rating Scale(NRS)、かゆみ・睡眠障害・皮膚の状態については質問票のThe Patient Oriented Eczema Measure(POEM)、疾患の包括的なコントロール状態はAtopic Dermatitis Control Test(ADCT)なども用いて総合的に評価します。治療効果の評価においては、診察時に患部の写真を撮影してEASIスコアを記録し、患部の状態や治療による変化を医師と患者が一緒に見ていくことができるようにしています。
診断や病勢の評価で参考となるバイオマーカーには、血清中のIgE値、TARC値、SCCA2値、LDH値や末梢血好酸球数などがあります。アレルギー素因がある場合にはIgE値が高値となるため、IgE値は指標とすることはできません。TARC値は重症度にともなって上昇し、病勢を反映するためバイオマーカーとして使用可能ですが、小児では年齢によって基準値が異なります。SCCA2値は15歳以下に保険適用があります(表1)。

表1 アトピー性皮膚炎の特徴と皮膚症状の評価
特徴
  • 特定の部位に左右対称に湿疹が発生する
  • 増悪や軽快を慢性的に繰り返す
  • 汗をかいたときに強いかゆみを伴う(感覚異常)
  • 遺伝性の疾患ではない(家族に患者がいるからといってその子どももアトピー性皮膚炎になるわけではない)
診断と
重症度の評価
  • 子どもは主に顔面、幼小児期以上では全身の皮膚症状を評価する
  • 乳児では2カ月以上、幼小児期以上では6カ月以上、反復性かつ慢性的であればアトピー性皮膚炎と診断する
  • 医師による評価(EASI)、患者による評価(NRS、POEM、ADCTなど)により評価する
  • 患部の写真を撮影してEASIスコアをつけ、治療による効果の評価を患者とともに見られるようにする
バイオマーカー
  • 血清IgE値:アレルギー素因がある場合に高値を示す
  • 血清TARC値:重症度に一致して上昇する。病勢を反映し保険適用もある。基準値は年齢によって異なる
  • 血清SCCA2値:アトピー性皮膚炎で高値を示す。EASIとの相関も高く治療反応性も反映する。15歳以下で保険適用がある
  • 血清LDH値:重症例で上昇する
  • 末梢血好酸球数:重症度に相関して増加する

伊藤氏の話と「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」をもとに作成

最も重要な寛解導入療法 外用薬を塗れているか?

アトピー性皮膚炎は慢性疾患ですので、治療を継続することがまず重要です。治療費用の負担についての付加給付金や高額療養費などの制度を知らない患者が多いため、当院では医師が治療費について説明し、どのような治療が継続できる環境にあるのかを患者に確認するようにしています。
アトピー性皮膚炎の治療において最も重要なのは寛解導入療法で、外用薬をいかにきちんと塗れているかが主軸になります。治療費関連の情報収集には数週間ほどかかりますので、その間、アレルギー疾患療養指導士(Clinical Allergy Instructor;CAI)の資格を有する看護師やその他の看護師が外用薬の塗り方を患者に指導しています。最近では、外用薬による基本的な治療を実施せずに費用負担が大きい新薬を突如使用したがために、治療効果が得られずに治療から脱落してしまう患者が多くいます。まずは、アトピー性皮膚炎治療の基本となる外用薬をしっかりと使用し、次の治療が必要となる段階に進ませないようにすることが非常に大切です。

2~3週間の外用薬使用後にその他の薬剤も検討する

患者に対して外用薬を指導した後、約2~3週間で外用薬の効果が分かってきます。当院では、外用治療を行ってもEASIスコアが30程度の患者に対しては、JAK阻害薬や生物学的製剤などの新薬について説明しています。患者には「皮膚をつるつるにしたい?」といった確認の仕方で、その希望があれば注射薬の生物学的製剤としてデュピルマブ(デュピクセント)やトラロキヌマブ(アドトラーザ)などの投与を考慮します。注射は嫌いだけれども皮膚がかゆいので早くかゆみを止めたいという患者では、内服のJAK阻害薬を考慮します(図)。

図 当院におけるアトピー性皮膚炎の治療戦略

当院におけるアトピー性皮膚炎の治療戦略の画像

伊藤氏の話をもとに作成

ステロイドで一気に改善させデルゴシチニブやジファミラストへ移行

皮膚のバリアがないと感染症やヘルペスなども発生してしまうため、まずは外用薬により一気に症状を改善させることが重要です。外用薬は、顔の赤みなどの症状が強いときにはステロイドを使用します。タクロリムス(プロトピック)は効果はありますが、皮膚が滲みる方がいるので、症状を見ながら使用を考慮します。
ステロイド軟膏で改善が得られた場合には、JAK阻害薬のデルゴシチニブ(コレクチム)軟膏やPDE4阻害薬のジファミラスト(モイゼルト)軟膏に切り替えますが、切り替えの方法は患者ごとに異なります。デルゴシチニブ軟膏は生後6カ月、ジファミラスト軟膏は生後3カ月から使用可能で、安全性は高い一方で効果が強くはないと考えられているため、あくまでステロイドで症状を改善させたうえで、維持療法のような位置づけで使用しています(表2)。

