
薬剤関連顎骨壊死は、ビスホスホネート製剤やデノスマブなどの薬剤により顎の骨に炎症や壊死が生じる病態で、患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼします。本邦では高齢化に伴う骨粗鬆症患者や癌患者の増加に伴いビスホスホネート製剤やデノスマブなどの使用が増加しており、薬剤関連顎骨壊死の発症リスクにさらされる患者さんも増加しています。そこで今回は、北海道大学大学院歯学研究院 口腔機能学分野 冠橋義歯・インプラント再生補綴学教室 教授の黒嶋伸一郎氏に薬剤関連顎骨壊死の病態や発症機序、治療の考え方に加え、予防・早期発見における薬剤師の役割についてお聞きしました。
MRONJは薬剤による顎骨の炎症
薬剤関連顎骨壊死(Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw:MRONJ)は、薬剤の影響によって顎骨に炎症が生じ、時に骨壊死を伴う状態です。厚生労働省の『重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬剤関連顎骨壊死・顎骨骨髄炎』1)では、顎骨壊死を「あごの骨の組織が局所的に死滅し、骨が腐った状態になること」と説明しています。
しかし、この表現をそのまま患者さんに伝えると不安を与えてしまう可能性があります。そのため患者さんには、「お薬の影響で顎の骨の中に強い炎症が起こり、骨の一部が生きられなくなる状態です」と説明すると、理解してもらいやすいでしょう。
実際の経過では、薬剤投与後に顎骨やその周辺組織に炎症が生じることで、顎、歯および歯ぐきの痛み、腫れ、排膿ならびに歯のぐらつきなどが出現します。さらに病状が進行すると、口腔内への骨の露出や、顎の皮膚に穴が開き骨にまで通じる瘻孔、顔面側への下顎骨の露出などが起こることがあります(写真)。
MRONJの所見
- 口腔内
- 口腔外瘻孔
MRONJの定義とステージング
日本口腔外科学会を含む関連6学会が作成した『薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023』(以降、ポジションペーパー2023)2)によると、MRONJは、①ビスホスホネート(BP)製剤やデノスマブによる治療歴があること、②8週間以上持続して顎骨の露出や瘻孔(臓器間や体表を結ぶ異常な管状の路)を認めること、③顎骨への放射線照射歴がなく、顎骨病変が原発性/転移性癌でないこと、の3つを満たす場合に診断できます(表1)。
MRONJの重症度はステージ1~3に分類されます。ステージ1は顎骨の露出や壊死などを認めるが無症状で感染がない状態、ステージ2は顎骨の露出や壊死などに感染や症状を伴う状態、ステージ3は下顎/上顎にさらに広い範囲で骨露出や壊死、あるいは病的骨折などが起きた状態です(表2)2)。
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1 BP製剤やデノスマブによる治療歴がある
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2 8週間以上持続して顎骨(ろうこう)の露出や瘻孔を認める
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3 顎骨への放射線照射歴がなく、顎骨病変が原発性/転移性癌でない
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| ステージ |
症状・感染 の有無 |
臨床症状 |
|---|---|---|
| 1 |
無症状 感染なし |
顎骨の露出/壊死、プローブで骨を触知できる瘻孔を認める |
| 2 |
症状あり 感染あり |
顎骨の露出/壊死、プローブで骨を触知できる瘻孔、発赤、痛みなど |
| 3 |
症状あり 感染あり |
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MRONJを引き起こす可能性のある薬剤
MRONJを引き起こす薬剤には、骨粗鬆症や癌による高カルシウム血症に使用されるBP製剤、骨粗鬆症や癌による骨病変に対して使用される抗RANKL抗体薬デノスマブ、また、MRONJを引き起こす可能性がある薬剤には、癌治療で使用される血管新生阻害薬のベバシズマブやアフリベルセプト ベータ、マルチキナーゼ阻害薬のスニチニブやカボザンチニブ、呼吸器領域で使用されるチロシンキナーゼ阻害薬のニンテダニブなどがあります(表3)。他にも、免疫抑制薬であるメトトレキサートやステロイド製剤でもMRONJの発症が報告されています2)。これらのうち、最も高リスクとされている薬剤がBP製剤とデノスマブで、いずれも骨吸収抑制薬です。
| 分類 | 一般名(先発品名) | 用量 | 剤形 | 適応 |
|---|---|---|---|---|
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ビ ス ホ ス ホ ネ ー ト 製 剤 |
ゾレドロン酸 | |||
| (ゾメタ) | 高用量 | 注射薬 |
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| (リクラスト) | 低用量 | 注射薬 |
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パミドロン酸 (パミドロン酸二Na*) |
高用量 | 注射薬 |
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| アレンドロン酸 | ||||
| (フォサマック) | 低用量 | 錠 |
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| (ボナロン) | 錠、ゼリー、注射薬 | |||
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イバンドロン酸 (ボンビバ) |
低用量 | 錠、注射薬 |
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ミノドロン酸 (ボノテオ) (リカルボン) |
低用量 | 錠 |
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リセドロン酸 (アクトネル) (ベネット) |
低用量 | 錠 |
