
Part.2 低血糖に注意し、アドヒアランス向上を目指す服薬指導
神経障害の第一の治療は血糖コントロールと生活習慣の改善
糖尿病の罹病期間が長い患者では3大合併症を罹患する可能性が高く、東京慈恵会医科大学附属病院薬剤部では「し(神経障害)め(網膜症)じ(腎症)」として常に注意を払っている。
合併症の多くは自覚症状が乏しいが、その中で神経障害による手足の痛み、しびれ、麻痺などは比較的早い時期に現れることがある。神経障害の第一の治療は血糖コントロールと生活習慣の改善である。治療薬としては、アルドース還元酵素阻害薬のエパルレスタットは神経障害が中等度以下の症例に有効とされ、中等度以上の有痛性糖尿病神経障害に対してはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のデュロキセチン、α2δリガンドのプレガバリンが推奨される。
初期の網膜症に対しては血糖・血圧のコントロールが中心で、進行例の硝子体出血や網膜剥離などは眼科での外科治療が必要になる。腎症の治療は病期分類に従って治療が行われるが、血糖コントロール、血圧管理、脂質管理が基本となる。特に腎症の進行を遅らせるためには血圧の十分なコントロールが欠かせない。降圧薬では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が第一選択薬となる。
教育入院でアドヒアランス向上を動機づけ
現在日本で使われている経口血糖降下薬は7種類で、病態に合わせて選択される。同院では低血糖の心配が少ないDPP4阻害薬を、ビグアナイド系薬と併用する機会が多いという。食後の血糖値が高い場合はα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)、肥満を基盤にした比較的若年の患者にはSGLT2阻害薬などが用いられる。「数種類の経口薬を併用している患者も少なくないので、アドヒアランスが下がらないように服薬指導をしています」と、同院薬剤部の伊藤圭介氏。
教育入院は、患者が自己血糖測定の重要性を理解し、アドヒアランス向上の動機づけを行う有効な機会となっている。血糖を朝食前、朝食後2時間、昼食前、昼食後2時間、夕食前、夕食後2時間、就寝前の7回測定して1日の血糖値の推移をみることによって、インスリン投与量や経口糖尿病薬の用量の検討や血糖コントロールの状態把握が可能だ。
高齢者では無自覚低血糖に注意
糖尿病の薬物療法では低血糖に対する注意が必要になる。血糖値が70mg/dLまで下がると冷や汗をかいたり、脈が速くなったりするなど、さまざまな症状が現れる。高齢の糖尿病患者では低血糖の症状を自覚しにくい。低血糖が進むと中枢神経症状を起こし、血糖値が50mg/dLを下回ると重症低血糖で昏睡など生命に関わる状態を引き起こしやすい。特に高齢者の場合、SU薬、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)で低血糖を起こしやすく、用量設定などは慎重に行われる。長期にわたってSU薬が処方されている患者が