Check Point
CKDは腎機能が低下する種々の腎疾患の 括的総称糖尿病の有無とタンパク尿で降圧目標を決定
糖尿病の有無にかかわらずタンパク尿陽性の第一選択薬は ACE阻害薬またはARB
高齢者では急性腎障害のリスクを考慮する
Part.1 腎機能に応じた薬剤選択と用量調節が鍵
1,300万人以上が罹患する国民病 透析導入と心血管病のリスクに
CKDは米国腎臓財団が2002年に提唱した概念で、日本でもかなり浸透してきている。高齢化や食生活の欧米化に伴う糖尿病や高血圧の増加を背景として、日本人のCKD患者は増加しており、約 1,330万人(成人人口の12.9%)と推計 され、8人に1人が罹患する“国民病”とも言える。腎機能が低下すると、心血管病(CVD)のリスクが高まるとされる。また、末期腎不全(ESKD)により透析療法を要する 患者も30万人を超えて増加の一途にあり、医療経済的にも問題となっている。このため、腎障害を早期に発見して病期 を把握し、より早期から行動を起こしてESKDとCVDを未然に防ぐことが、最大の治療目標となる。
透析導入患者の原因疾患は、1位が糖尿病性腎症で、2位が慢性糸球体腎炎、3位が腎硬化症である。糖尿病性腎症と腎硬化症は増加を続けているが、慢性糸球体腎炎は減少傾向にある。東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科講師の田中哲洋氏は、「腎機能が低下してCKDの範疇に入ってしまうと、原則として失われた腎機能を回復させることはできませんが、進行を遅らせることには大きな意味があります」と語る。
厚生労働省は2018年5月、「腎疾患対策検討会報告書」を公表した。CKDを早期に発見・診断し、重症化予防の徹底と患者のQOLの維持向上を図ることを目標として、地域におけるかかりつけ医と専門医の連携体制の構築などを掲げた。また2028年までに年間新規透析導入患者数を35,000人以下に減少させるという数値目標も設けている。
さらに同年6月には5年ぶりに日本腎臓学会がガイドラインを改訂し、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2018』を発行。GFRとアルブミン尿による重症度分類をもとに、かかりつけ医から専門医・専門医療機関への紹介基準を示すなど、CKD対策は新たな動きを見せている。
自覚症状がないCKD GFRとアルブミン尿で重症度を分類
CKDは初期には自覚症状がほとんどないため気付きにくく、健康診断ではタンパク尿や血尿、血清クレアチニン(Cr)値の異常が早期発見の鍵となる。その他には例えば、循環器内科で心疾患の治療を受けている人が、腎機能が悪化してCKDを合併するケースもある。進行すると、水分排泄に支障をきたし、足や顔のむくみ、貧血などの症状を呈してくることがある。透析が視野に入ってくると尿毒症が現れ、倦怠感や食欲不振なども生じてくる。
診断と重症度分類にはGFRとアルブミン尿、またはタンパク尿の検査が必要となる。CKDの原因疾患を調べ、生活習慣病も評価する。超音波(エコー)検査で腎臓の形状や腎臓内の血流を確認することもある。診断基準は表1の通り。
腎障害の指標 | アルブミン尿(AER≧30mg/24時間;ACR≧30mg/gCr) 尿沈渣の異常 尿細管障害による電解質異常やそのほかの異常 病理組織検査による異常、画像検査による形態異常 腎移植 |
GFR低下 | GFR<60mL/分/1.73m2 |
AER:尿中アルブミン排泄率、ACR:尿アルブミン/Cr比
日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」より引用
GFRは腎臓が老廃物を濾過して尿中へ排泄する能力をあらわす。日常診療においては血清Cr値および性別、年齢から推算糸球体濾過量(eGFR)を算出する。日本人では、以下の推算式を用いる。
eGFRcreat(mL/分/1.73m2)= 194×血清Cr(mg/dL)–1.094×年齢(歳)–0.287
(女性はこれに×0.739)
重症度分類は尿アルブミン量または尿タンパク量、GFR値で区分する(表2)。新ガイドラインでは、GFR区分とアルブミン尿に応じてかかりつけ医から専門医・専門医療機関への紹介基準が示され、G1〜G2でもA3(顕性アルブミン尿・高度タンパク尿)の場合は専門医に紹介することを推奨した。これにより原疾患にかかわらず包括的な、より早期からの対応が広まるものと期待されている。
