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特集

男性の排尿障害「尿が漏れる、出にくい」にどう向き合うか

2026年2月号
男性の排尿障害「尿が漏れる、出にくい」にどう向き合うかの画像

頻尿や尿漏れ、残尿感といった下部尿路症状は、加齢に伴い増加することが知られており1)、高齢化が進む昨今では、QOLを損なう大きな要因となっています。特に男性では、前立腺肥大症などの前立腺疾患によって膀胱出口が圧迫され排尿障害を生じることも多く、こうした病態や治療法の特徴を踏まえたかかわりが求められます。
そこで今回は、男性の排尿障害の特徴や原因、病態、治療法の概要に加え、本疾患の早期発見や治療継続において薬剤師が注意すべき点、患者とのコミュニケーションの工夫などについて、名古屋大学大学院医学系研究科 泌尿器科学教室 准教授 松川宜久氏にご解説いただきました。

中高年男性の半数以上は排尿に関する諸症状を自覚

排尿に関する諸症状(下部尿路症状、lower urinary tract symptoms:LUTS)は、加齢とともに増加することが知られており1)、中高年になると「トイレが近くなった」「残尿感がある」「尿を漏らしてしまう」といった悩みを抱えることも少なくありません。特に男性では、蓄尿機能の低下により生じる頻尿に加えて、前立腺肥大症などの前立腺疾患によって膀胱出口が圧迫されることで、尿の出にくさや残尿感を自覚することも多く、性差を踏まえた対応が求められます。
実際、2023年に日本排尿機能学会が実施した日本の疫学調査(20~99歳の男女、6,120例)では、40歳以上の男性(2,293例)の85%がLUTSを自覚しており、加齢とともに増加する傾向が示されています2)。たとえば、夜間頻尿(1回以上)は40代の55%から80代では93%に達し、昼間頻尿(8回以上)や尿勢低下は70代までに50%を超え、70~80代になると残尿感、尿意切迫感、切迫性尿失禁も3割程度に認められており2)、程度の差はあるものの、多くの中高年男性が排尿に関する悩みを抱えていると考えられます。
このうち夜間頻尿については、高血圧などに起因する夜間多尿や睡眠障害など、排尿障害以外の要因が関与することも多く、一概に排尿障害が原因とは言えません。しかしながら、中高年男性の多くが昼間頻尿をはじめとするLUTSを自覚しているという事実は、今後さらなる高齢化の進展が予想される日本において、早期介入やQOLの維持に向けた支援の必要性が高い領域であることを示しています。

蓄尿・排尿機能に関わる筋肉・神経のはたらき

排尿障害やLUTSの原因は多岐にわたることから、その理解には下部尿路機能の基本的な理解が不可欠です。
下部尿路機能は、膀胱および尿道周囲の筋肉と、それらを制御する神経系が協調して機能することにより維持されています。その機能は、尿を膀胱内に貯留する蓄尿機能と、膀胱内に溜まった尿を随意的に排出する排尿機能の2つに大別されます。蓄尿期には、膀胱平滑筋である排尿筋が弛緩して伸展し、同時に内外の尿道括約筋が収縮することで尿道が閉鎖され、尿が膀胱内に保持されます。一方、排尿期には、排尿筋が収縮するとともに内外の尿道括約筋が弛緩し、尿道から尿が排出されます。
これら排尿にかかわる筋肉は、中枢神経・末梢神経が協調的にはたらくことにより制御されています。中枢神経のうち大脳は蓄尿・排尿の意思決定を行い、延髄の橋という部位にある排尿中枢は、排尿筋と尿道括約筋の協調運動を司ります。さらに、脊髄には下位の排尿中枢である仙髄排尿中枢が存在し、蓄尿・排尿反射の経路として重要な役割を果たしています。
なお、排尿機能に関わる筋肉は、蓄尿期には末梢神経である交感神経(下腹神経:排尿筋の弛緩および尿道平滑筋の収縮)および体性神経(陰部神経:外尿道括約筋の収縮)によって制御され、排尿期には副交感神経(骨盤神経:排尿筋の収縮および尿道括約筋の弛緩)が優位となります(図1)。