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エチドロン酸 (ダイドロネル) |
低用量 | 錠 |
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抗 R A N K L 抗 体 |
デノスマブ | |||
| (ランマーク) | 高用量 | 注射薬 |
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| (プラリア) | 低用量 | 注射薬 |
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- その他の薬剤
| 分類 | 薬剤名(先発品名) |
|---|---|
| 抗スクレロスチン抗体 | ロモソズマブ(イベニティ) |
| 抗VEGF抗体 | ベバシズマブ(アバスチン) |
| VEGF阻害薬 | アフリベルセプト ベータ(ザルトラップ) |
| マルチキナーゼ阻害薬 | スニチニブ(スーテント)、カボザンチニブ(カボメティクス)、ニンテダニブ(オフェブ) |
BP製剤
BP製剤は、破骨細胞に取り込まれ、その働きを抑制するとともにアポトーシス(=プログラム細胞死)を誘導することで骨吸収を抑え、骨量を維持・増大する薬剤です。骨粗鬆症の治療に加え、癌の骨転移による骨病変の治療にも使用されています。BP製剤には経口薬と注射薬があり、骨粗鬆症では主に経口薬や低用量の注射薬が使用されます。一方、癌の骨病変では高用量の注射薬が主に使用されます。BP製剤の血中半減期は約1~2時間程度 ですが、骨に取り込まれると長期間にわたって骨表面に沈着して残存します。
デノスマブ
デノスマブは、破骨細胞の分化や活性化に重要な役割を果たすRANKLという因子を阻害することで、破骨細胞の分化・成熟を抑制し、骨吸収を抑制する薬剤です。デノスマブには、骨粗鬆症を適応とするプラリア(商品名)と、悪性腫瘍に伴う骨病変を適応とするランマーク(商品名)があります。両者はいずれも注射薬で有効成分は同じデノスマブですが、プラリアは60mgを6ヵ月毎に投与するのに対し、ランマークは120mgを4週毎に投与します。デノスマブは骨に蓄積せず、体内に長期残存しません。
近年の骨粗鬆症治療では、複数の薬剤を順次使用する逐次療法が行われています3)。デノスマブを中止すると骨密度の低下や骨折リスクの上昇を来すことが知られているため、中止時にはBP製剤などによる治療を継続することが推奨されています。また、骨形成促進薬による治療後にデノスマブやBP製剤へ移行する治療戦略も行われています。このような逐次療法は骨折予防に有用である一方、骨吸収抑制薬による治療期間の長期化にもつながります。
※骨粗鬆症の薬物治療については、ファーマスタイル2025年12月号の『特集 骨粗しょう症 リスクを知り包括的なアプローチを』をご参照ください。
MRONJのリスク因子と発症契機
MRONJのリスク因子としては、前述の薬剤の他に、侵襲的歯科治療(抜歯、歯周外科手術など)、インプラント治療、不適合な入れ歯の使用、口腔衛生不良などの局所因子、糖尿病や自己免疫疾患、飲酒、喫煙などの全身因子、さらには遺伝的要因が挙げられています(表4)。
| 局所因子 |
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| 全身因子 |
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| 遺伝的要因 |
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また、MRONJの発症契機としては、抜歯、インプラント治療、その他の外科処置、歯周病、補綴(ほてつ)装置(入れ歯など)による外傷、自然発症が挙げられています3)。このうち最も多いのは抜歯ですが、抜歯に至る背景には重度の歯周病などの歯科疾患が存在することも少なくありません。つまり、抜歯そのものがMRONJの原因なのではなく、あくまで発症の契機にすぎないと考えられています。
MRONJの発症頻度
本邦で骨吸収抑制薬の投与を受けた患者におけるMRONJの発症頻度を疾患別にみると、骨粗鬆症患者では0.06%、癌患者では1.47%と報告されています4)。薬剤別にみると、BP製剤の高用量で1.6~32.1%、低用量で0.001~0.01%、デノスマブの高用量で1.7~1.8%、低用量で0.113~0.2%と報告されています2)。
概してMRONJは、BP製剤に比べてデノスマブで発症リスクが高く、デノスマブとBP製剤はいずれも低用量に比べて高用量の発症リスクが高いとされています。また、いずれの薬剤も投与期間が長くなると発症リスクが上昇することが報告されています2)。その他の薬剤によるMRONJの発現頻度は明らかではありませんが、添付文書では顎骨壊死に関する注意喚起がなされています。
リスク薬の併用や長期使用によるMRONJリスクの増大
何らかの疾患の治療にステロイド製剤を使用する場合、ステロイド性骨粗鬆症の予防を目的としてBP製剤が併用されることは珍しくありません。また、癌患者では、抗癌剤や血管新生阻害薬、ステロイド製剤、骨吸収抑制薬が併用されることも少なくありません。さらに、前述したように骨粗鬆症治療では複数の治療薬による逐次療法が行われており、骨吸収抑制薬による治療期間が長期化する傾向があります。このように複数の因子が重なると、MRONJの発症リスクはさらに高まると考えられます。
わが国では高齢化の進行により、今後、骨粗鬆症患者や癌患者が増加することが予想されており、それに伴い、骨吸収抑制薬の使用も増加すると考えられます。MRONJの発症頻度は低いものの、発症リスクにさらされる患者さんが増加することで、今後はMRONJも増加すると予想されます。
MRONJの発症機序の新たな理解
MRONJの発症機序は完全には解明されていませんが、近年の研究により、その理解は深まっています。
従来は、BP製剤やデノスマブによって破骨細胞の働きが抑制されて骨代謝が低下すると、新しい骨への置き換わりが障害され、骨細胞が寿命を迎えて壊死し、MRONJが発症すると考えられてきました2)。また、歯周病などの感染症が、MRONJの発症や重症化に重要な役割を果たしているとの報告もあります。さらに、BPは血管新生を阻害することから、抜歯後の創傷治癒が遅延し、MRONJの発症に至る可能性も指摘されています2)。
しかし、これらの考え方だけではMRONJの発症を十分に説明することはできません。我々の研究グループでは、