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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

脂質異常症Part.2 生活習慣病の改善に、多職種連携が必要な理由

2018年3月号
脂質異常症 Part2 生活習慣病の治療は多職種との連携が重要の画像
脂質異常症は動脈硬化の主要な原因の1つであり、冠動脈疾患の重要なリスクファクターである。血清脂質の中でもLDLコレステロールを中心に世界中で研究が進められている。2017年6月、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」(日本動脈硬化学会)が5年ぶりに改訂され、家族性高コレステロール血症など高リスクで厳格なコントロールが必要な病態を呈する患者の治療のあり方がより詳細に示された。

Part.2 生活習慣病の治療は多職種との連携が重要

糖尿病などの生活習慣病 基礎疾患の治療で脂質異常が改善

脂質異常症は他の生活習慣病に合併したり、併存することが多い。特に高齢患者では複数の疾患をもっていることが珍しくないため、処方される治療薬の数も多くなり、ポリファーマシー(多剤併用)に対する注意が必要になる。
帝京大学医学部附属病院薬剤部の岩下智子氏は、総合内科病棟で生活習慣病、内分泌・代謝疾患、感染症などの患者の服薬指導を担当した経験があり、特に糖尿病患者に脂質異常症が合併する例が多かったと振り返る。糖尿病はインスリンの作用不足によって起こるが、同時に脂質代謝にも悪影響を及ぼすことが知られている。「脂質異常症のコントロールには服薬アドヒアランスの向上・維持のみならず、基礎疾患や合併症の改善が重要」と指摘する。ほかに、甲状腺機能低下症やネフローゼ症候群も脂質異常症を起こしやすく、これらの疾患の治療によって脂質異常症は改善する。
岩下氏によると、患者には糖尿病治療薬より脂質異常症治療薬のほうが受け入れやすいという。「糖尿病治療薬に関しては低血糖に対する恐怖感や、注射への抵抗感が障壁になっていると思われます。それに対して、脂質異常症治療薬はほとんどが内服投与で、比較的副作用が少なく、投薬による効果が現れやすいので、患者さんの治療への意欲が高まります」。
主要な脂質異常症治療薬の1つ、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の重大な副作用として横紋筋融解症が知られている。横紋筋融解症は骨格筋の細胞が壊れて、倦怠感や筋肉の痛み、手足のしびれ、こわばりなどの症状が現れる。赤褐色の尿がみられることもある。横紋筋融解症の発症頻度は0.02〜0.03%と低いが、スタチンとフィブラート系薬との併用では注意が必要だ。スタチンとシクロスポリン、スタチンとマクロライド系抗菌薬・アゾール系抗真菌薬、スタチンとCa拮抗薬の併用にも同様に注意が必要となってくる。また高齢者や肝・腎機能低下症患者で起こりやすい。フィブラート系薬の副作用には消化器症状や発疹・掻痒など皮膚症状が多い。プロブコールは消化器症状や皮膚症状が多く、重大な副作用ではQT延長に伴う心室性不整脈などがある。陰イオン交換樹脂(レジン)は便秘、腹部膨満、肝障害、CK上昇などの副作用が報告されている。発生頻度の低い副作用を服薬指導で強調しすぎると、患者のアドヒアランスに影響することもある。岩下氏は「『ごくまれに副作用が出ることがありますが、それほど心配することはありません』と、一言添えるように心がけています」という。

薬剤性の脂質異常に注意 服薬指導の際に禁煙指導も意識

薬剤の中には脂質代謝に影響を及ぼすものもある。その代表がステロイド薬で、膠原病やネフローゼ症候群などに使われることが多い。ステロイド薬は長期的な服用が必要となる場合が多く、糖・脂質代謝に影響を及ぼす。ステロイド薬の作用によって高LDL-C、高トリグリセライドなどの脂質代謝異常が引き起こされる。
脂質異常を引き起こす可能性がある薬剤には利尿薬、β遮断薬、シクロスポリン、経口避妊薬などがある。薬剤性の脂質異常は、原因となる薬剤を変更するなどの対策が必要になるが、多くの場合は原疾患の治療を継続することがほとんどだ。
脂質異常症は糖尿病と同じ生活習慣病の1つでもあり、食事療法、運動療法が基本となる。そのため薬剤師は、栄養士や理学療法士などとも連携しながら服薬指導にあたる機会が多い。同院の禁煙外来では薬剤師も患者の指導に関わっている。喫煙によって体内の活性酸素が増えると、LDL-Cの酸化がより早くなり、HDL-Cの減少にもつながる。また、副流煙の有害物質が体内に入ると動脈硬化が促進される。「薬剤師が患者の生活全般に介入することは容易ではありませんが、服薬指導の際に喫煙の習慣を確認して禁煙の意志の有無を尋ねるだけでも意味のあることだと思います」と、岩下氏はアドバイスしている。

引用文献

  1. Watanabe M, Nakamura M: J Jpn Coron Assoc 2017; 23. 108-112. 2017

処方解析のための Case Conference

症例
食事運動療法後薬物療法LDL-C値が低下した症例
●患者プロフィール

50歳、男性。冠動脈疾患の既往はなく、糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患もない。

●病歴
健診でLDL-C値とトリグリセライドが高値を示したため近医を受診。 LDL-C値155mg/dL、トリグリセライド値165mg/dLで脂質異常症と診断した。耐糖能異常もみられ中リスクと評価した。

●処方例
プラバスタチン10mg 1日1回

●経過
食事療法と運動療法により6ヵ月後に生活習慣は改善し、血清脂質もLDL-C値150mg/dL、トリグリセライド値160mg/dLと若干減少したが、管理目標値(LDL-C値140mg/dL未満、トリグリセライド値150mg/dL未満)は達成できなかった。
動脈硬化に強く関わるLDL-C値のコントロールを優先し、スタチン単剤による薬物療法をスタートした。その後、LDL-C値は120mg/dLに低下した。


薬剤師に期待される服薬指導のポイント

  1. 食事療法、運動療法の重要性を考慮しながら服薬指導にあたる
  2. 薬薬連携で外来患者の情報を共有する
  3. 副作用を強調しすぎない。相互作用による副作用の増強に注意する
  4. 「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」のリスク区分別脂質管理目標値を意識する

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