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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

子宮がん患者への服薬指導

2018年10月号
子宮がん(頸がん・体がん) Part2 若い女性患者が抱える悩みを聞き生活の問題も含めたアドバイスを行うの画像
子宮がんは、女性の生殖器である子宮にできるがんで、「子宮頸がん」と「子宮体がん」という、できる場所も原因も性質も異なる2つのがんの総称である。子宮頸がんは20歳代後半から40歳代の若い世代に多く、子宮体がんは閉経後の女性が発症のピークとなる。かつて、「子宮がん」と言えば、頸がんがほとんどだったが、生活環境の変化と食生活の欧米化に伴って体がんが増えている。慶應義塾大学医学部産婦人科学教室准教授の阪埜浩司氏と慶應義塾大学病院薬剤部の別府紀子氏に、薬物療法を中心とした治療のポイントを解説いただいた。

薬剤師に期待される服薬指導・薬物治療適正化のポイント

  1. AYA世代や女性特有の不安を受け止め、患者に寄り添う
  2. 妊孕性についての質問は、医師・看護師と情報共有したうえでの回答を心がける
  3. 吐き気に対しては、ルールに沿った早めの対処と、食事指導も効果がある
  4. 抗がん剤の血管外漏出、アレルギーなどの知識を身につけ、患者が早期に異常を察知できるよう指導する

Part.2 若い女性患者が抱える悩みを聞き生活の問題も含めたアドバイスを行う

若い女性患者に配慮し外観の変化を丁寧に説明

子宮がんのうち、子宮頸がんの発症年齢は若年化しており、20歳代の患者が増えている。婦人科のがん治療は、いわゆる「AYA世代」(Adolescent and Young Adult)と呼ばれる、10歳代後半から30歳代の若い世代の悩みや、女性特有の悩みに向き合うことが大切になってくる。
慶應義塾大学病院薬剤部の別府紀子氏は、「これから始まる治療を受け止められるよう、あらかじめ情報提供をすることが重要です。とりわけ若い人たちは、外観の変化にかなり敏感なので、突然こうなってしまったと落胆しないよう、配慮しなくてはなりません」と話す。
初めて化学療法を行う患者は、抗がん剤に対する不安感が強く、恐怖感を抱いていることもある。このため入院時に、抗がん剤治療について、使われる薬のこと、投薬後に有害事象を含めてどのようなことが起こり得るかについて、段階的に伝えていくようにしている。
患者は、抗がん剤治療の1クール目は特に緊張しているが、そこで起こることをきちんと理解してもらえれば、次のクールに進んでいける。幸いなことに、しっかり説明すれば、理解力が高いのも若い人の特徴だという。
外観について患者が最も気にかけるのが脱毛だ。頸がんでも体がんでも多用されるタキサン製剤などでは、投与の2〜3週間後に必ず脱毛が起こると考えてよい。
一口に脱毛と言っても、髪の抜け方には個人差があること、頭髪以外に、体毛、眉毛、睫毛、鼻毛、陰毛などでも起こること、1度抜けた毛がどのようにしてまた生えてくるのか、といったことなどについても、きちんと順を追って道筋を伝えておきたい。
治療が終了すると、3〜6ヵ月(早い人では2〜4ヵ月)経過すると、髪の毛は再び生え始める。生え始めはうぶ毛のような髪の毛で、全く元通りではなく、毛質は変化する。このため、「元に戻る」という表現は避けたほうがよい。抗がん剤により毛根や頭皮がダメージを受けているため、ほぼ回復するまでには、8ヵ月〜1年程度かかるとされる。
患者自身で手入れをするだけでなく、最近は、がん治療中の手入れ方法について助言してくれる美容室もある。髪の毛が早く生えるようにと願うあまり、頭皮を強く刺激してしまう患者もいる。別府氏が遭遇した患者では、過剰な手入れのため頭皮が皮下出血を起こしたり、かさぶたができてしまった患者もいたという。治療後しばらくは、強いブラッシングや毛染めは控えて、強い刺激を避けることも重要だ。
別府氏は、「髪の毛が生え出した時期にうまく手入れができると、『こんなはずではなかった』という気持ちが少し緩和されるようです」と語る。
女性は、皮膚の色が黒ずむ色素沈着、爪の変形や黒ずみなどにも敏感だ。爪はコーティング用のマニキュアでカバーすることもできるので、看護師とも情報を共有しながら、助言を与えていく。
慶應義塾大学病院は2018年5月に女性専用病棟を開設した。病棟スタッフは、医師を除いて原則として女性のみで、婦人科や消化器科の患者を中心に、希望する女性患者が入院できる。フロアにはウィッグを試すエリアも設置しており、別府氏は、「頸がんの患者さんの年齢に近い若手の薬剤師を配置して、話しやすい雰囲気を心がけています」と語る。
子宮がんは、妊娠をきっかけに見つかることがある。妊娠の時期などによっては、抗がん剤による治療や手術が可能であり、出産もできることがある。分娩後の授乳は、抗がん剤の母乳移行性を勘案すれば原則禁忌であるため、きちんと伝え理解を得ておくことは重要だ。そして、多職種で患者の希望や情報を共有しておくことが大切である。女性の薬剤師は、女性患者が親近感を抱くことで、妊娠についての質問を受けることもある。慶應義塾大学病院では、薬と妊孕性の情報収集を薬剤師が行い、調査結果を医師が説明する仕組み(妊娠と薬相談)を構築し、運用を行っている。

