
2025年に日本の高血圧管理・治療ガイドラインが改訂され、新たな降圧薬の登場や高齢化の進展などの背景を踏まえた新たな血圧管理指針が示されました1)。一方で、高血圧は脳心血管病や腎臓病、認知症の発症リスクを高める疾患であるにもかかわらず、日本における血圧コントロール状況は主要経済国の中でも最低レベルにあります1, 2)。
今回は、改訂された高血圧管理・治療ガイドライン20251)に基づき、薬剤師が押さえておきたい血圧管理のポイントや血圧コントロール状況の改善に向けた薬局や薬剤師の役割などについて、横浜市立大学附属 市民総合医療センター 腎臓・高血圧内科 部長の平和伸仁氏に解説してもらいました。
高血圧有病者の70%以上がいまだコントロール不良
高血圧は日本で最も有病率の高い疾患の1つであり、現在、患者数は約4,300万人に達すると推計されています3)。しかしながら、そのうち治療により血圧が十分にコントロールされているのは全体の約3割にとどまっており、残りの7割の内訳は、治療中であるもののコントロール不良が29%、高血圧の自覚はあるが未治療が11%、そして高血圧の自覚がない者が33%を占めています3)。
こうした血圧コントロール不良の状況は、高血圧治療が目指す「脳心血管イベントの抑制」が十分に達成されていないことを意味します。日本高血圧学会は2025年に「早朝高血圧徹底制圧宣言」を発表し4)、社会全体での早朝高血圧の予防と改善に向けた活動を進めています。その一環として、高血圧の認知度向上を目指した「血圧朝活キャンペーン」、具体的な行動の指針となる「高血圧の10のファクト~国民の皆さんへ~」や「血圧を適切に保つための10のヒント」といった啓発活動も展開されています5, 6)。さらに、公共施設や職場、スポーツジムなどの医療機関以外の場で血圧を自己測定する「キオスク血圧測定」を推進し、潜在患者さんが高血圧に気づく機会の拡大にも力を入れてきました7)。
ガイドライン改訂のポイント
血圧を下げる行動の実践を重視
こうした状況を踏まえ改訂された高血圧管理・治療ガイドライン20251)は、知識中心の内容であった高血圧ガイドライン20198)から、より血圧を下げる行動の「実践」につなげることを重視した内容へと刷新されました。今回、ガイドラインのタイトルが『高血圧治療ガイドライン』から『高血圧管理・治療ガイドライン』へと変更された背景には、「高血圧という病気に至る前から生活習慣を管理することの重要性を強調したい」という意図も込められています。
生活習慣改善のポイント❶カリウム摂取
今回のガイドライン改訂では、近年のエビデンスを踏まえ、生活習慣改善に関していくつかの推奨が見直されました。その1つが、カリウムを多く含む食品の積極的な摂取であり、従来よりも強調された内容になっています。
カリウムの摂取は、ナトリウム利尿作用、血管拡張作用、交感神経活動の抑制などを介して血圧を低下させ(図1)、脳心血管イベントリスク低減にも寄与することが示されています9)。
平和氏の話をもとに作成
一方、日本人成人の平均カリウム摂取量は約2,200mg/日と10)、厚生労働省が示す生活習慣病予防のための目標量(男性3,000mg/日以上、女性2,600mg/日以上)を下回っています11)。CKD患者など、一部の疾患ではカリウム摂取量に制限があるため個別の対応が必要であるものの、野菜や果物、低脂肪牛乳や乳製品などから日常的にカリウム摂取量を増やすことが望まれます(表1)。
生活習慣改善のポイント❷運動
高血圧治療における運動療法については、近年、有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング、12)を組み合わせることの有用性が示されました13,14)。従来の高血圧治療ガイドラインでは、運動療法として軽強度の有酸素運動が推奨されていましたが、今回の改訂では新たなエビデンスを踏まえ、推奨が「軽~中等度強度の有酸素持久力運動を毎日30分以上実施、低強度のレジスタンス運動(筋力トレーニング)も実施可」へと見直されています(表1)。
| カリウムの積極的摂取 | 運動療法(有酸素運動+レジスタンス運動) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 方針 |
野菜、果物、低脂肪牛乳、乳製品などから摂取量を増やす |
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| 注意点 |
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平和氏の話をもとに作成
定期的な運動は持続的な降圧効果をもたらすだけでなく、高齢者におけるフレイルを予防する観点からも重要です。フレイルが進行すると日常生活動作(ADL)の低下を招き、結果として血圧管理への取り組みも難しくなる悪循環へとつながります。有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせて筋力を維持することは、血圧管理とフレイル予防の双方に働きかけ、健康寿命の延伸にも寄与する重要な生活習慣です。
降圧目標は75歳以上も含め「130/80mmHg未満」へ統一
今回のガイドライン改訂における治療に関する重要な変更点の1つは、患者背景によらず降圧目標を「診察室血圧130/80mmHg未満(家庭血圧125/75mmHg未満)」に統一したことです。
従来の高血圧治療ガイドラインでは、75歳以上の高齢者や、両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価の脳血管障害患者、蛋白尿陰性のCKD患者の治療目標が140/90mmHg未満(家庭血圧135/85mmHg未満)に設定されていました。しかし、これらの患者群においても130/80mmHg未満を目指すことの利益が不利益を上回ることを示すエビデンスが蓄積してきたことから、今回の改訂では降圧目標が統一されました。
ただし、「130/80mmHg未満」はあくまで基本となる目標値であり、たとえば脳卒中の既往があり頸動脈重度狭窄を伴う症例などではリスクに応じた目標設定が行われます。また、降圧治療を進める際には、症候性低血圧や電解質異常などの有害事象に十分な注意が必要で、年齢にかかわらず個人差を考慮し、安全に治療を継続できる範囲で個別に治療目標を設定することが求められます。特に、高齢者や腎疾患・糖尿病などの合併症がある患者さんでは、過度の降圧による転倒、めまい、倦怠感などの副作用のリスクに配慮し、個々の体力や併存疾患の状態に応じて、現実的で安全な降圧目標を設定することが重要です。
