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【特定薬剤管理指導加算】「イ(RMP)」「ロ(選定療養)」算定Q&A
専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

【うつ病】抗うつ薬への偏見、誤解を解きほぐす患者対応を

2017年6月号
うつ病 Part1 軽症なら安静・休養、中等症以上は薬物療法抗うつ薬への偏見、誤解を解きほぐす患者対応をの画像
日本ではおよそ100万人がうつ病や双極性障害の治療を受けているといわれる。気分の落ち込みに苦しみながらも治療を受けていない人を含めればかなりの数に達することが想像できる。うつ病の治療で最も重要なことは重症化による自殺の防止で、そのためには丁寧な治療と服薬指導が重要になる。日本うつ病学会の設立(2004年)に関わった、日本うつ病センター副理事長で、六番町メンタルクリニック所長の野村総一郎氏にうつ病診療のポイント、薬剤師の関わり方などについて解説していただいた。また、アップル薬局六番町店の和田幸子氏からは、うつ病患者の服薬指導のポイントを示していただいた。

Check Point

悲観的な考えが頭の中でぐるぐる回り、悪循環を繰り返すのが特徴 気分転換に旅行を勧めたり、叱咤激励したりしてはいけない 精神病理学的な心理面からのアプローチを所見に加えて診断 鑑別すべき疾患は双極性障害と適応障害 抗うつ薬はうつ病が寛解してから最低6ヵ月間は服用を続け、
2ヵ月程度かけて減量・中止へ

Part.1 軽症なら安静・休養、中等症以上は薬物療法抗うつ薬への偏見、誤解を解きほぐす患者対応を

視床下部の障害が原因 ストレスが引き金で発症

うつ病は英語でdepression、俗にinvisible disease(見えない病気)ともいわれる。古くはギリシャ語に由来するメランコリア(melancholia)と呼ばれたこともあり、昔は黒胆汁の過剰分泌が原因と考えられていた。
うつ病の患者では大脳辺縁系、視床下部、前頭葉の働きになんらかの障害が生じていると考えられている。ストレスがかかると視床下部は自律神経や内分泌系にストレスの情報を伝える。自律神経は体温、血圧、心拍数などを調節し、内分泌系はホルモンを分泌して不安や緊張を緩和させたり、免疫を活性化させたりする。通常なら適応できるストレスも過剰にかかったり、長引いたりすると、視床下部の機能が障害されて抑うつ状態になり、自律神経や内分泌系のバランスが崩れて身体にさまざまな影響が現れる。
うつ病は、症状の現れ方や重症度などによって分類の方法はいくつかあるが、世界標準とされるアメリカ精神医学界の「精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersの第5版)」の操作的診断基準によると、抑うつ障害群として、うつ病(単一エピソード)、同(反復エピソード)、サブタイプ(メランコリア、非定型など)、気分変調症、月経前不快気分障害、重篤気分調節症に分類される。従来うつ病の一部と捉えられていた双極性障害はうつ病とは異なる疾患として切り離された。うつ病の症状は表1で示すように多彩である。

表1 うつ病の症状
自覚できる兆候や症状
  • 一日中悲しい、憂うつな気分がほぼ毎日続く
  • 何事にも興味がわかない
  • 何をしても楽しくない
  • 気力がない、集中力が低下している
  • 人に会いたくない
  • 自分には価値がなく、罪深いと強く感じる
  • 死んでしまいたいと思う
  • 疲れやすい
  • 眠れない(眠り過ぎる)
  • 食欲の低下(増進)
  • 重度の便秘
  • 嘔気、頭痛、肩こり、めまい、など
他覚的な兆候や症状
  • 最近元気がない
  • 暗い表情をしている
  • 疲れ、だるさ、痛みなど体調不良をよく訴える
  • 仕事、家事で失敗が増えている、能率が低下している
  • 遅刻、早退、欠勤が増える
  • 付き合いが悪い、周囲との交流を避ける
  • 外出しなくなった
  • 飲酒量が増える

厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」ホームページおよび野村氏の話を参考に作成

うつ病で見られる抑うつは気分の落ち込みと現実の悲観が特徴で、患者は思考や発想の切り替えがうまくできない。そのため、〈仕事がつらい、休みたい〉⇒〈休むと仕事がたまって、迷惑がかかる〉⇒〈頑張って行くしかないが、頑張れない〉⇒〈憂うつでつらい〉⇒〈どうしていいのかわからない〉⇒〈仕事に行くのがつらい〉というように思考が堂々巡りする。「悲観的な考えが頭の中でぐるぐる回り、悪循環を繰り返す。こうした負の連鎖から抜け出す方法として自殺を考えるようになります」と六番町メンタルクリニック所長 野村総一郎氏は指摘する。

うつ病と鑑別すべき疾患は双極性障害と適応障害

現在、うつ病の分類、診断は、主にアメリカ精神医学会のDSM-5や、世界保健機関のICD-10(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problemsの第10版)を用いて行われる。DSM-5によると、うつ病は重症度別に軽症うつ病、中等症・重症うつ病に分けられる。
「日本うつ病学会治療ガイドライン」では軽症うつ病は、DSM-5に準じて「9項目の症状のうち『抑うつ気分』もしくは『興味、喜びの著しい減退』の少なくとも1つを含む5つ以上の症状を2週間以上の間、ほぼ毎日、ほとんど一日中有し、加えて就労や就学状況、家事などにおける機能障害等が軽度の患者」と定義している。図1の「うつ病自己診断テスト」は野村氏がDSM-5の診断基準をもとに独自に作成したうつ病スクリーニング用のツールである。

図1 うつ病自己診断テスト

図1 うつ病自己診断テストの画像

野村総一郎氏 提供

野村氏をはじめ多くの精神科の臨床医はDSM-5だけで診断することの物足りなさを感じているという。「DSM-5だけでは日本人がかかるうつ病の特徴を捉えきれません。ストレスを受けてうつ病が発症するプロセスを解明し、診断を導くためには、精神病理学的な心理面からアプローチした所見を加味すべきです」と野村氏は指摘する。
うつ病と鑑別すべき疾患の筆頭は双極性障害である(表2)。双極性障害はうつ状態と躁状態を繰り返す病態で、従来うつ病の一種として扱われていたが、治療法の違いなどを根拠に、現在は異なる疾患として位置づけられている。うつ病と双極性障害の最も大きな違いは躁状態の存在の有無だが、その見極めは容易ではないといわれる(表3)。うつと躁が現れる順序は人によって異なり、何度もうつ状態を繰り返した後で躁になることもある。躁状態のときに受診し、その後うつ状態になれば、比較的早く双極性障害を診断することは可能だが、うつ状態から始まることが多い。また病期もうつ状態のほうが躁状態より長く、うつ状態の時に受診してうつ病と診断されるケースもある。

表2 双極性障害とうつ病の対比
  双極性障害 うつ病
初発年齢 比較的若い 中年が多い
病相の数 多い 少ない
病相持続期間 短い 長い
病相のきっかけ あることが多い はっきりしない
生涯発病率 1% 5%
双極性・うつ病全体に対する割合 20-50% 50-80%
性比 男性=女性 女性>男性
自殺率 より高い 相対的に低い
性格 外向的 内向的
社会的成功への意欲 より強い より弱い
衝動性コントロール力 弱い 強い
好奇心 強い 弱い
一卵性双生児の発病一致率 高い 低い
第一親族の躁病の割合 より高い 低い
抗うつ薬の効果 やや良くない 良い
気分安定薬の効果 良い 良くない

野村総一郎氏 提供

表3 うつ状態と躁状態の対比
うつ状態 躁状態
気分は憂うつ 気分は爽快、または攻撃的
気力がない やる気満
考えは悲観的、罪の意識、自分を責める 考えは自信たっぷり、まわりを責める
頭が働かない 頭の回転が速い
食欲は低下(時に亢進) 食欲亢進
不眠 眠らなくても平気