悪心・嘔吐への大きな不安 制吐剤の進歩で十分対応可能

悪心・嘔吐についても、女性は大きな不安を抱いていることが多い。日本癌治療学会の「制吐薬適正使用ガイドライン2015年10月」に従って、適切に制吐薬を使用して完全なコントロールに努める。予防対策では、NK1受容体拮抗薬のアプレピタント、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾンが催吐リスクに応じて使い分けられる。ステロイド製剤についても医師が十分な量を処方するようになっていることで、吐き気は制御しやすくなっている。
制吐剤が不十分な場合、オプションでどのような薬を追加していくかは、薬剤師の提案を医師・看護師と相談する場面も多い。抗ヒスタミン薬、H2ブロッカー、メトクロプラミドといった選択肢もあり、患者の状態や希望に沿った選択を心がける。
食欲不振で食事が摂れない場合には、管理栄養士の助言を仰ぐことも有用だ。慶應義塾大学病院など施設によっては、病棟ごとに担当管理栄養士が配置され相談に応じている。管理栄養士に相談することで、量や盛り付けを工夫し、喉ごしがよく、においを抑えた「化学療法食」が提供される。
子宮体がんでは、糖尿病や高血圧症など基礎疾患のため食事に制限がある人を除いては、抗がん剤治療期間中は、食事の持ち込みを許可されることも多い。退院して外来通院が始まるのであれば、それに先立って、食事についても情報提供することが好ましい。

血管外漏出で血管壊死リスク 熱感や違和感から早期発見を

抗がん剤を静脈投与する際の大きなリスクとして、血管外漏出がある。抗がん剤は正常な細胞にも細胞毒性を示すため、血管内の内皮細胞を障害し、静脈炎や静脈血栓を起こすことがある。静脈炎とは、静脈内に留置したカテーテルと直接関連した静脈内の急性炎症である。抗がん剤が血管の外に漏れた場合は、皮膚や皮下組織を障害し、後遺症を残してしまう。血管が壊死して使えなくなることはもちろん、黒ずんでしまうので外観上も問題になる。
女性は男性に比べて血管外漏出を起こしやすいことが知られている。若い女性では血管が細いためであり、体がん患者では加齢に伴い血管が細くなっていることがある。さらに投薬期間が長期に及ぶと、血管が脆くなる。
血管外漏出のチェックポイントは、いつもより痛みや熱を感じるといった自覚症状、また、刺入部位が赤く腫れてくるといった見た目の違和感で、これらを見逃さないようにしたい。病院では問題がなくても帰宅後に症状が出現する場合があるので、緊急時の連絡先など相談先の情報も提供する必要がある。
こうした情報も事前に患者に伝えておくことで、早期発見から適切かつ迅速な処置につなげるようにしたい。処置としては、冷却、加温、ステロイドの局注などがあるが、子宮体がんで使用されるアントラサイクリン系の場合には、患部の症状により血管外漏出治療剤デクスラゾキサン(サビーン®)の投与を検討する。別府氏は、「予防のためには、スタッフ同士が声を掛け合うなどして、壊死が起こった場合は早期に発見するよう努めなくてはなりません」と語る。

