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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

“タバコ病”治療の鍵は、患者に合わせた「吸入デバイス」の選択

2018年4月号
COPD(慢性閉塞性肺疾患) Part2 個々の患者の特性・状態を見極めながらの画像
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患」と定義され、喫煙や加齢に伴い、全身性の影響がさまざまな疾患を誘発すると考えられている。近年注目される「喘息とCOPDのオーバーラップ(ACO)」は喘息とCOPDの症状を併せ持つが、COPD単独に比べて予後不良となるため早期の診断・治療が必要とされる。今回は、国立病院機構東京病院院長の大田健氏に、COPDの診断、治療と管理、ACOへの対応などについて、また薬剤部の大谷恵里奈氏には、主に入院患者への具体的な吸入指導のあり方について解説していただいた。

Part.2 個々の患者の特性・状態を見極めながら細やかな吸入指導を行うことが必要

患者に合わせた吸入デバイスの選択が服薬指導の第一歩

COPDでは吸入薬を中心に治療が進められるが、単一薬剤に加えて配合薬が各社より開発され、治療の現場にはさまざまな型式の吸入デバイスが導入されている。
「まず、複数ある吸入薬(吸入デバイス)から、患者さんの状態に適合するものを、医師の処方に基づき患者さんと一緒に選択しています。指導の際に患者さんや看護師に示す薬剤一覧表(図4)は薬剤部で作成したもので、電子カルテ上にも取り込んでおり、医師の薬剤選択の参考としても利用してもらっています」と国立病院機構東京病院薬剤部の大谷恵里奈氏はいう。
特に高齢者の場合、1日に複数回吸入する薬剤では吸入を忘れてしまうことがあるため、1日1回の薬剤が選択されることが多い。入院中は朝方に吸入することが多いが、退院時には患者それぞれの生活リズムを踏まえて、継続して吸入を行いやすい時間帯を指導する。
デバイスの使い方を説明する際に、見せるだけでは患者は理解しづらいので、製薬企業が提供している吸入練習用のデモ機を用いての指導が有効である。患者に吸入手順を実践してもらいながら、しっかりと吸入できているかどうかを確認することが大事である。
高齢の患者では吸入力が弱い、手が震えるなどでうまく使用できないデバイスがあったり、逆に若い患者では操作が煩雑でもカプセル充填方式が使いやすいということもある。個々の患者のそうした特性や状態をみながら、薬剤部から薬剤(吸入デバイス)の変更を医師に提案したり、吸入補助具の使用を看護師に提案することもある。また、1日2回の吸入薬に1日1回の剤型・用量のものが追加承認された場合は、アドヒアランス向上を考慮して1日1回製剤への変更を提案することもある。
電子カルテ上には吸入の実践の経過を記入し、医師、看護師などと情報を共有している。記載内容から、患者に適したデバイス選択を医師や看護師へアドバイスすることもある。

図4 薬剤一覧表(東京病院薬剤部作成)

薬剤一覧表(東京病院薬剤部作成)の画像

患者・看護師に示すもので、指導の際のツールとして利用されている。

提供 大谷恵里奈氏

うがいの指導と副作用への対策も重要

入院時の初回指導では、吸入手順とともに吸入後のうがいの確認も必ず行い、その重要性を説明する。抗コリン薬は必ずしも必要ではないが、β2刺激薬や吸入ステロイド薬はうがいが必要になる。習慣づける意味もあり、吸入後は必ずうがいをするように指導している。特に吸入ステロイド薬は、うがいをしないと易感染の問題や、嗄声が生じることがある。
しかし、身体機能が低下し起き上がるのが難しい、うがい行為ができないといった高齢患者も多い。この場合、吸入後の口内残薬を食物や飲料と一緒に飲み込むことは問題ないとされているので、東京病院では薬剤師と看護師が連携を図り、食事前に吸入を実施するように患者に指導している。
抗コリン薬の場合は、禁忌である閉塞隅角緑内障や前立腺肥大症について、眼科や泌尿器科受診の有無などを確認する。同じ病院で複数科を受診している患者であれば薬剤併用の確認もしやすい。β2刺激薬では心疾患の有無や自覚症状として動悸などがないかを確認する。また、抗コリン薬では副作用として口渇もあり、実際の訴えは少ないものの服薬指導時に情報提供を行っている。
可逆性のある喘息と異なり、COPDは進行性の疾患であり、患者は吸入薬を長期服用することとなる。喘息発作時のβ2刺激薬のように瞬時に著効を示すことはなく、効果がないと感じてしまう患者もいる。吸入を継続していくことが治療効果につながることを患者にしっかり説明し、理解を得ることが重要である。

近隣地域で吸入療法研究会を開催 将来の薬薬連携につながることを期待

清瀬近隣地区では、病医院や保険薬局の医師・看護師・薬剤師を参加メンバーとする「きよせ吸入療法研究会」が2011年に立ち上げられた。年に1〜2回程度の研究会開催に合わせて製薬企業も参加し、各社のブースで自社デバイスの利点、吸入指導の方法、間違えやすいポイントなどを学習する機会を設けている。研究会には毎回全体で100人前後が参加しており、東京病院は呼吸器中心の病院として看護師の吸入療法、デバイス使用への意識は高く、薬剤部とともに参加者が多い。
大谷氏は、「病院の薬剤師は、退院後の患者さんの経過を把握するのがどうしても難しい面があります。毎回同じ処方内容であっても、薬局の薬剤師の先生から患者さんに声かけし、デバイスをきちんと使えているか、吸入後のうがいを励行しているかなど、薬剤吸入が正しく継続されていることを確認していただきたいと思います。また、副作用情報についても随時、情報提供していただけると助かります」とし、おくすり手帳の活用なども含め、薬薬連携への期待を語った。

処方解析のための Case Conference

症例
健康診断中等症のCOPDがみつかった例
●患者プロフィール
62歳、男性。40本/日、60歳まで40年間の喫煙歴あり。受診時は禁煙後であったものの、受動喫煙の環境(パチンコ店など)に出入りしていた。

●病歴
自覚症状は特にないが、健康診断の呼吸機能検査で1秒率の低下を指摘されて来院。来院後の検査で1秒率54.1%、肺拡散能76.5%と低下がみられ、HRCTで低吸収領域を示すことからⅡ期のCOPDと診断。受診前からの経過を含め、罹患期間は10年超と思われる。

●処方例
外来にて吸入ステロイド/LABA配合薬(アドエア®250)とLAMA(スピリーバ®)の併用で治療を開始、効果が少ないときはテオフィリンを少量投与した。一時的に1日1回のLAMA/LABA配合薬(アノーロ®エリプタ®30)を処方していたが、現在は治療開始時の処方に戻している。

●経過
ときどき肺炎を起こすことがあるが、入院治療を行うことで、安定した状態を保てている。

薬剤師に期待される服薬指導のポイント

  1. 画一化された吸入指導ではなく、患者の特性・状態に合わせて個別化した内容を考える
  2. 入院中だけでなく、外来移行後に日常生活で治療を継続することの重要性を患者に説明する
  3. 退院後のアドヒアランス向上のため、高齢患者の指導時には家族に同席していただく
  4. COPDのチーム医療での薬剤師の役割を意識する。医療従事者間での勉強会開催や情報共有も重要

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