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Special Report

医療・介護の同時改定で変わる地域医療提供体制

2018年2月号
医療・介護の同時改定で変わる地域医療提供体制の画像

国は2025年に向けて、高齢になっても疾患を抱えていても可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域包括ケアシステムの構築を推進している。2025年はゴールではなく、未知の時代・社会への通過地点にすぎない。2018年に行われる診療報酬・介護報酬の同時改定で日本の医療・介護は大きく変わろうとしている。2017年11月14日、日本アルトマーク主催のシンポジウムが東京都内で開催され、公益法人社団全日本病院協会会長の猪口雄二氏と公益財団法人脳血管研究所附属美原記念病院院長の美原盤氏が、地域医療のあり方について指針を示した。

「大変革期における地域医療の姿」2018年度医療・介護同時改定を考える

演 者 猪口 雄二氏の画像
演 者 猪口 雄二氏
医療法人財団医寿康会 理事長/公益法人社団全日本病院協会 会長

18年の同時改定は大きな舵切りの最後の機会

第7次医療計画、第7次介護保険事業計画が2018年度にスタートします。それとともに、診療報酬・介護報酬の同時改定も予定されており、高齢化に耐えうる地域医療提供体制を構築するうえで重要な局面を迎えています。
2018年度の診療報酬・介護報酬の同時改定を控え、2,500以上の病院が加盟し、その90%以上を中小民間病院が占める全日本病院協会は生き残りをかけて経営戦略を真剣に考えなくてはなりません。
第7次医療計画では、2018年度から医療計画と介護保険事業(支援)計画が同時に見直されます。また、全国で市町村を中心に地域包括ケアシステムが構築されます。地域医療構想や介護保険事業(支援)計画との整合性を図るために都道府県と市町村の協議の場が設置されています。地域医療構想調整会議は超高齢社会の医療・介護の道筋をつけるための重要な機会になりますが、実際に病床機能を変更するように稼働している地域はまだないのが現状です。
現状のままだと、全国の医療機関の病床数は2013年の時点で134.7万床だったのが、2025年には152万床に膨らむと推計されています。国は病棟の機能分化や連携などで115万~119万床を目指すとしています。また、2025年に向けて在宅医療等に、新たに30万人程度のサービスが必要になると考えられており、療養病床の転換などによる在宅医療、介護施設の整備などの対応が見込まれています。
長期療養の要介護者に医療と介護を一体的に提供する目的で新たな介護保険施設として「介護療養院」が創設されます。介護療養院は介護保険法上の介護保険施設ですが、医療法上は医療提供施設として位置づけられ、現行の介護療養病床の経過措置が6年間認められます。
2018年度の診療報酬・介護報酬は6年に一度の同時改定で、大きな節目になります。さらにその次の診療報酬・介護報酬の同時改定は2024年に行われますが、今回の同時改定は2025年までに大きく舵を切ることができる実質的に最後の機会であり、「重要な分水嶺」になるといわれています。

日本の医療に求められる高生産性・高付加価値構造への転換

診療報酬や医療制度の改定と同等に社会に大きな影響を及ぼす問題として、私は政府の「働き方改革実行計画」に注目しています。「働き方改革」は、労働時間の上限を設定し、違反すると罰則を科す方向で検討されていますが、日本医師会と四病院団体協議会はこれに対して、医師法に規定される応召義務を踏まえ、「医師の働き方は例外」を求める要望書を提出しました。これを受けて「働き方改革実現会議」(議長:安倍晋三内閣総理大臣)は、「改正法の施行期日の5年後を目途に規制を適用する」などとしました。
今後、日本の医療の高生産性・高付加価値構造への転換が必要になるといわれており、患者の多様なニーズに応えられる環境をつくることが重要です。全日本病院協会では2018年度から病院総合医の養成事業をスタートさせる予定です。

地域医療構想と地域包括ケアシステムの中での病院経営戦略 中規模民間病院の立場から

演 者 美原 盤氏の画像
演 者 美原 盤氏
公益財団法人脳血管研究所附属美原記念病院 院長/公益社団法人全日本病院協会 副会長

急性期の十分なリハビリで回復期の在院日数が減少

地域医療構想と地域包括ケアシステムは、人口減少と超高齢化によって大きく変わる疾病構造に対する解決策であり、限られた医療資源を効率的・効果的に活用するとともに、病床の機能を分化し、連携できる医療・介護サービスの提供体制を構築する必要があります。
美原記念病院は1964年に設立されました。設立当初から、「脳・神経疾患の急性期から在宅まで一貫した医療・介護の提供」がミッションです。
病棟運営実績(2016年度)は、平均在院日数は急性期病棟が9.3日(全国平均12.5日)、回復期リハビリテーション病棟が44.5日(同76.6日)、障害者病棟が23.5日(同108.4日)となっています。専門特化し、ケアミックスを導入したことで病院全体の在院日数が短縮し、効率的な医療を提供することが可能になりました。
在院日数は、当院の急性期病棟で治療し、当院の回復期リハビリテーション病棟で治療した場合は14.1日で、紹介転院してきた患者(32.5日)より有意に短くなっています。急性期に十分なリハビリテーションを行って廃用予防を徹底することで、回復期の在院日数の減少につながっています。その結果、脳梗塞患者の医療費(1入院あたり)は全国平均と比較して約200万円安くなっています。

徹底したデータ管理システムで迅速に臨床・経営を分析

当院では急性期医療を充実させるために病棟の一部を地域包括ケア病床に転換しました。2000年に病院を改築した際、急性期機能をより特化するために3病棟(療養病棟1棟、急性期病棟2棟)を4病棟(療養病棟3棟、急性期病棟1棟)にしました。2016年には、回復期リハビリテーション病棟の一部を地域包括ケア病床に転換し、サブアキュート、ポストアキュートの機能を追加しました。地域包括ケア病床の導入によって急性期病棟、回復期リハビリテーション病棟がうまく機能するようになりました。
当院が地域で独自のケアミックスを確立している背景には、徹底したデータ管理システムも重要な役割を果たしています。その中枢が情報管理部門であり、多職種を一室に配置することで、データに基づく臨床・経営の分析が迅速にできるしくみになっています。
当院は2016年、群馬県で初めて特定行為研修指定研修機関に指定され、気管カニューレの交換の研修を実施することになりました。研修を修了すると、医師に代わって決められた医療行為をする特定行為看護師として認められます。
伊勢崎市には現在、地域包括支援センターが民間委託され、行政の基幹型地域包括支援センターを含め9つの拠点が機能しています。公益財団法人脳血管研究所も「伊勢崎市高齢者相談センター北・三郷」としてその一翼を担っています。また、当法人では認知症初期集中支援チームを結成して、定期的に基幹型地域包括支援センターの保健師と会議を開きサポート活動の浸透を図っています。
2025年に向け、さらにその先も続く超高齢社会で、行政任せでなくて医療機関が中心になって、住民も巻き込みながら当事者意識を持って地域を変えていく気持ちが重要になります。

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