野村総一郎氏 提供

現在、双極性障害を診断するバイオマーカーの研究が進められているが、実用化のめどはたっていない。早期鑑別の目安としては、「初発年齢が若い」「頻繁にうつ状態を繰り返す」「性格が社交的」「家族歴がある」などで、該当する項目が多いほど双極性障害の可能性は高い。
ストレスにうまく適応できずに生じる病的な心理状態の適応障害もうつ病と鑑別すべき疾患の1つである(表4)。適応障害は、特定の状況や出来事が耐え難く、強い抑うつや不安感で過剰に反応したり涙もろくなったりする。無断欠勤や喧嘩など行動面の症状が見られることもあるが、原因から離れると症状は改善する。

表4 適応障害の診断基準(DSM-5)
1 明らかなストレスに反応し3ヵ月以内に行動、感情の症状が始まる
2 1の症状は次の①、②のどちらかの形をとって臨床的に問題となるレベルである:
①そのストレスによって予想されるような苦痛の状態を超える
②社会的、職業的な役割が果たせない
3 障害は他の精神障害の基準を満たさず、すでに存在する精神障害やパーソナリティ障害の悪化ではない
4 近しい人との死別による反応とは違う
5 ストレス状況がなくなってから6ヵ月以内に症状が消失する

編集部作成

実臨床の観点でうつ病関連障害を分類

日本うつ病センターの診療部門でもある同クリニックは、うつ病の臨床、研究、啓発を推進するうつ病の専門医療機関で、患者の約8割がうつ病と、うつ病に関連した気分変調症、非定型うつ病、双極性障害で、残りは統合失調症など。
抑うつ症状を呈する疾患や障害には、大きく分けて抑うつ障害、双極性障害、適応障害がある。野村氏は臨床的見地からうつ病関連障害として、うつ病(メランコリー型うつ病、現代うつ病)、非定型うつ病、気分変調症、老年うつ病に分類している(図2)。

図2 うつ病関連障害の概略

図2 うつ病関連障害の概略の画像

野村総一郎氏 提供

メランコリー型うつ病

メランコリー型うつ病は、従来日本人に最も一般的に見られるうつ病である。ストレスでうつ病になりやすい、生真面目で几帳面な頑張り屋の人は「メランコリー親和型性格」と呼ばれる。この性格傾向のあるうつ病がメランコリー型うつ病である。メランコリー型うつ病は抗うつ薬に良好に反応し、治りやすいといわれている。「その半面、再発しやすいのもメランコリー型うつ病の特徴。再発を繰り返すうちにさらにストレスに対する抵抗力が弱くなる可能性がある」と野村氏は説明する。

非定型うつ病

うつ病の診断基準に当てはまるものの、従来型のうつ病とは異なるタイプを非定型うつ病という。楽しい出来事や喜ばしいことがあると一時的にうつが改善する。強い不眠、食欲不振は見られず、逆に眠り過ぎたり、食欲が増進したりする。体内に鉛が入ったような重苦しさを絶えず感じる。非定型うつ病の人はもともと対人関係に過敏で、冷遇されたと感じると失望や怒りが生じて人間関係や社会生活に支障をきたす。

気分変調症

DSM-5によると、次の項目を満たす場合に気分変調症が疑われる──①憂うつ気分が2年以上続く、②食欲減退(または過食)、不眠(または過眠)、気力低下、自尊心低下、集中力低下、絶望感のうち2つ以上が該当する、③この症状の2年の期間中①と②の症状が2ヵ月以上なかったことがない。

老年うつ病

日本人の65歳以上では10人に1人の割合でうつ病が発症しているという報告がある。高齢者のうつ病では、元気がなく、理解力が低下している様子から、認知症と診断されて、抗認知症薬が処方されることもある。その結果、うつ病の治療が行われず、病態は悪化する可能性がある。