特に75歳以上では、健康・機能状態が降圧療法のリスク・ベネフィットに及ぼす影響を鑑みて、降圧目標が4つに分類されます。自力で外来通院が可能なADLが保たれた患者の降圧目標は130/80mmHg未満ですが、ADLが低下している患者ではその限りではありません(表2)。カテゴリー2と3では、収縮期血圧<120mmHgで降圧薬の減量を考慮することが示されているのです。後期高齢者における降圧目標の違いは今回のガイドラインのポイントのひとつとして把握しておくと良いでしょう。
| ❶自力で外来通院が可能 | <130/80mmHg |
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❷外来通院に要介助など のADL低下 |
<140mmHg (合併症などにより<130mmHgとすることを個別判断) |
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❸外来通院困難など 基本的ADL低下 |
<150mmHg (合併症などによるそれ以上の降圧要否を個別判断。収縮期血圧<120mmHgへの降圧は回避) |
| ❹エンド・オブ・ライフ |
個別判断 (目安は収縮期血圧140~160mmHg) |
高血圧管理・治療ガイドライン2025、平和氏の話をもとに作成
薬物治療開始のタイミング
早期介入をより徹底
高血圧診断後に薬物治療を開始するタイミングについて、今回の改訂で基準がより明確になりました。高リスクの高値血圧※1および低~中等リスクの高血圧※2では、生活習慣改善の指導後1カ月以内に再評価を行い、十分な降圧がなければ薬物療法を開始することが示されました。これは、治療が不十分なまま高血圧が持続し、動脈硬化や臓器障害が進行してしまう期間を極力短くすることの重要性を反映したものです。従来ガイドラインでは「おおむね1か月後をめどに再評価」とされていましたが、今回の改訂では、より明確に早期介入を徹底することを強調する内容になっています。
- 高リスクの高値血圧:診察時血圧が130~139/80~89mmHgで、脳心血管病既往、心房細動、糖尿病、蛋白尿のあるCKDのいずれか、または65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙のうち3つ以上が該当する場合。
- 低~中等リスクの高血圧:診察時血圧が140~159/90~99mmHgで、予後規定因子がない(低リスク)もしくは65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙のいずれかが該当する場合(中等リスク)、および診察時血圧が160~179/100~109mmHgで予後規定因子がない(中等リスク)が該当する場合。
降圧薬をエビデンスなどに基づき3グループに再編
降圧薬については、各薬剤のエビデンスや臨床での位置付けに基づき、新たに3つのグループに分類されました。今回の改訂では「第一選択薬」という表記は廃止され、患者個々の病態を踏まえて薬剤を選択するという薬物治療の方向性が示されています。
グループ1(G1降圧薬)は、単剤で脳心血管病抑制効果のエビデンスを有し、薬物治療の中心を担う薬剤群です。ここには長時間作用型ジヒドロピリジン系カルシウム(Ca)拮抗薬、レニン-アンジオテンシン(RA)系阻害薬(ARB、ACE阻害薬)、少量のサイアザイド系利尿薬、β遮断薬が含まれます。
日本ではCa拮抗薬やRA系阻害薬の処方割合が高い一方で、少量のサイアザイド系利尿薬やβ遮断薬は、本来投与すべき積極的適応や病態での使用率が低いことが指摘されています。このため、これらは早期からの積極的な投与を推奨するG1b降圧薬として強調されました。日本人の塩分摂取量の多さや医療経済を考慮すると、体液貯留傾向のある患者さんにサイアザイド系利尿薬を用いることは理にかなった選択と言えます。また、β遮断薬は左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)や心筋梗塞既往例など心疾患合併例に対して積極的適応となり、高齢化が進展し心疾患合併例が増える中においては、依然として重要度の高い薬剤です。
一方、グループ2(G2降圧薬)は、高血圧患者のみを対象としたエビデンスが十分ではないものの、臨床的有用性が高く、降圧治療において重要な役割を担う薬剤群で、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)およびミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬が該当します。このうちARNIは、心不全で確立されたエビデンスを有し、強力な降圧作用とナトリウム排泄作用から、近年、使用頻度が増えている薬剤です。その作用機序から、ARBや利尿薬で効果不十分な場合にARNIへと切替えられるシーンが多いと思います。
グループ3の降圧薬(G3降圧薬)はα遮断薬、ヒドララジン、中枢性交感神経抑制薬などが含まれます。これらは治療抵抗性高血圧や特殊な病態に応じて選択される薬剤で、臨床での使用頻度は比較的限られています(表3)。
| 基 本 | ||||
|---|---|---|---|---|
G1降圧薬
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| 病態に応じて併用 |
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G2降圧薬
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| 特殊な病態で使用 |
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G3降圧薬
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平和氏の話をもとに作成
降圧目標未達成の場合は早期に併用治療へステップアップ
降圧目標未達成の場合の薬物治療の強化のしかたについては、そのプロセスを3つのSTEPで示すかたちに整理されました。まずSTEP 1では、G1降圧薬のいずれかを選択し、単剤で治療を開始します。しかしながら、単剤のみで降圧目標に到達できる割合は4割に満たないとされており15)、多くの場合は早期に治療の強化が必要で、降圧が不十分な場合には、