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Special Report

がん薬物療法における保険薬局薬剤師の役割とは?

2018年9月号
外来がん患者を切れ目なく支えるためにの画像
日本臨床腫瘍薬学会(JASPO)では、外来がん治療を安全に実施するための知識・技能を習得し、地域がん医療において患者さんとその家族をトータルにサポートできる薬剤師の育成を目指し、「外来がん治療認定薬剤師」(APACC)を認定しています。外来がん治療において、保険薬局薬剤師の役割は重要ですが、APACCのうち保険薬局薬剤師の人数は全体の約5%に過ぎません。JASPOではAPACCを取得している保険薬局薬剤師にアンケートを行い、がん患者さんへの薬学的ケアの内容や、認定取得のメリット、薬薬連携の状況などを調査しました。アンケート結果からは、APACC取得者が行っている外来がん治療患者ケアの実態と共に、患者さんを切れ目なく支えるために、さまざまな問題に悩みながらも取り組み続ける薬剤師の姿が見えてきました。

がん領域の知識向上のために取得 患者ケアに自信をもって取り組むことができた

がん薬物治療は、経口抗がん薬を含めその多くは入院から外来へと移行しています。外来で治療を受けるがん患者さんをサポートするためには個々の薬剤師の知識向上に加え、病院と保険薬局との連携が欠かせません。JASPOでは、APACCを認定すると共に、地域医療連携の推進にも努めています。APACCの2017年3月時点の認定者は472名で、そのうち保険薬局薬剤師は22名と4.6%に過ぎません。全国でさらに多くの保険薬局薬剤師がAPACCに認定されることで連携が進み、患者応対の質が向上すると考えます。本稿で保険薬局APACCに実施したアンケート結果を示すことで、保険薬局薬剤師の方にはAPACCに関心をもつきっかけとなり、病院薬剤師の方には保険薬局薬剤師が困っていることを知っていただき、薬薬連携の参考になればと考えます。
アンケートは2014~2017年度にAPACC認定を受けた保険薬局に勤務する22名を対象に実施し、2018年3月に開催された「日本臨床腫瘍薬学会学術大会」で発表しました。
薬剤師の経験年数は5年以上10年未満が10名と最も多く、5年未満も1名いました(図1)。薬剤師の経験年数が少なくても認定取得は可能であることがわかります。認定には事例の提出が必要になりますが、認定取得時に病院薬剤師だった方は3名で、残りの19名は保険薬局薬剤師として事例を提出しています。APACC以外の認定を取得している方は6名おり、日本糖尿病療養指導士、がん薬物療法認定薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師、小児薬物療法認定薬剤師などを取得していました。

図1 薬剤師経験年数は?

薬剤師経験年数は?の画像
APACCアンケート結果より

APACCを取得した理由は、「がん領域の知識の向上に役立つと考えたため」が一番多く、全員が理由に挙げました(図2)。次に「がん患者に対してもっとできることはないかと考えたため」で、日頃からがん患者さんと応対していて、患者さんのために何かしたいという純粋な気持ちから取得した方が多かったのではないかと思います。3番目に多かったのが「薬剤師としてさまざまな資格認定を取得したいと考えているため」で、薬剤師の職能全般をさらに向上させたいと考えている意欲的な方も多いようです。

図2 APACCを取得しようと思った理由は何ですか?(複数回答可)

APACCを取得しようと思った理由は何ですか?の画像
APACCアンケート結果より

APACCを取得して役に立ったこととして、21名の方が「外来がん治療患者のケアを、より自信をもって取り組めるようになった」と答えています(図3)。研修を受け研鑽を積み、実際に応対した結果を事例として提出し、筆記試験と面接試験に合格するという過程を経て認定を取得したことで、がん患者さんのケアに自信をもつことができたのだと思います。「患者からより信頼されるようになった」と10名の方が答えていることも、その表れではないでしょうか。

図3 APACCを取得して役に立ったことはどのようなことですか?(複数回答可)

