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ハイリスク薬加算の薬歴の書き方は?服薬指導例についても解説
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成人喘息 Up to date

2019年12月号
成人喘息 Up to dateの画像

1990年代以降、吸入ステロイド薬が普及したことにより、喘息のコントロールは飛躍的に改善しました。また、近年は生物学的製剤が相次いで開発され、重症の難治性喘息に対する治療の選択肢も増えています。ただ、吸入療法のアドヒアランスに関してはまだ課題が多いのが現状です。今回は、日本大学医学部附属板橋病院呼吸器内科部長の權寧博氏と同科呼吸機能検査室長の伊藤玲子氏に、昨年発表された『喘息予防・管理ガイドライン2018』(以下、ガイドライン)の主な改訂ポイントと最新の治療法、さらにまだ課題の多い吸入療法について解説していただきました。

喘息の疫学と現状 死亡者数は減少傾向だが、課題は症状コントロール

 喘息は、気道に慢性的な炎症が起こり、変動的に狭窄することで、喘鳴や呼吸困難、咳嗽などが発現する疾患です。日本には450万人もの喘息患者がいるといわれています。喘息は、死亡にもつながり得る疾患ですが、気道に炎症が起こる病態が認知され、炎症改善のために吸入ステロイドが第一選択薬になって以来、喘息死や喘息による救急受診・入院数は大きく減少しました。厚生労働省人口動態統計によると、喘息死亡総数は1990年代までは年間約6000人をおおよそ上回っていましたが、2016年には1400人台まで減少しています1)。 問題は、死亡者のほとんどが高齢者だということです。65歳以上の高齢者が喘息死に占める割合は、1995年79.4%、2000年84.0%、2011年88.5%、2013年89.6%、2016年89.4%と増加傾向にあり1)、高齢化が進む日本では高齢者の喘息死がさらに増加することが予想されます。一方、5~34歳の比較的若い世代にフォーカスすると、人口10万人対の喘息死亡者数は、世界の主な先進国と比べても日本は低い傾向にあり、これは日本の現在の喘息治療が世界的に見ても高い水準であることを示しています1)。しかしながら、症状が十分にコントロール(発作や喘息症状がない状態を保つ)されていない患者さんが40%弱いるという調査結果もあり、症状のコントロールは喘息治療の目下の課題といえます。

喘息の管理目標 症状をコントロールするためにFeNOやPEFを測定

喘息の管理目標は、喘鳴や呼吸困難、咳嗽などの症状がない状態を保ち、薬剤の副作用がなく、呼吸機能を正常なレベルに維持して、健常人と同等の生活を送れるということです。喘息の管理目標は、「症状のコントロール」と「将来のリスク回避」という2つに分類されます。
症状のコントロールとしては、気道炎症を制御するためには、「可能な限り呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)測定や喀痰好酸球検査で気道炎症を評価する」ことが推奨されています。また、正常な呼吸機能がキープされているかどうかの指標として「ピークフロー(PEF)が予測値の 80%以上かつ日内変動が 10%未満」が掲げられています。PEFのモニタリングは、喘息の管理目標達成のために非常に重要となります。診察時だけでなくセルフマネジメントとして、患者さん自身で日々のPEF値を、簡易型PEFメーターを用いて測定し、客観的かつ経時的に評価することが望まれます。なお、ガイドラインでは喘息の管理目標のうち、将来のリスク回避として、呼吸機能の経年低下の抑制、喘息死の回避、治療薬の副作用発現の回避などが記載されています。

薬物療法は重症度に応じた ステップアップ方式が基本

現在の喘息治療は薬物療法が中心です。喘息治療薬は「長期管理薬」と「発作治療薬」に大別されます。長期管理薬は吸入ステロイド薬(ICS)が基本で、毎日継続的に使用することで喘息発作を予防し、重症化・難治化するのを防ぎます。他の長期管理薬としては、長時間作用性β2 刺激薬(LABA)、ICS / LABA配合薬、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)などがあります。一方、短期的に使用する発作治療薬としては、気管支拡張薬の短時間作用性β2刺激薬(SABA)が主に用いられます。
喘息の薬物療法は、重症度に応じた治療ステップ1~4に基づいて行われます(表1)。いずれのステップにおいても基本は ICSですが、重症度に応じて増量していき、それでもコントロールが不十分なときは他の薬を上乗せしていきます。長期管理中に急性増悪(発作)が起こったときは、いずれのステップでも原則として SABAの頓用で対処します。

