視覚が障害されると、聴覚が鋭くなるワケとは
久坂部羊氏の小説『院長選挙』1)に、大学病院の眼科教授と耳鼻科教授が、それぞれの科の優位性を言い合う場面が出てきます。
眼科教授「人間の得る情報の80パーセントは視覚によるものなんだ。それだけ目は重要だということだ。ちなみに、聴覚の情報量は7パーセントしかない」
耳鼻科教授「私は聴覚のほうが重要だと思いますよ」「目に障害がある音楽家なら、宮城道雄や辻井伸行など枚挙にいとまがありません」
目と耳はどちらも重要な感覚器官です。しかし、ほとんどの哺乳類で聴覚や嗅覚が優位であるのに対し、ヒトを含む真猿類は視覚優位の動物です。視覚の発達は、三次元的な樹林の中で枝から枝へと敏捷に移動できるという驚異的な利点を真猿類にもたらした、と理論社会学者のジョナサン・H・ターナー博士は指摘しています2)。
視覚が失われると、仕事や生活に大きな影響が生じますが、脳にも変化が起こり、他の感覚が研ぎ澄まされるようです。視覚障害者では、後頭葉の視覚野において、視覚情報の処理能力が低下しているものの、運動、聴覚、言語に関わる領域で処理能力が向上…