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【特定薬剤管理指導加算】「イ(RMP)」「ロ(選定療養)」算定Q&A
専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

性感染症(STD)

2019年4月号
性感染症(STD)の画像
梅毒・性器クラミジア感染症・淋菌感染症
梅毒は近年患者数が急増し、2017年は44年ぶりに5,000人を超え、日本性感染症学会や日本医師会が注意を呼びかける事態となった。性器クラミジアなどの他の感染症についても、若者の間で患者数が増加し問題となっている。そこで日本性感染症学会第32回学術大会の会長を務める京都府立医科大学医学部看護学科医学講座産婦人科学教授の岩破一博氏に、梅毒、性器クラミジア感染症、淋菌感染症を中心に患者数増加の背景や産婦人科領域における最近の話題をお聞きした。

Check Points

 性行動の多様化で、皮膚科、泌尿器科、産婦人科だけでなく、内科、耳鼻咽喉科、眼科、消化器内科、小児科でも患者がみられる
 妊婦から胎児に感染する先天梅毒は40%が死産に至る
 性器クラミジアは男性の50%、女性の80%が無症状。女性では不妊や早・流産の原因となる
 セフトリアキソン耐性淋菌が2009年に日本で初めて分離され、今後の薬物療法に影響を与える可能性がある
 未受診妊婦のスクリーニングと治療、若者に対する予防・啓発が課題

未受診妊婦や若者の早期発見・治療で感染拡大を防ぐ

性行動の多様化で患者は多科にわたる梅毒患者数が急増、5,000人超える

性感染症とは性的接触を介して広がる感染症で、かつては皮膚科、泌尿器科、産婦人科領域の疾患だったが、性行動が多様化し、オーラルセックスによる咽頭感染やアナルセックスによる直腸病変が認められるケースもあり、耳鼻咽喉科や消化器内科、眼科、小児科など、現在の領域は多科にわたる。
性感染症のうち、性器クラミジア感染症、淋菌感染症、尖圭コンジローマ、性器ヘルペスウイルス感染症の4疾患は感染症法に基づいて定点報告が義務づけられている。定点とは、一定の基準にしたがって報告する医療機関をさし、2017年は全国988施設が登録されている。梅毒とHIV/AIDSは全数報告が義務づけられている。
国立感染症研究所がまとめた性感染症定点報告数の年次推移(図1)をみると、2002年をピークに減少に転じている。性器クラミジアは2013年にやや増加し、その後は減少傾向にあったが、2017年は微増している。2017年の定点報告数は、性器クラミジア感染症24,825人、淋菌感染症8,107 人。全数報告の梅毒は2010年から増加傾向にあり、2017年は5,826人と44年ぶりに5,000人を超えた(図2)。
京都府立医科大学医学部看護学科医学講座産婦人科学教授の岩破一博氏によると、ここ数年の傾向として、10歳代、20歳代の患者数が増加しているという。性感染症定点報告数をみると、性器クラミジア感染症では男女ともに20歳代前半で微増し、2017年は20歳〜24歳の報告数が最も多かった。淋菌感染症も2017年は20歳〜24歳の報告数が最も多かった。神戸大学大学院医学研究科の荒川創一氏が千葉、岐阜、兵庫、徳島の4県の産婦人科、泌尿器科、皮膚科、性病科を標榜する医療機関を受診した性感染症患者の全数調査(厚生労働科学研究)から推計した全国推計実数1)をみると、梅毒、性器クラミジア感染症、性器ヘルペスは2013年ごろから増加傾向にあり、とくに15〜19歳、20〜24歳で男女ともに増加している。
以下、患者数が増加している梅毒、最も患者数が多い性器クラミジア感染症、耐性菌が問題となっている淋菌感染症を中心に、特徴や治療を困難にしている問題点を解説する。

