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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

心不全Part.2 心不全患者への服薬指導のポイントは?

2018年6月号
心不全 Part2 心不全患者の服薬指導はきめ細かく併存疾患・基礎疾患の治療薬との相互作用に注意の画像
2018年3月、日本循環器学会と日本心不全学会は「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」を発表した。それによれば「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」とある。心不全の進展を防ぐためには薬物療法だけでなく日常生活全般にわたる管理が重要だ。今回は日本の循環器医療をリードしている施設の1つである榊原記念病院循環器内科副部長の鈴木誠氏に心不全の治療と管理について解説していただいた。また、同病院薬剤科の井亀寛子氏には治療中の患者への服薬指導の実際について聞いた。

Part.2 心不全患者の服薬指導はきめ細かく 併存疾患・基礎疾患の治療薬との相互作用に注意

処方薬が多い心不全患者 相互作用に注意する

合併症・基礎疾患をもつ心不全患者は併用薬剤が多い。心筋梗塞由来の心不全なら抗血小板薬が必要であり、糖尿病の合併があれば糖尿病治療薬が処方される。そこに利尿薬、心不全治療薬が加わるため5剤〜6剤の多剤薬剤管理は珍しくない。生命予後の改善に有効性が証明されているACE阻害薬、ARB、β遮断薬は心不全治療の中心的薬剤だが、これらの薬剤と併存疾患・基礎疾患のために用いられる薬剤の相互作用に注意する必要がある。
たとえばACE阻害薬、ARBは相互作用として高カリウム血症を惹起することが知られており、カリウム補充薬やカリウム保持性利尿薬との併用には注意が必要である。心不全の治療に用いられるスピロノラクトン、2016年に慢性心不全の適応が追加されたエプレレノンはカリウム保持性利尿薬であり、腎機能低下症例では高カリウム血症に留意が必要である。榊原記念病院薬剤科副主任の井亀寛子氏は「入院中の患者さんでも昨日はよかったのに今日は血清カリウム値が危険値に上昇していたという例がみられます。そのような場合は、ACE阻害薬、ARB、カリウム保持性利尿薬の一時休薬や投与量について疑義照会します」と言う。このほか、抗不整脈薬や抗凝固薬では相互作用をきたす薬剤が多いので、処方されている場合は他の薬剤とのチェックが大切だ。
心不全の治療は、医師、看護師だけでなく薬剤師や栄養士などが加わった多職種との情報共有によるチーム医療が重要となる。榊原記念病院では看護師が心不全治療への理解を深めてもらう目的で入院患者に対して講義を行い、栄養士は食事指導を担当する。病棟薬剤師も服薬指導だけでなく生活面での指導を行うが、保険薬局の薬剤師もチーム医療の一員として患者情報を共有することが必要だ。
では、保険薬局の薬剤師は主治医にどのような情報を提供できるだろうか。第一は服薬状況の把握である。とくに高齢患者では、服薬に関して誤解、勘違いしていることが少なくない。「患者さん自身がセットした薬を確認すると、中止になった薬が紛れ込んでいることもあります」と井亀氏。こうした患者では継続的な服薬管理が必要となる。また、ポリファーマシーは高齢者のフレイルの要因の一つなので、できる限り避けるよう工夫する必要がある。
第2は、体重の増減に気を配ることだ。1週間に3kg以上体重が増加していたら受診を勧める。入退院を繰り返す患者なら退院時の水分が抜けた状態の体重を基準にどのくらい体重が増加していたかをチェックするとよい。日本心不全学会が発行している『心不全手帳』には体重を記録する欄があり、患者に活用することを勧めたい。また、いつもは休まず上れた階段が息切れであがれなくなったといった訴えも受診を勧めるきっかけになる。症状悪化の徴候を見逃さずに早期受診を勧奨することは、その後の経過に影響するので常に心にとめておきたいことの1つだ。

患者の生活背景、病態に寄り添う服薬指導

同じ作用の薬剤なのに医師によって異なる薬剤が処方されているケースがある。医師は同種同効薬をどのように使い分けているのだろうか。
「心保護としてのACE阻害薬の使い分けは、エビデンスと各医師の使用経験によるものではないでしょうか。しかし、空咳など副作用を訴えた場合には主治医へ他の薬剤への変更など処方提案を行うことがあります」と井亀氏。
年齢も性格も生活環境も異なるさまざまな患者がいる。自己管理できていても心機能が悪ければ悪化し再入院することもある。画一的な服薬指導では、心不全治療について十分な理解を得ることは難しい。個々の患者に寄り添ったきめ細かい面談が保険薬局薬剤師には必要だろう。

処方解析のための Case Conference

症例
慢性心不全に合併する頻脈性不整脈アミオダロンを処方した症例
●患者プロフィール
76歳男性。永続性心房細動を有する陳旧性心筋梗塞後の慢性心不全、高血圧、高脂血症のために外来通院加療中。

●病歴
入院3日前より感冒を契機に労作時の息切れを自覚。胸部X線にて肺うっ血像悪化を認め、低心機能(LVEF25.2%)であるため心不全増悪と判断し入院となった。

●処方例
アミオダロン100mg 1日1回(外来処方のフレカイニドより変更)

処方理由:慢性心不全に合併する頻脈性不整脈(心房細動、心室頻拍)に対するアミオダロン処方例を提示した。Ⅰc群のフレカイニドは器質的心疾患を有する場合、催不整脈作用(心室頻拍)を誘発するため使用しない。心室頻拍を含む致死的不整脈の抑制のためにはβ遮断作用のあるⅢ群のアミオダロンを使用する。

●経過
入院中の24時間ホルター心電図より心房細動と非持続性心室頻拍(NSVT)を認めたため、フレカイニドを中止しアミオダロン開始となった。併せて利尿剤、ドブタミンによる心不全加療により肺うっ血所見、労作時の息切れは改善し退院となった。
心房細動に対してワルファリンを服用しているため、アミオダロンとの相互作用によるINR延長を懸念し凝固能確認のため早めの再診となった。

薬剤師に期待される服薬指導のポイント

  1. ACE阻害薬、ARBは降圧作用だけでなく心保護作用がある
  2. 受診を勧めるタイミングを逃さない
  3. 高齢者は腎機能低下が起こりやすい。腎排泄型の薬剤は投与量に注意する
  4. ポリファーマシーは高齢者のフレイルの要因の1つ。できる限り避ける工夫をする

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