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ハイリスク薬加算の薬歴の書き方は?服薬指導例についても解説
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「守れ腎臓」ふじえだCKDネット 藤枝市立総合病院

2017年4月号
Specialistに聞く 「守れ腎臓」ふじえだCKDネット 藤枝市立総合病院の画像
院長
中村 利夫
病床数
564床(届出病床数 ICU8床、NICU6床)、透析ベッド数:21床
所在地
〒426-8677 静岡県藤枝市駿河台4-1-11
TEL
054-646-1111

活発な医療連携の中から発足した「ふじえだCKDネット」

横山 日出太郎 先生の画像
藤枝市立総合病院 副院長
横山 日出太郎 先生
健康長寿社会の実現に向けて予防医療の普及・推進が喫緊の課題とされるなか、静岡県藤枝市では、市民、事業者、行政が一丸となった健康増進への取り組みが着実な成果を上げてきました。市民参加型の健康づくり運動を展開した「めざそう!“健康・予防日本一”ふじえだプロジェクト」では、厚生労働省の「第1回健康寿命をのばそう!アワード」において優良賞を受賞しています。
そうした実績もあって一般市民の健康への意識が高く、特定健康診査受診率が全国および静岡県の平均を上回っています。その藤枝市において、2016年3月、市民のCKDの重症化予防を目的とした地域医療連携の取り組み「守れ腎臓!ふじえだCKDネット」(以下「ふじえだCKDネット」)がスタートしました。地域の基幹病院である藤枝市立総合病院、志太医師会、藤枝薬剤師会、そして行政がネットワークを構築し、連携してCKDの予防策を進めています。
藤枝市では、以前から各診療領域での病診連携が密に行われ、専門医不足の状況においても助け合いで補ってきました。藤枝市立総合病院で副院長を務める横山日出太郎先生は、「当院では、脳外科の医師が在籍していなかった時期には、近隣の診療所にいらっしゃる専門医の先生にCT画像を読影していただいたり、連携を密にし、近隣の焼津市立総合病院の助けを借りて乗り切りました」とおっしゃいます。
また、藤枝市では地域包括ケア体制を整えるための専門会議が行政や医師会を交えて行われており、そこでも積極的な課題共有と議論が交わされてきました。その中でCKD患者さんへの対応が不十分であることが問題として取り上げられ、藤枝市立総合病院の副院長兼腎臓内科長の山本龍夫先生を中心に対策を練り始めたのが、ふじえだCKDネット発足の契機にあるとのことです。山本先生が着任されるまでは常勤の腎臓内科医が不在でしたが、2014年4月より着任されたことで、腎臓に関する専門的な診療体制が整いました。横山先生は、「地域包括ケア専門会議では高齢者を中心とした在宅患者さんに薬物を適正に使用するための検討を行ってきましたが、その中で残薬が増えている患者さんがみられることや、腎機能に影響を与える薬の処方がみられることが指摘されました。これらを踏まえ、藤枝市ではCKDに対する医療レベルの向上を目指し、ふじえだCKDネットを構築することになりました」と説明されます。

ドクタープロフィール
藤枝市立総合病院 副院長
横山 日出太郎 先生

  1. 1977年 横浜市立大学医学部卒業
  2. 1977年 横浜市立大学病院研修
  3. 1979年 横浜市立大学第一外科
  4. 1980年 横浜市立港湾病院外科
  5. 1981年 横浜市立大学中検病理
  6. 1983年 済生会横浜市南部病院外科
  7. 1991年 藤枝市立志太総合病院外科
  8. 2006年 藤枝市立総合病院(平成7年に改称)外科部長
  9. 2009年 藤枝市立総合病院 副院長

