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特集

白癬の〝真〟常識

2020年8月号
貧白癬の〝真〟常識の画像

夏になると毎年ぶり返す水虫。医学的な疾患名は足白癬。日本人の5人に1人は足白癬、10人に1人は爪白癬であるといわれるほど、多くの人が白癬に罹患しています。にもかかわらず、世間一般で病気としての認識は薄く、たとえ足白癬という自覚があっても、夏になる病気、その間だけ薬をつければいい、と考えている人が圧倒的に多いのではないでしょうか。今回はそんな白癬の基礎知識と、完治させるためのポイントについて、埼玉医科大学皮膚科教授の常深 祐一郎氏に解説いただきました。

症例クイズ 足白癬(水虫)はどれでしょう

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貧白癬の〝真〟常識 症例クイズ1の画像
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貧白癬の〝真〟常識 症例クイズ2の画像
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貧白癬の〝真〟常識 症例クイズ3の画像
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貧白癬の〝真〟常識 症例クイズ4の画像

写真は常深祐一郎氏ご提供

白癬=足だけではない 様々な部位に発症する白癬

白癬は表在性皮膚真菌症の約9割を占める皮膚糸状菌(白癬菌)による感染症です。白癬の病型として、足白癬と爪白癬は世間でも認知されていますが、そのほか、体部白癬(ゼニタムシ)、股部白癬(インキンタムシ)、頭部白癬(シラクモ)などがあり、様々な部位に発症する疾患です。白癬以外の症状で皮膚科を受診した患者の足を検診した調査(Foot Check 2007)では、足白癬の有病率は21.6%、爪白癬は10.0%と推計されていることから1)、日本では5人に1人が足白癬、10人に1人が爪白癬に罹患しているといわれています。

ケラチンを栄養源にして増殖 死んだ細胞である角層が白癬菌の恰好のすみか

白癬の原因菌である白癬菌は真菌(カビ)の一種で、高温多湿な環境を好みケラチンを栄養源として増殖しますので、ケラチンを豊富に含む角層、爪、毛に寄生して病変を生じさせます。
ケラチンは粘膜でも発現していますが、ターンオーバー(入れ替わり)も速く、生きた細胞である粘膜では免疫応答により容易に排除されてしまうため寄生できません。そのため白癬菌を飲み込んでも口の中が白癬になることはありません。それに対し、角層は死んだ細胞であるため免疫応答は起こらず、さらに組織が厚くターンオーバーには少なくとも2週間はかかるため、ひとたび寄生してしまえばゆっくり増殖することが可能ですから、白癬菌にとって恰好のすみかなのです。
また、角層が変化して硬くなった組織である爪には、白癬菌も容易に侵入できませんので、いきなり爪に感染するのではなく、足白癬により足の角層で十分に増殖した菌が、爪周囲の角層から徐々に爪へと侵入し爪白癬を起こします。そのため、爪白癬の患者は足白癬も合併している例が多くなります。爪白癬のみが確認される場合でも、過去に足白癬の既往があり一過性に足白癬が治癒したケースと考えられます。しかし、爪に寄生している白癬菌が足の角層へ移動することは容易ですので、爪白癬がある限り足白癬は容易に再発します。

column 1

水虫はなぜ「虫」?

白癬はなぜ「虫」が関係する俗称で呼ばれるのか? 江戸時代にはすでにその名前が使われていたとされる。その由来は、一説には昔の人は田植えをした後に、毎年足に水疱や痒みなどの症状が出るのは、田んぼの水の中にいる虫に刺されるからだと考えたことからそう呼ばれるようになったといわれている。
当時は草鞋などを履いて生活しており、通気性の観点からは悪くない環境なので、それほど多くの人で感染していたわけではなかったと思われる。その後、日本でも靴を履く生活スタイルが定着したことで、昭和初期には水虫が爆発的に増加した。カビである白癬菌はより湿った環境を好むことは確かであり、靴という蒸れる足環境に加えて、夏期には高温多湿となる日本では、なおさら白癬菌の増殖が容易であったと考えられる。

