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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

潰瘍性大腸炎Part.1 「潰瘍性大腸炎」薬物療法における寛解維持のポイントは?

2018年2月号
潰瘍性大腸炎 Part1 寛解導入、寛解維持のベース治療薬は5-ASA製剤 薬物療法の進歩で寛解期を長く維持の画像
慢性の炎症性疾患である潰瘍性大腸炎の根本治療はないが、薬物療法の進歩で患者QOLは大幅に改善した。日本における潰瘍性大腸炎患者数は、特定疾患医療受給者証所持者数でみると2011年に約13万人だったのが2014年には17万人を超え増加している1)。今回は潰瘍性大腸炎やクローン病など炎症性腸疾患患者を多数管理している北里大学北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センター長の日比紀文氏に潰瘍性大腸炎における薬物療法の考え方をうかがった。また、同病院薬剤部の八木澤啓司氏には治療中の患者への服薬指導について語っていただいた。

Check Points

治療方針の決定には病変の範囲と重症度が重要 5-ASA製剤の進歩で長期間の寛解維持が可能に 軽症~中等症の寛解導入は5-ASA製剤、重症はステロイド 1日の決められた投与量を守ることが大切
5-ASA製剤は1日3回でも1日1回でも効果、安全性に差はない
抗TNFα抗体製剤は感染症の発症に注意する

Part.1 寛解導入、寛解維持のベース治療薬は5-ASA製剤 薬物療法の進歩で寛解期を長く維持

重症度や病変の広がりで治療方針を決定

潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis 以下UC)は20歳代をピークに、小児から中高年世代にもみられる炎症性腸疾患である。特定疾患医療受給者証の交付件数からみれば患者数は約17万人だが、実際の患者数は20万人程度と推定され、アメリカに次いで2番目に多い2)。1970年代には1,000〜2,000人だった患者が日本でこれだけ増えた明確な理由はわかっていないが、北里大学北里研究所病院炎症性腸疾患先進治療センター長の日比紀文氏によれば、「遺伝的な要因に腸内細菌や食事の影響などさまざまな因子がトリガーとなって発症する」という。
病期は活動期と寛解期に分けられる。活動期は腹痛や下痢、血便などがあり、内視鏡所見では血管透見像が消失し、易出血性、びらん、潰瘍が認められる状態。寛解期は症状が治まり炎症所見が改善した状態(図1)。多くの場合、UCは活動期と寛解期を繰り返し、寛解しても再燃しやすいのが特徴だ。したがって速やかな寛解導入(活動期治療)とその後の寛解維持をできるだけ長く保つことが治療の目的となる。かつては再燃を繰り返すことで患者のQOLが損なわれていたが、寛解導入療法の進歩によって寛解期を維持する期間が長くなり、患者数の増加と相まって一般消化器内科医が初期のUCや寛解期の患者を管理することも多くなった。

図1 潰瘍性大腸炎の内視鏡所見

写真 黄色腫

提供 日比紀文氏

UCは病変の範囲や重症度によって選択される薬剤の内容が変わる。潰瘍性大腸炎と診断されたら病変の広がりや重症度を評価することが重要である(表1)。

表1 潰瘍性大腸炎の診断基準
臨床症状 持続性または反復性の粘血・血便、あるいはその既往がある。
内視鏡検査 ⅰ)粘膜はびまん性におかされ、血管透見像は消失し、粗ぞうまたは細顆粒状を呈する。さらに、もろくて易出血性(接触出血)を伴い、粘血膿性の分泌物が付着しているか、ii)多発性のびらん、潰瘍あるいは偽ポリポーシスを認める。iii)原則として病変は直腸から連続して認める。
注腸X線検査 ⅰ)粗ぞうまたは細顆粒状の粘膜表面のびまん性変化、ⅱ)多発性のびらん、潰瘍、ⅲ)偽ポリポーシスを認める。その他、ハウストラの消失(鉛管像)や腸管の狭小・短縮が認められる。
生検組織学的検査 活動期では粘膜全層にびまん性炎症性細胞浸潤、陰窩膿瘍、高度な杯細胞減少が認められる。いずれも非特異的所見であるので、総合的に判断する。寛解期では腺の配列異常(蛇行・分岐)、萎縮が残存する。上記変化は通常直腸から連続性に口側にみられる。

厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業:
潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針(平成28年度改訂版)
2017を参考に作成

