
Part.2 化学療法の目的とゴールは患者によって異なる 正しく理解して適切な服薬指導を
化学療法の副作用対策 多剤併用療法では管理が難しい例も
がん研有明病院には全国から患者が集まる。地元の保険薬局では抗がん剤の在庫がないケースもあり、患者の不利益を少なくするため、化学療法を受ける患者は原則として院内で処方している。
がん研有明病院薬剤部の鈴木亘氏は、がん専門薬剤師としてさまざまながん患者に接しているが、化学療法の進歩とともに薬剤師の役割はますます大きくなってきていると感じている。
切除不能例が多い膵がんの化学療法ではFOLFIRINOX療法やGem/nabPTX併用療法の新たな導入により今後の治療成績の向上が期待されているが、そのためには副作用対策が重要な鍵を握る。鈴木氏によれば「オキサリプラチンでは末梢神経障害が、イリノテカンでは下痢が問題になることがあります」。オキサリプラチンの末梢神経障害には投与開始直後に出現する急性神経障害と累積投与量の増加に伴う蓄積性神経障害がある。感覚性の機能障害が出現するのは、オキサリプラチン累積投与量として850mg/m2で10%、1,020mg/m2で20%と報告されている5)。
多剤併用療法は延命効果も期待できるが、単剤治療よりも副作用対策が難しい。とくに末梢神経障害は「特効薬がないので有効性が期待できる薬剤の効果を評価しながら使っているのが現状です」(鈴木氏)。具体的には、プレガバリンやデュロキセチンなどを使って効果をみながら対処している。
このほか、がん化学療法時には副作用対策として抗生物質や解熱剤、下痢止めなどが処方されるが、鈴木氏は、「たとえば抗生剤を3日間服用しても37.5度以上の発熱が続く、下痢止めの薬を使っても下痢が続くときや、腹痛や発熱を伴うときは病院に連絡して指示を仰ぐよう指導します」と語っている。FOLFIRINOX療法とともに近年、使用頻度が増えてきているGem/nabPTX併用療法では、骨髄抑制や末梢神経障害の副作用が問題となる。「ナブパクリタキセルが加わったことでゲムシタビン単独よりも副作用管理が難しくなりました」と鈴木氏はいう。
診察の前に薬剤師が面談 必要に応じて処方提案も
膵がんにおいても近年は通院で治療を継続する患者が増 えてきているが、同病院では、医師の診察の前に薬剤師が面 談したうえで、「必要な薬を処方提案(=カルテの処方欄に 薬剤師が仮登録すること)し、医師はそれを踏まえて処方し ます」(鈴木氏)。副作用についていえば、継続して介入が 必要な患者もいれば必要に応じて薬剤師が介入する場合も あるが、膵がんの場合、副作用のために治療継続が困難に なるよりも、病期の進行によって治療法が変わったり、緩和 医療に移行するケースが多いという。それだけ深刻な病態の 患者が多いということだろう。
目的とゴールを見極めて適切な服薬指導を
膵がんに限らず化学療法では、術前術後補助化学療法と手術不能な進行・再発・転移がんに対する化学療法がある。前者は完治を目的とし半年から1年をめどに行われ、ゴールが見えているので安易に減量、中止は行わず、「少し副作用が出ても、もう少し頑張ってみましょうと励ますことがあります」とがん研有明病院薬剤部薬剤部長の濱敏弘氏は話す。一方、手術ができず再発・転移を起こした患者への化学療法は、完治でなく延命あるいはQOLの維持が目的になるので、治療によってQOLが維持できない場合には、減量、中止がしばしば起こる。「このような患者さんには