白癬菌は多彩 動物由来の菌に感染することも

ひとくちに白癬菌といっても、実はいろいろな種類があります。発症する部位により原因菌は異なり、頻度が高い足白癬と爪白癬ではTrichophyton rubrumT. interdigitaleによる感染が最も多く、そのほとんどを占めます。
頭部や体部白癬は、自分の足白癬から他の部位に感染する自己感染でも発症するため、足白癬で多いT. rubrumT. interdigitaleもみられます。ただし、体部白癬では、イヌやネコなどが持つMicrosporum canisやウシが持つT. verrucosum、げっ歯類やハリネズミが持つT. mentagrophytesといった動物由来の菌による感染も多くみられ、接触した動物の有無に関する問診も重要となります。特にM. canisによる感染は発生頻度が最も高く、ヒト寄生性の菌に比べて炎症反応が強いという特徴があります。動物由来菌が原因の場合には、ペットや家畜の治療も同時に行わなければ再発を繰り返すことになります。
また、格闘技選手間で感染が広がるT. tonsuransによる集団感染も報告されており、そこから感染が拡大し、選手以外にもT. tonsuransによる頭部や体部白癬がみられるようになってきています。さらに、農作業や園芸などをする方では、土の中に生息するM. gypseumが身体に付着することで感染するなど、体部白癬の原因菌は多彩です。

感染成立までは半日から1日 温泉やジムで入浴しても帰宅後に足だけは洗浄

白癬はこれらの原因菌と接触することによる接触感染で発症します。感染者の患部(または動物)に直接接触することによる感染だけでなく、感染者から脱落する角層、つまり鱗屑(りんせつ)とともに白癬菌は恒常的に散布されており、この白癬菌を含む鱗屑が付着することでも感染します。
ただし、表皮には生体のバリア機構としての防御機能がありますので、白癬菌が皮膚に付着したからといって即座に感染するわけではありません。白癬菌は表皮に付着すると、タンパク分解酵素を分泌して角層のケラチンを溶かし、皮膚のバリアを破壊して角層への侵入を試みます。角層に侵入すると感染成立となり、ケラチンを栄養源にして角層内で増殖していくのです。この感染成立までには健常な皮膚であれば約1日、皮膚に傷があるなど、白癬菌にとって角層への侵入に好条件であっても半日はかかるとされており、感染成立までの間に、洗浄などにより角層表面に付着した白癬菌を除去すれば感染は阻止できます。
感染経路としてよく挙げられるのが、白癬患者の家庭内のバスマットやスリッパの共用などによる家庭内感染ですが、それだけでなく、床やたたみなどいたるところに白癬菌が存在しています。感染者の鱗屑とともに散布された白癬菌は、菌種によって、また高湿度などの環境条件次第では半年以上も生息可能であることがわかっています2)。これらの白癬菌は通常の掃除により物理的に除去することができますが、掃除がいき届いていないと白癬菌がホコリのように存在し続けることになります。しかし、前述のように感染成立までの間に白癬菌を除去すれば感染は防げますので、毎日入浴するか、入浴できなくても足だけは洗うようにすることで十分予防可能です。
また、注意が必要なのが公衆浴場や温泉、ジムのプールやシャワールームなどの利用で、床やバスマットを介して白癬菌が付着することがわかっています3)4)。温泉やプール、ジムなどで身体を洗えば入浴がすんでいるという感覚で帰宅後にそのまま就寝してしまう人も多いかと思いますが、家に帰ったら足だけは洗うということが重要です。

column 2

家庭内に白癬菌を持ち込まないために 他人の家にむやみに上がらない? 足袋を履く!?

靴下を履いていても足白癬患者の足からは白癬菌が常に散布されている。つまり靴を脱いで家に上がるという日本の生活スタイルは、患者の足を少しでも乾燥させるという意味では良いが、感染を拡大させる原因ともいえるのだ。他人の家や飲食店、集会場なども含めて、不特定多数の人が靴を脱いで利用する区域に立ち入った場合、白癬菌が付着することはむしろ必然なのだ。
では感染を予防するためにはどうすれば良いのか? 素足で過ごすことも多い夏、靴を脱いで立ち入るような場所で、予防のために靴下を履けば菌の付着を防げるのだろうか? 靴下による白癬菌付着の予防効果を検討した研究では、ナイロンストッキングでは菌はストッキングの編み目を通過してしまい付着の予防にはならず、綿の靴下でも十分ではないことが示されている。しかし、毛の靴下や足袋では菌の通過がみられないという結果が報告されている5)
家庭内に白癬菌患者がいると家庭内感染は非常に容易に発生するため、まずは家庭内に白癬菌を持ち込まないことが重要である。そのような観点からすると、他人の家にむやみに上がらない、上がる時には毛の靴下か足袋を履くということになるのだろうか。なかなかそうもいかない。結局、一番簡単な予防策は、家に帰ったら足を洗うということになるのだろう。

