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特集

発達障害のある人が生きていてよかったと思えるためにできること

2025年3月号
発達障害のある人が生きていてよかったと思えるためにできることの画像

近年、発達障害についての社会的な認知度が高まり、発達障害により生きづらさを抱える人たちを社会として支えることの重要性が認識されています。薬剤師も発達障害について正しく知り、適切な情報提供に生かすことが求められています。本稿では、早稲田メンタルクリニックで大人の発達障害の診療に携わる傍ら“精神科医You Tuber”として発達障害について積極的に発信されている益田裕介先生に、代表的な発達障害である注意欠如多動症(Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder;ADHD)、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder;ASD)、限局性学習障害(Learning Disabilities;LD)の特徴や治療法などについてお話しをお聞きしました。
★次号(2025年4月号)では「薬剤師による発達障害の服薬指導」にフォーカスした記事を掲載予定です。本記事と合わせて発達障害の学習にお役立てください。

発達障害は生まれつきの脳機能の問題による能力の偏り

発達障害は、生まれつき脳機能の発達に問題があることにより、注意が続かない、人とコミュニケーションをとることが苦手、読み書きが極端に苦手など、さまざまな特性があらわれる障害です。
日本では、2005年に施行された発達障害者支援法において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」1)と定義されています。世界的な精神疾患の診断基準である『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版テキスト改訂版(DSM-5-TR)』では、発達障害を内包する概念として「神経発達症」が使用されています。日本の法律で定義されている発達障害と神経発達症は厳密には異なる点がありますが、ほぼ同義で使用されています。

ADHD:注意力が続かずじっとできない

ADHDの主な症状は、不注意、多動、衝動性です。中心にあるのは注意力を持続できないという特性で、そのために不注意や多動が生じ、理性で欲望を抑えられず衝動的に行動してしまいます。日々の困りごととして、忘れ物が多い、片付けが苦手、スケジュール管理が苦手、授業中や会議中にじっとしていられない、相手の話を途中で遮る、順番が待てずに割り込む、一度話し出すと止まらない、などが起こります(表1)。

表1 ADHD、ASD、LDの症状
ADHDの主症状:不注意、多動、衝動性
  • 細部を見過ごす、作業が正確でない、ケアレスミスが多い
  • 注意を持続できない、すぐに気が散る
  • 話しかけられた時に聞いていないように見える
  • 持ち物の整理や時間の管理が苦手
  • 必要な物(財布、眼鏡、鍵など)をなくす、忘れっぽい
  • じっとできず、そわそわする
  • 人の話を遮って話し始める、話し出すととまらない
ASDの主症状:社会的コミュニケーションが困難、反復的な行動パターン
  • その場の空気を読む、人の気持ちを察することが苦手
  • 暗黙の了解が理解できない
  • 興味の対象が限定的
  • 自分で作ったルールや生活パターンにこだわる
  • 蛍光灯をまぶしがる、大きな音が苦手、味に過敏で食べ物の好き嫌いが激しい
LDの主症状:読む、書く、計算するなどのいずれかの能力が著しく低い

益田氏の話をもとに作成

ASD:対人関係が苦手でこだわりが強い

ASDは、以前は別々の障害としてアスペルガー症候群、自閉症に分類されていましたが、現在ではこれらを包括した概念である「自閉スペクトラム症」へと変更されました。スペクトラムとは「連続体」を意味します。アスペルガー症候群と自閉症は共通の特性を持つ障害であり、その程度が異なることを示しています。
ASDの主な症状は、社会的コミュニケーションや対人関係が苦手、限定された反復的な行動パターン(こだわりが強い)の2つです。社会的コミュニケーションや対人関係の苦手さは、他人の気持ちを察することが難しいという特性から生じます。こだわりの強さは想定外の出来事が起こると対応できず不安なため自分が作ったルールや生活パターンを守ることに執着する、興味を持つことが限定的になる、感覚が過敏になるなどの形であらわれます。感覚過敏には蛍光灯の光をまぶしがる、大きな音を怖がる、味に敏感で食べ物の好き嫌いが激しいなどがあります(表1)。
ASDの根本には、自分を客観的にとらえる力、すなわち「メタ認知」の困難があると考えられています。メタ認知は他人の気持ちを推測する機能にもかかわっており、この能力が低いと他人の気持ちを察することができずコミュニケーションがとりづらくなります。

LD:読む、書く、計算する能力のいずれかが低い

LDは、知的発達に遅れはないけれど、読む(読字障害)、書く(書字障害)、計算する(算数障害)などのいずれかが著しく低い障害です(表1)。代表的な学習障害であるディスクレシア(読字障害)では、文字が記号のように見える、ぐにゃぐにゃと動いているように見えるなど、文字を文字として認識できないため、内容を理解することや書くことが難しくなります。

発達障害は併存することが多い

ADHDとASD、LDは併存していることが珍しくありません。本邦の調査では、ASDのある5歳児87名のうち44名(50.6%)にADHDが併存していたと報告されています2)。ADHDのある人がメモをとれなかったり、お金の計算が苦手なのは不注意に由来すると考えがちですが、よく聞くと文字を書くこと自体が困難な書字障害であったり、そもそも計算が極端に苦手な算数障害であったりします。発達障害同士の併存の他に、チック症やてんかん、双極性障害、不安症、うつ病などの併存もよくみられます。

