
肺がんは死亡数の多いがんで、発見時にすでに進行期のケースもあります。その一方、特に非小細胞肺がんにおいては従来の抗がん剤のみならず、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬など多くの薬剤が臨床に登場し、治療方針の決定にあたっては遺伝子変異などバイオマーカー検査の実施も必須となってきています。今回、大阪国際がんセンター 呼吸器内科副部長の國政啓氏に、非小細胞肺がんの進行期における薬物療法の動向を中心にご解説いただきました。
- がんのなかで死亡数の多い肺がん 死亡数は男性で1位、女性で2位
- 生検での検体採取と組織診断がほぼ必須
- 薬物療法の中心は進行期 近年は早期や周術期にも検討
- Ⅳ期の非小細胞肺がんでは9つの遺伝子変異を検査する
- EGFR遺伝子変異陽性例では変異に応じた治療を選択
- ALK、ROS1、BRAF、MET、RETの変異には分子標的治療薬による一次治療
- NTRK、KRAS、HER2変異は二次治療以降で分子標的治療薬
- 皮疹、浮腫や中枢神経症状などにも留意する
- PD-L1の発現を評価し免疫チェックポイント阻害薬を検討
- 臓器横断的な免疫関連有害事象にはチームで対応
- irAEの対応ではステロイド、免疫抑制剤や生物学的製剤も使用
- 多くの新薬を届けるには医療従事者の連携が必要
がんのなかで死亡数の多い肺がん 死亡数は男性で1位、女性で2位
「がんの統計」では、2023年のがん死亡は38万2,504人で、肺がんは男性でがん死亡の1位(52,908人)、女性では大腸がんに次いでがん死亡の2位(22,854人)となっています1)。肺がんの危険因子のひとつは喫煙で、喫煙者が肺がんになるリスクは非喫煙者に比べ男性で4.4倍、女性で2.8倍ですが2)、非喫煙者が肺がんになることもあります。
肺がん検出の検査としては胸部X線検査が推奨されており、胸部X線検査で肺がんを疑う所見を認めた場合には胸部CT検査を行います。しかし、発見時にすでに進行期になっているケースも多く、肺がんによる死亡率の低下には胸部X線検査のみでは不十分です。肺がんは早期発見が重要であるものの、検診でのCT検査の実施については過剰診断の懸念や医療費などが課題となっています。
生検での検体採取と組織診断がほぼ必須
肺がんの確定診断においては、画像診断のみならず、病変部から採取した組織や細胞を用いた病理診断が必要です。病変が小さいI期やⅡ期など、手術後でなければ組織の採取が困難な早期がんを除けば、ある程度の大きさの組織を採取して治療開始前に確定診断を行います。検体を採取する生検には気管支鏡検査のほかCTガイド下や超音波ガイド下の生検もあり、生検が困難な場合には胸水から採取した細胞による細胞診を実施します。
肺がんは非小細胞肺がんと小細胞肺がんに大別され、それぞれの治療方針は大きく異なります。近年、非小細胞肺がんに対してはがん発生の直接的な原因となるようなドライバー遺伝子変異を標的とした多くの分子標的治療薬が使用可能で、治療方針の決定においてはドライバー遺伝子変異の検査が必須とされています。
薬物療法の中心は進行期 近年は早期や周術期にも検討
非小細胞肺がんの薬物療法の対象はこれまで進行期(Ⅳ期)が中心でしたが、現在はⅢ期で放射線療法と薬物療法を併用する化学放射線療法や、Ⅱ期での術後の根治率を高めるために術前に薬物療法を行うこともあり、薬物療法の範囲は拡大しています。
薬物療法の実施に際しては個々の患者の状態を総合的に判断し、高齢でも全身状態が良好であれば、近年登場した免疫チェックポイント阻害薬の使用なども含め、積極的な治療を考慮するケースもあります。
Ⅳ期の非小細胞肺がんでは9つの遺伝子変異を検査する
進行期(Ⅳ期)の非小細胞肺がんに対する薬物療法では、治療方針を決定するため9つのドライバー遺伝子変異(EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET、NTRK、KRAS、HER2)を検査します(表1)。複数の遺伝子を同時に検査するマルチコンパニオン診断薬(CDx)として、次世代シークエンス解析(NGS)法によるオンコマインDxTT、肺がんコンパクトパネル、MINtS、リアルタイムPCR法を用いたAmoyDxの4つが保険収載されています(2025年12月時点)3)。
