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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

“医学的に若返りを示す高齢者”への服薬指導

2018年5月号
高齢者の薬物療法 Part.2 高齢者薬物療法の見直しは薬剤師の主体的な関わりが鍵の画像
ひと昔前に比べて高齢者は若返りを見せてはいるものの、75歳以上では多剤併用による服薬量の増加や身体機能の衰えなどによって有害事象が増加する。2015年に『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』(日本老年医学会)改訂版が出され、現場の手引きとなっている。薬剤師には、有害事象の背景因子をきちんと踏まえ、処方薬剤だけでなく、全身のデータを管理した上での服薬管理が求められており、医師・薬剤師が連携してチームで当たることが、患者のQOL向上の鍵となる。

Part.2 高齢者薬物療法の見直しは薬剤師の主体的な関わりが鍵

ポリファーマシー削減チーム立ち上げ 患者背景の情報収集から総合的見直しへ

日本老年医学会の『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』は、2015年12月に10年ぶりに改訂された。2015年版は、高齢者の処方適正化スクリーニングツール(STOPP-J)として「特に慎重な投与を要する薬物」と「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載されたことに加えて、「薬剤師の役割」という項目が新たに設けられたこともポイントだ。
国立長寿医療研究センター薬剤部の溝神文博氏は、その分担執筆者を務めた。特に、「薬物有害事象を回避するために、薬剤師はどのように関与するのが有効か?」「漫然と繰り返し使用されている薬を、薬剤師が見直すことは有効か?」など9つのクリニカルクエスチョン(CQ)については力を入れており、現場での実践を呼びかける。
溝神氏は、「必ずしも薬が多過ぎることだけが問題ではなくて、薬の見直しがなされていないことが1番の問題。高齢者薬物療法においてはとりわけ薬剤師の主体的な関わりが重要になります」と語る。
CQを実践的な取り組みとするため、国立長寿医療研究センターでは2016年、「ポリファーマシー削減チーム」(2017年より高齢者薬物療法適正化チームに名称変更)を立ち上げた。医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、言語聴覚士などが参加し、溝神氏が取りまとめ役を担っている。多職種の意見を調整して主治医に伝えていく際に、キーとなるのは薬剤師だからだ。
「高齢者薬物療法適正化チーム」における薬剤師の役割は、入院から退院まで多岐に渡っている。まず、患者入院時には、情報収集を行い、対象患者のスクリーニングを行う。持参薬を鑑別し、▼65歳以上の患者で2週間以上入院、▼6剤以上内服で積極的削減対象薬2剤以上という条件を満たす患者をピックアップする。積極的削減対象薬は、①STOPP-Jの潜在的に不適切な処方(PIMs)、②同種同効薬の重複投与、③対症療法薬の重複投与、が該当する。
さらに患者面談を行い、薬歴・服薬管理に関する詳細な聴き取りを実施し、これらの情報に基づいて、薬物有害事象を評価していく。その後、多職種によるカンファランスを行い総合的な処方見直しを提案する。特に削減候補薬の選定においては、薬物有害事象の被疑薬やPIMsなどから削減の優先順位を提案する。これら以外の薬剤でも処方意図を考慮しつつ、必要性が低ければ削減を提案する。逆に、必要性が高いが投与されていない薬剤があれば処方提案する。
また、非薬物療法として、食事など栄養面からのアプローチや、生活指導などについて、管理栄養士や理学療法士などの多職種から提案がなされることもある。
カンファランスの後はチームの意見を集約して、集めた情報と共にカルテに記載し、主治医と担当薬剤師が処方を変更すべきかどうか検討する。実際に減薬が行われた後は、その影響について、チームが経過観察を行い、減薬による薬物有害事象を評価する。退院時には、診療情報提供書とお薬手帳に処方変更の内容、削減チームの検討内容を記載し、かかりつけ医等へ情報提供する。
国立長寿医療研究センターは「高齢者薬物療法適正化チーム」立ち上げ後、平均で3剤以上の削減に成功している。全体の削減薬は101剤で、最も多いのは、循環器系薬剤(降圧薬、スタチン、抗血小板薬など)で、27剤と全体の4分の1を占める。胃腸薬(プロトンポンプ阻害薬、消化酵素剤など)、糖尿病薬、精神神経用剤などが続く。減薬以上に医師の意識変革をもたらした効果は重要だといえる。
溝神氏が海外の文献を調査したところ、入院中の多剤処方の見直しは、3タイプに分類できるという。まず、米国のBeers基準、欧州の STOPP/STARTのように、高齢者が避けるべき薬物をまとめたリストに照らして、該当する特定の薬物のみを見直すものだ。次に、服薬アドヒアランスまで含めて見直す方法。そして、3番目として、患者の背景までを含めた総合的な見直しがある。
これらに関する研究論文のメタ解析を行ったところ、前者の2つのタイプでは、再入院のリスクが高まるが、背景まで見直すことによって、再入院のリスクを低減できるという結果だった。溝神氏は、「単に数を減らしたり、アドヒアランスが悪いから見直すのでは不十分です。患者背景まで含めた見直しが必要で、それを実践しています」と語る。
そのため、最も重きを置いているのが情報収集である。具体的には、患者が普段どのような生活を送っているか、家族背景はどうなのか、普段はどのようにして薬を飲んでいるのか……食事、睡眠、嚥下機能、介護状況、認知機能などを丹念に聴き取り、収集した情報を絞り込んで情報シートにまとめていく(図3)。入院中の服薬指導はもちろん、退院後の指導にもきわめて有用になる。

図3 処方見直しに必要な情報収集

加齢に伴う腎糸球体ろ過速度(GFR)の変化の画像

提供 溝神文博氏

処方提案の目的は患者に最善の治療 患者とかかりつけ医への説明が重要

薬剤を削減するためには患者への説明と理解を求めることが必要になる。なぜ薬剤が多いことが問題なのかについて、患者にもしっかり説明して理解を得なければ、同じことが繰り返される恐れがあるからだ。例えば、もともと8剤あった薬剤を入院中に減らせたとしても、患者が他院で、その減らした分の薬剤をもらうという例も報告されているという。このため、溝神氏らは患者説明用パンフレットを作成した。
溝神氏は、「薬が何のために処方されているのか、どのような効果があるのか、どのような有害事象があるのかを理解している患者さんは少ないようです」と指摘する。
かかりつけ医への説明も重要だ。「減らしてそれで終わりと考えていると、近医で処方が戻ってしまうことはあり得るので、患者さんと同様に近医への情報提供もとても重要です」と溝神氏は語る。このため、退院時に作成する診療情報提供書には、適正化チームでディスカッションした結果を記載している。
溝神氏は、「処方提案の最大の目的は、患者さんにとって何が最善なのかを考えること。問題…

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