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骨粗鬆症性椎体骨折の新治療法

2018年10月号
骨粗鬆症性椎体骨折の新治療法の画像
超高齢社会を迎えた日本では、骨粗鬆症による骨折の対策が課題となっている。東海大学が2018年7月30日、都内で開催したプレスセミナーで、同大学医学部付属八王子病院整形外科医長の山本至宏氏は椎体骨折の新しい治療である経皮的椎体形成術について紹介した。

2017年10月1日現在の日本の65歳以上の人口は3,515万人(平成30年版高齢社会白書)となっている。日本骨粗鬆症学会・日本骨代謝学会・骨粗鬆症財団編『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版』では骨粗鬆症患者数を約1,280万人と推計している。女性は男性より約3倍多く、後期高齢女性のおよそ半数が骨粗鬆症を罹患しているとみられている。
介護が必要になる人の5人に1人は骨折や転倒などが原因で、骨粗鬆症による骨折箇所は椎体(26%)が最も多く、大腿骨近位部(19%)、橈骨遠位部(18%)、上腕骨近位部(6%)がそれに続く。骨折による死亡の相対リスクは、橈骨遠位部を1とすると、大腿骨近位部6.7、椎体8.6となっている。
脊椎骨折のタイプは椎骨の骨折部位によって、圧迫骨折(前方)、破裂骨折(前方・中間)、脱臼骨折(椎骨全体)に分けられる。骨粗鬆症の骨は密度が低くスカスカで折れやすい。骨粗鬆症による脊椎骨折は従来、圧迫骨折といわれていたが、病態的に圧迫骨折と破裂骨折の両方が存在することから、骨粗鬆症性椎体骨折と呼ばれるようになった。
山本氏が特に注目しているのは、1つの椎骨で骨折が起きると1年以内に続発性骨折を起こしやすくなり、骨折の数が増えるほど死亡率が高くなる点だ。死亡率は、骨折なしを1とすると、骨折1個は1.2倍、2個は2.5倍、3個以上は4倍になる。したがって、「脊椎骨折を起こしたら、続発性骨折を起こさないようにすることが重要です」(山本氏)。
骨粗鬆症性椎体骨折の治療は従来、安静や装具による保存的治療が中心だった。しかし、保存的治療(安静加療)を支持するエビデンスはなく、むしろ骨折の進行や廃用症候群などによってQOL低下を招きやすい。保存的治療で麻痺や痛みが改善しない場合は、人工椎体置換による脊椎再建術が検討されるが、侵襲が大きく適応が限られる。
そんな閉塞感の強かった骨粗鬆症性椎体骨折治療に風穴を開けたのが経皮的椎体形成術(Balloon Kyphoplasty:BKP)で、2011年から医療保険適用となっている。加齢による原発性骨粗鬆症に起因する骨折(1カ所)で、十分な保存的治療によっても痛みが改善されない患者が適応になる。
背中の2カ所を5ミリ程度切開して管を通し、骨折した部位をバルーンで広げてから特殊なセメントを注入して固定する。BKPの特徴は、手術時間が短く、出血もごく少量で、人工椎体置換術に比べて侵襲が小さいことだ。術後約2~3時間で自力歩行することができて、2〜3日で退院することも可能だという。
同病院ではこの約3年間で169例(男性47例、女性122例、年齢64歳~98歳)にBKPを実施した。その結果、骨折でつぶれた椎骨の高さが術前に比べて術後1カ月で有意に復元され、保存的治療に比べて続発性骨折の発生頻度は低かった。また、患者の満足度をアンケート調査した結果、疼痛関連、腰椎機能、歩行機能、社会生活、心理状態などすべての項目で改善していることがわかった。
山本氏は、「人工椎体置換術の対象は80歳前半までだが、BKPは98歳の患者にも実施できたことは特筆すべき」としながらも、BKP、保存的治療、人工椎体置換術などはあくまで骨折に対する治療であり、根本的には骨粗鬆症に対する治療が必須であることを強調した。

日ノ出町店の画像

東海大学医学部付属八王子病院 整形外科医長
山本至宏氏

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