図1 性感染症報告数(定点)の年次推移

図1 性感染症報告数(定点)の年次推移の画像1
図1 性感染症報告数(定点)の年次推移の画像2
図1 性感染症報告数(定点)の年次推移の画像3

国立感染症研究所「感染症発生動向調査」をもとに編集部作成

図2 梅毒報告数の年次推移

図2 梅毒報告数の年次推移の画像

国立感染症研究所「感染症発生動向調査」をもとに編集部作成

梅毒
妊婦感染では40%が死産 若年女性で患者数が増加

梅毒は螺旋状の形態をもつ梅毒トレポネーマによって引き起こされる感染症で、感染経路の大部分は感染者との粘膜の接触を伴う性行為や疑似性行為である。感染確率は約30%と高く(表1)、妊婦を通じて胎児に感染すると先天梅毒となる。症状は、感染後3週間で口、肛門、性器など感染局所に小豆大から示指頭(じしとう)大までの軟骨のような硬さをもつ硬結(こうけつ)を生じる。これを初期硬結と呼ぶが、治療しなくても2 〜3週間で消退し、約3ヵ月後に2期疹が出現する(第1期梅毒)。初期硬結や、初期硬結が硬く盛り上がり中心に潰瘍を形成する硬性下疳(げかん)は、一般に疼痛などの自覚症状がなく、単発であることが多い。初期硬結の消退後しばらく無症状となるため、この間に感染が広がる可能性がある。その後、全身の皮膚・粘膜の発疹や臓器梅毒の症状がみられる第2期梅毒を経て、感染から3年以上が経過して第3期梅毒、さらに第4期梅毒に至る。
梅毒の確定診断は、浸出液から梅毒PCRを検出することが望ましいが、検体採取には習熟が必要であること、陰性でも梅毒を否定できないことから、代理指標として、血清中の梅毒抗体を測定し診断する。
梅毒患者の急増を受けて日本性感染症学会梅毒委員会が2018年にまとめた「梅毒診療ガイド」によると、梅毒治療は、アレルギーなどがない限りはペニシリンが第1選択で、アモキシシリン1回 500mg 1日3回4週投与を基本とし、第2選択としてミノサイクリン1回100mg1日2回4週投与、第3選択としてスピラマイシン1回 200mg 1日6回4週投与を基本とする(表2)。米国疾病予防管理センター(CDC)はミノサイクリンのかわりにドキシサイクリンを推奨しているが、日本では梅毒への使用は保険適用外である。CDCガイドラインにおける第一選択薬はペニシリンの注射薬である。日本では未承認だが、岩破氏によると、今後、使用可能となる予定である。
梅毒の患者報告数は2010年以降、年々増加し、ここ数年は爆発的に増えている。2011年以降は女性の異性間性的接触による感染が急増している。性産業従事者だけでなく、若年女性や一般家庭の主婦などにも感染が広がっており、先天梅毒も増えているという。
先天梅毒は40%という高確率で死産に至るため、岩破氏は、将来妊娠する可能性のある若い女性患者の増加を強く懸念し、「患者は未婚やシングルマザー、性産業従事者や性産業経験者で、かつ医療機関を受診しない人が多い」と問題を指摘、こうした層への対策が重要と語る。

表1 性感染症の感染確率・潜伏期
  感染経路 感染確率 潜伏期間
梅毒 男性→女性 30% 3週間
女性→男性 30% 3週間
オーラルセックス 15~20%  
淋菌感染症 男性→女性 22~30% 2〜7
女性→男性 20~47%  
クラミジア 男性→女性 28~40% 1〜3週間
女性→男性 30~45%  
尖圭   10% 3週間〜8ヵ月
性器ヘルペス   約10% 2〜10日
HIV 男性→女性 0.05%  
女性→男性 0.10%  