ドライバー遺伝子変異のなかで最も多いのはEGFR遺伝子変異で、その他の変異は低頻度です。日本において非小細胞肺がんのうち腺癌では、EGFR遺伝子変異53.0%、ALK融合遺伝子変異3.8%、MET融合遺伝子(エクソン14スキッピング)変異2.8%、HER2遺伝子変異1.9%、RET融合遺伝子変異1.9%、ROS1融合遺伝子変異0.9%、BRAF遺伝子変異0.3%との報告もあります4)。
9つのうち6つのドライバー遺伝子変異(EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET)については、遺伝子変異に対応した分子標的治療薬が一次治療から使用可能です。なお、ドライバー遺伝子変異が陰性だった場合にはPD-L1検査を行い、免疫チェックポイント阻害薬の使用を考慮します(表1)。
| ドライバー遺伝子変異 |
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| PD-L1発現 |
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國政氏の話、「肺癌診療ガイドライン2025年版(Web版)」、「肺癌患者におけるバイオマーカー検査の手引き
(2026年1月改訂 v2.1.7)」をもとに作成
EGFR遺伝子変異陽性例では変異に応じた治療を選択
9つのドライバー遺伝子変異で頻度の高いEGFR遺伝子変異としては、エクソン19欠失またはエクソン21のL858R変異が約90%を占めます。このほか、エクソン18-21にわたる遺伝子変異の頻度は低いためにuncommon mutationといわれます。
EGFR遺伝子変異に対する一次治療では遺伝子変異別に、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)、二重特異性抗体(アミバンタマブ)、血管新生阻害薬、抗がん剤(プラチナ製剤、ペメトレキセド)による治療レジメンが肺癌診療ガイドライン2025(Web版)に記載されています(表2、表3)
| EGFR遺伝子変異陽性 |
【エクソン19欠失またはL858R変異陽性】 (PS 0~1、強く推奨) ラゼルチニブ+アミバンタマブ 、 オシメルチニブ+プラチナ製剤+ペメトレキセド 、 オシメルチニブ |
| エルロチニブ+血管新生阻害薬(PS 0~1、弱く推奨) 、 EGFR-TKI(PS 2~4、強く推奨) | |
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【エクソン18-21変異(エクソン19欠失・L858R変異・エクソン20挿入変異を除く)】 アファチニブ(強く推奨) 、 オシメルチニブ(弱く推奨) |
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| 【エクソン20挿入変異】 カルボプラチン+ペメトレキセド+アミバンタマブ(強く推奨) | |
| ALK融合遺伝子陽性 |
ALK-TKI単剤療法: アレクチニブ(強く推奨)、ロルラチニブ(PS 0~1、強く推奨)、ブリグチニブ(PS 0~1、弱く推奨) |
| ROS1融合遺伝子陽性 |
ROS1-TKI単剤療法(強く推奨): クリゾチニブ、エヌトレクチニブ、レポトレクチニブ、タレトレクチニブのいずれか |
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BRAF遺伝子 V600E変異陽性 |
ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法(強く推奨) |
| MET遺伝子変異陽性 | MET-TKI単剤療法(強く推奨):テポチニブ、カプマチニブ、グマロンチニブのいずれか |
| RET融合遺伝子陽性 | セルペルカチニブ単剤療法(強く推奨) |
| NTRK融合遺伝子陽性* | 二次治療以降でTRK-TKI単剤療法(強く推奨):エヌトレクチニブ、ラロトレクチニブのいずれか |
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KRAS遺伝子 G12C変異陽性* |
二次治療以降でソトラシブ単剤療法(強く推奨) |
| HER2遺伝子変異* | 二次治療以降でトラスツズマブ デルクステカン単剤療法(強く推奨) 、 ゾンゲルチニブ単剤療法(強く推奨) |
*一次治療はドライバー遺伝子変異/転座陰性例の初回治療に準ずる
「肺癌診療ガイドライン2025年版(Web版)」をもとに作成
| EGFR-TKI |