病変は基本的には直腸に限局した直腸炎型、脾彎曲部までにとどまる左側大腸炎型、脾彎曲部を越えて全大腸に広がる全大腸炎型に分けられる(図2)。重症度は排便回数、血便、発熱、頻脈、貧血(ヘモグロビン値)、赤沈(赤血球沈降速度)の程度によって判定され(表2)、軽症〜中等症例では通院治療が可能だが、重症では入院治療が必要なことが多い。
この他、臨床経過から再燃寛解型、慢性持続型、急性劇症型、初回発作型に分けられるが患者は再燃寛解型が最も多い。初回発作型は、「治療によって次の発作が抑えられているもの。慢性持続型は症状が持続するタイプだが、治療により炎症の程度をより軽度にすることや消失させることも可能になった」と日比氏は語る。

図2 潰瘍性大腸炎の病変範囲

潰瘍性大腸炎の病変範囲

編集部作成

表2 潰瘍性大腸炎の臨床的重症度の診断基準
  重症 中等症 軽症
排便回数 6回以上 重症と軽症
との中間
4回以下
顕血便 (+++) (+)〜(-)
発熱 37.5度以上 (-)
頻脈 90/分以上 (-)
貧血 Hb10g/dL以下 (-)
赤沈 30mm/h以上 正常

厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業:
潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針(平成28年度改訂版)
2017を参考に作成

CDや過敏性腸症候群との鑑別 内視鏡検査が有用

診断手順(図3)としては、持続性または反復性の粘血便・血性下痢などがあってUCが疑われるときには理学的検査や血液検査を行い、さらに他の原因による大腸炎を否定するため放射線照射歴、抗菌薬服用歴、海外渡航歴を聴取する。細菌学的検査を行って感染性腸炎を除外することも重要である。次に全大腸内視鏡検査でUCでよくみられるびまん性で連続性の病変を確認する。

図3 診断手順フローチャート

図3 診断手順フローチャート

厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業:
潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針(平成28年度改訂版)
2017を参考に作成

最近、糞便中のカルプロテクチン値が炎症活動マーカーとして注目され、UCやクローン病(Crohn’s disease 以下CD)に対する炎症の程度を知るのに、特異性や感受性に優れているといわれるが、現時点では大腸内視鏡検査にまさるものではない。したがって、日比氏は、非専門医が鑑別に困ったら「大腸内視鏡が可能な施設を紹介すべきだ」としている。
炎症性腸疾患は感染性腸炎や薬剤性大腸炎といった特異的なものとUC やCDのような非特異的なものがある。UCもCDも臨床症状は似ているが、CDは口腔から肛門まで全消化管にとびとびに全層性に肉芽腫を伴う炎症性病変が認められ、UCでは大腸に粘膜表層からはじまる炎症性病変が連続して認められる。
過敏性腸症候群もUCと臨床症状が似ている。日比氏は「とくに下痢型の過敏性腸症候群とUCの軽症例は鑑別が難しい。UCでは血便や粘血便のみられることが多く、専門医が臨床症状など現病歴を聞けばおよその判断はできるが、確実に診断するためには内視鏡検査が必要」と言う。

軽症〜中等症は5-ASA製剤 重症は免疫抑制薬や抗TNFα

UCは医療費助成の対象となる指定難病である。原因不明なので根本治療はないが、炎症を抑制して、長期寛解により日常生活を大きく損なわずに過ごすことが可能になった。しかし、長期間にわたり腸管炎症が続けば大腸がんの発生リスクが高まる。発症から7、8年が経過したら定期的な内視鏡検査が必要であり、「大腸がんの発生リスクを減らす意味でも継続的な寛解維持療法を行うことが重要になる」(日比氏)。
UCの内科治療の原則は活動期には寛解導入療法を、寛解期には寛解維持療法を継続して行う。表2に重症度分類を、表3に薬物療法の指針を示した。寛解導入療法、寛解維持療法いずれにおいても基準となる薬剤は5-ASA製剤(5−アミノサリチル酸:メサラジン)である。UCなどの炎症性腸疾患は、炎症性細胞から放出される活性酸素や免疫細胞で生成されるロイコトリエンなどにより炎症が起こるとされるが、5-ASA製剤の主成分であるメサラジンは活性酸素の除去作用やロイコトリエンの生成抑制作用などで炎症を改善して症状を軽減する。図4にUCにおける各種治療薬・治療法の位置づけを示す。

