Part.2 患者の生活に寄り添った具体的な服薬指導を
副作用の症状や出現時期 病院に連絡すべきポイントをアドバイス
外科治療が進歩し、治療効果の優れた抗がん剤が次々に開発され、早期に発見できれば大腸がんで命を落とすことはまずなくなった。再発したら化学療法しか治療選択肢がないがん種と違って、大腸がんは他臓器に遠隔転移しても薬物療法と手術をうまく組み合わせて治癒も可能だ。術後の補助化学療法も確立しているので患者は外来通院で治療を続けることができる。
都立駒込病院の大腸がん患者の多くが通院治療センターで治療を受ける。定期的に通院し主治医の診察を受け、抗がん剤を点滴して帰宅する。抗がん剤内服薬を服用する場合は、主に自宅で薬を服用する。このようにがん治療をしながら社会生活を続ける患者は少なくない。「患者さんは治療を受けながら自宅で過ごすことになります。そのような患者さんに対し薬剤師は何を伝えるべきかを常に考えています」と、都立駒込病院薬剤科のがん専門薬剤師である清美奈氏は話す。
清氏は、「例えば下痢が起こった場合は、通常の排便回数より何回多いか、吐き気が起こった場合は水も飲めないような状態か、など具体的に患者さんへ伝えることが重要です」と、副作用が生じた場合に患者が病院に連絡すべきポイント(表2)について言及し、自宅で療養する大腸がん患者へ服薬指導で伝えるべきこととして、①抗がん剤の副作用の症状とその時期、②副作用の予防法と対処法、③患者自身が取り組める具体的な工夫、④病院に連絡すべき症状の目安、の4点を挙げている。内服薬については飲み忘れたときや飲みすぎたときの対応についての指導も大切だ。
38℃以上の発熱 |
体重の低下 |
1日4回以上の下痢 |
皮疹(発疹) |
息切れ・空咳 |
大鵬薬品工業作成「ティーエスワン®を服用される方へ 服薬記録」を参考に作成
副作用の説明は患者目線で具体的に
清氏は、抗がん剤の副作用やその対応などに関する情報は、できるだけ患者の目線で具体的に説明することを勧める。
カペシタビンの副作用の1つに手足症候群がある。手のひらや足の裏が赤く腫れたり、重症になると水疱ができたりする。水疱が破れると痛みで歩くのもつらい。その予防に保湿剤が処方されるが、使い方が不十分な場合、副作用を十分に予防することができない。一般的に、男性は女性のようにハンドクリームなどの外用剤を塗る習慣がない。そのため、特に男性患者には保湿剤の塗り方について、1日の塗る回数、塗るタイミング、塗る際の一回量を具体的に指導する必要がある。
また、症状によりステロイドの外用薬が処方されることもある。部位によって皮膚の吸収性が異なるため、使い分けが必要になる。患者に理解してもらえるよう、塗り方と合わせて、使い分けの意図を丁寧に説明することが重要になる。
がんの治療で頻用されるTS-1は抗てんかん薬のフェニトイン、抗凝固薬のワルファリンとの相互作用がある。特にワルファリンは、循環器系の疾患がある患者に血栓予防のために処方され、高齢になるほど使用頻度が高くなる。大腸がんの治療は長期に及ぶことも多く、ほかの医療機関でこれらの薬剤が処方されていることもある。お薬手帳はもちろんのこと、患者や家族から直接聞き取るなど、薬歴の確認は薬剤師の重要な仕事のひとつである。
清氏は、患者に服薬状況や体調・副作用を記入する治療日誌をつけるように指導している。患者の自宅での服薬状況や体調変化を確認するためにも、患者が主治医と意思疎通を図るうえでも役に立つという。「患者の日常生活を把握していなくては具体的な副作用対策を講じることはできません」と、清氏は患者の生活に寄り添った服薬指導を心掛けているという。
お薬手帳や治療日誌を活用して薬薬連携で情報の共有を
抗がん剤の中には患者の体表面積や腎機能などによって用量を調節して処方しなければならない薬剤がある。院外の保険薬局が抗がん剤内服薬の用法用量・処方日数を確認する際、検査データや治療レジメンは必要不可欠な情報である。清氏は、病院薬剤部と保険薬局がお薬手帳や治療日誌を活用して患者の検査値データや治療レジメンなどの情報を可能な範囲で共有することの重要性を語る。
外来でがん治療を受ける患者が増え、保険薬局に抗がん剤の処方箋が持ち込まれる機会も多くなっている。「今後、病院薬剤師と保険薬局の薬剤師が連携し、よりよい服薬指導を探っていきたい」と清氏は話している。
処方解析のための Case Conference
全身化学療法で頻脈性不整脈に根治手術ができた症例
●患者プロフィール
64歳、男性。32歳で十二指腸潰瘍で手術。飲酒歴は日本酒5合/日、40年、喫煙歴は30〜40本/日、30年、家族歴は特記すべき事項なし。
●病歴
3週間前に腹痛あり、前医のCTでS状結腸に腫瘤を指摘された。狭窄が強く、イレウスの状態で緊急入院となった。下部消化管内視鏡ではS状結腸に2型の全周性の進行がんを認め、ファイバーは狭窄部の奥に入らなかった。CT上(写真左)は骨盤内に78×54×60mm大の腫瘤性病変で腫瘍近傍に転移を疑う腫大したリンパ節を認めた。左肺に9mm大の転移を疑う結節陰影を認めた。
腫瘍が大きく、切除が困難であると判断したが、イレウス状態であるため、人工肛門を造設後に全身化学療法を先行して、その後、外科的切除を考慮する方針とした。
●処方例
m※1FOLFOX6※2+ベバシズマブを8コース施行した。
●経過
イレウス状態での全身化学療法の継続は不可能であるため、まず近位(口側)S状結腸で双孔式の人工肛門を造設し、その1週間後からmFOLFOX6+ベバシズマブの全身化学療法を2週ごとに外来で施行した。
6コース後のCTでは写真右のように原発巣は著しく縮小し、狭窄も改善し、さらに腫大したリンパ節も縮小し、外科的切除が可能な状態となった。
治療開始5ヵ月後にS状結腸切除術、D3郭清を施行した。
化学療法の治療効果:Grade 2 (少量の腫瘍細胞が遺残する程度の良好な効果あり)
全身化学療法を施行することで根治手術ができた症例であった。
※1:modified、※2:version 6
薬剤師に期待される服薬指導のポイント
- 副作用が現れた際の病院に連絡すべきポイントを具体的に伝える
- 抗がん剤ごとの副作用の特徴と患者の生活に合わせた対策を説明する
- 毎日の服薬状況、副作用を治療日誌に記入してもらう
- 病院と保険薬局の薬剤師が連携して情報を共有する