専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

【膵がん】FOLFIRINOX療法とGem/nabPIX療法

2017年12月号
膵がん Part1 FOLFIRINOX療法とGem/nabPTX療法化学療法の進歩で生存期間の延長が可能にの画像
2017年8月に国立がん研究センターが発表した2008年のがん5年生存率(部位別)をみると膵臓は9.9%(他の病気等の死因を除いた相対生存率)ときわめて低く1)、予後不良ながんである。切除不能進行がんが多い膵がんでは化学療法の役割が大きく、近年は多剤併用療法のFOLFIRINOX療法やゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法(Gem/nabPTX療法)の有用性が示されつつある。今回は公益財団法人がん研究会がん研有明病院肝胆膵内科部長の笹平直樹氏に膵がん治療の現状について解説していただいた。また、同院薬剤部薬剤部長の濱敏弘氏とがん専門薬剤師の鈴木亘氏には、膵がん治療における薬剤師の役割などについてお聞きした。

Check Point

罹患数と死亡数がほぼ一致する難治性のがんである 早期発見すれば5年生存も期待できるが再発・転移が多い FOLFIRINOX療法、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法
(Gem/nabPTX療法)は従来療法より生存期間の延長が期待できる
FOLFIRINOX療法では好中球減少などの発現頻度が高い Gem/nabPTX療法で対処が難しい副作用は末梢神経障害

Part.1 FOLFIRINOX療法とGem/nabPTX療法 化学療法の進歩で生存期間の延長が可能に

膵がんの診断・病期分類

膵がんの多くは膵液が流れる膵管に発生し、一般に膵がんといえば膵管がん(通常型膵がん)を指す。がんには管状構造を主体とする管状腺がん、乳頭状の増殖を主体とする乳頭腺がん、腺扁平上皮がん、粘液がんなどの種類があるが、膵管がんでは管状腺がんが大多数を占める。
国立がん研究センターのがん統計によると2017年の膵がんの罹患数予測は39,800人に上る。また厚生労働省の人口動態統計では2016年の膵がんによる死亡数は33,475人、死亡率は26.8(人口10万対)と死亡数・死亡率ともに前年より増加している。全がんの中で死亡数は4位となっている。罹患数と死亡数がほぼ等しいことからもわかるように膵がんは予後の悪いがんの1つといえる。罹患率は60歳頃から増加し、高齢になるほど高くなる。生存期間の延長には早期発見、早期切除が鍵となるが、早期診断が難しいため、切除不能な進行がんの状態で発見されることが多い。

危険因子

日本で膵がんが増加傾向にある要因の1つは食生活の欧米化だ。危険因子として、膵がんの家族歴、糖尿病、喫煙、膵のう胞、慢性膵炎などがあげられている。公益財団法人がん研究会がん研有明病院消化器内科肝胆膵内科部長の笹平直樹氏は「糖尿病もリスクファクターの1つですが、膵がんの初期症状として糖尿病を発症することが多く、糖尿病と診断されたら膵がんが隠れていないか検査を行うべきです」と語る。その他、「糖尿病で定期通院している患者さんが、生活習慣を改めていないのに念願の体重減少を果たせ、糖尿病もよくなるだろうと喜んでいたところ、逆に糖尿病が悪化し、膵がんが見つかった」という話もよく耳にするとのことである。この場合、体重減少は糖尿病改善の結果ではなく、膵がんのサインというわけだ。