「水虫は痒い」は大きな誤解 痒みがあるのは足白癬の10%程度

白癬で最も多い足白癬は、趾間型、小水疱型、角質増殖型の3つの臨床型に分類されます。趾間型では趾間に浸軟や鱗屑、さらに重症化すると亀裂やびらんがみられ、小水疱型では足底に小水疱がみられます。気温と湿度が上昇する時期にこれらの症状が出現し、涼しくなると症状が軽快するという季節変動があるのが特徴です。
足白癬の自覚症状として表1のような表現がよく用いられますが、ここで注意が必要なのが痒みについてです。OTC薬のCMの影響からか、水虫は痒いものというイメージが世間一般に強く根付いていますが、足白癬は必ずしも痒みがあるとは限りません。もちろん進行した趾間型と小水疱型では強い痒みを伴うことがありますが、痒みがあるのは足白癬全体の10%程度です。白癬を専門とする立場からすると、痒いといって受診される患者さんに対しては、足白癬ではなく湿疹や接触皮膚炎などの痒みを伴う他の疾患をまず疑うくらいです。

表1 足白癬の主訴

足の指の間や足裏が痒い(全体の1割程度)
足の指の間がふやけてジュクジュクする
足の指の間や足裏の皮がむける
足裏に小さな水疱ができる
夏になると症状が出る

常深氏の話より編集部作成

また、角質増殖型の白癬は自覚症状や季節変動がほとんどありません。足裏の角層が厚くなるこのタイプの白癬を、加齢や運動によるものと勘違いされている患者さんは少なくありません。爪白癬も同様に自覚症状や季節変動はないので治療が遅れることが多いのですが、前述のように、たとえ原疾患である足白癬が治癒していても、爪白癬が放置されていれば、足白癬を容易に再発させることになります。進行して極度の爪の肥厚や爪甲の変形を呈するようになると歩行にも影響を来しますので、自覚症状がなくても積極的に治療を行う必要があります。

専門医でも視診だけでは正確な診断は困難 診断的治療は行うべきではない

水虫は治らない、治ってもすぐに再発するというのが世間一般の認識だと思いますが、足白癬をはじめとした白癬は、正しく診断し、適切な薬剤を選択した上で、十分な患者指導を行えば完治可能な疾患です。
第一に白癬を正確に診断するためには、直接鏡検で白癬菌を確認することが求められます。足白癬や爪白癬では、多くのクリニックで視診のみで診断が行われているのが実情ですが、専門医でも視診のみで正確に診断をするのは非常に困難です。視診では白癬ではないと思われるケースでも、念のために直接鏡検を行うと白癬菌が検出されるケースや、その逆のケースも度々経験します。冒頭のクイズでも、見た目ではわからないことを実感していただいたのではないでしょうか。
足白癬なら抗真菌薬で改善するでしょうか?必ずしもそうとはいえません。刺激皮膚炎で悪化することがあります(後述)。よって、抗真菌薬を塗って良くなったら足白癬、良くならなかったら他の疾患という図式は成り立たないのです。不確実な診断で白癬と類似する臨床像を呈する疾患に抗真菌薬の外用を行ってしまうと、悪化させてしまう危険性がある上に、その後の検査も困難になってしまいます。

足白癬の外用薬の剤形選択 接触皮膚炎や塗り心地を考慮

白癬の薬物治療には外用療法と内服療法があります。足白癬や体部白癬では基本的には外用療法で治療を進めます。現在白癬の外用療法に用いられている主な外用抗真菌薬としては表2の薬剤が挙げられます。どの薬剤を選択するかについて明確な基準はありませんが、抗真菌作用を検討した研究では、ラノコナゾールおよびルリコナゾールが最も強く(Minimum inhibitory concentration;MICが小さく)、菌種による効果のばらつきが少ないことが報告されており6)、特に効果が期待できると考えられます。

表2 白癬に使用される主な外用抗真菌薬
系統 一般名 商品名(先発品) 剤形
イミダゾール系 ルリコナゾール ルリコン クリーム・軟膏・液
ラノコナゾール アスタット クリーム・軟膏・液
ケトコナゾール ニゾラール クリーム・ローション
ネチコナゾール アトラント クリーム・軟膏・液
ビホナゾール マイコスポール クリーム・液
モルホリン系 アモロルフィン ペキロン クリーム
チオカルバミン酸系 リラナフタート ゼフナート クリーム・液
アリルアミン系 テルビナフィン ラミシール クリーム・液・スプレー
ベンジルアミン系 ブテナフィン メンタックス クリーム・液・スプレー
ボレー クリーム・液・スプレー

各製品添付文書より編集部作成

さらに、各薬剤には軟膏のほかにクリームや液剤などがあります。塗り心地が良いとされるのは、べたつきがない液剤ですが、刺激性の面では液剤が一番強いとされています。
足白癬で亀裂や浸軟がある症例や、動物由来の菌による体部白癬などで炎症反応が強いような症例には、刺激の少ない軟膏…

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