タキサン製剤のアルコール 抗がん剤のアレルギーに注意

タキサン製剤のパクリタキセルやドセタキセルは水に溶けにくいため、溶解補助剤にエタノールが用いられており、アルコールに弱い人や不耐症の患者には注意が必要である。例えば、パクリタキセル治療を3週間ごとに行う場合は、1回の治療あたりアルコール相当量はビール約500mLに相当する。ドセタキセルのアルコール量は、パクリタキセルよりは少なく、3週間ごとに行う治療の場合でビール約50mL(コップ半分)のアルコール量に相当すると言われている。
アルコールに弱い女性患者は多く見られるため、単にアルコールに弱いのか、アルコール不耐症なのかの見極めも重要である。婦人科の患者には事前に聞き取りを十分に行って、多職種でアルコールに関する情報を共有している。
タキサン製剤は、溶解補助剤や成分そのものへのアレルギーが起きる場合がある。前投薬を行うことで予防はできるが、それでもアレルギーが起こる場合がある。パクリタキセルでは初回から2回目の投与直後に症状が出ることが多く、点滴開始後10分以内と言われている。添付文書に記載があるように、投与開始直後は医療者がベッドサイドを離れず十分な観察が必要であり、投与開始後1時間は頻回にバイタルサイン(血圧、脈拍数)のモニタリングを行うなど、患者の状態を把握する。また、カルボプラチンは投与回数8回以上でアレルギー症状の発生頻度が上昇すると言われており、繰り返しの投与時には注意喚起が必要である。これらアレルギーの初期症状としては、蕁麻疹、掻痒感などの皮膚症状、顔面の紅潮、息苦しさ、動悸などがあり、体調の変化を感じたらすぐに申し出るよう伝える。TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)でカルボプラチンのアレルギーが生じた場合、Grade2以下であれば、脱感作療法で治療を継続する場合がある。カルボプラチンを1/1000 濃度、1/100 濃度などに希釈して、段階的に濃度を上げる。この投与方法を行う場合には、十分な観察を必要とし、投与時間も長くなるので、入院治療で行う場合もある。
パクリタキセルやドセタキセルの副作用には、末梢神経障害も知られている。末梢神経障害は、パクリタキセルの用量制限因子である。部分的ではなく、手のひらや足の裏全体にしびれが発生すると言われ、中等度以上の神経障害は治療終了後も回復に数ヵ月単位の時間を必要とする場合がある。日常生活においては「箸が使いにくい、ペットボトルのフタが開けにくい、テレビのリモコン操作が行いにくい、文字が書きにくい、歩きにくい、つまずきやすい」などとして表現され、特に女性は、家事やメイクなど手作業に影響が出ると、QOLが低下する。状態の確認を行い、早めに対応して、減薬することで治療は継続可能だと伝えることが重要である。

エマージェンシーへの対応 何が危機的な状況かを理解する

便秘や悪心・嘔吐への対応は、薬局薬剤師にも関わりを持っていただきたい分野である。また、エマージェンシーへの対応も薬局薬剤師、病院薬剤師が共通認識を持つことで、患者のがん治療の安全性は格段にアップすると考える。別府氏らは薬局薬剤師も知識を身に付けてもらうことが望ましいと考え、がん診療連携拠点病院薬剤師研修会 城北支部として定期的に研修会を開催している。「保険調剤薬局薬剤師が知っておきたいオンコロジーエマージェンシー」として薬剤師による発熱性好中球減少症のマネジメント、抗がん剤による末梢神経障害、「保険調剤薬局薬剤師が知っておきたい抗がん剤治療」として、抗がん剤による皮膚症状のマネジメント、悪心・嘔吐の評価とかかりつけ薬剤師、薬剤師による発熱性好中球減少症のマネジメントを取り上げている。
厚生労働省では、がんゲノム医療コーディネーターの養成を進めている。コーディネーターは、がん患者や患者の家族に対して、がんゲノム医療について説明したり、検査の結果から患者に遺伝カウンセリングが必要な場合に専門の部署に取り次いだりする役割を持つ。薬剤師も、看護師、臨床検査技師などとともに、こうした人材の担い手として期待されている。また、慶應義塾大学病院は2018年からがんゲノム医療中核拠点病院に指定され、拠点病院として保険薬局を含む医療機関と連携しつつ、共にがん医療のレベルアップを図っていく使命を持つ。
2018年に入り、BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がんに新しい分子標的治療薬のオラパリブが承認されている。別府氏は、「今後も分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬など、新たな薬が続々登場してきます。薬剤師は薬の専門家として、また、患者さんと医療機関を薬を通して繋ぐパイプ役として常に知識を磨き、患者さんのQOLを支えてほしいと思います」と呼びかける。

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