表3 平成28年度潰瘍性大腸炎治療指針(内科)
寛解導入療法
  軽 症 中等症 重 症 劇 症
全大腸炎型
左側大腸炎型
経口剤:5-ASA製剤
注腸剤:5-ASA注腸、ステロイド注腸

  • 中等症で炎症反応が強い場合や上記で改善ない場合は
    プレドニゾロン経口投与
  • さらに改善なければ重症またはステロイド抵抗例への
    治療を行う
  • 直腸部に炎症を有する場合はペンタサ坐剤が有用
・プレドニゾロン点滴静注

  • 状態に応じ以下の薬剤を併用
    経口剤:5-ASA製剤
    注腸剤:5-ASA注腸、ステロイド注腸
  • 改善なければ劇症またはステロイド抵抗例の治療を行う
  • 状態により手術適応の検討
・緊急手術の適応を検討

  • 外科医と連携のもと、状況が許せば以下の
    治療を試みてもよい。
  • ステロイド大量静注療法
  • タクロリムス経口
  • シクロスポリン持続静注療法
  • 上記で改善なければ手術
直腸炎型 経口剤:5-ASA製剤
坐 剤:5-ASA坐剤、ステロイド坐剤
注腸剤:5-ASA注腸、ステロイド注腸     ※安易なステロイド全身投与は避ける
難治例 ステロイド依存例 ステロイド抵抗例
免疫調節薬:アザチオプリン・6-MP

  • (上記で改善しない場合):血球成分除去療法・タクロリムス経口・インフリキシマブ点滴静注・アダリムマブ皮下注射を考慮してもよい
中等症: 血球成分除去療法・タクロリムス経口・インフリキシマブ点滴静注・アダリムマブ皮下注射
重 症: 血球成分除去療法・タクロリムス経口・インフリキシマブ点滴静注・アダリムマブ皮下注射・
シクロスポリン持続静注療法
  • アザチオプリン・6-MPの併用を考慮する
  • 改善がなければ手術を考慮
寛解維持療法  
  非難治例 難治例
5-ASA製剤(経口剤・注腸剤・坐剤) 5-ASA製剤(経口剤・注腸剤・坐剤)
免疫調節薬(アザチオプリン、6-MP)、インフリキシマブ点滴静注**、アダリムマブ皮下注射**

* :現在保険適応には含まれていない、**:インフリキシマブ・アダリムマブで寛解導入した場合
5-ASA経口剤(ペンタサ®顆粒/錠、アサコール®錠、サラゾピリン®錠、リアルダ®錠)、5-ASA注腸剤(ペンタサ®注腸)、5-ASA坐剤(ペンタサ®坐剤、サラゾピリン®坐剤)、ステロイド注腸剤(プレドネマ®注腸、ステロネマ®注腸)、ステロイド坐剤(リンデロン®坐剤)
※(治療原則)内科治療への反応性や薬物による副作用あるいは合併症などに注意し、必要に応じて専門家の意見を聞き、外科治療のタイミングなどを誤らないようにする。

図4 潰瘍性大腸炎における各種治療薬・治療法の位置づけ

図4 潰瘍性大腸炎における各種治療薬・治療法の位置づけ

潰瘍性大腸炎の皆さんへ 知っておきたい治療に必要な基礎知識:
難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班(鈴木班)p4を参考に作成

5-ASA製剤はpH7以上でメサラジンが放出されるよう設計されたものや、さらに親水性と親油性の基剤中にメサラジンを閉じ込めpH応答性のフィルムをコーティングして大腸全域で持続的にメサラジンが放出されるよう設計されたものがある。他にスルファピリジンとメサラジンがアゾ結合し胃や小腸で吸収されず、腸内細菌によりアゾ結合が切れて大腸でメサラジンが放出されるよう設計されたサラゾスルファピリジン(SASP)があるが、スルファピリジンの影響で尿や汗などの体液が黄色に変色、あるいは可逆的な精子減少症といった副作用を引き起こすことがある。したがって現在は作用機序の異なる3剤の5-ASA製剤を中心に投与されることが多い。5-ASA製剤は、大腸でメサラジンの効果をより発揮できるよう進化してきたが、患者によっては食事の影響などで大腸に到達する前にpHが7以上になることもあるので、個々の患者に最も適した5-ASA製剤を選択することが必要である。なお、5-ASA製剤の錠剤を服用している患者の中には錠剤の殻が溶けきれず便から出てくることもあるが、便中に殻が出てきても殻が割れていれば薬剤は放出されているので問題はないという。
では、3剤ある5-ASA製剤をどのように選択するのか。日比氏は、「新しい薬剤がすべての患者さんに有効というわけではない。投与量の異なる薬剤があり、剤型も顆粒や錠剤がある。さらに投与方法も経口、注腸、坐剤があり、患者さんの使いやすさも考慮する必要がある。この患者さんにはこの薬剤という明確な基準があるわけではない」と言う。5-ASA製剤は1日3回服用する薬剤と1日1回服用する薬剤があるが、寛解導入、寛解維持いずれの場合も効果に大きな差はないものの、「国内データからアドヒアランスが高いのは1日1回投与法であろう」と、日比氏は語る。
一方、注腸薬について日比氏は「早期から効果が認められ、改善がみられた患者さんは継続していただける。坐剤も時に嫌う人がいるが直腸炎型で効果が認められればアドヒアランスは悪くない」と言う。患者がストレスを感じるような投与方法は避けた方がよいが、どのような投与方法であれ、患者が効果を実感できればアドヒアランスは高まるようだ。

