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高齢化する患者とともに変革が求められる透析医療

2017年8月号
高齢化する患者とともに変革が求められる透析医療の画像
日本透析医学会の第62回学術集会・総会(大会長:中元秀友・埼玉医科大学総合診療内科教授)が2017年6月16日〜18日、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で開催された。医療技術の進歩により透析医療は大きく発展した一方で、患者の高齢化が進み、新たな問題にも直面している。「変革期に来た透析医療」をテーマに、多様化する治療や終末期医療などについて意見を交わした。

CLOSE-UP1 地域医療の多職種連携情報共有で柔軟な対応を実現

2015年末時点の日本における慢性透析患者数は32万人以上に上り、そのうち65歳以上は65%以上、75歳以上の後期高齢者は32%にもなる。
ワークショップ「腎不全治療と地域医療連携」では、高齢の透析患者を多く抱える透析施設と医療機関や介護施設との連携について、各施設の取組みが紹介された。
佐藤循環器科内科の小川治美氏が勤務する透析施設では、65歳以上が透析患者全体の7割以上を占めるという。地域の医療機関との連携とともに居宅介護支援事業所や有料老人ホーム、グループホームとの連携が必須であるとして、透析施設で実施している具体的な連携について紹介した。
まず、透析施設と基幹病院は、FAXを利用して初診時の紹介状や予約手配を行っている。定期的な外来受診時には、患者は透析日に実施した各種検査データを基幹病院に持参し、受診後に基幹病院の医師は、必要に応じて透析施設の担当医あてに診療情報提供書を送付する。また患者が基幹病院に入院する際には、基幹病院で透析を実施するため、透析施設は必要な患者情報などを記載した看護要約を基幹病院の透析室に提供しているという。
患者が歯科などの診療所を受診する際には、患者は透析施設からの紹介状で自身が透析患者であることや受診までの経緯を診療所に伝える。抜歯などの処置や、内服薬の処方について診療所から問い合わせがあれば、透析施設が対応する。
有料老人ホームやグループホームとは、共有フォームをインターネットでやり取りし、情報交換が行われているという。透析施設は患者の透析の経過や処方薬、次回検査予定などを伝達し、老人ホームからは転倒や発熱といった患者の変化などの情報が透析施設に伝達される。
薬局については、9割以上の患者が透析施設近くの保険薬局で処方薬を受け取っているという。そのため患者が薬を受け取りに行く際には、透析施設が事前に薬局に連絡し、待ち時間なく薬を受け取ることができるようにしている。患者が長いあいだ薬を受け取りに来ない場合や他科受診で同じ内容の薬が処方されている場合は、薬局から透析施設に連絡が入る体制を取っているという。
小川氏は、診療情報提供書の提示や各種検査データ、患者状況を各医療機関や介護施設と情報共有することは、診療時間の短縮や不要な検査の防止、患者の待ち時間や身体的負担の軽減といったメリットがあると連携の重要性を訴えた。
本八幡腎クリニックの山田耕嗣氏は、透析患者のアドヒアランス向上と残薬対策として保険薬局との連携の重要性について講演した。透析患者は服用する薬の種類や量も多く、高齢の患者が多い。患者にとって近所で医療相談ができる保険薬局薬剤師の存在は大きいと山田氏は話す。
残薬が発覚することがもっとも多いのは、保険薬局で患者に薬を渡す際と山田氏は指摘する。2016年度の診療報酬改定で、処方医と薬局薬剤師が連携し、患者の残薬確認と残薬に伴う調剤数量の調整等が実施できるよう、調剤時に残薬を確認した場合の対応を記載する欄が処方せん様式に設けられた。山田氏は、残薬削減のために「医師は疑義照会を求める意思を示し、薬局は積極的に疑義照会を行うべき」と主張した。
また医療関係者間の連絡媒体として用いられているお薬手帳について、「お薬手帳には最低限の情報しか記載されていない。院内処方で出された薬はお薬手帳に記載がないことがあるので、保険薬局の薬剤師が患者から聞き出す必要がある」と山田氏は薬剤師のコミュニケーションの重要性についても指摘した。
山田氏は最後に、「医師や薬剤師だけで仕事が成立することが難しくなってきている。多職種連携で「できること」「できないこと」を判断し、患者の生活状況や家族的背景も考えて柔軟に対応すべき」とまとめた。

第62回日本透析医学会学術集会・総会が開催されたパシフィコ横浜の画像

第62回日本透析医学会学術集会・総会が開催されたパシフィコ横浜

CLOSE-UP2 コミュニケーション力を活かして認知症透析患者を支える

ワークショップ「透析患者の認知症を巡る課題」では、医師、看護師、栄養士などが現在直面している透析患者と認知症の問題点について意見を交わした。
岐阜県で透析クリニックや有料老人ホーム等を運営する大誠会の松岡哲平氏は、透析における認知症患者の課題について、事例を挙げて講演した。
高齢の透析患者の多くは送迎を利用して通院しているが、認知症の患者では、たびたび送迎時間に待合せ場所にいないという事例があったという。また、3〜4時間の透析時間に耐えられずに動いてしまう、血管と血液回路をつなぐ針を抜いてしまう(自己抜針してしまう)という事例も起きた。このため松岡氏の施設では、患者の気を紛らわせるために透析中に塗り絵をさせる、自己抜針防止のために針の固定方法を工夫するなど、できる限りの対応を行った。それでも通常の通院治療が難しくなった場合には、患者家族と相談し、在宅で実施できる腹膜透析への切り替えや、仕事帰りに家族が透析に立ち会うことができる夜間透析を実施したケースもあった。松岡氏は、「施設では患者に接するのは透析時間のみだが、家族はより長い時間を患者と共有し、苦労していることがある。医療スタッフには家族の苦労を感じる配慮が必要」と強く語った。
横浜栄共済病院の齋藤かしこ氏は栄養面の問題点を指摘した。高齢者は社会的・精神的要因や加齢が原因で低栄養になりやすいが、さらに透析患者では尿毒症やアシドーシスによる食欲の低下、透析液への栄養損失など、低栄養に対して特有の危険因子を持つ。低栄養から低体重になると認知機能が急激に低下するといわれており、齋藤氏はそれを防止するには早期に栄養評価を行うことが重要だという。
認知症予防に効果的ともいわれる抗酸化物質や不飽和脂肪酸が多い食品は、それぞれカリウムやリンを多く含む食品であり、透析患者は摂取しにくい食品である。「透析患者は認知症予防の食品を摂取するよりも、摂取する食物の種類と数と総合バランスこそが重要」と齋藤氏は話した。
認知症患者には、食べ物と認識できない、箸などの使い方を忘れる、食事を中断してしまうといった様々な問題行動が現れることがある。齋藤氏は、それぞれの原因に応じた対策が必要とし、患者と一緒に食事を摂ることで患者に食べ物と認識させることや、患者が食べやすい形態に調理すること、患者を食事に集中させる環境づくりなどの対策を紹介した。患者の食事量が低下している場合は、おやつや栄養補助食品、無味無臭の中鎖脂肪酸油(MCTオイル)やごま油をおにぎりなどに加えてカロリー摂取をさせることも良いという。こうした工夫に加え、齋藤氏は栄養相談の際には、必ず患者の出身地を確認しているという。故郷や母親を思い起こさせる料理であれば、食事量が低下している患者でも食べることがあるため、このような情報の聞き取りは非常に有用であるとまとめた。

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認知症や地域医療連携などをテーマに講演が行われた

一般社団法人日本透析医学会(The Japanese Society for Dialysis Therapy)
〒 113-0033 東京都文京区本郷2-38-21アラミドビル

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