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特集

蕁麻疹は治癒を目指す

2026年6月号
蕁麻疹は治癒を目指すの画像

蕁麻疹は多くの人が経験し、Quality of Life(QoL)の低下に直結するにもかかわらず、短時間で消褪する特徴や症状の個人差などから、その影響が過小評価されやすい疾患です。一方で、近年は病態解明の進展を背景に新規治療薬が登場し、多くの患者さんが最終的に治癒へと至ることができるようになりました。しかしながら治療を中断してしまうケースも少なくなく、治療継続に向けては薬剤師による支援の役割が大きくなっています。
そこで今回は、蕁麻疹を取り巻く環境や臨床上の課題を整理するとともに、2026年4月に改訂された蕁麻疹診療ガイドライン1)を踏まえ、治療戦略の概要、治療継続に向けた服薬支援の要点などについて、日本大学医学部皮膚科学系皮膚科学分野 准教授 葉山惟⼤氏にご解説いただきました。

蕁麻疹症状によるQoLへの影響の甚大さ 社会的なインパクトも大きい

蕁麻疹の生涯罹患率は世界人口の約20%に達するとされ2)、非常に身近な疾患です。その一方で、日本のレセプトデータに基づく調査では有病率は1.2〜1.6%と報告されており3)、症状が短時間で消失することなどを背景に、病院を受診せずOTC薬の抗ヒスタミン薬(一部は蕁麻疹適応外)で対処している患者さんも多いと推測されます。
蕁麻疹は「命にかかわらない」「一過性のもの」と軽視されがちですが、患者さんの実際の苦痛は深刻です。蕁麻疹による労働生産性の低下は平均で約3割に及ぶとの調査結果もあり、これはアトピー性皮膚炎や乾癬と同等か、それ以上の社会的インパクトに相当します4)

夜間を中心に強い痒みを伴う膨疹が発現

蕁麻疹は、なんらかの刺激によって真皮のマスト細胞が活性化され、脱顆粒によりヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されることで生じる疾患です。強い痒みを伴う膨疹や紅斑が特徴で、一部の病型を除いては24時間以内に消褪します。
また、夜になると症状が悪化すると訴える蕁麻疹患者さんは多いのですが、これは決して気のせいではありません。蕁麻疹の原因となるマスト細胞にはサーカディアンリズム(体内時計)があり、夕方から夜間、午後6時〜午前2時ごろにかけては活性が高まる特性があるため、夜間に症状が現れやすいのです。夜間の痒みに伴う睡眠障害は日常生活への影響が大きく、学業や仕事で重大なミスを犯すといった社会的損失につながってしまうケースも少なくありません。一方で、日中にも蕁麻疹の症状が認められる場合は、マスト細胞が常時暴走している状態を意味するため、重症のサインとして捉える必要があります。

多くは特定の誘因がない特発性蕁麻疹 近年は病態解明も進む

蕁麻疹の原因はさまざまであり、日光や汗などの刺激、食物アレルギーなど直接的な原因が明らかなものがある一方、約7割は特定の外部刺激なく自発的に現れる特発性蕁麻疹です。特発性蕁麻疹は、発症後6週間以内に軽快する急性特発性蕁麻疹と、6週間を超えて持続する慢性特発性蕁麻疹に分けられます(表1)。

表1 蕁麻疹の主な直接的誘因
外来抗原 食物・薬剤・虫刺されなどの外来抗原によるIgE介在性の即時型アレルギー反応
物理的刺激 機械的擦過、寒冷、温熱、日光、水との接触など
発汗刺激 運動・入浴・辛味食品の摂取などに伴う発汗(コリン性蕁麻疹)
食物 食物抗原(IgE介在性)、食品中ヒスタミン、仮性アレルゲン(豚肉、タケノコ、もち、香辛料など)、
食品添加物(防腐剤・人工色素)など
薬剤 造影剤、NSAIDsなど
原因不明
特発性(全体の約7割)
急性特発性蕁麻疹(発症後6週間以内に軽快)
慢性特発性蕁麻疹(発症後6週間を超えて持続)
葉山氏の話をもとに作成