藤枝市のCKD診療向上に向けての仕組み作り

山本 龍夫 先生の画像
藤枝市立総合病院 副院長・
腎臓内科長 山本 龍夫 先生
ふじえだCKDネットを開始するにあたり、藤枝市におけるCKD診療の体制として2つの問題があったと腎臓内科専門医の山本先生はおっしゃいます。1つは藤枝市立総合病院腎臓内科に常勤医が2名しかいないこと、もう1つは藤枝市でのCKD診療が標準化されていなかったこと、と説明されます。
山本先生は藤枝市立総合病院に着任された直後、特定健康診査の結果を基に藤枝市成人のCKD罹患数を推算した結果、藤枝市の成人約12万人に対して2万人を超えていたことが明らかになりました。この状況に対し山本先生は、「藤枝市全体のCKD診療の向上を図るために、かかりつけ医の先生方のお力添えが必要不可欠となります」とおっしゃいます。なお、現時点では2万人を超えるCKD患者さん全てに対応するのは困難であるため、病院への紹介基準として、2名体制でも診療が可能な人数(約500名=eGFR<30mL/分/1.73m2)まで絞り込むといった工夫をされています。
また、かかりつけ医の先生が適切なCKD診療を行っていくために、山本先生は『かかりつけ医の先生にお願いしたいCKD診療』の冊子を作成されました。これについて、志太医師会の理事を務める高橋博先生は、「これまで藤枝市の診療所では、各先生方の裁量でCKDの診療をされてきましたが、山本先生が藤枝市でのCKD診療方針を策定してくださいました。冊子には薬物療法や栄養指導、腎臓専門医への紹介基準などを含め、診療に必要な事項が明確に記載されています。これにより初めて藤枝市でのCKD診療が標準化され、またCKDに対するかかりつけ医の認知度も高まりました」と説明されます。
山本先生は、かかりつけ医の先生方がCKD診療を行う上で注意すべき点の1つに、よく使われる薬の中に腎排泄性の薬や腎臓に影響を与える薬が多くあることを挙げられます。「ふじえだCKDネットは、薬剤師会も参加しているのが他の地域での医療連携と異なる特徴の1つかと思います。医師と薬剤師の連携により薬の情報を共有し、CKD患者さんの病態にあわせて適切な薬を選択されるようになっていくことを目指しています」と強調されます。

ドクタープロフィール
藤枝市立総合病院 副院長・腎臓内科長
山本 龍夫 先生

  1. 1980年 浜松医科大学医学部医学科卒業
  2. 1987年 医学博士(浜松医科大学)
  3. 1993年 浜松医科大学第一内科講師
  4. 1998年 聖隷浜松病院腎臓内科部長
  5. 1999年 浜松医科大学第一内科講師
  6. 2011年 沼津市立病院 副院長・第二内科部長
  7. 2014年 藤枝市立総合病院 副院長・腎臓内科長

「ふじえだCKDネット」におけるCKD患者さんの掘り起こし

ふじえだCKDネットではCKD患者さんをスクリーニングするルートとして、①行政主導の特定健康診査、②藤枝市立総合病院、③内科系標榜診療所の3つを想定しています。特定健康診査の結果、ハイリスクのCKD(70歳未満の成人でeGFRが50mL/分/1.73m2未満または70歳以上でeGFRが40mL/分/1.73m2未満)と判定された患者さんについては、行政(保健センター 健康推進課)の担当者が対象者の家まで訪問し、病院を受診するように指導されているとのことです。また、藤枝市立総合病院では腎臓内科以外を受診されている患者さんについてもスクリーニングを行っており、これについて山本先生は、「CKD以外の疾患で受診された患者さん、例えば心臓が悪くて循環器科に通っていらっしゃる方や、外科の手術を受けるために入院している方など、他の疾患で病院を受診している患者さんも対象としています」と説明されます。

多職種で取り組む「ふじえだCKDネット」の稼働にあたって

高橋 博 先生の画像
志太医師会 理事/高橋医院 院長
高橋 博 先生
藤枝市の志太医師会はあまり大きな医師会ではなく、内科を標榜している医師は約50名前後であるため皆顔見知りである、と医師会の高橋先生はおっしゃいます。「ふじえだCKDネットを開始するにあたり、2015年3月に第1回、2016年3月に第2回の勉強会を行っており、山本先生よりCKD診療に関してお話いただきました。第1回目では医師26名、第2回目では医師39名を含む74名もの方々が参加してくださっており、ふじえだCKDネットへの関心が高まってきていると思います。皆仲が良く、困ったときには気軽に専門医の先生に患者さんの診療をお願いできる体制となっています」
また、ふじえだCKDネットでは特定健康診査によりCKD患者さんのスクリーニングを行い、かかりつけ医への受診を促していますが、CKDと判定された患者さんの中にはかかりつけ医を持っていない方もいらっしゃいます。そういった患者さんを受け入れてくださる先生方を募ったところ、多くの医師会の先生方の協力を得ることができた、と高橋先生はおっしゃいます。「今後は、協力いただけた先生方を対象にしたCKD治療の研修を予定しており、藤枝市のCKD治療レベル向上につなげていきたい」と続けられます。
ふじえだCKDネットにおいては、かかりつけ医の先生方が多くの患者さんを診療していくことになりますが、その中で連携をより深めていくことが重要、と高橋先生はおっしゃいます。「1人だけで頑張っても機能しないと思いますので、専門的なことは腎臓内科専門医に、栄養指導は管理栄養士に、薬については薬剤師の先生に協力を仰ぐ。このように多職種の連携で行っていくことが、ふじえだCKDネットの原動力であると思っています」