ラゼルチニブ(ラズクルーズ®)、オシメルチニブ(タグリッソ®)、アファチニブ(ジオトリフ®) エルロチニブ(タルセバ®)、ゲフィチニブ(イレッサ®) |
| 二重特異性抗体 | アミバンタマブ(ライブリバント®)、アミバンタマブ・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(リブロファズ®) |
| 血管新生阻害薬 | ベバシズマブ(アバスチン®)、ラムシルマブ(サイラムザ®) |
| ALK阻害薬 |
アレクチニブ(アレセンサ®)、ロルラチニブ(ローブレナ®)、ブリグチニブ(アルンブリグ®) セリチニブ(ジカディア®)、クリゾチニブ(ザーコリ®、ALK/ROS1阻害薬) |
| ROS1阻害薬 | タレトレクチニブ(イブトロジー®)、クリゾチニブ(ザーコリ®、ALK/ROS1阻害薬)、エヌトレクチニブ(ロズリートレク®、ROS1/TRK阻害薬)、レポトレクチニブ(オータイロ®、ROS1/TRK阻害薬) |
| BRAF阻害薬 | ダブラフェニブ(タフィンラー®) |
| MEK阻害薬 | トラメチニブ(メキニスト®) |
| MET阻害薬 | テポチニブ(テプミトコ®)、カプマチニブ(タブレクタ®)、グマロンチニブ(ハイイータン®) |
| RET阻害薬 | セルペルカチニブ(レットヴィモ®) |
| TRK阻害薬 | ラロトレクチニブ(ヴァイトラックビ®)、エヌトレクチニブ(ロズリートレク®、ROS1/TRK阻害薬) |
| KRAS阻害薬 | ソトラシブ(ルマケラス®) |
| HER2阻害薬 | トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ®)、ゾンゲルチニブ(ヘルネクシオス®) |
「肺癌診療ガイドライン2025年版(Web版)」、製品添付文書をもとに作成
2025年の診療ガイドラインの改訂では、ラゼルチニブ+アミバンタマブ併用療法とオシメルチニブ+プラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法が一次治療の選択肢として追加されました。これらのレジメンはEGFR-TKI単剤療法に比べ生存期間の延長を認めている一方で副作用に関する懸念もあり、全身状態が良好な患者において考慮します。なお、現在使用可能な治療レジメンからどのレジメンを選択するかは臨床的な課題となっています。
EGFR-TKI
EGFR遺伝子変異陽性例に対するEGFR-TKIには、第一世代のゲフィチニブ、エルロチニブ、第二世代のアファチニブ、第三世代のオシメルチニブ、ラゼルチニブがあります。EGFR-TKIでは皮疹、爪囲炎、下痢などの発現が多く、また重篤な副作用として間質性肺疾患(Interstitial Lung Disease:ILD)に注意が必要です。
二重特異性抗体
二重特異性抗体アミバンタマブはEGFRとMETの両方を阻害するため、皮疹が強く発現することがあります。ラゼルチニブ+アミバンタマブ併用療法特有の有害事象として、インフュージョンリアクション、末梢性浮腫などが認められています。また、深部静脈血栓症および肺塞栓症を含む静脈血栓塞栓症に注意が必要です。
血管新生阻害薬
抗VEGF抗体のベバシズマブはエルロチニブとの併用でGrade 3以上の高血圧、蛋白尿、出血性事象などが認められています。抗VEGFR抗体のラムシルマブはエルロチニブとの併用でGrade 3以上の高血圧や下痢、ざ瘡様皮疹が認められています。
ALK、ROS1、BRAF、MET、RETの変異には分子標的治療薬による一次治療
EGFR遺伝子変異以外の頻度の低いドライバー遺伝子変異のうち、ALK、ROS1、BRAF、MET、RETについては、一次治療においてドライバー遺伝子変異に対する分子標的治療薬が使用可能です。患者数が少ないため薬剤同士を比較する第Ⅲ相試験の実施が困難で、主に単群の第Ⅱ相試験にもとづいて承認されています。実臨床においては、第Ⅱ相試験での有効性や特徴的な副作用、錠剤の大きさや服薬回数なども考慮して治療を決定します。
ALK融合遺伝子陽性
ALK融合遺伝子陽性例では、一次治療のALK-TKIとしてPS 0~1ではアレクチニブ単剤、ロルラチニブ単剤が強く推奨されており、PS 2~4ではアレクチニブ単剤が強く推奨されています。アレクチニブ単剤療法では味覚障害、筋肉痛、皮疹のほか、間質性肺炎の発現に注意が必要です。ロルラチニブ単剤療法では特徴的な有害事象として認知機能障害があります。