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ここに注目!知っているようで知らない疾患のガイセツ

知っているようで知らない 疾患のガイセツ 多汗症

2018年8月号
多汗症の画像
暑い時期に気になるのが汗。美容やエチケットの視点で語られることが多い汗ですが、暑さに関わりなく噴き出す多量の汗のために日常生活に支障をきたす「多汗症」という疾患があります。今回は、「原発性局所多汗症診療ガイドライン2015年改訂版」の作成にも携わった池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長の藤本智子氏に、多汗症について解説していただきました。

QOLに大きく影響する多汗症

気温や体温が上がると、人は発汗して体温を調節します。また、緊張やストレスなどの精神的な刺激でも発汗が促進されます。発汗量には個人差があり、汗をかきやすい、あるいはたくさん汗が出る人を「汗っかき」ということがあります。それでもその人自身が困っていなければ、病気ではありません。しかし、例えば「汗で洋服が濡れてしまう」「汗が気になって人前に出たくない」など、日常生活に支障が生じるほど汗で困っているとしたら、「多汗症」として治療が必要になるでしょう。特に、他人に触れる必要がある美容師や看護師、手袋の着用が必要な精密機器を扱う職種などでは、多量の汗は仕事にも大きな影響を与えます。
多汗症で悩んでいるのは成人だけではありません。汗で友だちと手をつなげないという小学生の受診もあります。多汗症が原因で、積極的に対人関係を築けないなど支障が出ることは少なくありません。
多汗症は生命危機に直結する重篤な疾患ではないものの、患者さんのQOLに大きな影響を及ぼします。

多汗症の分類と症状

多汗症は、あまり汗をかかないお腹、胸、お尻を含めて全身から多量に発汗する「全身性多汗症」と、手のひらや足の裏、腋の下、頭部、顔面の局所的な部位で発汗する「局所(性)多汗症」に分けられます。いずれも男女差はありませんが、発汗部位と症状が現れ始める年齢には特徴があります。
局所多汗症のうち、手のひらや足の裏から発汗する掌蹠多汗症は、幼少児期や思春期に発症します。腋の下の多汗症(腋窩多汗症)は、第二次性徴期の腋毛が生える頃に発症することが多く、頭部や顔面の多汗症は、高校生以上になって自覚し、受診する例が多いようです。
さらに全身性多汗症と局所多汗症は、発症の原因によって、「続発性多汗症」と原因不明の「原発性(特発性)多汗症」に分けられます。
続発性多汗症の原因としては、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、糖尿病などの内分泌・代謝の異常やパーキンソン病などの神経系疾患、自律神経失調症、更年期障害などが挙げられます。また、抗うつ薬、解熱剤などの薬剤が原因になることもあります。
初診時には、必ず発汗症状を伴う疾患などとの鑑別を行います。局所的に多量の汗が出る状態が原因不明のまま6カ月以上継続することに加え、図1の6項目のうち2項目以上に当てはまる場合、原発性局所多汗症と診断され、発汗検査を行って診断と重症度を確定します。

図1 原発性局所多汗症の診断基準
  • 25歳以前に症状が出た
  • 両手、両脇など、左右で同じ程度の量の汗をかく
  • 睡眠中は汗をかかない
  • 家族・親戚に多汗症の人がいる
  • 多汗が原因で、週1回以上、困ることがある
  • 日常生活に支障をきたす程の汗である
藤本智子氏の資料をもとに編集部作成

主な治療法と特徴

続発性多汗症は、疾患や薬剤など原因に応じた治療を行います。一方で、原発性多汗症は、根本的な治療法がまだありません。そのため、日常生活の支障を軽減するために主に次のような治療法が行われています。また、治療法に対する適用部位を図2で紹介します。