表2 アトピー性皮膚炎の外用薬
外用薬 特徴、使い方など
ステロイド
  • 寛解導入療法として、症状を一気に改善させる
  • アレルギー疾患療法指導士(CAI)や看護師が塗り方の指導を行う
  • 部位ごとに塗布するステロイドの強さ(ランク)を患者が間違えないように指導する
タクロリムス
(プロトピック)
  • 分子量が大きく、非炎症部には吸収しない。副作用は少ないが、炎症部位に塗布すると皮膚が滲みる方がいるので、使用前に患者に説明する
デルゴシチニブ
(コレクチム)
(JAK阻害薬)
  • ステロイドで症状を改善させた後に切り替えを考慮する
  • 生後6カ月から使用可能
  • 成人は、0.5%製剤を1日2回、適量を患部に塗布する。1回あたりの塗布量は5gまで
    小児は、0.25%製剤を1日2回、症状に応じて、0.5%製剤を1日2回、適量を患部に塗布。なお、1回あたりの塗布量は5gまでだが、体格を考慮する
ジファミラスト
(モイゼルト)
(PDE4阻害薬)
  • ステロイドで症状を改善させたのち切り替えを考慮する
  • 生後3カ月から使用可能
  • 維持療法に使用すると効果的。全身どこでも塗布可能な薬。治療費が高額なので、処方量の確認が必要

伊藤氏の話をもとに作成

外用薬はしっかりと塗らないと症状が改善しないため、ステロイドに加えワセリン、ヘパリン類似物質などの保湿剤を含めて1日合計20g、1カ月で合計600g程度になるように処方します。ステロイドについては部位ごとに塗布するステロイドのランクが異なるため、塗布部位と薬剤の組み合わせを間違うことがないように指導します。1日2回塗布が基本ですが、外出前に外用薬を塗布するとベタベタとした使用感が気になると訴える患者では、夜の入浴後にしっかりと塗布するよう指導することもあります。
アトピー性皮膚炎の患者の症状が悪化する時期は個人差があります。夏の汗をかきやすい時期に悪化する、冬の乾燥した時期に悪化する、日常のストレスが強い時期に皮膚をひっかいてしまい悪化する、など個々で異なります。症状の悪化を防ぐため、症状が悪くなりやすい時期には通院間隔を短くするように調整し、外用薬が塗れているかを第三者が評価することにより患者の意識も高めてもらうようにしています。また、風邪をひいて症状が悪化した場合などには、すぐに受診するように説明しています。

JAK阻害薬はかゆみを止める 特に高用量の副作用に注意

JAK阻害薬の内服薬にはバリシチニブ(オルミエント)、ウパダシチニブ(リンヴォック)、アブロシチニブ(サイバインコ)の3剤があります(表3)。最適使用推進ガイドラインにあるとおり、施設や医師に関する要件を満たした場合のみ扱うことができ、投与に際しては血液検査や画像診断などによる安全性のモニタリングも必須です。

表3 アトピー性皮膚炎に対するJAK阻害内服薬
一般名(製品名) 剤形・規格 用法・用量 適応症
バリシチニブ
(オルミエント)

1mg/
2mg/
4mg
【成人】
1日1回4mg(患者の状態に応じて2mgに減量)
【小児(2歳以上の患者)】
  • 体重30kg以上:1日1回4mg(患者の状態に応じて2mgに減量)
  • 体重30kg未満:1日1回2mg(患者の状態に応じて1mgに減量)
既存治療で効果不十分な下記疾患
  • 関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)
  • アトピー性皮膚炎
  • 多関節に活動性を有する若年性特発性関節
SARS-CoV-2による肺炎(ただし、酸素吸入を要する患者に限る)
円形脱毛症(ただし、脱毛部位が広範囲に及ぶ難治の場合に限る)
ウパダシチニブ
(リンヴォック)

7.5mg/
15mg/
30mg/
45mg
【成人および小児(12歳以上かつ体重30kg以上)】
15mgを1日1回投与
(患者の状態に応じて30mgを1日1回投与することができる)
既存治療で効果不十分な下記疾患
  • 関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)
  • 乾癬性関節炎
  • X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎
  • 強直性脊椎炎
  • アトピー性皮膚炎
中等症から重症の潰瘍性大腸炎の寛解導入及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)
中等症から重症の活動期クローン病の寛解導入及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)
アブロシチニブ
(サイバインコ)

50mg/
100mg/
200mg
【成人および12歳以上の小児】
100mgを1日1回投与
(患者の状態に応じて200mgを1日1回投与することができる)
既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎

各製品添付文書をもとに作成

バリシチニブの2mgや4mgの投与は、比較的安全に使用可能で、かつかゆみが止まるため、患者の満足度は高くなっています。そのため一般クリニックでも比較的使いやすいともいえます。アトピー性皮膚炎では円形脱毛症を併発していることもありますが、バリシチニブは円形脱毛症にも適応があるため、治療中に患者の髪の毛が生えてくることによる満足感も得られます。
私見と治験メタ解析の論文によると、ウパダシチニブ15mgとアブロシチニブ100mgの治療効果は同程度の印象で、それより多い投与量としてはウパダシチニブ30mgとアブロシチニブ200mgがありますが、投与量が増えるにつれ、副作用も相当のものが発現すると考えられます。ウパダシチニブやアブロシチニブは、副作用が発現した時に対応してくれる病院と連携しておくことが大切です。

JAK阻害薬の副作用や治療の継続期間は課題

JAK阻害薬の投与時には、起こりうる副作用の全容を患者に説明しています(表4)。免疫系にも影響を与えますので、例えば帯状疱疹を発症した、

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