原疾患 | 蛋白尿区分 | A1 | A2 | A3 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
糖尿病 | 尿アルブミン定量(mg/日) 尿アルブミン/Cr比(mg/gCr) |
正常 | 微量アルブミン尿 | 顕性アルブミン尿 | ||
30未満 | 30~299 | 300以上 | ||||
高血圧 腎炎 多発性囊胞腎 腎移植 不明 その他 |
尿蛋白定量(g/日) 尿蛋白/Cr比(g/gCr) |
正常 | 軽度蛋白尿 | 高度蛋白尿 | ||
0.15未満 | 0.15~0.49 | 0.50以上 | ||||
GFR区分 (mL/分/1.73m2) |
G1 | 正常または高値 | ≧90 | |||
G2 | 正常または軽度低下 | 60~89 | ||||
G3a | 軽度~中等度低下 | 45~59 | ||||
G3b | 中等度~高度低下 | 30~44 | ||||
G4 | 高度低下 | 15~29 | ||||
G5 | 末期腎不全(ESKD) | <15 |
重症度は原疾患・GFR区分・蛋白尿区分を合わせたステージにより評価する。CKDの重症度は死亡、末期腎不全、心血管死発症のリスクを緑 のステージを基準に、黄 、オレンジ 、赤 の順にステージが上昇するほどリスクは上昇する。
(KDIGO CKD guideline 2012を日本人用に改変)
注:わが国の保険診療では、アルブミン尿の定量測定は、糖尿病または糖尿病性早期腎症であって微量アルブミン尿を疑う患者に対し、3ヵ月に1回に限り認められている。糖尿病において、尿定性で1+以上の明らかな尿蛋白を認める場合は尿アルブミン測定は保険で認められていないため、治療効果を評価するために定量検査を行う場合は尿蛋白定量を検討する。
日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」より引用
5年ぶりのガイドライン改訂で過降圧の注意喚起と降圧薬選択に変化
CKDは生活習慣病を背景に有している頻度が高いことから、新ガイドラインでは、「腎硬化症・腎動脈狭窄症」「高血圧・CVD」を独立した章としている。とりわけ高血圧は、8割以上が合併しており、心血管病のリスクを上昇させる。腎障害を伴う高血圧の治療は、降圧によりタンパク尿を減らし、腎障害の進行を抑制することが重要になる。
ガイドラインで示された降圧目標では、75歳未満はCKDのステージにかかわらず糖尿病とタンパク尿の有無で降圧目標を定めている(表3)。一方、75歳以上の高齢者では過剰な降圧による転倒や急性腎障害(AKI)のリスク増加が懸念されることから、より緩徐な降圧目標が設定され、忍容性を確認しながら治療を進めることが明記された。同様の観点から、収縮期血圧(SBP)110mmHg未満への降圧は提案しないことが記載されている。高齢者は夏の暑い時期に脱水をきたすと、薬剤が効き過ぎて過降圧となり、AKIを生じる恐れが増すため、リスク低減を図らなくてはならない。今回のガイドライン改訂ではそのような配慮が窺われる。
75歳未満 | 75歳以上 | ||
---|---|---|---|
糖尿病(-) | 蛋白尿(-) | 140/90mmHg未満 | 150/90mmHg未満 |
蛋白尿(+) | 130/80mmHg未満 | 150/90mmHg未満 | |
糖尿病(+) | 130/80mmHg未満 | 150/90mmHg未満 |
- 75歳未満では、CKDステージを問わず、糖尿病および蛋白尿の有無により降圧基準を定めた。
- 蛋白尿については、軽度尿蛋白(0.15g/gCr)以上を「蛋白尿あり」と判定する。
- 75歳以上では、起立性低血圧やAKIなどの有害事象がなければ、140/90 mmHg未満への降圧を目指す。
日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」より引用
もう1点のポイントが、降圧薬の選択である(表4)。従来は、糖尿病の合併の有無が、降圧薬選択の際の注意点だったが、加えてタンパク尿も重視されるようになった。
75歳未満 | 75歳以上 | |||
---|---|---|---|---|
CKDステージ | 糖尿病、非糖尿病で蛋白尿(+) | 非糖尿病で蛋白尿(-) | ||
G1~3 | 第一選択薬 | ACE阻害薬、ARB | ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬 [体液貯留]から選択 |