図1 男性の下部尿路の構造と中枢神経との関係

男性の下部尿路の構造と中枢神経との関係の画像
松川氏の話をもとに作成

排尿障害の原因は前立腺や膀胱の異常、神経系の併存症や治療薬なども

排尿障害の原因は多岐にわたり、膀胱や尿道の器質的・機能的異常、あるいは前立腺肥大症などによる尿道の通過障害に加え、排尿の制御に関わる中枢・末梢神経系に影響を及ぼす神経疾患などの併存症が関与する場合もあります(表1)。

表1 排尿障害の主な原因
男性に特有の疾患 前立腺肥大症、前立腺炎、前立腺癌
膀胱の疾患・病態 膀胱炎、間質性膀胱炎、膀胱癌、
膀胱結石、膀胱憩室、過活動膀胱、
低活動膀胱など
尿道の疾患 膀胱炎、尿道狭窄、尿道憩室
神経系の
疾患・病態
(神経因性膀胱)
脳血管障害、認知症、
パーキンソン病など
脊髄 脊髄損傷、脊髄腫瘍、
脊椎変性疾患(脊椎管狭窄症、
椎間板ヘルニア)など
末梢神経 糖尿病など
その他 薬剤性、心因性など

松川氏の話をもとに作成

また、超高齢化社会においては多剤併用の状態にある患者さんも多く、服用中の薬剤が排尿症状に影響していないかを確認する視点が求められます。なかでも、抗コリン作用を有する薬剤は、排尿筋のムスカリン受容体を遮断することにより排尿筋収縮を抑制するため、尿閉や排尿困難といった排尿障害を惹起することがあります。
抗コリン作用を有する成分は、抗精神病薬や抗うつ薬などの医療用医薬品に限らず、抗ヒスタミン剤など一般用医薬品にも多く含まれており(表2)、薬剤師による併用薬の確認は、排尿障害の原因を探るうえで重要な役割を担っています。日本老年薬学会からは、服用薬の抗コリン作用によるリスクの強さや総抗コリン薬負荷を評価する指標として「日本版抗コリン薬リスクスケール」が示されており3)、薬剤起因性の排尿障害を考慮する際の有用なツールの一つといえるでしょう。

表2 抗コリン作用に注意が必要な薬剤の一例(頻尿・過活動膀胱治療薬を除く)
抗てんかん薬 カルバマゼピン
パーキンソン病治療薬 アマンタジン、トリヘキシフェニジル、ビペリデン
抗精神病薬 クロルプロマジン、プロクロルペラジン、プロペリシアジン、フルフェナジン、ペルフェナジン、レボメプロマジン、クロザピン、オランザピン、クエチアピン、ゾテピン
抗うつ薬 パロキセチン、アミトリプチリン、アモキサピン、イミプラミン、クロミプラミン、トリミプラミン、ノルトリプチリン、ドスレピン、ロフェプラミン、セチプチリン、マプロチリン、ミアンセリン
筋弛緩薬 チザニジン、エペリゾン、クロルゾキサゾン○、バクロフェン
制吐薬・鎮暈薬 ジフェニドール、ジメンヒドリナート、スコポラミン○
抗不整脈薬 ジソピラミド
鎮咳薬 クロペラスチン
気管支喘息治療薬 テオフィリン◎
消化管疾患治療薬 アトロピン、チキジウム◎、ブチルスコポラミン◎、プロパンテリン、シメチジン、ジサイクロミン◎
アレルギー疾患治療薬 カルビノキサミン○、クレマスチン◎、クロルフェニラミン◎、ジフェニルピラリン○、ジフェンヒドラミン◎、シプロヘプタジン、ヒドロキシジン、フェニラミン○、プロメタジン◎、アリメマジン◎、メキタジン◎、セチリジン◎
抗コリン薬 ベラドンナ○
麻薬・麻薬類似薬 メサドン、トラマドール

日本版抗コリン薬リスクスケールで抗コリン作用によるリスクの強さが3段階中の上位(スコア3、スコア2)の薬剤を抽出。薬剤名の後の○は一般用医薬品のみ、◎は一般用医薬品・医療用医薬品に含まれる。

日本版抗コリン薬リスクスケールをもとに作成

前立腺肥大症による排尿障害には機械的閉塞と機能的閉塞が関与

男性の排尿障害を考えるうえで重要な原因疾患の一つが前立腺肥大症です。前立腺肥大では主に「機械的閉塞」と「機能的閉塞」の2つの機序によって排尿障害を生じます。機械的閉塞とは、前立腺そのものが肥大し、物理的に尿道を圧迫することにより生じる閉塞です。機能的閉塞は、前立腺平滑筋に存在するα₁受容体の機能が亢進し、その結果、筋緊張が高まることで尿道が締め付けられ、閉塞が生じる状態を指します。前立腺肥大症では、これら双方の機序により膀胱からの尿の排出が抑制されて排尿障害を生じます。