岩破一博氏の資料をもとに編集部作成

表2 推奨される治療薬

↑併用薬の作用増強、↓併用薬の作用減弱、※↑本剤の作用増強、※↓本剤の作用減弱

  一般名 相互作用 重大な副作用 その他の副作用 妊婦への使用
梅毒
(第1選択)
アモキシシリン ↑ワルファリン、↓経口避妊薬、※↑プロベネシド ショック、アナフィラキシー、中毒性表皮壊死融解症、
皮膚粘膜眼症候群、多形紅斑、急性汎発性発疹性膿疱症、
紅皮症、急性腎障害等の重篤な腎障害、
顆粒球減少、血小板減少、偽膜性大腸炎等の血便を伴う重篤な大腸炎、
肝障害、黄疸、間質性肺炎、
好酸球性肺炎、無菌性髄膜炎
発疹、好酸球増多、下痢、悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛 など 有益性投与
梅毒
(第2選択)
ミノサイクリン ※↓Ca、Mg、Al、ランタン、Fe、↑ワルファリン、
↑SU薬、↑メトトレキサート、
(光線過敏症)ポルフィマーナトリウム、↑ジゴキシン、
↓(効果減弱および不正性器出血)
黄体・卵胞ホルモン配合剤および経口避妊剤、
(頭蓋内圧上昇)ビタミンA
(外用剤を除く)およびレチノイド製剤
ショック、アナフィラキシー、全身性紅斑性狼瘡様症状の増悪、結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、自己免疫性肝炎、中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、多形紅斑、剥脱性皮膚炎、薬剤性過敏症症候群、血液障害、重篤な肝機能障害、急性腎障害、間質性腎炎、呼吸困難、間質性肺炎、PIE症候群、膵炎、痙攣、意識障害等の精神神経障害、出血性腸炎、偽膜性大腸炎 発疹、めまい感、頭痛、腹痛、悪心、食欲不振、胃腸障害、嘔吐、下痢、舌炎、倦怠感 など 胎児に一過性の骨発育不全、歯牙の着色・エナメル質形成不全を起こすことがある。有益性投与
梅毒
(第3選択)
スピラマイシン     発疹・発赤、食欲不振、悪心・嘔吐、下痢、胃部不快感 有益性投与
性器
クラミジア
アジスロマイシン ※↓制酸剤、↑ワルファリン、↑シクロスポリン、
※↑メシル酸ネルフィナビル、↑ジゴキシン
ショック、アナフィラキシー、中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、急性汎発性発疹性膿疱症、薬剤性過敏症症候群、肝炎、肝機能障害、黄疸、肝不全、急性腎障害、偽膜性大腸炎、出血性大腸炎、間質性肺炎、好酸球性肺炎、QT延長、心室性頻脈、白血球減少、顆粒球減少、血小板減少、横紋筋融解症 好酸球数増加、ALT(GPT)増加、
下痢、発疹、蕁麻疹、搔痒症、白血球数減少、
血栓性静脈炎、AST(GOT)増加、ALP増加、γ-GTP増加、
LDH増加、肝機能検査異常、腹痛、悪心、嘔吐
、腹部不快感、腹部膨満、カンジダ症
有益性投与
淋菌
感染症
セフトリアキソン (腎障害増強)利尿剤 ショック、アナフィラキシー、汎血球減少、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少、溶血性貧血、劇症肝炎、肝機能障害、黄疸、急性腎障害、間質性肺炎、偽膜性大腸炎、中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、急性汎発性発疹性膿疱症、間質性肺炎、肺好酸球増多症、胆石、胆嚢内沈殿物、腎・尿路結石、精神神経症状 発疹、蕁麻疹、発熱、好酸球増多、嘔気、下痢、軟便、口内炎、カンジダ症、ビタミンK欠乏症状、ビタミンB群欠乏症状、注射部位反応 など 有益性投与
淋菌
感染症
スペクチノマイシン   ショック 疼痛の持続、皮疹 妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと

添付文書を参考に編集部作成

性器クラミジア感染症
男性50%、女性80%が無症状 女性では不妊の原因に

性器クラミジア感染症は、クラミジア(Chlamydiatrachomatis)が性行為で感染し、1〜3週間の潜伏期間を経て、男性では尿道炎と精巣上体炎、女性では子宮頸管炎と骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease:PID)を発症する。オーラルセックスなどによって咽頭に感染すると慢性の扁桃腺炎や咽頭炎、直腸炎(図3-❶)に至るケースもある。岩破氏によれば、男性の50%、女性の80%が無症状であり、男性では症状があっても軽度の尿道の掻痒感や不快感だけで無症状に近い症例も少なくない。
クラミジア検査は、男性は尿で、女性は子宮頸管擦過検体で行う。通常は検査して結果が出るまで2日程度かかるが、近年は、検出法の進歩により10〜30分程度で検出できる迅速診断検査機器が登場し、患者を待たせることなく確実に診断できるようになりつつある。また、自宅でできる郵送検査キットも数千円程度で市販されている。
岩破氏によれば、クラミジア性子宮頸管炎に罹患した女性の約50%は自己免疫によって自然治癒するが、残りの50%は持続感染に移行し、さらに約10%が上行性感染により卵管炎やPIDを引き起こし、卵の輸送障害や卵管周辺の癒着が起こり、卵管妊娠や不妊の原因となる。さらに骨盤内から上腹部に拡散すると肝臓周囲で増殖し、肝周囲炎(図3-❷)を発症する。岩破氏の経験によると、PIDの約40%はクラミジアが原因だという。また、腹腔内に侵入したクラミジアの菌量が多い場合、急性腹症のような劇症の下腹部痛を訴え救急外来に搬送されることがあり、他の急性腹症や細菌感染症との鑑別が必要となる。

