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特集

かかりつけ薬剤師とタスクシフトを組織論から考える

2025年6月号
かかりつけ薬剤師とタスクシフトを組織論から考えるの画像

2015年に「患者のための薬局ビジョン」が掲げられてからおよそ10年のうちに、薬剤師の業務は調剤を中心とした対物業務から患者を中心とした対人業務へと大きく変化してきました。また、近年は現場でのタスクシフトも課題となっています。薬剤師をとりまく環境の変化、かかりつけ薬剤師やタスクシフトの現状について、経営学における組織論のなかの「コミットメント」という概念も含め、大阪経済大学 経営学部 経営学科 教授 本間利通氏にお話を伺いました。

対物業務から対人業務へ

2015年10月に厚生労働省から公表された「患者のための薬局ビジョン」は、薬剤師の業務が薬中心の業務から患者中心の業務へとシフトするきっかけになりました(表1)。薬局の業務も調剤を中心としたものから患者の服薬状況の把握、副作用の確認、健康相談など、「かかりつけ薬局」としての役割が求められるようになり、さらに健康サポート薬局制度により薬剤師の専門性を活かしたより幅広い健康サポートも期待されることになりました1)

表1 対物業務から対人業務への制度の変遷
時期 厚生労働省の政策 特徴
2015年10月 「患者のための薬局ビジョン」
~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~
  • 薬中心の業務から患者中心の業務への転換のきっかけ
  • 「かかりつけ薬局」としての役割が求められるようになる
2016年10月 健康サポート薬局制度
  • かかりつけ薬局としての役割のみならず、より幅広い分野で地域住民の健康サポートが求められるようになる
【健康サポート薬局】
薬局において薬剤師として5年以上の実務経験がある薬剤師が常駐する必要があり、厚生労働大臣が定める基準で規定される「常駐する薬剤師の資質に係る所定の研修」を修了している必要がある
2019年4月 「調剤業務のあり方について」
(0402通知)
  • 薬剤師の業務を一定の条件下で非薬剤師が行えるようになる
2020年9月 薬機法改正 以下の業務が薬剤師に課された
  • 患者の服薬状況を継続的に把握し服薬指導を行う業務
  • 医師等に患者情報提供を行う努力義務

参考文献1)と本間氏の話より作成

2019年4月には、「調剤業務のあり方について(0402通知)」により、薬剤師の業務の一部を薬剤師の指示や確認のもとで非薬剤師が行うことも可能になり(表2)、現場でのタスクシフトについても考慮していくことが課題となっています1)

表2 一定の条件下で非薬剤師が担える業務
ピッキング業務
一包化後の数量確認
医薬品の納品作業
お薬カレンダー等に調剤済みの薬剤を入れる行為
服薬指導済みの患者宅へ薬剤を郵送する行為

参考文献1)をもとに作成

薬剤師は国家資格を有する専門職であり、医師や弁護士など他の専門職と同様に、有資格者のみが従事できる業務が多い排他的な職種でもあります。近年の制度の変化にともなって、薬局の経営面においても、また薬剤師それぞれの業務やキャリアにおいても、専門性をどのように発揮するかにますます焦点があてられていると考えられます。

薬剤師数の増加によりかかわりが変化する可能性

薬剤師の数は増加傾向にあり、1982年と2022年の状況を比較すると薬剤師数は124,390人から323,690人へとおよそ2.6倍、薬局に勤務する薬剤師も39,751人から190,735人へとおよそ4.8倍に増加しています(図)。薬剤師が増加した背景には、薬学部が4年制から6年制へと変更される2006年の前後に薬学部が新設されたこともあります2)

図 薬剤師数の推移
薬剤師数の推移の画像
厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」より作成(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/22/index.html)

薬剤師の業務が対物から対人へと変化するなか、変化への対応の度合いに影響しているのが薬剤師の年齢か、あるいは4年制から6年制への教育制度の変化かは明確ではありませんが、6年制の教育カリキュラムにより臨床での教育機会が得られたことにより、患者中心の業務がよりスムーズに受け入れられている印象があります。
なお、これまでのように薬剤師が不足している状況下では薬剤師の就職や転職は比較的容易であった可能性がありますが、今後さらに薬剤師が増加していく状況においては、薬剤師の組織へのかかわり方、業務へのかかわり方が変化することも予想されます。

経営学における組織論 コミットメントや組織市民行動を評価

経営学は利益を追求する学問であり、利益が得られていれば経営が良好ととらえられます。良好な経営には経営戦略とともに、その戦略を実行する組織が必要です。私自身は主に組織論を中心とした研究を行っており、薬局経営における人的側面では、薬剤師の離職率を下げることも課題のひとつととらえています。
組織論においては、薬剤師の定着や意欲を測る指標として「コミットメント」という概念が注目されています。組織コミットメントとは、個人が組織に対して持つ心理的なつながりを意味し、その強さは薬剤師の組織行動や離職率に大きな影響を与えます。そのため、薬剤師の組織に対するコミットメントを高めることが、薬局運営において重要な課題となるのです。離職のほかに、仕事のパフォーマンス(役割内行動)にコミットメントが影響を与えるか否かも、経営学的観点から関心が持たれますが、現段階では両者に直接的な関係はみられていません。
仕事のパフォーマンスは役割内行動として分類されますが、一方で役割外の行動としては組織市民行動と呼ばれるものがあります。組織市民行動とは、たとえば勤務先の前にゴミが落ちていた時に、それが自分の仕事でなくても拾うような、自発的かつ組織に間接的に貢献する行動です。役割外行動とコミットメントに関係性があるか否かを明らかにするのも、私の研究テーマのひとつです。

3種類のコミットメントを組織と職業に対して評価する

コミットメントには、勤務する組織に対する「組織コミットメント」と、薬剤師という職業に対する「職業コミットメント」があるととらえて、研究を行っています2,3)。組織コミットメントと職業コミットメントは、それぞれに「情緒的」、「存続的」、「規範的」コミットメントの3つの要素でとらえることができます。ここでは、組織コミットメントの3つについて解説していきます。
組織コミットメントの中の情緒的コミットメントは、組織に対する感情的なつながりによるもので、その組織に対する感情の現れです。存続的コミットメントは、組織に所属し続けることに対するコストの認識によるものです。たとえば

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