塩化アルミニウム溶液の外用療法

塩化アルミニウム溶液を塗り重ねることで汗を出す汗管を閉塞させ、発汗量を減少させる治療法です。就寝前に患部に塗布し、翌朝、洗い流します。効果が現れるまで毎日繰り返し、効果が現れれば塗布回数を減らします。ただし、効果を持続させるには継続治療が必要です。年齢や発汗部位を問わず、患者さん自身が自宅で実施できるので、第一選択の治療法です。直接肌に塗りこむクリームタイプやスティックタイプ、ロールオンタイプなどがあるので、患者さんが使いやすいものを選びます。
診療は保険適用ですが、治療薬としては保険適用外の処置薬の扱いとなるため院内で処方、調剤します。頭部や顔面、腋の下に対しては10〜20%程度の濃度で、手のひらや足の裏は発汗量が多いためそれよりも濃度を高くします。最近は塩化アルミニウム成分含有の市販の制汗剤も販売されていますが、医療用の外用薬に比べて濃度が低いので、中等度以上の多汗症の場合は十分な効果が期待できません。
なお、この治療法では、刺激性接触皮膚炎が副作用として生じることがあります。副作用が現れた場合は、塗布回数を減らしたり、休薬して保湿薬やステロイドを外用するといった副作用症状の治療が必要となります。また、手足の発汗量が多い患者さんは、塩化アルミニウム溶液を塗った上に、ラップフィルムなどで覆う密封療法を行うことがありますが、副作用のリスクが高くなるので注意が必要です。

イオントフォレーシス療法

特殊な機器を用いる治療法で、水道水を溜めた容器に手のひらや足の裏を浸け、そこに通電して治療をします。通電する際に生じる水素イオンが、汗孔部を狭窄させることにより発汗を抑制する仕組みです。機器を用いるため、患者さんの塗布方法が治療効果に影響を与えることがある外用薬よりも比較的安定した治療効果を期待できます。
保険適用の治療法ではありますが、すべての医療機関にこの機器が設置されているわけではありません。なお、この治療法は、1〜2週間に1回程度の通院治療を継続して行う必要があります。

A型ボツリヌス毒素製剤の局所注射療法

塩化アルミニウム溶液の外用療法で、十分な効果が得られなかった患者さんを対象に実施する治療法です。
A型ボツリヌス毒素製剤を患部に注射すると、交感神経に作用して発汗の指令を出すアセチルコリンを抑制し、発汗量を減らす効果があります。ただし、発汗抑制効果が続く期間は手のひらの場合は約2〜3カ月、腋の下の場合は約4~9カ月と個人差があり、効果を持続させるには年に数回の注射が必要です。
2012年11月より重度の腋窩多汗症の治療には保険適用になりました。しかし、頭部や顔面、手のひら、足の裏は保険適用外です。

内服薬

内服薬として抗コリン薬を用いますが、保険適用となっているのはプロパンテリン臭化物のみです。交感神経の興奮により発汗するので、その興奮を抑える治療法です。発汗部位を問わず使えるため、治療法が少ない頭部や顔面、全身性の多汗症に対して使用します。薬の持続効果は5時間程度のため、人前に立たなければいけないといった短時間で、汗による不都合を感じたくない場合に服用するとよいでしょう。
プロパンテリン臭化物は口や目の渇き、便秘や尿が出にくくなるなどの副作用があり、緑内障や前立腺肥大症には禁忌なので、投与には注意が必要です。

胸部交感神経遮断術

胸部の交感神経を遮断する外科療法で、主に手のひらの多汗症治療に行われます。当該部分の汗は出なくなりますが、胸、背中、お尻など別の部位からの発汗量が増す代償性発汗が生じることがあります。

図2 多汗症の主な治療法と適用部位
多汗症の主な治療法と適用部位の画像
藤本智子氏の資料をもとに編集部作成

患者さんに応じた外用薬の服薬指導を期待

塩化アルミニウム溶液の外用療法の効果は個人差があり、塗布回数が1週間に1回でよい患者さんもいれば、2~3日に1回塗布しなくてはいけない患者さんもいます。塗布方法は、クリームタイプであれば分厚く塗布部が白くなる程度に塗布し、さらに塗布時間が長いほうが効果を期待できます。ところが、効果が高まると同時にかぶれなどの副作用のリスクも増します。そのため、かぶれる患者さんには短時間でもよいのでかぶれない程度に継続して塗布するように指導したり、かぶれない患者さんには高い濃度を長時間塗布するように指導するなど、患者さんに応じた服薬指導が求められます。
現在、多汗症の抗コリン薬の外用薬が治験段階にあり、ここ数年のうちに新薬が登場するでしょう。今後も薬剤師の皆さんには、適正な外用薬の服薬指導や副作用を最小限にする情報提供を期待しています。

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