また、蕁麻疹の発症や悪化にかかわる背景因子として、特定抗原への感作による閾値低下のほか、アニサキスやCOVID-19などの感染症、ヒスタミン含有食物や仮性アレルゲンなどの食物、NSAIDsやACE阻害薬などの薬剤、自己免疫疾患などの基礎疾患が関与することも知られ(表2)、身近な例では花粉と特定の食品の交差反応なども挙げられます(表3)。ただし、はっきりと原因が分かるアレルギー性の蕁麻疹は1%もありません。

表2 蕁麻疹の発症や悪化にかかわる主な背景因子
感作
(特異的IgE)
特定抗原への感作による閾値低下
感染 ヘリコバクター・ピロリ菌、
アニサキス、C型肝炎ウイルス、
COVID-19など
疲労・ストレス 精神的・身体的疲労、心理的ストレス
食物 ヒスタミン・仮性アレルゲン・食品添加物など
薬剤 アスピリン・NSAIDs、ACE阻害薬など
基礎疾患 膠原病、自己免疫疾患など
葉山氏の話をもとに作成
表3 花粉と交差反応を示す食品の例
花粉 交差反応が報告されている主な食物
スギ ナス科(トマト)
ヨモギ セリ科[セロリ、ニンジン、スパイス(クミン、コリアンダーなど)] ウルシ科(マンゴー)など
ブタクサ ウリ科(メロン、スイカ、キュウリなど)
バショウ科(バナナ) など
シラカンバなど
(カバノキ科)
バラ科(リンゴ、モモ、サクランボなど)
マメ科(大豆、ピーナッツなど)
マタタビ科(キウイフルーツ)
カバノキ科(ヘーゼルナッツ)など
カモガヤなど
(イネ科)
ウリ科(メロン、スイカ)
ナス科(トマト)
マタタビ科(キウイフルーツ)
ミカン科(オレンジ)
マメ科(ピーナッツ) など
葉山氏の話をもとに作成

加えて、蕁麻疹の発症・悪化は疲労やストレスの影響も受けやすく、これは神経ペプチドを介したマスト細胞への直接刺激などが関与していると考えられています。特に出産・子育て・仕事の両立などストレス負荷の大きな20〜40代女性での発症が多い傾向があり、治療を進めるうえでは、生活の見直しやストレスマネジメントへの配慮も求められます。
なお、長く原因不明とされてきた慢性特発性蕁麻疹ですが、近年は病態解明が進み、発症には自己の皮膚成分(自己抗原)に対してIgEが反応して生じる「自己アレルギー」(TypeⅠ機序)や、抗IgE自己抗体などが関与する「自己免疫疾患に近い病態」(TypeⅡb機序)など複数の経路により惹起されることが明らかとなっています1)

8年ぶりの蕁麻疹診療ガイドライン改訂

蕁麻疹の病態解明の進展や新薬の登場、また国際的な蕁麻疹治療ガイドライン改訂5)などの流れを受けて、2026年4月には8年ぶりに日本の蕁麻疹診療ガイドラインが改訂されました1)。今回の改訂では、病型分類の調整やマスト細胞の活性化経路に関する解説の追加、新薬を踏まえた治療アルゴリズムの変更などが行われています1)。また、Delphi法に従って推奨内容が評価されたことで、それぞれの推奨の強さが明確となり、実臨床においてより使いやすいガイドラインになりました1)

