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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

【糖尿病網膜症】眼科受診勧奨も薬剤師の重要な役割

2017年10月号
糖尿病網膜症 Part2 眼科受診勧奨も薬剤師の重要な役割の画像
近年、糖尿病網膜症の治療は失明予防からより良い視力の維持に主眼が置かれている。ただしQOV(Quality of vision)を維持するためには糖尿病患者が医師の指導にしたがって眼科検診を受けることが鍵だ。糖尿病網膜症は初期だけでなく進行した段階でも自覚症状を欠くことが多いため、糖尿病患者に接する機会が多い保険薬局でも定期的に眼科受診を促すことが重要である。今回は、網膜硝子体診療に力を入れ糖尿病網膜症治療でも定評のある西葛西・井上眼科病院医局長の田中宏樹氏に糖尿病網膜症の病態と治療を解説していただいた。また同病院薬局長の桐原陽子氏には患者指導に際してのポイントなどをお聞きした。

Part.2 眼科受診勧奨も薬剤師の重要な役割

「どういう飲み方をしていますか?」説明するのではなく患者自身に語らせる

西葛西・井上眼科病院(32床)に入院する患者の多くは白内障、糖尿病網膜症などの手術目的である。外来では糖尿病網膜症をはじめ種々の疾患で患者が受診する。同病院薬局長の桐原陽子氏は眼科領域の薬剤師として15年の経験をもつが、入院患者に対して最初に行うことは持参薬のチェックである。入院時の初回面談で持参薬鑑別を行い、どのような薬剤をどのように使っているかを患者から聞き取って、持参薬鑑別書を作成し、入院中の服薬管理に役立てている。
糖尿病患者はインスリンを含めて血糖降下薬、降圧薬など複数の薬剤を服用しているケースが多いが、「長く薬剤を服用している患者さまほど、服用の仕方を自己判断で決めていることがあります」という。具体的には「お薬手帳には食前と書いてあるにもかかわらず他の薬剤と一緒に食後に服用しているケースなどがあります。初回面談では聞き取りに重点を置いていますが、そういう服用の仕方を主治医の先生はご存知ですか、といった問いかけをして服用方法を見直すきっかけにしています」。入院中の服薬指導では、薬によって服用の仕方が異なることや正しく服用することが薬の効果を発揮することにつながると説明する。
自己判断で服用の仕方を変えてしまうケースは多々あるため、保険薬局でも単に服用しているかどうかの聞き取りだけでなく、服用方法についても聞き取る必要がある。「保険薬局で処方せんをもって来られた患者さまに対しては、食前か食後かといった服用方法、服用回数についての説明に加えて、患者さまの声を聞いていただくことが大切だと思います」。一方的な説明だけでなく、「どういう飲み方をしていますか、という問いかけによって患者さまの服用方法を知り、処方医に情報提供すべきかどうかを判断してほしいです」と桐原氏は語る。

可能なら点眼薬はさし方指導まで行う

眼科では様々な点眼薬が処方される。桐原氏らは、入院患者の服薬指導において、点眼の薬剤名や使用眼、1日の回数などをまとめた点眼表をつくって患者に渡している。一般的に術後の薬物療法は短期間であることが多いが、桐原氏によれば、「術後の点眼薬(抗菌薬、ステロイド)については退院後も使用するので、保険薬局の薬剤師も術後の患者さまに対しては点眼薬を使っているかどうか確認することが望ましいと思います」という。
内服薬同様、長期に使用する点眼薬はアドヒアランスが重要である。西葛西・井上眼科病院では入院中の患者全員に一斉点眼の時間を設け、点眼を習慣づけている。「保険薬局では入院中に習慣になった点眼を正しく継続しているか確認してほしいです」と桐原氏。糖尿病網膜症ではないが、桐原氏が経験した事例を紹介する。右眼と左眼の手術を別々の日に行ったケースで、2種類の点眼薬(抗菌薬、非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉)を右眼と左眼の術前にそれぞれ1日3回点眼してくださいと説明したにも関わらず、1回目の手術のときに抗菌薬の点眼薬を、2回目の手術のときにNSAIDsの点眼薬をさしていた患者がいたそうだ。ときに患者は医療者が思いもよらない薬剤の使い方をしていることがある。繰り返しての説明と同時に、説明をきちんと理解しているかを確認することも忘れてはならない。
保険薬局で目薬が上手にさせないという訴えを患者から聞くことがあるかもしれない。桐原氏は目薬のさし方の指導方法として、下まぶたを軽く引いて1滴さす方法、利き手で目薬をもち反対側の手でげんこつをつくり、げんこつを下まぶたにあて目薬をもつ手の台にしてさす方法を指導している。また、手の不自由な患者には補助具をすすめる場合もあるという。
眼科的薬物療法においては、点眼薬の種類や回数、タイミング、間隔、保管方法、手技を含めた使い方など薬剤師がアドバイスや再確認すべきことは多い。日頃から患者指導に役立つ知識をもつよう心がけておきたい。

処方解析のための Case Conference

症例
受診の遅れにより網膜症が悪化したが
手術レーザー光凝固薬物療法、で視力回復した例


●患者プロフィール
40歳男性。10年前より検診で糖尿病を指摘されるも、医療機関を受診せず放置。

●病歴
左眼視力低下を自覚して、眼鏡店に行くも、矯正視力不良であることを指摘され当院初診。
矯正視力右眼0.9、左眼0.8。両眼底に点状出血、硬性白斑、軟性白斑を認め、眼底造影検査にて、無灌流領域、新生血管を認め、増殖糖尿病網膜症であった。内科受診をすすめ、両眼レーザー光凝固を予定したが、来院しなかった。9ヵ月後に、右眼が見えなくなったとのことで当院再診。
矯正視力右眼指数弁、左眼0.2。右眼は硝子体出血のため、眼底視認できず、左眼も糖尿病網膜症が悪化し、黄斑浮腫を起こしていた。


●処方例
アイリーア®硝子体内注射液 40mg/mL(一般名:アフリベルセプト) 眼科用VEGF阻害剤。
VEGFの血管新生作用と血管透過性亢進作用を強力にブロックするため、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫に硝子体内投与として用いられる。2mg(0.05mL)を硝子体内投与する。


●経過
入院加療となり、右眼は硝子体手術を施行し、術中にレーザー光凝固を行った。左眼はアイリーア®硝子体内注射施行後、レーザー光凝固を行った。両眼とも糖尿病網膜症は軽快し、矯正視力右眼0.5、左眼0.5に改善した。糖尿病内科にてインスリン治療が開始され、血糖コントロールも改善された。

薬剤師に期待される服薬指導のポイント

  1. 服用の仕方だけでなく、実際にどのように服用しているかを確認する
  2. 服用状況の確認では、患者自身に語らせることが大切
  3. 点眼薬の使い方を熟知した上で患者に点眼薬のさし方を指導する
  4. 点眼薬の種類、回数、タイミング、間隔、保管方法、手技をアドバイスする

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