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腎機能を正しく評価する処方提案とは?

2018年12月号
慢性腎臓病(CKD) Part2 薬効を最大限に引き出すためアドヒアランス向上に努めるの画像

薬剤師に期待される服薬指導・薬物治療適正化のポイント

  1. CKD治療における服薬アドヒアランス維持の重要性を認識する
  2. 薬剤の腎排泄寄 を正しく把握する
  3. 腎機能を正しく評価して処方提案につなげる
  4. CKDのステージに応じた薬物治療を理解し、定期的にポリファーマシーの評価を行う

Part.2 薬効を最大限に引き出すためアドヒアランス向上に努める

適切な指導や処方提案を行い副作用を予防・軽減する

CKDの進展による透析の導入や心血管イベントの発症および死亡を防ぐには、早期の診断と適切な治療を行うことが重要とされ、薬物療法はその中で重要な役割を果たしている。
医師は、CKDの進展の程度に合わせて、適切な治療薬を処方している。しかし、処方された薬剤が、必ずしも医師の意図通りに内服されていない、すなわち服薬アドヒアランスが保たれていないという場合がある。その理由は様々だが、主に患者側の要因として、生活習慣とのミスマッチ、服薬に対する意識の不足や誤解、副作用への過度な心配、認知機能の低下などがある。また、薬剤側の要因として、ポリファーマシー、用法の複雑さ、剤型などに起因する薬剤の飲みにくさ、有害事象の発生などが考えられる。
東京大学医学部附属病院薬剤部の荻上尚樹氏は、「CKD治療における薬剤師の役割において重要なことは、患者の服薬アドヒアランスを向上させ、医師の処方した薬剤の効果が最大限に発揮されるよう努めること、副作用の予防や軽減のために適切な服薬指導や処方提案を行うことです」と語る。
このため、患者の生活習慣を聴取して、できる限り飲みやすい用法や剤型への変更を医師に提案するなど、服薬アドヒアランス向上に積極的に介入していくことを意識しなくてはならない。CKDと他の疾患を併発している患者も多いため、どのような診療科の病棟であってもCKD患者と関わる機会は多い。各疾患に対する薬物療法が行われている場合、必然的にポリファーマシーになっていることもあるため、それぞれの疾患に対する薬剤の服用意義を指導することも服薬アドヒアランス向上につながると考えられる。
また、もう1つの重要な役割は、患者の年齢や体格(筋肉量)を考慮して腎機能の評価を行い、添付文書等から得られるデータに基づき、薬剤の腎排泄の寄与を正しく把握した上で、患者個別に適切な用法用量や代替薬を処方提案することである。
腎排泄寄与の高い薬剤の中には、重度の腎機能低下患者には投与禁忌となるものも存在しており、不適切な使用により重篤な副作用が出現する場合もある。
東京大学医学部附属病院において、病棟薬剤師の介入事例の解析を行ったところ、腎臓の機能に応じた投与量に関する提案を行ったケースは月30件以上に達していた。その結果、約8割が変更を受け入れてもらえたという。
荻上氏は、「加齢だけでも年々腎機能は落ちていきますが、CKD患者ではそのスピードが加速していると考えられます。個人差はありますが、透析に至らないように薬物療法に関する支援を行っていくことが大切です」と語る。
同院ではこうした観点から、腎臓・内分泌内科が主催して、CKD患者向けの「慢性腎臓病講座」を年3回実施している。医師、薬剤師、看護師、栄養士が、それぞれの観点から療養上のポイントを解説しているが、毎回、薬剤師に対してたくさんの質問が寄せられており、好評を得ている。

腎機能を維持・代替する薬物 副作用や剤型の違いを考慮する

腎臓は複数の重要な機能を担っている。尿をつくり出し余分な体液を排泄する働きだけでなく、尿中に体内の老廃物を排出して、電解質等のバランスを保ち、血液の酸性度を一定に保つことも腎臓の役割である。加えて、血液をつくり出すエリスロポエチン、血圧をコントロールするホルモンであるレニンを分泌している。また、骨をつくるカルシウムを吸収するためには、腎臓でのビタミンDの活性化が必要になる。
CKDの薬物療法で用いられる薬剤は、①腎臓の機能を維持し心血管病を予防するための薬剤、②腎臓の機能を代行するための薬剤と、大きく2つに分類される。
前者には、降圧薬、脂質異常症治療薬、血糖降下薬などが含まれる。後者は、より病期が進行した場合に用いられる薬で、体内の水分・老廃物を除去する薬(利尿薬や尿毒症治療薬)、血液を弱アルカリ性に保つ薬(代謝性アシドーシス治療薬)、血液中のミネラル成分を調節する薬(リン吸着薬や活性型ビタミンD製剤)、貧血治療薬(エリスロポエチン製剤や鉄剤)などがある。
薬剤を使用する上では、効果だけでなく副作用についても常に意識しなくてはならない。患者が服用中の薬剤の副作用やその初期症状を把握していることは、副作用の早期発見・早期治療において重要なことである。
CKD治療に使用される薬剤の中で、管理上特に問題となりやすい副作用として、次のようなものがあげられる。まず、降圧薬として用いられるACE阻害薬やARBは、糸球体内圧の低下に伴う一過性の腎機能低下をきたしたり、高カリウム血症や空咳などの副作用を生じることがある。また、カリウム吸着薬の副作用には便秘があり、高度な便秘にならないように排便状況を常にモニターし、適切な下剤の使用方法を指導する必要がある。
リン吸着薬は、便秘や腹部膨満感を生じることがある。錠剤を噛み砕かないとリン吸着の効果が得られない薬剤もあるが、近年は口腔内崩壊(OD)錠のような服用しやすい剤型も登場して、使いやすくなっている。
下剤として処方頻度の高い酸化マグネシウム製剤は、腎機能低下患者においてはマグネシウムが体内に蓄積されやすく、高マグネシウム血症への注意が必要である。
カリウム吸着薬には、ゼリータイプのものもあるが、ざらざらとしていて、口内に違和感が残って飲みにくいという人もいる。液体や散剤もあるため、剤型の違いによる良い点と悪い点を説明し、患者の嗜好を踏まえて、医師に剤型変更の提案を行うこともある。