治療方針の決定・評価に不可欠な患者評価アウトカム尺度

蕁麻疹の多くは病院を受診する日中帯に症状が認められないことから、その治療方針の決定や評価においては、患者さんの自己評価がきわめて重要です。今回のガイドライン改訂では、治療導入の段階で新たに「重症度とコントロールを評価し、治療内容・目標・病態を患者と説明・共有する」というステップが明記されました1)。ここではベースラインの状態を蕁麻疹コントロールテスト(Urticaria Control Test;UCT)などの患者評価アウトカム尺度を用いて評価することが推奨されています1)
UCTは実臨床でも広く用いられている蕁麻疹の患者評価指標です6)。以下の4つの質問から成り、各質問は0〜4点の5段階で評価し、合計点(0〜16点)でコントロール状態を判定します。0点は症状が非常に強い・全くコントロールされていない状態、4点は症状が全くない・完全にコントロールされている状態に対応しています。

  1. この4週間に、蕁麻疹による症状(痒み、膨疹、腫れ)がどのくらいありましたか。
  2. この4週間に、蕁麻疹によってあなたの生活の質はどのくらい損なわれましたか。
  3. この4週間に、蕁麻疹の治療があなたの症状を抑えるのに十分でなかったことがどのくらいありましたか。
  4. 全体として、この4週間にあなたの蕁麻疹はどのくらい良い状態に保たれていましたか。

ガイドラインではUCTの点数を目安に治療目標が3段階で設けられており1)、第一目標は日常生活に支障がない状態(UCT 12点以上)、第二目標は治療により症状が現れない状態(UCT 16点)、そして最終目標は無治療で症状が現れない「治癒」の状態とされています(図1)。

図1 UCTに基づく蕁麻疹治療の流れ
UCTに基づく蕁麻疹治療の流れの画像
葉山氏の話をもとに作成

治療は刺激誘発型か特発性かにより大別される

蕁麻疹治療は、原因が「刺激誘発型」か「特発性」かによって方針が分かれます。刺激誘発型では原因物質や悪化因子の除去・回避が基本となりますが、特定の誘因がない特発性の蕁麻疹では抗ヒスタミン薬を中心とした継続的な薬物療法により病勢の沈静化を図ることが柱となります。最終目標は一部の病型を除いて治癒ですが、治癒に至るまでに4〜5年の治療を要するケースもあるため、治療内容や目標について医療者と患者さんが目線を合わせながら進めることが大切です。
 薬物治療が中心となる慢性特発性蕁麻疹については、ガイドラインでは3つのStepによる治療強化が示されています1)

Step1 抗ヒスタミン薬

最初に非鎮静性第二世代抗ヒスタミン薬を連用します(通常量から開始し、適宜、他剤への変更・2倍量までの増量または2種類の併用)。重症例や若年者など薬物代謝が速いと考えられるケースでは、早期から2倍量で投与する場合もありますが、国際ガイドラインでは最大4倍量までの増量が推奨されており5)、過度な心配は必要ありません。なお、Step 1の段階では、H2受容体拮抗薬・抗ロイコトリエン薬・トラネキサム酸を補助的治療薬として併用することも考慮できます。

Step2 生物学的製剤の追加

Step 1で十分なコントロールが得られない場合は、オマリズマブまたはデュピルマブを追加します。両剤はいずれもIgEにかかわる作用を有しますが、作用機序や適した患者背景が異なります(後述)。

Step3 シクロスポリンなどの追加

Step 2でコントロールが不十分な場合は、Step 1にシクロスポリンまたは試行的治療の併用を検討します。

急性増悪時 ステロイドの全身投与

急性増悪時には短期間のステロイド全身投与も選択肢となりますが、漫然とした投与を避けるために、ガイドラインではステロイドの使用は2週間以内にとどめること、効果的に症状が抑制できた場合は適宜減量して早期離脱を目指すことも明記されています1)

蕁麻疹にステロイド外用薬は効かない

蕁麻疹を市販薬で対処しようとする患者さんのなかには、ステロイド外用薬を使用しているケースも散見されます。しかしながら、蕁麻疹の炎症は真皮の深層で生じているため、皮膚表面に塗る外用薬では有効成分が患部に届かず、病勢を抑えることはできません。蕁麻疹に対するステロイド外用薬の位置づけについては、ガイドラインでも「蕁麻疹ではステロイド外用薬の使用は避ける」

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