図3 クラミジア直腸炎とクラミジア肝周囲炎の写真

❶はイクラ状粘膜と呼ばれる。❷ではバイオリンの弦のような特徴的な所見がみられる

クラミジア直腸炎(イクラ状粘膜)の画像

❶クラミジア直腸炎(イクラ状粘膜)

クラミジア肝周囲炎の画像

❷クラミジア肝周囲炎

提供 岩破 一博氏

妊婦の陽性率は3〜5% 健診未受診者の対策が急務

妊婦がクラミジアに感染すると、絨毛膜羊膜炎の発症からプロスタグランジンが活性化されて子宮収縮を促し、流・早産の原因となるほか、産道感染により新生児結膜炎や新生児肺炎を引き起こすこともある。
国立感染症研究所によれば、妊婦健康診査(以下、妊婦健診)においても正常妊婦の3〜5%にクラミジア保有者がみられることから、妊婦の中にも自覚症状のない感染者が相当数いるものと推測される2)。
また、札幌医科大学名誉教授の熊本悦明氏らが、2013年10月〜2014年3月に約33万人の妊婦を対象として行った全国疫学調査では、クラミジア陽性率は平均2.4%だったが、年齢別陽性率は19歳以下15.3%と報告され、若年者における陽性率が高いことが明らかになった3)。この調査では、妊婦健診を受診している妊婦と未受診の妊婦を比較したところ、クラミジア、梅毒、 HIVともに未受診群の陽性率が高く、未受診者対策は重要な課題となっている。
無症状の患者は、パートナーに感染させてしまうだけでなく、妊婦では胎児に感染させることもある。妊娠中からスクリーニングや治療を行い、母子垂直感染を予防することが重要だと岩破氏は指摘する。
妊婦健診では性器クラミジア検査も公費負担で行うことができるが、公費負担の実施状況は自治体によって異なる。厚生労働省の調査によると2016年4月1日現在、受診券方式をとっている1,449市区町村は性器クラミジア検査を公費負担で実施していた。検査時期については、「妊婦に対する健康診査についての望ましい基準」(平成27年3月31日厚労省告示第226号)のなかで「妊娠初期から妊娠30週までの間に1回」と定めているが、岩破氏は、「妊娠初期に陰性だった妊婦が後期に陽性になる症例があること、あるいは前期陽性で治療を夫婦ともに行ったにもかかわらず、後期にも陽性となる症例があることから、妊娠初期と後期の2回検査を行う必要がある」と指摘している。
すでに述べたとおり、性器クラミジア感染症は無症状の患者が多いことから、患者とパートナーの治療を併せて行うことが必須となる。とくにパートナーが妊婦の場合は、母子垂直感染を予防することが重要だと岩破氏は指摘する。

治療はアジスロマイシン単回投与 PIDにはスイッチ療法も

性器クラミジア感染症の治療で最も有効なのはアジスロマイシン1,000mgの単回投与である。「性感染症 診断・治療ガイドライン2016(改訂版)」ではニューキノロン系で抗菌力のあるもの、あるいはテトラサイクリン系薬の使用を推奨しているが、「服薬コンプライアンスの面からもアジスロマイシン単回投与が非常に有用である」(岩破氏)。薬物療法開始から2〜3週間後に検査を行い、効果を判定する。
PIDに対してはアジスロマイシン点滴静注後、経口剤に変更するスイッチ療法も行われ、岩破氏らはスイッチ療法を主流にしているという。具体的には、アジスロマイシン500mg1日1回点滴投与(2時間)の後、アジスロマイシン錠250mg1日1回の経口投与に切り替える。
妊婦に対しては、アジスロマイシンが安全性が高いとされる。岩破氏が子宮頸管炎の妊婦2,500人のデータを分析したところ、アジスロマイシン1,000mg1日1回で95%の除菌率であった。
抗菌薬の使用においては、併用禁忌や併用注意、相互作用に十分な注意が必要だ。岩破氏も結核患者でリファンピシンを服用中の患者にクラリスロマイシンを使用して効果がなかったという経験があり、「抗菌薬の併用注意や相互作用については薬剤師さんにも注意してほしい」と話す。