現代うつ病

20代、30代の若年層で比較的多く見られる一種の抑うつ障害がマスメディアに注目されている。従来の典型的なうつ病とは異なるタイプとして、“現代うつ病(新型うつ病)”などと呼ばれているが、日本うつ病学会は「精神医学的に深く考慮されたものではない」などとして認めていない。野村氏は“現代うつ病”の印象を次のようにまとめている。「仕事のストレスが発病の引き金になるが、強烈なものではなく、通常はなんとかこなせる程度の業務と思えることが多い。抑うつのために仕事はできないが、余暇や趣味の時間は楽しく過ごしているように見える。自分を責めることは少なく、職場や上司、同僚を非難するような愚痴を言うことが多い。親が職場環境に口出しすることも稀ではない。長期間病休することにそれほど抵抗がない。抗うつ薬による治療はほとんど効果がない。主治医を信頼していない様子で、良好な関係が築けない」。とはいえ、従来の典型的なうつ病とは様相の異なる抑うつ障害の患者が現実に日常診療の場でも増えてきており、野村氏は“現代うつ病”と考えられる患者に対しては非定型うつ病、気分変調症を診断名に充てる場合が多いという。

抗うつ薬は併用しないのが原則 SSRIは相互作用に注意

うつ病は軽症なら安静にして休養をとることで改善し、薬物療法や精神療法を必要としないこともある。しかし、中等症以上になれば図3のような手順で抗うつ薬を使用する。

図3 うつ病の治療手順

日本精神科薬物療法研究会のアルゴリズムにもとづく。効果があればその段階の治療を続ける。効果がないか、不十分な場合は、その次の段階の治療に移る。

図3 うつ病の治療手順の画像

野村総一郎氏 提供

第一選択として通常は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)かセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が用いられる。第一選択薬の効果が十分でない場合や、副作用で投与を中止せざるを得ない場合は第二選択として第一選択薬と異なる薬に切り替える。第一選択薬の効果が少しでも見られる場合は、それに気分安定薬や抗精神病薬などを加える。それでも効果がなければ、切り替え療法を繰り返す。3〜4回繰り返しても効果が期待できない場合は難治性うつ病として対策を講じる。
抗うつ薬は種類が多く、個々の患者に合わせて使いこなすには技量が求められる。日本では現在、SSRI が最も多く使われているが、SSRIは相互作用が複雑で、嘔気などの副作用対策に使う薬剤の選択には注意を要する。SNRI はSSRIに比べて効果も副作用も穏やかだが、交感神経が刺激されて血圧が上昇したりする場合がある。一方、50年以上の歴史をもつ三環系抗うつ薬はいまでは使われる機会は少ないが、第三選択の治療薬として必要になることがある。四環系抗うつ薬は副作用が比較的少なく使いやすいが、効果が弱くいまではほとんど使われなくなった。抗うつ薬を使う場合は原則として1種類だけで、併用はしない。
「日本うつ病学会治療ガイドライン」は抗うつ薬の止め方について「寛解維持期には十分な継続療法、維持療法を行い、薬物療法の終結を急ぎ過ぎないことが重要」と示している。具体的には、寛解しても最低6ヵ月間は服用し、SSRIに関しては、急に中止すると一時的に不安感が強まるという報告もあり、2ヵ月程度の時間をかけて減量していくことを勧めている。「抗うつ薬は、まず少量を短期間使って、副作用が少ないようなら増量し、最終的に十分な用量を投与する。副作用に関しては、〈なんとなく不快〉〈好きではない〉という患者の声を重視し、中止や変更を判断します」と、長年のうつ病診療の経験から野村氏は助言する。
うつ病の患者は病識がないことが多く、自分の性格を責める傾向が強い。そのため、患者に対する傾聴、相槌(づち)、共感が重要になる。
うつ病の治療で難しいのは抗うつ薬に対して偏見や誤解をもっている患者に薬物療法の重要性を理解してもらうことであり、副作用や相互作用について事細かに説明すると、かえって患者を不安にさせることもある。薬の効果などについて正確な情報を提供しながら、患者の薬物療法に対する不安を和らげる必要がある。
また、患者に気分転換の旅行を勧めたり、叱咤激励したりしないことも、周囲の人の心得として銘記することが重要である。「患者は気分転換したくてもできず、そうした言葉が患者を追いつめることになる。うつ病患者の服薬指導では、言うべきことよりも言ってはいけない場面が少なからずある。カウンセリングマインドをもって患者に接することが望ましい」と、野村氏は薬剤師の役割に期待している。

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