向精神薬は多剤処方のケースが多く、有効性と副作用のバランスを鑑みて個々の患者さんで薬剤の用量調整を検討する必要があります。株式会社じほうの書籍『ゆるりとはじめる精神科の1冊目』より、ケーススタディとして向精神薬の調整のポイントを見ていきましょう。
向精神薬の用量調整のCase Study
年に一度、当院では抗精神病薬の処方調査を実施し、処方適正化チーム(精神科医長、薬剤師、看護師、リスクマネージャー)がクロルプロマジン(CP)換算のモースト10の患者の減量に取り組んでいます。
CP換算1,500mgで副作用リスクが高いAさんについての減量を紹介します。
Aさんの基本情報
- 66歳
- 統合失調症の治療で入院中
- CP換算:1,500mg
- 転倒は起きていない
介入前の処方内容
処方適正化チームの会議の内容
主治医(看護師が代理でコメント)「6カ月前にハロペリドールを減量し、リスペリドンを増量して以降幻聴は聴こえてこなくなり外出ができるようになりました。ただし、ご家族が高齢のため自宅退院ができません。受け入れ可能性のある施設から薬の量を少なくしてほしいと言われています。」
薬剤師「服薬指導したときは、普段から手が震える(振戦)と言っていました。」
医長「振戦の場合、薬剤調整に伴う薬原性錐体外路症状(EPS)の可能性があります。薬剤師による副作用の評価は?」
薬剤師「本人の了解のもと、2週間ごとですが服薬指導時と昼食後薬を服用してから薬原性錐体外路症状評価尺度(DIEPSS)を実施しています。薬剤調整3日目以降は、DIEPSSにて振戦2(手指)、歩行1(小刻み歩行)が続いていますが、その他は目立ったEPSはありません。主治医にハロペリドールの減量を提案したところ『ビペリデンも処方しているし、外出ができなくなると困る』と言われました。」
医長「主治医にAさんの今後の方向性を聞いてみましょう。減量を試みるチャンスです。」
他の3名も医長の意見に同意し会議は終了。
1週間後のケア会議(主治医、薬剤師、担当看護師、ケースワーカー、作業療法士)
主治医「医長と話し、施設退院ができるように過剰な抗精神病薬を減量し、より良い形での退院を目指します。薬剤師さんには減量調整のサポートを、看護師さん、作業療法士さんには患者の状況把握の継続を、ワーカーさんには施設調整をお願いします。」
その後、主治医と薬剤師で病歴・薬歴および身体合併症の有無を見直したうえで、以下の減量を実施しました。
抗精神病薬減量の概要
減量内容 | オランザピン20mg/日、リスペリドン4mg/日を継続し、ハロペリドール6mg/日の減量中止を試みる |
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減量方法 | SCAP法を採用し、2週間ごとに0.75mg/日を減量 |
副作用 | 振戦は減量1カ月後に軽減し、2カ月後に消失 |
経過 | 4カ月目には一時的な精神症状の悪化があったため、リスペリドンlmg/日を一時的に追加した。その後、減量調整し,さらに4カ月後にオランザピン20mg/日、リスペリドン4mg/日となり退院となった。 |
介入による処方内容の変化
このケースでは抗精神病薬の減量方法としてSCAP法を採用しています。SCAP法を多職種チームで活用する際に確認しておくべき点や薬剤別の減量速度、薬剤師の役割などのさらなる詳細は書籍で学習いただけます。
25万人以上の薬剤師が登録する医療従事者専用サイト「m3.com」で、2023年4月に実施したアンケートで「向精神薬の用量調整」についてたくさんのリクエストをいただきましたので、業務に役立つ1冊をご紹介します。
ゆるりとはじめる精神科の1冊目
近年、病院でも薬局でも、精神科の患者と接する機会が増しています。向精神薬の処方意図がわからない、患者対応に関する悩み、副作用の評価が難しいなど、困った経験をしたことありませんか?本書は、知っているようで意外に知らない精神疾患とその症状、向精神薬の使いどころ、副作用・相互作用など、押さえておきたい知識をわかりやすく解説しています。
別所 千枝 / 中村 友喜 / じほう
購入はこちら今回は、皆さまからのリクエストにお応えして、こちらの書籍から事例を抜粋してご紹介したm3.com WEB限定記事を限定公開させて頂きます。
※2023年7月13日、20日、27日の全3回を予定しております。
- 2023年7月中旬~下旬にm3.comでアンケートを再び実施予定です。リクエストが多いものは記事化しますので、皆様のご意見やご希望をぜひ教えてください。ご協力のほどお願い申し上げます。