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神経因性下部尿路機能障害

2019年1月号
神経因性下部尿路機能障害の画像

神経因性下部尿路機能障害は、中枢あるいは末梢神経障害が原因となって下部尿路機能 (蓄尿機能や尿排出機能)に異常が生じている状態です。以前は神経因性膀胱と称されていましたが、近年は神経因性下部尿路機能障害の名称が用いられるようになっています。今回は、東邦大学医療センター大橋病院泌尿器科教授の関戸哲利氏に、蓄尿と尿排出の仕組みを含め、病態について解説していただきました。

蓄尿と尿排出の仕組み

下部尿路機能には、尿を膀胱に溜める「蓄尿」と、膀胱から尿道を通して尿を排出する「尿排出(排尿)」の2つの働きがあります。
腎臓でつくられた尿は、尿管を通って膀胱に送られます。個人差がありますが、膀胱は約400~500mLの尿を溜めることができます。膀胱は尿量に応じて伸展しますが、この間、膀胱内は低圧状態が維持されるという特徴があります (低圧蓄尿)。膀胱の伸展の情報は、膀胱求心性神経から脊髄、中脳水道周囲灰白質を経て大脳辺縁系や島皮質、帯状回などへ伝えられ、私たちは尿意を感じるようになります。そして、前頭前野が蓄尿あるいは尿排出するかを最終的に判断します。尿排出の決定が下されると、脳幹部の橋排尿中枢のスイッチが入り、その情報が脊髄に伝わります。
下部尿路機能を制御する末梢神経は、骨盤神経(副交感神経)、下腹神経(交感神経)、陰部神経の3種類があります(図)。蓄尿に関しては、主に脊髄レベルで機能制御がなされ、交感神経の働きで膀胱の排尿筋が弛緩、膀胱の出口~近位尿道の内尿道括約筋が収縮します。さらに陰部神経の働きで外尿道括約筋が収縮し、文字通り水も漏らさぬ蓄尿機能が達成されます。尿排出に関しては、橋排尿中枢のスイッチが入ると、交感神経と陰部神経が抑制されて尿道が弛緩、副交感神経が活動して排尿筋が収縮し、その結果、残尿がなくなるまで勢いよく尿が排出されます。この際、尿道は弛緩していますので、膀胱内の圧力は高圧になることなく尿を排出することが可能です(低圧排尿)。

図 蓄尿と尿排出の仕組み

図 蓄尿と尿排出の仕組みの画像
関戸哲利
「神経因性膀胱 or 神経因性下部尿路機能障害」泌尿器外科 Vol.30 特別号 2017;
p254-268をもとに編集部作成

原因疾患と下部尿路機能障害による危険性

神経因性下部尿路機能障害は、下部尿路のメカニズムに関わる神経のどこかに障害が生じ、それが原因となって蓄尿や尿排出が上手くいかなくなっている状態です。患者さんの年齢は、子どもから高齢の方まで幅広く、男女差は原因となる神経障害によって様々です。
神経障害を引き起こす原因疾患は、脳血管障害やパーキンソン病、レビー小体型認知症などの大脳疾患、脊髄損傷などの脊髄疾患、二分脊椎や腰部脊柱管狭窄症、糖尿病、骨盤内悪性腫瘍などの末梢神経疾患の3つに大きく分けられます。
蓄尿機能障害としては、①排尿筋の不随意な収縮が生じる、②膀胱が硬くなって膨らみにくくなり低圧で蓄尿できなくなる、③尿道の閉鎖機能が低下する、といった障害が代表的です。一方、尿排出機能障害の代表的なものとしては、①排尿筋の収縮力が低下する、②尿道の弛緩が不十分になる、といったことが挙げられます。
下部尿路機能は正常な状態において低圧蓄尿、低圧排尿となっています。神経因性下部尿路機能障害の結果、蓄尿時や尿排出時に膀胱内が高圧になると、膀胱の変形や、膀胱から腎臓への尿の逆流、腎臓から膀胱へと尿が流入できずに腎盂・腎杯が拡張してしまう水腎症などが引き起こされることがあります。さらに高い確率で尿路感染症を合併するようになります。このように神経因性下部尿路機能障害は、腎機能低下や尿路感染症の危険を併せ持っているのです。

患者さんに合わせた排尿管理方法の決定

多くの患者さんは、何らかの原因疾患による神経障害によって蓄尿あるいは尿排出機能障害をきたし、当該疾患の診療科から泌尿器科にコンサルテーションが依頼されて受診に至ります。
診断あるいは排尿管理方法を決定するためには、尿流動態検査 (膀胱内圧測定、内圧尿流検査) が重要な検査となります。ただし、この検査は膀胱内圧、直腸内圧、括約筋筋電図、尿流量などを同時にモニターする比較的複雑な検査で、全ての泌尿器科医が精通しているわけではありません。

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