  • 素早い身体の動きや発声(まばたき、咳払い、鼻すすりなど)が無意識に表出する症状

DSM-5-TRの診断基準に基づいて診断

発達障害の診断は、DSM-5-TRの診断基準3)に基づいて経験のある医師が行います。
ADHDの診断項目としてはA~Eの5種類です。Aでは(1)不注意の症状9項目、(2)多動性・衝動性の症状9項目を挙げ、(1)と(2)のどちらか、または両方において6項目(17歳以上では5項目)以上が少なくとも6ヵ月持続し、それらが生活や学業、仕事に直接悪影響を及ぼしていることを確認します。Bでは症状が12歳になる前から存在していた、Cでは症状が2つ以上の状況(家庭、学校、職場など)でみられる、Dでは症状により社会、学校、職場での機能が損なわれている、Eでは症状が他の精神疾患で説明できないことを確認します。これらA~Eの5種類を全て満たしている場合にADHDと診断されます(表2)。

表2 ADHDの診断基準(DSM-5-TR)の概要
下記のAEを全て満たしている場合にADHDと診断される
  1. 不注意の症状9項目のうち6項目以上、および/または多動性・衝動性の症状9項目のうち6項目(17歳以上は5項目)以上がある
  2. 症状が12歳になる前からある
  3. 症状が2つ以上の状況(家庭、学校、職場など)でみられる
  4. 症状により社会、学校、職場での機能が損なわれている
  5. 症状は他の精神疾患で説明できない

DSM-5-TRをもとに作成

不注意の症状が6つ以上ある場合は不注意優位型、多動・衝動性の症状が6つ以上ある場合は多動・衝動優位型、不注意と多動・衝動性の症状がそれぞれ6つ以上ある場合は混合型に分けられます。
ASDの診断基準として、A.社会的コミュニケーションや対人的な相互関係に関連する持続的な障害がある、B.行動や興味、活動において限定された反復的な様式がある、C.症状が発達早期に始まる(後に明らかになることもある)、D.症状により社会的、職業的に重大な問題が生じている、E.これらの問題が知的発達の遅れだけでは説明できない、という5種類があります。これもAEの5種類を全て満たしている場合にASDと診断されます(表3)。

表3 ASDの診断基準(DSM-5-TR)の概要
下記のAEを全て満たしている場合にASDと診断される
  1. 社会的コミュニケーションや対人的な相互関係に関連する持続的な障害がある
  2. 行動、興味、活動において限定された反復的な様式がある
  3. 症状は発達早期に始まるが、後に明らかになるものもある
  4. 症状により生活や職業などに重大な問題が生じている
  5. これらの問題が知的発達の遅れだけでは説明できない

DSM-5-TRをもとに作成

基本的に、DSM-5-TRの診断基準に合致するかどうかでADHDとASDの診断は可能ですが、知的障害の有無や程度を知るために知能検査が行われており、小児ではWechsler Intelligence Scale for Children(WISC)、大人ではWechsler Adult Intelligence Scale(WAIS)、などが使用されます。診断における脳波検査は一部クリニックで行われていますが、原則不要です。しかし、てんかんとの鑑別などのために補助的に行われることもあります。

グレーゾーンは診断には至らないが発達障害の特性を持つこと

最近、発達障害のグレーゾーンという言葉をよく聞きます。グレーゾーンは、ADHDやASDの診断基準に完全には合致しないけれど、発達障害の特性を持っていることを意味します4)
前述したように、発達障害の診断には「持続する症状により生活や学業、仕事に直接悪影響を及ぼしていること」が必須となります。その他の条件が生物学的な特性に関連するのに対し、学業や仕事への悪影響という条件は社会的であり基準があいまいです。グレーゾーンには、発達障害の生物学的な特性は有するものの社会的な特性が診断閾値には至らないため診断できないケースが多く含まれていると考えます。そのようなケースはこれまでは認識されづらい存在でしたが、職場のデジタル化やマルチタスク化など仕事で求められる能力レベルが上がって適応できない人が増えた結果、グレーゾーンとして注目されるようになったと考えています。グレーゾーンの人たちも多くの困難を抱えており、適切な治療とサポートが必要です。

発達障害がある人の「できない」という言葉を信じて欲しい

発達障害のある人たちは多くの生きづらさを抱えています。ADHDのある人は学業や仕事をうまくこなせないため進級や就職できないことがよくあります。就職できたとしても、求められるレベルの働きができないと「さぼっている」、「努力していない」と誤解され、続かないことが多くあります。家庭でも家事や子育てをスムーズにできないことが問題となり離婚に発展したケースをいくつもみてきました。ASDのある人は他人に合わせることができないため「面白くない人間」だと思われ、友達ができず孤独になりがちです。感覚過敏があると電車の中にいることが耐えられない、人が多く騒音のある場所に行けないなどから、行動範囲が限られ、それが仕事に影響することもあります。
発達障害のある人は、みんなにできることができない自分、同じ失敗を繰り返す自分を常に責めています。「やらない」のではなく「できない」ことを信じてもらえず苦しんでいます。発達障害のある人が「できない」と言っていることは本当に「できない」のであり、決して努力不足やわがままではないということ、強いこだわりや感覚過敏も少し我慢すれば済むことではないということを周りの人は理解して欲しいと思います。

発達障害と精神疾患系の二次障害の悪循環

発達障害のある人は、精神疾患系の二次障害(適応障害、うつ病、不安症、依存症など)を高頻度に発症することが知られています。発達障害がある人は、子供の頃から失敗体験を繰り返しているため、身を守るために過敏性や攻撃性が増していることがあります。また、物事を忘れるのが苦手という特性から心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症することもあります。それらが原因となって

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