ふじえだCKDネットの連携システム

ふじえだCKDネットの連携システムの画像

ドクタープロフィール
志太医師会 理事/高橋医院 院長
高橋 博 先生

  1. 1986年 浜松医科大学卒業
  2. 1993年 藤枝市立総合病院腎臓内科非常勤医師
  3. 1996年 高橋医院開業

お薬手帳に「Check!CKDシール」を貼って情報共有

藪崎 覚 先生の画像
藤枝薬剤師会 理事
藪崎 覚 先生
藤枝市では10年以上前からお薬手帳に力を入れており、情報の共有化が図られてきました。藤枝市立総合病院 腎臓内科では受診においてお薬手帳を持参するようにホームページにも記載している、と山本先生はおっしゃいます。藤枝薬剤師会で理事を務める藪崎覚先生は、「情報共有の一番の基本はお薬手帳です。お薬手帳の重要性は皆理解しており、患者さんには医師や薬剤師にお薬手帳を見せるように指導しています」と説明されます。
ふじえだCKDネットではこのお薬手帳を利用して患者さんの腎機能の情報を多職種間で共有するため、『Check!CKDシール』が開発されました。藪崎先生は、「まず、患者さんの腎機能を薬剤師が把握できるように処方箋の備考欄にeGFRを記載する、または血液検査結果を薬剤師に見せるよう医師が患者さんに指示する、というように藤枝市立総合病院、志太医師会にお願いしました。薬剤師は処方箋を確認し、eGFRの値に応じて2種類に色分けされた『Check!CKDシール』(70歳未満の成人でeGFRが50mL/分/1.73m2未満の方と70歳以上でeGFRが40mL/分/1.73m2未満の方は緑色のシール、eGFRが30mL/分/1.73m2未満の方は紫色のシール)をお薬手帳カバーに貼ります」と説明されます。加えて特定健康診査でハイリスクのCKDと判定された患者さんを行政(保健センター 健康推進課)担当者が対象者を自宅訪問した際にもシールを貼っているとのことです。
ふじえだCKDネットにおいて、薬剤師は患者さんの腎機能の値に応じた薬の監査や、医師への疑義照会・情報提供を行う役割を担っています。藪崎先生は、「CKD患者さんが健康食品やサプリメントなどを飲んだりして薬の効き目が悪くなったり、薬により腎機能がさらに悪くなったりするなどの問題が生じていたため、『Check!CKDシール』を目安に服薬指導や薬剤選択を行っていきます。患者さんの検査結果を共有し、それを基に適切な医療提供を行っていくことが、藤枝市の医療向上につながっていくと考えます」とおっしゃいます。

「かかりつけ医の先生にお願いしたいCKD診療」の表紙

「かかりつけ医の先生にお願いしたいCKD診療」の表紙の画像

患者さんの意向を重視した個別の栄養指導

篠原 由美子 さんの画像
藤枝市立総合病院 診療技術部
臨床栄養科主幹
篠原 由美子 さん
ふじえだCKDネットでは、藤枝市立総合病院の管理栄養士が、紹介されたCKD患者さんに対して個別に栄養指導を行っていきます。栄養指導で特に気を配っていらっしゃることについて、藤枝市立総合病院で管理栄養士を務める篠原由美子さんは、「例えば糖尿病患者さんには問題ないといわれていた食事が、逆にCKD患者さんでは控えるべきものとなる場合があります。
患者さんにはそのことを丁寧に説明し、納得された上で食事制限を実行していただけることを目標としています」と話されます。また、栄養指導を依頼していただくかかりつけ医の先生方に、実際の栄養指導内容を知っていただくために、病院で行っている栄養指導の具体例を冊子にまとめていらっしゃいます。
「食事は大きな楽しみの1つであることから、食事制限に対する患者さんのストレス軽減のために、患者さんの嗜好を聞くなどして、制限がある中でもその人らしい食生活ができるようにサポートしていくことを目指している」と目標を語られます。
片山 美津子 さんの画像
藤枝市役所 藤枝市健康福祉部
健やか推進局
片山 美津子 さん
行政(保健センター 健康推進課)では市民の健康増進を目的とした栄養指導として、前述の訪問指導のほか、『減塩教室』などの健康教育や個別の栄養指導を行っています。保健センターの片山美津子さんは、「藤枝市では自治会長、町内会長と、70~80世帯に1人の割合で女性が市の保健委員となる制度をとっており、市内で約1,000人の方が保健委員となっています。今年は『減塩』をテーマに研修会を行っています。保健委員は、自治会や町内会単位で保健講座を開くなど、市民に健康情報の周知をしています」と説明されます。

職種の輪を広げてCKD診療の向上を目指す

ふじえだCKDネットでは、各々の職種が異なる役割を担っていくことになりますが、他職種の仕事内容を理解し合い、互いの仕事を無駄にしないことが大切である、と横山先生はおっしゃいます。「職種の輪を広げ、互いに連携を深めていくことが藤枝市のCKD診療のレベル向上につながると考えています」

Specialistに聞く 「守れ腎臓」ふじえだCKDネットの画像

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