怠けや仮病と誤解されることで症状が悪化
起立性調節障害は、思春期に好発する自律神経機能不全のひとつで、OD(Orthostatic Dysregulation)と略されることもあります。朝起き不良を主訴として、立ちくらみ、気分不良、倦怠感、頭痛、腹痛、動悸などさまざまな症状を伴います。特にこれらの症状は起床時から現れますが午後には回復する傾向があるため、「怠け」や「仮病」と誤解されることが少なくありません。この誤解がストレスを生み出し、身体症状をさらに悪化させる一因にもなります。また、諸症状やそれによる生活リズムの乱れは、遅刻や欠席などで学業にも影響を及ぼし、不登校や引きこもりにつながることも指摘されています。好発年齢は10~16歳、有病率は、軽症例を含めると小学生の約5%、中学生の約10%で、男女比は男性1に対し女性が1.5~2倍と多いです。
脳血流不全の背景には社会生活の変化や性格も
起立性調節障害の病態として、起立に伴う循環動態変動に対する、自律神経による代償機構の破綻が知られています。人は臥位の姿勢から急に立ち上がると、重力によ り下半身に血液が貯留して血圧が低下しますが、自律神経の働きで血管が収縮して瞬間的にこれを防ぎます。ところが自律神経が乱れていると、こうした代償機構が働 かず脳血流や全身への血行が維持されません。その結果、立ちくらみやめまいといった症状が出現します。また、血圧維持のため心拍数を増加させる結果、頻脈や動悸など が現れることもあります。
【社会的要因】
起立性調節障害は昔から存在する疾患ですが、患者数の増加から、近年特に注目されています。患者増加の背景として、ひとつにはスマートフォンなどの電子機器の発達・普及や、夜型の生活など、社会生活の変化が考えられます。起立性調節障害の子どもの多くは、朝起きられない、夜寝つけない、睡眠の質が悪いという傾向にあります。その上、就寝間際まで電子機器の明るい画面でゲームやSNSなどに没頭すると、その刺激が入眠・熟睡を妨げます。
【そのほかの要因】
遺伝的素因や性格、生活習慣、季節や気候の変化、生活リズムの乱れ、心理的・社会的ストレスなどのさまざまな要因が、発症や悪化に影響を与えます。臨床で診る患者像としては、真面目で学業をはじめ多方面で周囲の期待に応えて頑張ろうとする子どもが多い印象です。
問診と新起立試験でサブタイプと重症度を診断
身体に生じた症状ごとに各診療科で検査を受けて、辛い症状があるにもかかわらず「異常なし」とされ、正確な診断までに時間を費やす例が少なくありません。基本的 には起立性調節障害の診療科は主に小児科です。また、症状が現れるのは主に朝のため、新起立試験(起立時の血圧・脈拍測定に関する検査)は午前中に行うことが推奨 されています。診察・検査は、次のような手順で進めます。
1) 可能性のある疾患の鑑別・除外
症状から起立性調節障害が疑われる場合、まず似た症状を呈する基礎疾患(甲状腺機能亢進症・脳腫瘍・鉄欠乏性貧血など)を除外します。
2) 新起立試験でサブタイプと重症度を判定
まず、10分間安静臥床させ血圧や脈拍を測定します。その後起立させ、低下した血圧が回復するまでの時間を 測り、さらに10分間血圧と脈拍を1分ごとに測定します。結果から4つのサブタイプと重症度を判定します。
〈起立直後性低血圧〉起立直後に強い血圧低下があり、血圧回復の遅延を認める。
〈体位性頻脈症候群〉起立中に血圧低下は認めないが、心拍数が著しく増加する。
〈血管迷走神経性失神〉起立中に突然の血圧低下が生じ、起立失調症状の出現や意識低下・意識消失発作などが起こる。
〈遷延性起立性低血圧〉起立直後の血圧 心拍は正常だが、起立3~10分後に収縮期血圧が臥位時より一定以上低下する。
なお、最近ではこのほかに、起立直後に収縮期血圧の著しい上昇を認めるタイプと、脳血流の低下がみられるタイプの存在も示されています。
3) 心理社会的因子の関与の有無を確認
新起立試験によるサブタイプと身体的重症度の判定後、「学校を休むと症状が軽減する」「気にかかっていること を言われたりすると症状が増悪する」などの、心身症としての起立性調節チェックリストを用い、心理社会的因子の関与の有無を確認します。
治療の基本となる疾病教育のほか日常生活の工夫や薬物療法も
治療としては、まず疾病教育、非薬物療法を行います。心理社会的因子の関与や重症度によって学…