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ハイリスク薬加算の薬歴の書き方は?服薬指導例についても解説
Special Report

新規緑内障患者に薬剤師が介入 アンケートと動機づけで初回脱落率が低下

2018年2月号
新規緑内障患者に薬剤師が介入アンケートと動機づけで初回脱落率が低下の画像

緑内障は日本における失明原因の第1位であり、40歳以上の20人に1人が罹患しているといわれる。長期にわたる治療期間に薬剤を継続して使用することが重要であるが、海外の報告によると糖尿病や高血圧など他の慢性疾患に比べて服薬継続率が低く1)、患者のアドヒアランスを維持し、いかに治療の継続を支援していくかが課題となっている。新規緑内障患者に対してアンケートを実施し、結果に応じた点眼指導を実施することで初回脱落率の有意な低下を導いたという阪神調剤薬局 霞が関ファーマシーの野田峻佑氏に取り組みを聞いた。

緑内障の症状と治療

緑内障は眼圧の上昇により視野が狭くなる病気と定義される。眼球は「房水」という液体が内部で循環することで、ほぼ一定の圧力が眼内に発生して形状を保っている。この圧力を眼圧と呼び、眼圧が上昇すると視神経が圧迫され、障害される。自覚症状としては、見えない場所(暗点)が出現する、視野が狭くなるという症状が最も一般的である。多くの場合、病気の進行は緩やかであり、両目が互いの視野を補うために、初期は視野障害があっても自覚しないことがほとんどで、早期発見、早期治療が重要となる。
眼圧の正常値は10~21mmHgとされており、日本人は眼圧が正常範囲内でも発症する正常眼圧緑内障が多い。正常眼圧緑内障の原因や発症メカニズムは分かっていないが、強度近視は緑内障のリスクファクターの一つとされている。
障害を受けた視神経を元に戻すことはできないため、緑内障の悪化を防ぐために眼圧を下げることが基本治療となる。治療法には、薬物療法、レーザー療法、手術療法などが行われる。薬物療法では、プロスタグランジン関連薬、交感神経β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬、交感神経α2刺激薬、ROCK阻害薬などが用いられる。

阪神調剤薬局 霞が関ファーマシーの画像
東京都千代田区にある阪神調剤薬局 霞が関ファーマシーでは約70人の新規緑内障患者にアンケートを実施した

継続率は3カ月で73.2%まで低下

緑内障は生涯にわたる管理が必要となるが、治療効果を実感できるわけではないため、点眼のわずらわしさや副作用のためにアドヒアランスが低下しやすい。新規に診断された日本人緑内障患者約3,000例を対象に薬剤使用の継続率について調査2)した結果によると、緑内障の継続率は開始後3カ月で73.2%まで低下し、治療開始早期の脱落が多い傾向がみられた。開始から6カ月後の継続率は68.1%、12カ月後では60.9%と、治療が長引くにつれて継続率は低下することから、初回の脱落を防ぐことが重要である。

阪神調剤薬局の取り組み

阪神調剤薬局 霞が関ファーマシーの野田峻佑氏らは、患者に必要とされる薬局像を模索する中で、自覚症状がない疾患の治療継続率に着目。新規緑内障患者に薬剤師が介入した場合に来局継続率が向上するか検討した。
調査は、阪神調剤薬局グループ内で眼科処方箋応需数の多い5店舗(薬剤師22名)で、2016年11月21日~2017年2月20日までに過去1年間で緑内障治療剤の処方がなかった患者128人を対象に実施した。投薬の待ち時間にアンケートを行い、128人のうちアンケートに回答した69人に回答内容に応じた服薬指導を行った。
初回アンケートは、①医師からの説明状況と疾患の理解度を測る質問、②患者の治療に対する不安を聞き取る質問、③服薬遵守率を高める質問、④次回来局を意識づける質問─の4つの質問で構成した。現場の薬剤師と患者に必要なことは何かを議論しながら作成したという。
アンケート結果から、①の疾患の理解が不十分な患者には疾患の説明を行い、②の治療に関する不安で「点眼液の効果や副作用」を挙げた患者には副作用について指導するなど、患者の不安や疑問を解消する服薬指導を行うよう工夫した。不安を聞き取る質問や③の服薬遵守率を高める質問では、患者の不安に寄り添い、次回に服薬を遵守できていればほめることで、患者との良好なコミュニケーションに努めたという。④の質問で次回の診察予定を決めていないと答えた患者には点眼薬1本がなくなる時期を目安として伝え、診察に対する動機づけを図った。
初回アンケートを実施した患者に対しては、2回目来局時にもアンケートを行った。2回目アンケートでは、治療継続で不安なこと、点眼のタイミングや点眼時のポイントの確認、気になる副作用について質問し、とくに服薬状況や副作用に関する不安に着目して服薬指導を実施した。
「点眼薬1本当たり1カ月の投与期間とし、プラス1カ月以内に来局しなかった患者」を脱落と判定し、前年の同一期間の患者群(前年群)と介入群の来局継続率を比較したところ、前年群は134例で6カ月目の継続率は46.3%だったのに対し、介入群の6カ月目の継続率は61.7%と高かった(図1)。また調査期間中のアンケートあり群とアンケートなし群の脱落率を比較したところ、アンケートあり群は初回脱落率が有意に低く(図2)、アンケートが脱落防止に寄与していることをうかがわせた。一方で、2回目の脱落率を見るとアンケートなし群は脱落率が低かった。この結果について野田氏は「アンケートを実施したことで薬剤師の意識が高まり、アンケートを実施しない患者さまに対してもよいコミュニケーションを取ることができました。そのことが表れた結果だと分析しています」と話す。

図1 前年群、介入群の継続率の比較
前年群、介入群の継続率の比較の画像
野田峻佑氏 提供
図2 アンケートあり群とアンケートなし群の脱落率の比較
アンケートあり群とアンケートなし群の脱落率の比較の画像
野田峻佑氏 提供

アンケートで薬剤師と患者の意識が変化

アンケートを実施したことで、薬剤師、患者の双方の意識が変わり、より良好なコミュニケーションが図られるようになったと野田氏は振り返る。前年群の1年継続率が3割程度しかなかったことにショックを受けた薬剤師は多かったが、患者のニーズに応じた介入によって来局継続率を上げられるという手応えを得て、服薬指導に対する意欲がこれまでよりも高まったそうだ。
アンケートによって服薬指導の時間が長くなるとの懸念もあったが、投薬の待ち時間に回答してもらい、ポイントを絞った効率的な指導を行うことで、従来とほぼ同じ時間内で実施することができたという。
患者の意識にも変化がみられた。病識に関する質問をアンケートに加えたことで、「患者さまに『病気のことも聞いていいんだ』と思っていただけたようです。患者さまからの質問や相談が増え、一歩つっこんだ指導ができるようになりました」と野田氏。
今回の結果を2017年11月26日に開催された日本薬局学会学術総会で発表したところ、会場からは今後の取り組みに対して期待が寄せられた。「今回のアンケートを通じて、患者さまのニーズを把握して動機づけることが大事だと分かりました。今後は同様の取り組みを他店舗や他の疾患に広げていきたいと考えています」という。

野田峻佑氏の画像
第11回日本薬局学会学術総会で研究結果を発表する野田峻佑氏
参考文献
  1. Yeaw J, et al. J Manag Care Pharm 2009; 15: 728-740.
  2. Kashiwagi K et al; Jpn J Ophthalmal.58(1).58-74.2014

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