■ステロイド抵抗性、ステロイド依存性の薬剤選択

一般的に軽症〜中等症の活動期の寛解導入には5-ASA製剤が用いられ、より症状が重くなるとステロイドや免疫抑制薬(タクロリムス水和物、シクロスポリン)、抗TNFα抗体製剤あるいは血球成分除去療法による治療が行われる。
ステロイド抵抗性に対しては免疫抑制薬(タクロリムス水和物)、抗TNFα抗体製剤、あるいは血球成分除去療法で寛解導入をはかり、ステロイド依存性に対しては免疫調節薬(6−メルカプトプリン:6-MP、アザチオプリン:AZA)やTNFα抗体製剤で寛解維持を図る。
寛解維持には、5-ASA製剤単独で、難治例では5-ASA製剤に加えて、免疫調節薬や抗TNFα抗体製剤が使用される。
なお、2017年3月から中等症から重症の潰瘍性大腸炎に対して承認された抗TNFα抗体製剤のゴリムマブはヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤で異物反応が出にくいといわれているが、先行する抗TNFα抗体製剤との比較は、臨床応用されて間もないため今後の検討を待つ必要があると日比氏は話している。

副作用を十分説明し治療の継続を重視する

寛解維持療法は長期に薬剤を使用しなければならないので炎症を抑えるだけでなく安全性がより重要視される。5-ASA製剤はごく稀に腎障害が出現するが、長期使用で問題となるような副作用はほとんどないといわれている。抗TNFα抗体製剤で注意すべきことは感染症の合併である。またTNF(腫瘍壊死因子)を抑制することでがんの発生が懸念されるが、今までの使用例では非使用例との間に差は認められていない。海外では、6-MPやAZAとの併用で悪性リンパ腫が問題になったが、「日本ではその発生率は高くない」と日比氏は言う。
5-ASA製剤をのぞいて、基本的に寛解維持療法中には免疫抑制作用を示す薬剤の使用頻度が高くなることから感染症の副作用には注意が必要である。
副作用の早期発見は薬剤師の重要な業務の1つだが、「通常と異なる症状が出たときに対処するため、患者さんと連絡がとれるようにしておくことが大事だ。安定した状態で推移していたのに熱が出る、咳、痰が出るといったときには、感染症を疑うべきだ」と日比氏。
副作用を十分に説明し、その上できちんと使用することが寛解維持を継続するためには最も大切である。薬剤師は個々の患者で投与方法が適切かどうか確認することも忘れてはならない。
UCの治療には、薬物療法の他に血球成分除去療法、外科治療(全大腸摘出術)もあるが、外科治療を行った場合、回腸のうを作成し、人工肛門も必要としない。便の回数も3〜5回程度で、QOLが大きく損なわれることはないという。
最後に、潰瘍性大腸炎患者の食事について日比氏の考え方を紹介しておく。潰瘍性大腸炎では炎症のある活動期には食事制限が必要であり、脂肪や刺激物など、よくないとされる食品も少なくない。しかし、日比氏は指導された食事療法を守ることは大事だとしつつ、寛解導入後に再燃を怖れて日常生活にストレスを感じるような食事制限には疑問を呈する。寛解期は、アルコールや刺激物も適量であれば摂取してよいと指導しているという。とくに若い世代は決められた範囲で何でも食べ、できるだけ健常者と同じ生活パターンを心がけた方がよいと指摘している。

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