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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

【皮膚悪性腫瘍】患者の声は些細なことも聞き逃さず踏み込んだ対応を

2017年5月号
皮膚悪性腫瘍 Part2 患者の声は些細なことも聞き逃さず踏み込んだ対応をの画像
人体で最大の器官である皮膚に発生する皮膚がん(悪性腫瘍)は種類が多いが、ほとんどは希少がんだ。患者数が少ないがゆえに科学的根拠に基づく診療面での課題は多い。今回は、皮膚悪性腫瘍でも比較的患者数の多い悪性黒色腫(メラノーマ)、有棘細胞がん、基底細胞がん、乳房外パジェット病を取り上げ、国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科の並川健二郎氏にそれぞれの特徴や鑑別診断のポイント、治療戦略などを解説していただいた。さらに、同病院薬剤部の前田誠氏には薬物治療をサポートする観点から治療効果、QOLを高める服薬指導などを助言していただいた。

Part.2 患者の声は些細なことも聞き逃さず踏み込んだ対応を

化学療法では見られなかった副作用に注意

従来、メラノーマの薬物治療ではダカルバジンをはじめ数々の細胞障害性抗がん剤が使われてきた。細胞障害性抗がん剤はがん細胞だけでなく正常細胞にも影響を与えるため、吐気・嘔吐、食欲不振、下痢、手足のしびれ、肝機能障害、腎機能障害、脱毛、倦怠感、白血球減少、血小板減少、貧血など多彩な副作用が出現する。患者の中には、薬物治療に対して必要以上に副作用を気にして治療を拒んだり、中断したりする例もある。こうした患者に対して薬剤師は、効果と副作用、支持療法など薬物治療に関して丁寧に説明し、正しい理解を促すことが求められる。
免疫チェックポイント阻害剤は細胞障害性抗がん剤に比べて副作用の出現頻度は低いとされている。国立がん研究センター中央病院薬剤部の前田誠氏によると、比較的多く見られる大腸炎関連の下痢でも発生頻度は10%に満たないほどで、間質性肺炎はさらに低く2%程度、肝機能障害などは症状として気づきにくく、患者によっては黄疸が現れて初めて発見されることもあるという。「化学療法では見られなかった副作用には注意が必要です。たとえば劇症I型糖尿病など、従来の薬物治療で経験したことがない有害事象が発生する可能性を念頭に置いた管理が重要となります」と前田氏は指摘する。
免疫チェックポイント阻害剤の副作用の出現時期は投与後2週間から8週間ごろが比較的多いが、投与直後や最終投与から数ヵ月して出現することもあるという。同病院では、看護師が医師の診察前に患者から情報を収集し、副作用チェックリストで医師、薬剤師と共有している。免疫チェックポイント阻害剤を使用している患者に対して、〈いつどのような副作用が出現するかわからない〉〈副作用によっては緊急処置が必要な場合もある〉といった注意事項を伝え、異変に気づいたらすぐに連絡するように伝えている。
また、相互作用にも目を光らせている。とくにダブラフェニブはCYP2C8、CYP3A4で代謝され、CYP2C9、CYP3A4を誘導するため、併用注意となる薬剤が多数ある。これらの酵素に関連する薬剤は種類が多く、前田氏はその都度確認するという。

患者の生活に合わせて具体的な対策を提案

服薬方法について患者の理解が不十分だと思わぬ事故を招くリスクがある。たとえば、ダブラフェニブは1回150mgを1日2回、空腹時に経口投与する。トラメチニブはダブラフェニブと併用する場合、1回2mgを1日1回、空腹時に経口投与する。一般的な薬と服用方法の異なる治療薬は慣れないと飲み忘れなど誤用する可能性が大きい。また、トラメチニブは冷蔵保管する必要があり、薬剤管理を含めたきめ細やかな服薬指導を要する。
「たとえば患者さんの生活に合わせて具体的な時間を提案することでアドヒアランスの向上が期待できます」と前田氏はいう。
同病院では、気になる症状や体調の変化、服薬に関する質問や相談を、医師・薬剤師・看護師が24時間体制で電話で受け付ける「外来化学療法ホットライン」を整備し、患者の療養生活を支えている。前田氏は「患者さんの訴えや問い合わせは、どんな小さなことでも聞き流さず、踏み込んで対応することが大切です」と助言している。

処方解析のための Case Conference

症例
メラノーマに対するセンチネルリンパ節生検後、
皮膚皮下転移し、
ニボルマブ投与転移巣の縮小した症例

●患者プロフィール(年齢・性別・生活習慣・家族歴など)
53歳、女性。既往歴・合併症に特記事項なし。

●病歴
数年前から左大腿部に黒褐色斑を自覚、徐々に増大するため前医を受診。メラノーマが疑われたため当院を紹介され、初診した。左大腿外側に径15×12mm大の一部結節を伴う不整形黒褐色腫瘍を認め、視診およびダーモスコピーでメラノーマと診断した。皮膚悪性腫瘍切除術を行った。さらにセンチネルリンパ節生検術を行い、センチネルリンパ節転移を認めたため左鼠径骨盤内リンパ節郭清術を追加した。病期ⅢAと診断し、定期的に経過観察をした。術後1年の診察およびCTで多発皮膚・皮下・肝転移を認めた。

●処方例
皮膚転移巣を生検し、BRAF遺伝子検査の結果、変異は検出されなかった。そのため、一次治療としてニボルマブ(3mg/kg、2週毎)を選択した。

●経過
ニボルマブ投与開始3ヵ月後のCTで転移巣はやや縮小、6ヵ月後のCTでも転移巣は緩徐に縮小しており、明らかな新出病変も認めなかった。副作用は瘙痒がみられるのみで軽度であり、現在もニボルマブを定期的に継続中である。

薬剤師に期待される服薬指導のポイント

  1. 薬剤の効果と副作用、支持療法などに関して丁寧に説明する
  2. 副作用チェックリストを作成して、医師、薬剤師、看護師で情報を共有する
  3. 副作用に対する注意を促し、異変に気づいたらすぐに連絡するよう指導する
  4. BRAF阻害剤やMEK阻害剤などの内服薬は、患者の生活に合わせた適切な服用タイミングをアドバイスする

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