診断

「膵癌診療ガイドライン2016年版」(日本膵臓学会編)には、膵がんの症状として腹痛、食欲不振、早期の腹満感、黄疸、睡眠障害、体重減少、糖尿病新規発症、背部痛などが記されているが、初期には漠然とした症状であることが多い。
黄疸は注意すべき症状の1つだが、がんが胆管を閉塞したときに出現する症状であるためがんの進行度とは関係がないという。胆管の近傍にがんがあれば小さながんでも黄疸が出現し、胆管から離れた場所にがんができれば大きくなっても黄疸は出ない。膵がんの多くの症状はごく一般的な症状であり、直接診断に結びつくわけではないが、「胃痛を訴えた患者さんに胃カメラを行い、誰にでもあるような慢性胃炎の所見が認められたとき、これが胃痛の原因と考えて胃薬を処方するだけで終わるのか、別に原因があるはずと考えて次の検査に進むかで診断が1、2ヵ月遅れることがあります。慢性胃炎や逆流性食道炎などのcommon diseaseにまどわされないよう注意が必要です」と笹平氏はいう。
膵がんの診断においては血中膵酵素や腫瘍マーカー、さらには腹部超音波検査、腹部CT検査、MRI/MR胆管膵管造影(MRCP)が有用であるが、中でも造影CTが中心になる。内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)による膵液・膵管擦過細胞診や超音波内視鏡下穿刺吸引生検(EUS-FNA)は合併症が起こりうる検査であり、ほかの画像検査で膵がんが強く疑われた場合に、最終的な診断確定のために行われることが多い。

病期分類

日本初のがん専門機関として明治期に創設され、国内トップクラスの診断・治療を行うがん研有明病院には全国から患者が集まる。笹平氏が1日の外来で診察する進行膵がんの患者は20名ほどで、患者数は年々増加している印象があるという。「患者さんの頭数が増加したというだけでなく、化学療法の進歩で生存期間が延びたことも外来患者さんの増加につながっていると考えます」と笹平氏はいう。
生存期間が延びたといっても膵がん患者の5年生存率は切除可能例で31%に過ぎない2)。唯一の根治的治療法は外科手術だが、転移していなくても、膵臓の周りにある腹腔動脈、上腸間膜動脈という2つの大血管にがんが浸潤すると基本的には切除不能となる。
膵がんの進行度は国内(膵癌取扱い規約)、海外(UICC-TNM分類)という2つの分類法が存在するので、注意が必要である。膵癌取扱い規約では、0〜Ⅳの5つのステージに分類され、これらを規定するのは、T因子、N因子、M因子という3因子である。Tはがんの大きさや深さ、広がり、Nはリンパ節への転移の有無、Mは他臓器への遠隔転移の有無を表す。2016年に発刊された最新の第7版では、切除可能、切除可能境界(門脈系浸潤のみ、動脈系浸潤あり)、切除不能(局所進行、遠隔転移)という「切除可能性分類」が加わった。切除可能境界とは、標準的治療で肉眼的に切除可能だが、組織学的にはがんが残る可能性の高いものを指す。膵癌診療ガイドライン2016年版によれば、ステージⅢの一部とⅣが手術不能で、ステージ0、Ⅰ、ⅡとⅢの一部が切除可能および切除可能境界のがんである。
膵がんで手術できるかできないかは、その後の予後を左右するきわめて大きな違いだ。以前は同じステージのがんでも施設によって手術可能かどうかの判断に違いがあったというが、膵癌取扱い規約が変わり手術の適応範囲が明確になったことで、一定レベル以上の施設の間では手術適応の差は小さくなってきたという。

化学療法

膵がんの化学療法には術後補助化学療法と切除不能膵がんに対する化学療法がある。一方、切除可能膵がんを対象にした術前補助化学療法については、膵癌診療ガイドライン2016年版において、「周術期への影響や長期予後への効果が明確に証明されていないため、臨床試験として行われるべきであり、それ以外では行わないこと」を提案している。術後補助化学療法はS-1単独療法が推奨される。下痢などでS-1に対する忍容性が低い症例ではゲムシタビン単独療法を行うこともある。S-1単独のレジメンは、1日2回、28日間内服し、14日間休薬を1コースとして繰り返す。ゲムシタビン単独療法は、体表面積に応じて1回1,000mg/m2を30分かけて点滴静注する。1コースは週1回3週連続投与後、4週目を休薬する。
切除不能膵がんの化学療法アルゴリズムを図1に示した。切除不能膵がんの一次化学療法としては従来、ゲムシタビン単独療法、S-1単独療法が行われるケースが多かったが、近年、

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