年齢や体格を考慮し腎機能を評価 透析導入前後で薬剤に変化も

CKD患者へ適切な薬物治療を行うためには、患者の年齢や体格(筋肉量)を考慮した腎機能の評価や、添付文書等より得られるデータから、薬剤の腎排泄の寄与を正しく把握することが基本となる。荻上氏は、「CKD患者には、腎機能が低下していることを認識してもらえるよう指導を行っています。また処方医師には、腎機能により投与量調節が必要な薬剤やそのような薬物の排泄経路について情報提供を行うよう心掛けています」と語る。
腎障害を起こすおそれのある薬剤についての情報提供も大切である。特に、医療用医薬品だけでなく、一般用医薬品(OTC)やサプリメントの中にも腎臓に悪影響を与えるものがあり、こちらもきちんと指導していくことは重要である。
薬物の投与量設計の際に用いる腎機能評価法の選択にも注意が必要である。CKDのステージ分類に用いられるeGFRは単位がmL/分/1.73m2である。これは標準体型(身長170cm、体重63kg)の体表面積で補正された値であるため、標準体型から逸脱した症例、例えば小柄で痩せ型の高齢女性などにおける薬物の投与量設計には使用できない。薬物投与量設計に用いられる腎機能評価方法としては、体表面積補正を外したeGFR(mL/分)や、体重と年齢・性別を考慮したCockcroft-Gault式より算出される推算CCr(mL/分)が用いられることが多い。腎機能評価法の選択を誤ることは、薬物の過量投与につながるリスクとなり得るため、十分な注意が必要である。
実際に、直接経口抗凝固薬(DOAC)の一つであるダビガトランでは、誤った腎機能評価法の適用により、服用患者が過量投与によると考えられる重篤な出血を起こした例があり、注意喚起されている。また、抗がん剤などでも、本来は禁忌であったり、減量したりしなくてはならない患者に、誤った腎機能評価方法に基づいて投与してしまい、重篤な副作用が発生した事例も報告されているので、特に慎重を期したい。
透析導入後は、使用薬剤も変化する。降圧薬、血糖降下薬、脂質異常症治療薬などの生活習慣病薬、リン吸着薬、活性型ビタミンD製剤、貧血治療薬(鉄剤、エリスロポエチン製剤)などは、通常、そのまま継続されることになる。
一方、中止・減量できる薬剤もある。カリウムや尿酸は透析により除去できるため、カリウム吸着薬や尿酸降下薬は中止・減薬となることが多い。また、尿毒素を排泄し、透析導入を遅らせるための薬剤や、自尿が出なくなれば利尿薬も中止となる。
尿毒素の蓄積により、透析患者は掻痒感を生じることがあるので、抗ヒスタミン薬などの抗アレルギー薬、さらには選択的オピオイドκ受容体作動薬のナルフラフィン塩酸塩などが治療薬として加わることがある。

ポリファーマシー対策 薬薬連携はおくすり手帳を活用

CKDの進展に従って、使用薬剤は増加することになる。複数疾患を持つ患者ではさらに服用薬剤が増加する。個々の薬剤の有効性や潜在的なリスクのバランス、服薬アドヒアランスや患者の希望などを踏まえて医師と協議し、必要に応じて減薬を提案しなくてはならない。
同院では老年病科を中心としてポリファーマシー対策に力を入れており、電子カルテ上にテンプレートを作成し、病棟薬剤師が持参薬のスクリーニング評価を行い、医師との連携を強化することで薬物治療の適正化を図っている。スクリーニング項目の一つとして、肝腎機能による薬物調節があり、CKD患者のポリファーマシーにも積極的に介入している。
特に高齢者では、薬物治療の観点から薬剤の見直しを行うだけではなく、服薬アドヒアランスや服薬管理能力、生活環境などを総合的に評価し、処方変更の提案も含めて医師に情報提供を行っていかなくてはならない。
CKDは外来診療で診ることも多い疾患であるため、薬局薬剤師との連携も求められる。荻上氏は、「おくすり手帳等を活用した情報共有によって、今後さらに薬薬連携を強化していきたい」と語る。

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