APACCを取得して役に立ったことはどのようなことですか?の画像
APACCアンケート結果より

また、「医薬・薬薬連携がよりスムーズに進むようになった」「職場内での待遇があがった」と回答した方も多くいました。保険薬局薬剤師として、病院との連携構築や組織内での地位向上の要素のひとつにAPACCがなっているようです。

注射抗がん剤や緩和ケアの知識も活用しさまざまながん種に対応

薬剤師ひとりあたりの応対人数をみると、月10名未満が6名、月10~50名未満が10名、月50名以上が6名で(図4)、がん種としては、あらゆるがん種に対応していることがわかりました(図5)。保険薬局であるため、ホルモン療法や経口抗がん薬のみの治療が多いと予想しましたが、注射抗がん剤を含む治療や緩和ケアの患者も多く、注射や緩和ケアに関しての知識も必要なことがわかります(図6)。

図4 現在、月に約何人の外来がん治療患者に対して薬学的ケアを行いますか?

現在、月に約何人の外来がん治療患者に対して薬学的ケアを行いますか?の画像
APACCアンケート結果より

図5 薬学的ケアを行っている外来がん治療患者のがん種は何ですか?(複数回答可)

薬学的ケアを行っている外来がん治療患者のがん種は何ですか?の画像
APACCアンケート結果より

図6 薬学的ケアを行っている外来がん治療患者はどのような治療を受けていますか?(複数回答可)

薬学的ケアを行っている外来がん治療患者はどのような治療を受けていますか?の画像
APACCアンケート結果より

薬学的ケアを実施する際、臨床検査値の確認をどのように行っているか尋ねたところ、全薬剤師が「患者が持っている臨床検査結果表を確認している」と回答しました。「病院・クリニックが臨床検査値を処方箋やお薬手帳などにより公開している」というところもありました。
臨床検査結果表を患者さんが持参していない場合でも、「患者より口頭で確認している」「応需先に電話・FAX等で確認している」などさまざまな方法で臨床検査値の確認を行っています(図7)。検査値は「副作用の確認」のほか、「処方監査」「患者への適切なアドバイス」「経時的な変化の確認」に活用されていました。

図7 臨床検査値の確認はどのように行っていますか?(複数回答可)

臨床検査値の確認はどのように行っていますか?の画像
APACCアンケート結果より

臨床検査値の確認を毎回していない・できていない理由として、「病院・クリニックが臨床検査値の公開をしていないため」(14名)、「患者への臨床検査結果の聴取・確認が、拒否などの理由で行えないため」(15名)と答えています(図8)。

図8 臨床検査値の確認を毎回していない・できていない理由は何ですか?(複数回答可)

臨床検査値の確認を毎回していない・できていない理由は何ですか?の画像
APACCアンケート結果より

今後は、病院・クリニックによる情報公開とともに、保険薬局薬剤師による臨床検査値の確認の必要性を理解してもらうため、患者さんへの啓発活動が必要ではないかと思われます。さらに「検査結果の確認に時間や手間がかかってしまうため」といった理由もあり、保険薬局内部のシステムの改革も必要です。
副作用の確認については、「現在の治療薬についての副作用を網羅的に確認することができている」と7名が答えており、「副作用を確認することができているが、一部の副作用にとどまっている」と14名の方が答えています(図9)。

図9 がん薬物療法の副作用について十分確認することができていますか?(複数回答可)

がん薬物療法の副作用について十分確認することができていますか?の画像
APACCアンケート結果より

副作用を網羅的に確認することができている理由としては、「副作用確認のためのツールを活用しているため」(7名)、「がん薬物治療の副作用について十分な知識をもっているため」(3名)、「患者応対に十分な時間をかけることができるため」(4名)でした。
副作用のうち、患者さんの自覚症状として聴取しやすい「悪心・嘔吐」「口内炎」「便秘・下痢」「末梢神経障害」「手足症候群」は全員が確認できていました(図10)。

