Part.2 個々の患者に対応するため服薬指導、患者教育で工夫していること
肺がん患者に留意した服薬指導での工夫
国立がん研究センター東病院薬剤部の川澄賢司氏は、がん専門剤剤師として薬剤師外来で、医師が診察する前に経口抗がん剤治療中の患者への初回服薬指導、継続した薬学的介入を行っている。医師の診察前に患者のアドヒアランスや副作用を聴取して、それに応じた患者教育、医師への支持療法の提案を行う。
Part.1でも触れたが、患者に薬物療法を正しく認識してもらうことが重要である。そのために、薬剤師は注射抗がん剤から経口抗がん剤まで、治療上注意しなければいけないことを知識として身につけておくことが大切だと川澄氏は言う。ゲフィチニブなどEGFR-TKI(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)では、主に皮膚障害と粘膜毒性(下痢や口内炎)が患者のQOLを低下させ、減量や中止になることも多いため、適切に副作用を評価し、的確な対処を心がけているという。
皮膚障害に対しては、外用薬の適切な使用方法を指導するだけでなく、セルフケアについては外来の看護師にも相談して、必要に応じて皮膚科受診を勧める。特にステロイド外用薬は、使用部位によって強弱を考えたり、塗布量や塗布のタイミングなど患者の生活習慣に配慮した指導が継続治療につながる。
一方、免疫チェックポイント阻害薬では、自己免疫関連の副作用(1型糖尿病、大腸炎、甲状腺機能障害)の初期症状について患者教育を徹底する。間質性肺炎の初期症状の説明も大切である。
経口薬の中には食事によって体内動態に影響を与える薬剤も多い。医師と相談して患者の生活リズムに配慮したよりよい内服のタイミングを考えることが大切だ。こうした配慮がアドヒアランスを高めるために重要となる。
特に注意すべき相互作用
EGFR-TKIは肝臓においてCYP3A4で代謝される薬剤が多い。このためCYP3A4に影響を与える薬剤との併用で相互作用が起こる可能性がある。病院でも併用薬は治療開始前に確認しているが、保険薬局においてもどのような患者がどのような薬剤を併用しているか確認することが大切だ。「薬剤師は、薬物相互作用を考慮して、副作用や治療効果に与える影響を予測することが重要です」と川澄氏は言う。また、ほとんどのEGFR-TKIは胃酸分泌抑制薬(H2遮断薬やPPI)との併用で、胃内pH上昇によりEGFR-TKIの吸収が抑制されることが報告されており、可能な限り控えるよう配慮する。
しかし、進行肺がんの患者の多くはがん性疼痛を抱えており、NSAIDsを継続内服している場合は、消化性潰瘍の予防目的で胃酸分泌抑制薬の併用が必要なこともある。リスクとベネフィットを考慮して、注意しながら併用することもしばしばある。川澄氏は「他院での併用薬については把握しきれていない場合もあるので、使用薬剤の薬物相互作用などが考慮される場合は必ず疑義照会をすることが必要です」と話す。
保険薬局薬剤師と病院薬剤師との連携も大切
がんセンターや大学病院などがんを専門に扱っている施設には、がんの専門や認定薬剤師がいることが多い。医師への問い合わせだけでなく、そうした専門薬剤師との連携を通じて、併用薬剤が変更されたときや患者に副作用の可能性があるときなどには積極的に情報提供をしてほしい。EGFR-TKIによる皮膚症状は軽度でも患者のQOLを低下させる。外用薬の使用量やアドヒアランスについての確認、治療開始初期からの副作用を管理する上での患者教育、継続した対処方法の確認などは看護師とも協力して進めるとうまくいくという。保険薬局では看護師と協力することは難しいかもしれないが、地域の勉強会などに積極的に参加して、他の職種と接する機会を増やし、知識を習得するよう心がけたい。
参考文献
- 公益財団法人がん研究会 国立研究開発法人日本医療研究開発機構:ALK陽性肺がんに対する治療薬耐性の原因を発見〜より効果的な治療法の選択へ道,平成27年12月25日
処方解析のための Case Conference
オシメルチニブで肝転移の劇的縮小を認めた症例