排尿障害の持続は膀胱の機能低下を招く

前立腺肥大症に伴う排尿障害では、適切な治療が行われない場合、時間の経過とともに膀胱機能が低下していく点にも注意が必要です(表3)。具体的には、前立腺肥大症の第1期(膀胱刺激期)では、肥大した前立腺によって尿が出にくくなっても、膀胱の排尿筋が代償的に収縮して尿を押し出すため、排尿困難となることは少なく、その反面、徐々に膀胱壁が肥厚し、刺激に対して過敏に反応するようになります。そのため、この時期の患者さんは、尿の出にくさよりも頻尿や尿意切迫感といった蓄尿症状を先に自覚することが多いという特徴があります。
続いて第2期(残尿発生期)になると、膀胱が次第に疲弊し、排尿筋の収縮力が低下することで、排尿後に残尿を生じるようになります。さらに第3期(慢性尿閉期)へと進展すると、膀胱機能は限界に達し、膀胱内には常に多量の尿が貯留した状態となります。この段階では、排尿したいにもかかわらず自分の意思では十分に尿を排出できず、膀胱内に貯留した尿が少量ずつ漏れ出る「溢流性尿失禁」を伴うこともあります。この状態を放置すると、上部尿路への尿の逆流をきたし、腎機能低下や腎不全などの重篤な合併症を招くおそれがあります。

表3 前立腺肥大症に伴う排尿障害の進展
進行期 病態 主な症状
第1期
(膀胱刺激期)
前立腺の肥大に伴い、尿道、膀胱が刺激される 頻尿、下腹部の不快感、尿意切迫感、軽度の排尿困難など
第2期
(残尿発生期)
膀胱機能の低下、前立腺肥大の進行により排尿困難となり残尿が発生 頻尿の悪化、残尿感や排尿困難感、尿路感染症の増加
飲酒や抗コリン作用のある薬剤の服用で尿閉が起こることもある
第3期
(慢性尿閉期)
慢性的な尿閉による残尿の増加、水腎症などによる腎機能低下 尿意の低下、排尿困難、溢流性尿失禁など

松川氏の話をもとに作成

過活動膀胱は尿意切迫感を必須症状とする症状症候群

排尿障害の要因として、前立腺肥大とともに注意が必要な疾患が過活動膀胱です。過活動膀胱は、尿意切迫感を必須症状とし、頻尿や夜間頻尿を伴う症状症候群として診断されます。その原因としては、脳血管障害や脊椎損傷など排尿の制御に関わる神経の障害のほか、加齢や生活習慣病に伴い生じた血管内皮機能障害や自律神経系の過剰な亢進により膀胱血流の低下・虚血をきたし、その結果、膀胱の知覚過敏が惹起されて発症することもあります。
また、男性の場合は前立腺肥大症に併存することも多く、この場合、排尿症状と蓄尿症状を伴うためQOLへの影響が大きくなります。特に尿意切迫感が強い場合には、日常生活が困難になるケースも認められます。

膀胱に不可逆的な変化が起こる前の治療介入

前立腺肥大による排尿障害が持続し、膀胱の機能が低下してしまうと、たとえ手術で前立腺を摘除し、尿道の閉塞を解除したとしても、症状が持続してしまうことが多いという問題があります。また、過活動膀胱についても、症状が持続すると、やがて膀胱の機能が過活動から低活動へ移行し、最終的には尿閉に至るリスクが高まります。そのため、排尿障害については、膀胱に不可逆的な変化が起こる前の早期の介入が欠かせません。
したがって、患者さんの頻尿などの訴えを「年を取ったらよくあること」と単なる老化へと結び付けてしまうのではなく、排尿障害を示唆するサインとして捉え、適切な検査・治療へとつなぐことが重要です。

LUTSに対する第一選択は行動療法

日本の診療ガイドラインでは、LUTSに対する治療として行動療法が第一選択として強く推奨されています4)。一方で、限られた診療時間や医療現場におけるマンパワー不足などを背景に、現在の日本の臨床現場では、治療の中心は薬物療法となっています。しかし、

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