Part.2 患者情報を共有して服薬指導に厚みを
病棟横断的に介入 月20〜30件を支援
診断初期から看取りまで切れ目なく提供されるがん緩和ケア。がんと診断された時から薬剤師による緩和ケアが始まる。しかし、日本には緩和ケア外来や緩和ケア病棟の数はまだ少なく、病院ごとの質のバラつきも大きいのが現状だ。
帝京大学医学部附属病院の緩和ケアチームは緩和ケア内科医3名、精神科医1名、看護師3名、薬剤師2名、臨床心理士1名が中核となり、さらに、栄養士、理学療法士、作業療法士、医療ソーシャルワーカーが加わってあらゆる方面から患者を支える体制が整っている。
同病院には30以上の病棟があり、全病棟に1人ずつ薬剤師が配属されている。緩和ケアチームの薬剤師は各科の医師から介入依頼があると、緩和ケア内科の医師と患者支援に駆け付ける。その数は月に20〜30件、常時20〜30人の患者のケアにあたる。ほとんどはがん患者で、痛みや副作用の緩和のほか、心理支援、看取り、在宅移行への調整など多岐にわたる。
緩和ケアチームの専任薬剤師である御澤勝将氏は精神科病棟も担当している。御澤氏は緩和ケアチームのカンファレンスの内容を集約して病棟薬剤師に伝える。また、病棟薬剤師が鎮痛薬や制吐剤などの処方について主治医の意向がわからなかったり、医師に尋ねにくいときは、代わりに緩和ケア担当の薬剤師が医師に確認する。
緩和ケアチームの2名の専任薬剤師は、患者の情報を細大漏らさず共有することを心がけている。「服薬指導や相互作用のチェックだけが薬剤師の仕事ではなく、緩和ケアでは患者の声に耳を傾け、不安な気持ちを和らげたり、医療者同士の意思疎通を図ることも重要な役目です」と御澤氏は話す。
発生リスクが高いせん妄 薬剤性との鑑別が重要
緩和ケアチームの薬剤師にとって、全病棟を巡回する“病棟ラウンド”は重要な業務の1つだ。緩和ケアの必要な患者が埋もれていないかスクリーニングすることを目的とし、オピオイドが間違った使われ方をしていないか、便秘が放置されていないかなどをチェックする。がん以外でオピオイドが投与されている患者の使用状況も確認する。
がん患者によくみられる精神症状の1つにせん妄がある。がんの脳転移などによって中枢神経系が障害されるとせん妄を起こしやすい。また、食事がとれなくなると栄養状態が不良になったり、電解質のバランスが崩れたりする。痛み、便秘など不快な身体症状がきっかけで脳が機能不全を起こし、せん妄が起きることもある。がん患者のせん妄にはさまざまな要因が直接的、間接的に関与しているが、オピオイドや抗うつ薬などの薬剤が引き金になることもあるため、薬剤性のせん妄にも目を光らせている。
薬薬連携の充実で薬剤師間の距離を縮める
緩和ケアチームが提供する専門的緩和ケアにおいても医療連携は重要である。御澤氏は2017年3月、東京・板橋区と北区にあるがん診療連携拠点病院の薬剤部や、保険薬局の薬剤師が共同で開催する勉強会に参加した。そこは薬剤師同士の情報交換、情報共有の場でもある。緩和ケアに対するこの地域の参加者の意識は高く、率直で活発な意見交換が行われた。御澤氏は勉強会に参加して、地域の多くの保険薬局ががん診療連携拠点病院との薬薬連携を望んでいることがわかった。基幹病院から保険薬局への一方通行になりがちな情報の流れを、相互通行にする薬薬連携を求めているという。
御澤氏は「退院後に外来で治療を継続する患者の入院中の薬歴、副作用などの情報を保険薬局でも共有できると服薬指導にも厚みが出てくるはずです。がん診療連携拠点病院の薬剤師として、今後は薬薬連携を充実させ、薬剤師間の距離を縮めていく道筋を探りたい」と抱負を語った。
薬剤師に期待される服薬指導のポイント
- オピオイド投与中の患者に対して痛みだけでなく、便秘、吐き気、眠気を中心に副作用も評価する
- 薬剤によるせん妄に注意して、睡眠薬の使用状況をチェックする
- 痛みを我慢している患者がいないか注意深く観察する。その背景にオピオイドに対する誤解がある場合は、オピオイドの作用を正しく説明する
- 薬薬連携で患者情報を共有するシステムを構築する