表1 喘息治療のステップ
治療
ステップ
長期管理薬 発作治療
基本治療 追加治療
ステップ1 ICS
(低用量)
(ICSが使用できない場合、
以下のいずれかを用いる)
LTRA(長時間作用性抗コリン薬)
テオフィリン徐放製剤
LTRA以外の
抗アレルギー薬
SABA
ステップ2 ICS
(低~中用量)
(ICSが不十分な場合、
以下のいずれか1剤を併用)
LABA
LAMA
LTRA
テオフィリン徐放製剤
LTRA以外の
抗アレルギー薬
SABA
ステップ3 ICS
(中~高用量)
(ICSに以下のいずれか1剤、
あるいは複数を併用)
LABA
LAMA
LTRA
テオフィリン徐放製剤
LTRA以外の
抗アレルギー薬
SABA
ステップ4 ICS
(高用量)
(ICSに以下の複数を併用)
LABA
LAMA
LTRA
テオフィリン徐放製剤
抗IgE抗体
抗IL-5抗体
抗IL-5Rα抗体
経口ステロイド薬
気管支熱形成術
LTRA以外の
抗アレルギー薬
SABA
『喘息予防・管理ガイドライン2018』をもとに編集部作成

重症の難治性喘息に対する治療 生物学的製剤の登場

ICSの導入以降、喘息症状がコントロールできる患者さんの割合は格段に高まりましたが、それでも、ステップ4の治療を行ってもなお十分に症状がコントロールできない重症の難治性喘息は、全体の5~10%存在します。こうした重症喘息に対して、近年、生物学的製剤が相次いで承認されました。2009年には国内初の喘息向け抗体薬として抗IgE抗体のオマリズマブ(遺伝子組換え)(ゾレア®)、2016年には抗IL-5抗体のメポリズマブ(遺伝子組換え)(ヌーカラ®)、2018年には抗IL-5Rα抗体のベンラリズマブ(遺伝子組換え)(ファセンラ®)が発売されました。さらに、2019年3月には、アトピー性皮膚炎治療薬として使用されてきた抗IL-4/13受容体抗体のデュピルマブ(遺伝子組換え)(デュピクセント®)も適応拡大の承認を取得しており、2019年10月現在、国内では 4種類の生物学的製剤が重症喘息の治療に使用可能となっています。
オマリズマブは、マスト細胞や好塩基球等の細胞表面に結合するIgEに対するヒト化モノクローナル抗体で、高用量のICSに複数の喘息治療薬を併用しても症状をコントロールできない難治性の喘息が適応です。メポリズマブは、IL-5に対する抗体薬で、血中の好酸球数が高値の重症喘息に有効です。ベンラリズマブはIL-5受容体に対する抗体薬ですが、メポリズマブとは別の作用機序で好酸球を減少させます。デュピルマブはIL-4やIL-13によるシグナル伝達を阻害することで炎症に関与する2型炎症反応を抑制します。

喘息の原因や増悪因子は多様で、アトピー型喘息、高齢者喘息、アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)など病型も多様ですが、一般的には、「アトピー型」と「非アトピー型」に分けられます。生物学的製剤の登場により、アトピー型重症喘息にはオマリズマブを、好酸球性気道炎症にはメポリズマブやベンラリズマブを、好中球性気道炎症にはマクロライド系抗菌薬を使用するといった、タイプ別の薬剤選択が可能となりました。アトピー性皮膚炎の治療薬で、喘息への適応追加が承認されたばかりのデュピルマブについても、適切な患者選択について議論が重ねられています。

治療選択肢の増加 気管支熱形成術やアレルゲン免疫療法

重症喘息患者に対する治療としては、非薬物療法である「気管支熱形成術」も2018年のガイドラインに追加されました。これは肥厚した気道の平滑筋を熱で減少させることで、気管支が収縮を起こしにくくする治療です。重症例に対し、生物学的製剤と気管支熱形成術のいずれを優先させるかは今議論されている最中ですが、現状は、生物学的製剤が適応とならない喘息や、生物学的製剤が無効だった場合に気管支熱形成術を施行するというのが考え方の主流です。

さらに、アレルゲン免疫療法もガイドラインに追加されました。アレルゲン免疫療法は他の薬物療法と異なり、喘息を含むアレルギー疾患における唯一の根治的治療法です。アトピー型喘息では、ハウスダスト(主にダニ)に対する特異的IgE抗体を有する頻度が高く、アレルゲン免疫療法が有用と考えられています。ガイドラインには、「ダニ感作がある軽症~中等症の持続型喘息で安定期の%FEV1が70%以上の場合、標準化ダニアレルゲンを用いたアレルゲン免疫療法の適応となる」と記載されています。ただし、通年性アレルギー性鼻炎の治療として近年話題に上がっている舌下免疫療法の薬剤(ミティキュア®、アシテア®)の適応症は、喘息ではなくアレルギー性鼻炎のみです。つまり、アレルギー性鼻炎を標的として舌下免疫療法を行った際、合併症の喘息症状に有効な作用を及ぼす可能性はあるものの、喘息そのものを標的として治療を開始することはできません。喘息に対する保険適応があるのは2019年10月現在、皮下免疫療法のみです。さらに、アレルゲン免疫療法は舌下・皮下とも喘息の重症例に対しては禁忌であることも注意が必要です。

喘息治療の問題点 吸入の手技やアドヒアランスが不良

喘息治療では、表1に示したとおり、軽症から重症まで全ての患者さんで吸入療法が用いられますが、吸入療法は、適切に実施されないと十分な治療効果が得られません。そして、…

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