図10 確認している副作用はどのようなものですか?(複数回答可)

確認している副作用はどのようなものですか?の画像
APACCアンケート結果より

副作用を十分に確認できない理由として、「副作用の種類が多く応対時にすべて挙げて確認することが難しいため」(9名)、「応対時間が足りないため」(7名)、「抗がん剤の副作用についての知識が不足しているため」(2名)でした。その他に、「レジメンが不明、検査値が不明」「患者が調剤薬局でいろいろ聞かれることを嫌がる、もしくは、病院で医師が確認しているから大丈夫と思い込んでいるため深く聞かれることを望まない場合がある」などの回答がありました。
抗がん剤の副作用は多岐に渡り、患者さんが訴えるもの以外にも、患者さん自身が副作用と考えていない症状も数多くあり、網羅的に副作用を確認する必要があります。そのためには、ツールの活用、知識の研鑽、副作用の確認に十分な時間をかけられるシステムづくりが必要ではないかと考えます。

カンファレンスに参加し病薬連携を推進 薬学的ケア向上のためツールやリーフレットを開発

薬学的ケアを向上させるために、病薬連携・薬薬連携の推進やツール・リーフレットの開発などさまざまな取り組みを行っていることがわかりました。具体的には、「病院薬剤師と定期的なケースカンファレンスを行っている」「地域医療機関でルーチンで処方される薬剤はパンフレットを作成し、薬局内へ掲示している」「クリニカルパスを開発し運用している」「化学療法施行中の患者にできるだけ地域医療連携システムに登録してもらい、入院中の経過・検査データを確認している」などの事例がありました。
保険薬局でのAPACC認定取得者・取得希望者の増加のため、外来がん治療患者さんへの薬学的ケアの向上のために、今後必要な物やことについて聞いたところ、最も多くの方が「保険薬局APACCの取得に対する診療報酬上の評価」を挙げました。「APACCの有用性を医師会等へアピールしてほしい」「APACCが在籍する保険薬局を病院薬剤部や一般患者向けに公表し、活用を勧めてほしい」などの意見もありました。
保険薬局での外来がん治療患者さんに対する薬学的ケアのあるべき姿については、「がん患者の身近な相談相手・理解者となる」「患者の生活環境も含めてトータルサポートをしていくよきパートナーとなる」「がん治療に対する不安を取り除き、がん治療を効果的に円滑に進める一助となる」などの意見がありました。

外来がん治療の向上のため APACCの連携を推進

患者ケアの質の向上のため、医師・病院薬剤師との連携を進めていくためにも、がん治療に関する知識は重要であり、日々自己研鑽に努めています。しかし、保険薬局においては、得られる情報がまだまだ少ないこと、がん患者ケアにかける人員不足・時間不足など、個人的には解決できない組織的な問題を抱えていることがわかりました。病院薬剤師の指導内容と薬局での指導内容を共通化するためにも、情報公開(レジメン・検査値)や患者情報の共有の必要性は以前から言われていますが、保険薬局APACCの周りでも病薬連携、薬薬連携が進んでいるところと進んでいないところがあるという現状がわかりました。
しかし、保険薬局APACCが誕生した2012年当時よりは着実に全国で情報公開や情報連携が進んでいると感じます。
当薬局にはAPACCが4名います。外来がん治療患者さんのかかりつけ薬剤師となり、日々研鑽してきた知識を活かすことで患者さんから感謝の言葉をいただくことも多くあります。
保険薬局薬剤師が病院と適切な連携を取りながら積極的に外来がん治療に関わることで、生活をしながら治療を継続している多くのがん患者さんがより安心して治療を受けることができるようになっていると実感しています。
全国の病院APACC、保険薬局APACCが協力し、外来がん治療患者さんが、切れ目のない繋がるケアを受けることができるように、連携を進めていきましょう。

外来がん治療認定薬剤師(APACC)にご興味のある方は

日本臨床腫瘍薬学会(JASPO)のホームページよりお問い合わせください。

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