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うつ病の治療 出口戦略のカギとは

2025年11月号
うつ病の治療 出口戦略のカギとは画像

うつ病の患者数は増加の一途を辿り、うつ病の薬物療法は専門医だけでなく非専門のクリニックでも実施されることがあります。うつ病の薬物療法では患者の自己判断による中断、細かい用量調整や薬剤の変更などの難しさが指摘されています。また、症状にかかわらず薬物療法が長期間続く患者や、再発を繰り返す患者もいることから、治療をいつまで継続すべきかが課題となります。うつ病の専門医の北里大学病院精神神経科主任教授 稲田健氏の解説で、うつ病の薬物療法を中心に治療開始から出口戦略のカギについて学習していきましょう。

うつ病の症状と診断基準
重症度評価と精神病性の特徴

まず、うつ病の定義ですが、抑うつ気分、興味・喜びの消失の少なくともどちらか一方と、さらに身体症状と精神症状を含めて5つ以上の症状が、2週間以上ほぼ毎日続いているとうつ病と診断されます(表1)。

表1 うつ病の症状と診断基準
うつ病の症状 中核症状(必須項目)
  • 抑うつ気分
  • 興味・喜びの喪失
身体症状
  • 食欲低下または過食
  • 不眠または過眠
  • 精神運動静止または焦燥
  • 易疲労性、気力の低下
精神症状
  • 罪責感
  • 集中困難、決断困難
  • 希死念慮
うつ病の診断
  • 上記の症状のうち5つ以上(少なくとも必須項目を1つ以上含む)の症状が、ほぼ一日中、ほとんど毎日、2週間以上続いている
  • それらの症状が著しい苦痛、または社会的、職業的な機能障害を引き起こしている
  • その他の身体疾患や薬剤によるものではない
  • その他の精神疾患、特に統合失調症によるものではない
  • 躁エピソード、または軽躁エピソードが存在したことがない

DSM-5ーTRのうつ病の診断基準を参考に作成

また、うつ病の治療にあたっては、まず重症度を適切に評価することが大切です。
重症度は大まかに、軽症はうつ病の診断基準を満たすものの社会生活はなんとか維持される状態、中等症では社会的機能が著しく低下し休職・休学が必要な状態、重症は食事・入浴など基本的生活動作も困難となり時に入院治療を要する状態です。なお、重症度にかかわらず、うつ病は自傷・自殺の切迫性評価が重要となります。
また、重症度の評価とともにうつ病が精神病性の特徴を伴っているか否かの評価を行います。うつ病で見られる精神病性の特徴として「妄想」があげられます。精神医学でいう妄想とは、事実と異なることを強く確信し訂正できない思考を指します。うつ病に伴いやすい妄想としては、罪業妄想(自らの罪や過失を過大視し罰を受けると確信する)、貧困妄想(実際には経済的問題がないのに破産すると信じ込む)、心気妄想(治癒不能の疾患に罹患していると確信する)があります。

うつ病治療の基本は基礎的介入
重症度に応じた薬物療法、状況に応じて入院治療も

うつ病の治療としては、まず、治療の基本となる「基礎的介入」を実施します。基礎的介入とは、支持的精神療法や心理教育などを含む、患者さんに対する基本的なサポートです。相槌で共感を示す、感情をそのまま返す(感情の反射)など受容的に支援するほか、うつ病という疾患の性質や治療法、対処法などの情報を患者さんやご家族に提供することで、疾患についての理解を深め治療・再発予防を促進します。基礎的介入は、全てのうつ病治療のベースとなります。
その後、重症度に応じ、薬物療法と非薬物療法(認知行動療法など体系化された精神療法)の組み合わせを選択し開始していきます。軽症例の場合は基礎的介入だけでも治療は可能です。患者さんが希望するようであれば抗うつ薬を使用しますが、抗うつ薬が顕著に奏功するのは基本的に中等症以上ですので、軽症例では過剰治療にならないよう注意が必要です。中等症以上では、外来で対応可能か、入院が必要かを検討し、速やかに抗うつ薬単剤による薬物療法を開始します。精神病性の特徴を伴う場合は抗うつ薬に抗精神病薬を併用して治療を進めていきます。

抗うつ薬は単剤・低用量から治療開始
第2世代抗うつ薬が推奨される

薬物療法は、まず、抗うつ薬の単剤・低用量として開始します。主に、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)、セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬(S-RIM)といったいわゆる第2世代の抗うつ薬を選択することが推奨されています(表2)。比較的古くから存在するタイプの三環系や四環系抗うつ薬は、副作用の種類や頻度の多さから現在では使用されづらくなっています。