75歳未満と同様 |
第二選択薬(併用薬) | Ca拮抗薬[CVDハイリスク]、 サイアザイド系利尿薬[体液貯留] |
|||
G4、5 | 第一選択薬 | ACE阻害薬、ARB | ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、長時間作用型ループ利尿薬[体液貯留]から選択 | Ca拮抗薬 |
第二選択薬(併用薬) | Ca拮抗薬[CVDハイリスク]、 長時間作用型ループ利尿薬[体液貯留] |
- 軽度尿蛋白(0.15g/gCr)以上を「蛋白尿(+)」と判定。
- 糖尿病、非糖尿病で蛋白尿(+)の第三選択薬(2剤目の併用薬)として、利尿薬またはCa拮抗薬を考慮する。
- 非糖尿病で蛋白尿(-)の併用薬は、ACE阻害薬とARBの併用を除く2剤または3剤を組み合わせる。
- ステージG4、5でのACE阻害薬、ARB投与は少量から開始し、腎機能悪化や高K血症などの副作用出現時は、速やかな減量・中止またはCa拮抗薬への変更を推奨する。
- 75歳以上のステージG4、5でCa拮抗薬のみで降圧不十分な場合は、副作用に十分注意しながらACE阻害薬、ARB、利尿薬を併用する。
日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」より引用
タンパク尿を呈している場合には、ACE阻害薬またはARBを第一選択にするというのが、基本的な考え方である。ただし、G4、5では腎機能悪化や高カリウム血症に注意し、こうした症状が出現した場合には減量・中止、あるいはCa拮抗薬への変更を検討する。RA系阻害薬だけでは降圧効果が不十分な場合、Ca拮抗薬や利尿薬を加える。
一方、GFRが低下していてもタンパク尿を伴わない患者には、RA系阻害薬以外にも、Ca拮抗薬や長時間作用型ループ利尿薬などを主治医の裁量で第一選択薬として処方できる。Ca拮抗薬は細動脈の拡張効果が高いため、使い分けは大切である。75歳以上でG4以上の患者では、脱水や虚血に対する脆弱性を考慮してCa拮抗薬が第一選択薬となる。
RA系阻害薬を併用することの有効性を示すエビデンスは少ない。ACE阻害薬とARBの併用は、単剤と比べて尿タンパク減少効果は総じて強いが、腎機能低下、高カリウム血症、低血圧、失神のリスクが上昇すると報告されているため原則的には推奨されない。
糖尿病合併の有無にかかわらずA2(微量アルブミン尿・軽度タンパク尿)、A3(顕性アルブミン尿・高度タンパク尿)ではACE阻害薬もしくはARBで降圧不十分な場合の第二選択薬(併用薬)としてCa拮抗薬または利尿薬を追加し、糖尿病を合併しないA1(正常)では、ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬の2剤または3剤の組み合わせを検討する。
糖尿病に腎機能障害を合併した病態は、長らく「糖尿病性腎症」と呼ばれてきた。しかし、近年、欧米で、「糖尿病性腎臓病(DKD)」という、より広い概念で定義されるようになった。糖尿病の腎臓合併症は、まずアルブミン尿を呈してからGFRが低下して、腎不全に至るという経過が典型的だとされていたが、近年の観察研究から、アルブミン尿が先行せずに腎機能低下をきたす例が2〜3割、報告によっては5割前後いることが明らかになった。これらの例では、加齢や動脈硬化などが、高血糖状態による腎症の病態を修飾し、腎機能低下を加速していると考えられる。
生活習慣病を正しく評価して病態に応じた薬物療法を実施
CKD患者は、薬物療法がほぼ必須になるが、田中氏は、「腎機能に応じて、用法用量を適切に調節していくことが何より重要」と語る。薬物により調節法は様々で、例えば、1日当たりの量を減らしたり、内服の間隔を調節したり、場合によっては服薬自体を中止すべき薬剤もあり、臨機応変に対応しなくてはいけない。
降圧薬処方のポイントは先述した通りだが、CKDは定期的に外来で診る疾患なので、自宅で血圧を測定して記録してもらうことが、管理する上で有用になる。
妊婦の高血圧には、ガイドラインにも記載がある通り、メチルドパやラベタロールなどに限定される。妊娠中期以降は、一部のCa拮抗薬なども使用可能になる。妊娠経過の中で、高血圧やタンパク尿が生じてくることもある。CKD患者の妊娠・出産がどこまで許容され得るかは、個人の意思を十分に尊重した上でCKDステージや原疾患、疾患活動性など様々な要因を考慮し、総合的に判断する必要がある。