淋菌感染症
性器外感染例が増加 女性では無症状の患者も

淋菌感染症は淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による感染症で、性器クラミジアに次いで頻度が高い。主に男性では尿道炎、女性では子宮頸管炎を起こす。潜伏期間は2〜7日と比較的短く、男性では潜伏期の後、多くは発熱、白血球増多などの全身性炎症症状を伴い、尿道分泌物から淋菌が検出される。女性では帯下の増量や不正出血を訴えるが、無症状であることも少なくない。女性は自覚症状がないまま放置すると、異所性妊娠や不妊症、母子感染など重篤な合併症を生じる。感染確率は20〜50%未満と高く、近年は性行動の多様化を反映して、咽頭や直腸感染などの性器外の感染例が増加している。診断は、男性では初尿あるいは尿道分泌物、女性では子宮頸管擦過検体を用いて、顕微鏡検査、分離培養検査、核酸増幅法で淋菌を検出し確定する。

セフトリアキソン耐性菌が出現 日本で初めて京都で分離

淋菌感染症に対して保険適用を有し、かつ確実に有効な薬剤はセフトリアキソンとスペクチノマイシンの2剤(注射剤)のみである(2019年1月末現在)。ニューキノロン系、テトラサイクリン系の耐性率は80%、第三世代経口セフェム系の耐性率は30〜50%で、経口薬はガイドラインから削除されている。セフトリアキソンとスペクチノマイシンは淋菌性尿道炎、淋菌性子宮頸管炎に対して100%に近い有効性を示す。
しかし、2009年、岩破氏らは、京都の性産業に従事する女性の咽頭から日本で初めてセフトリアキソン高度耐性淋菌(セフトリアキソン耐性淋菌H041株)を分離した4)。H041株のセフトリアキソンに対するMIC値(最小発育阻止濃度:菌の発育を阻止する最低の濃度のこと)は2.0μg/mlで、これまでの報告に比べて4倍の高値を示したという。海外でもフランスやスペインなどで5株が検出されているが、蔓延は認められていない。岩破氏は「海外のガイドラインでは咽頭感染に対するセフトリアキソンの投与量は250〜500mgと日本に比べて少ない。海外の治療をまねて少量を投与すべきではない」と語る。日本のガイドラインでは、淋菌性尿道炎および淋菌性子宮頸管炎の治療についてはセフトリアキソン静注 1.0g単回投与を第1選択としている。
現状ではセフトリアキソンとスペクチノマイシンは淋菌治療に有効だが、今後の展開次第ではセフトリアキソンが使用できなくなる可能性も否定できない。なお、CDCはセフトリアキソン 250mg筋注に加えてアジスロマイシン 1.0g単回投与を推奨。岩破氏は、「(CDCを参考に)アジスロマイシンを使用する医師がいるが、アジスロマイシンの淋菌耐性化が進んでいるので使用すべきではない」と指摘している。

誰もが罹患する疾患 日本は“予防後進国”

性感染症は誰もが罹患する可能性がある疾患だ。複数のパートナーがいる、コンドームを正しく使用していない、性産業に関わった経験があるなど、少しでもリスクのある人は積極的に検査を受けることが大切だ。岩破氏は、思春期における性感染症の危険性について、「相手が複数で、性経験が早いほど感染確率は高くなり、複数の病気に感染しているケースもある」という。同氏が経験した症例の中にはクラミジア、梅毒、淋菌、尖圭コンジローマと4つの病原菌に感染しているケースもあった。
とくに近年患者数が増加している若年層に対しては、コンドームの正しい使用法なども含めた性教育を通じて予防・啓発を図ることが必須となっている。岩破氏が会長を務める日本性感染症学会第32回学術大会(2019年11月30日〜12月1日、京都)も「性の健康教育と性感染症予防啓発とのコラボレーション」がテーマだ。岩破氏は「日本は若年成人の性行動は先進国だが、性感染症予防については後進国。早く見つけて治療すれば治癒し、重症化防止や感染の拡大を防ぐことができる」と話す。

■参考文献
  1. 2017年度厚生労働科学研究「性感染症に関する特定感染症予防指針に基づく対策の推進に関する研究」(代表研究者・荒川創一)
  2. 国立感染症研究所.感染症発生動向調査週報(IDWR)2004年第8号
  3. 熊本悦明,木下勝之:日産婦誌,2015, 67(11); 2562-2570.
  4. Ohnishi M, et al: Antimicrob Agents Chemother, 2011, 55(7); 3538-3545.

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