表2 主な第2世代抗うつ薬
  薬剤名 規格
用量・用法
主な副作用
SSRI フルボキサミン
(デプロメール、ルボックス)
25mg、50mg、75mg
初期用量1日50mg、最大用量1日150mg/分2
嘔気・悪心、口渇、便秘、眠気など
セルトラリン
(ジェイゾロフト)
25mg、50mg、100mg
OD25mg、50mg、100mg
初期用量1日25mg、最大用量1日100mg/分1
悪心・嘔吐、口内乾燥、下痢・軟便、便秘、傾眠など
エスシタロプラム
(レクサプロ)
10mg、20mg
初期用量10mg、最大用量20mg/分1夕食後
傾眠、悪心、口渇、倦怠感など
パロキセチン
(パキシル)
6.25mg、12.5mg、25mg
初期用量12.5mg、最大用量50mg/分1夕食後
倦怠(感)、疲労、傾眠、頭痛、嘔気など
SNRI ミルナシプラン
(トレドミン)
12.5mg、15mg、25mg、50mg
初期用量25mg、最大用量100mg/分2~3食後
悪心・嘔吐、便秘など
デュロキセチン
(サインバルタ)
20mg、30mg
初期用量20mg、1週間後40mg/分1朝食後
最大用量60mg
傾眠、悪心、食欲減退、口渇、便秘、下痢など
ベンラファキシン
(イフェクサー)
37.5mg、75mg
初期用量37.5mg、1週後75mg/分1食後
最大用量225mg
悪心、腹部不快感(腹痛、膨満、便秘等)、傾眠、浮動性めまい、頭痛など
NaSSA ミルタザピン
(リフレックス、レメロン)
15mg、30mg
初期用量15mg、15〜30mg/分1就寝前
最大用量45mg
傾眠、口渇、倦怠感、ALT上昇、体重増加など
S-RIM ボルチオキセチン
(トリンテリックス)
10mg、20mg
初期用量10mg、最大用量20mg/分1
悪心、そう痒・全身性そう痒、傾眠、頭痛など

製品添付文書より作成

第2世代抗うつ薬の中の薬剤選択については、いずれの薬剤も有効性の面では大きな差がないとされているため、特定の薬剤が第一選択などの推奨はありません。ただし、不眠や焦燥が強ければNaSSAのミルタザピンを選択、比較的軽症であれば眠気が少ないSSRIを選択するのが良い、といったエキスパートの見解もあります。

抗うつ薬初期は効果より副作用が先行
服用中断を抑止のために事前説明が肝要

抗うつ薬の服用開始時に非常に重要な点として私がお示ししたいのは、「患者が抗うつ薬の効果を体感するよりも先に副作用の発現がある、という点を患者に事前に十分説明しておくこと」です。
抗うつ薬の服用初期や増量時には、不安や焦燥感、攻撃性、衝動性、動悸などが高まるといったアクチベーション症候群(賦活症候群)が見られることがあります。一方で、抗うつ薬の効果が現れるまでには一定の期間(一般的に2週間程度)を要します。初期の副作用について患者さんへの説明が不十分なまま治療を開始してしまうと、有効性が体感される前に副作用が発現することで、服用中断が起こりやすくなり治療継続自体が困難となってしまいます。
副作用が先行する場合があること、副作用が発現しても許容できるようであれば次回の診察までは服用を続けてもらうこと、副作用が辛くて服用できない場合には他の薬剤に切り替えることができることなどをあらかじめ説明しておくことは非常に重要な事項です(表3)。なお、服用後一定期間を過ぎて抗うつ薬の効果が出てきたとしても、副作用が継続するようであれば服用継続も難しくなりますので他剤への切り替えを検討します。

表3 抗うつ薬の服用初期の注意点
抗うつ薬の服用初期に現れやすい副作用
不安や焦燥感、攻撃性、衝動性、動悸など(アクチベーション症候群)
抗うつ薬の処方初期に事前説明が求められる事項
  • 副作用が先行する場合がある
  • 副作用が発現しても許容できるようであれば次回の診察までは服用を続けてもらう
  • 副作用が辛くて服用できない場合には他の薬剤に切り替えることができる

稲田氏の話を元に作成

薬物療法の治療アルゴリズム
最大用量まで増量後に効果判定し次の選択

抗うつ薬を服用後、一定期間が過ぎても効果が不十分な場合には、副作用の発現状況を確認しながら最大用量まで増量していきます。
そして、最大用量で4~6週間程度経過しても効果が不十分であれば、別の抗うつ薬に切り替えて再度、最大用量まで漸増していきます。それでも効果が不十分な場合には増強療法として抗精神病薬や、NaSSAのミルタザピン、気分安定薬の炭酸リチウム(保険適用外)の併用を検討します。それでも難しい場合は後述のニューロモデュレーションという手段を検討します(図)。

図 薬物療法の治療アルゴリズム

薬物療法の治療アルゴリズムの画像
稲田氏の話を元に作成

うつ病の増強療法として保険適用がある抗精神病薬は、アリピプラゾールとブレクスピプラゾールですが、オランザピン(保険適用外)やクエチアピン(保険適用外)も増強療法に多く用いられています。オランザピンやクエチアピンは鎮静効果が強いという特徴があるため、不安や焦燥感、不眠が強い症例には非常に有効です。また、以前は四環系抗うつ薬であるミアンセリンが、やはり鎮静効果が強いことから併用薬として用いられていましたが、今は抗うつ薬を併用する場合には、第2世代抗うつ薬の中で鎮静効果が強いミルタザピンの併用が行われることが多くなっています。
古くから増強療法に用いられてきた炭酸リチウムも効果は高いものの、治療濃度が中毒濃度と近接しているため、副作用の出現に注意が必要であり、定期的な血中濃度測定が必要となります。

ニューロモデュレーション治療
電気や磁気で脳の神経を刺激

増強治療を行っても改善が見られない場合には、次の手段として電気や磁気などによって脳の神経を刺激して働きを調整する「ニューロモデレーション治療」が行われることがあります。
ニューロモデュレーション治療には、「反復性経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)」と「修正電気けいれん療法(mECT)」があります。mECTの効果は高く、重症で入

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