CKD患者は糖尿病を合併している例も多い。かつて、腎不全に適応のある血糖降下薬はインスリン製剤にほぼ限られていたが、近年使える薬剤が増えている。DPP-4阻害薬(経口薬)やGLP-1受容体作動薬(注射薬)などは、膵β細胞を刺激してインスリンの分泌を増加させる。また、SGLT2阻害薬は、G3aまでにおいて、腎症の進展を抑えると報告され、腎保護作用が期待されている。
新薬にも期待がかかる。糖尿病性腎症を適応とするバルドキソロンメチルは、現在国内で治験が実施されており、第3相試験に入っている。先行して海外で行われた第3相試験では、体液貯留など心不全のリスク上昇の副作用が報告され、同臨床試験は早期終了となった。しかしその後の解析により、予測可能なハイリスク群が存在することや、体液貯留のイベントは実薬投与開始後4週間以内にほとんど生じていることが明らかになった。よって、心血管イベント発生率が欧米人と比べて低い日本人を対象とし、慎重なモニタリングを行うことによって試験再開が検討され、国内で第2相から再試験が行われた。イヌリンクリアランス法によってGFRの改善が認められ、2017年に試験が終了している。田中氏は、「腎機能の改善効果を持つ初めての薬であり、透析導入など腎イベントの低下につながることが見込まれる」と、期待を寄せる。
CKD患者は脂質異常症を合併していることがあり、動脈硬化を介して腎機能を悪化させる恐れがあることから、適切な薬物療法が必要になる。
また、高尿酸血症の合併も多い。かつて多用されていたアロプリノールは腎排泄の薬で腎機能に応じた適切な用量調節が必要であったが、肝代謝の尿酸降下薬(フェブキソスタットなど)も登場し、選択肢が増えている。
薬物治療と並行して、食生活改善や運動など、生活習慣の見直しも必要になる。塩分は過剰摂取を避けて1日6g以内に収めることが大切だ。タンパク質の摂取制限については、高齢者が厳格な低タンパク質食を続けると、低栄養につながるリスクもあるため、栄養士による総合的な判断が求められる。禁煙は、推奨されるべきである。
生活習慣改善は動機付けが課題になる。東京大学医学部附属病院腎臓内科では、CKDの教育入院を実施しており、1週間前後の入院期間中に日常生活の見直し、療養上の指導に加え、ポリファーマシー対策を含めた服薬の見直しも行う。
田中氏は、「働き世代の初期のCKDの場合、生活習慣の改善が奏効して減量に成功し、休薬を提案できるケースもある」と語る。
血圧、血糖、脂質などの数値が落ち着き、血清Cr値の推移が横ばいであれば、外来の通院間隔を長くすることができるが、尿検査も定期的に実施するのが望ましい。
重症者は貧血の治療が必要 骨代謝異常にも適切な対処を
CKDが進行すると、多くの人が腎性貧血を呈するようになる。腎機能の低下に伴い、赤血球をつくるホルモンであるエリスロポエチンの分泌が低下するためである。貧血はG4で3〜5割に、G5で6〜8割の症例で顕在化するようになり、透析導入までには、ほぼすべての患者で治療が必要になる。貧血の治療には、エリスロポエチン製剤を定期的に(多くの製剤で2週間から2ヵ月に1回)外来で投与する。また、鉄の充足状態に応じて、鉄剤を組み合わせることもある。
G4以降になると、カルシウムやリンの代謝異常が起こり、それを補正するための副甲状腺機能亢進症が生じてくる。CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常)と呼ばれ、治療には活性型ビタミンD製剤やリン吸着薬を用いる。血液検査で骨代謝の指標となるPTH値も測定する。
50歳を過ぎると、加齢と共にGFRは毎年1程度ずつ低下するとされる。そこに高血圧や糖尿病を合併すると、さらに腎機能は低下する。CKDは高齢者に多いが、高齢者は過降圧や下痢・嘔吐による脱水、NSAIDsの使用などを機に有効循環血漿量が低下し、急激に腎機能が悪化してAKIになることがある。AKIを発症した場合、入院して補液治療を行う。
また、高齢者は多剤になりがちなので、服薬アドヒアランスに合わせて処方し、配合剤などを用いて薬剤数を減らすように工夫する。
薬剤師には、血圧などの検査値に基づいて服薬を管理することが求められる。例えば、水分の摂取状況などを聴き取り、水分摂取を促したり、医師に情報提供することも大切だ。
田中氏は、「薬剤師から薬の説明をすると、医師よりも患者さんに伝わりやすいことがあり、助かっています。CKDの患者さんは多く、様々な方面からの治療アプローチが必要なため、多職種による連携・介入が最も望まれる分野の一つです。ガイドラインを通して知識を深めて、周囲のスタッフと情報共有してほしいと思います」と呼びかける。