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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

【肺がん】服薬指導、患者教育で工夫していること

2017年4月号
肺がん Part2 個々の患者に対応するため服薬指導、患者教育で工夫していることの画像
肺がんは小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別される。従来のがん治療では手術療法、放射線治療、化学療法が3本柱だったが、肺がん治療ではこれに免疫療法が加わり、新たなステージに入った。今回は、国立がん研究センター東病院 呼吸器内科の梅村茂樹氏に、肺がんの85%を占める非小細胞肺がんの化学療法に関するアップデートな話題を提供していただいた。また、同病院薬剤部の川澄賢司氏には、化学療法の主流ともいえる分子標的治療薬を使用する際に薬剤師が留意すべき点などについて語っていただいた。

Part.2 個々の患者に対応するため服薬指導、患者教育で工夫していること

肺がん患者に留意した服薬指導での工夫

国立がん研究センター東病院薬剤部の川澄賢司氏は、がん専門剤剤師として薬剤師外来で、医師が診察する前に経口抗がん剤治療中の患者への初回服薬指導、継続した薬学的介入を行っている。医師の診察前に患者のアドヒアランスや副作用を聴取して、それに応じた患者教育、医師への支持療法の提案を行う。
Part.1でも触れたが、患者に薬物療法を正しく認識してもらうことが重要である。そのために、薬剤師は注射抗がん剤から経口抗がん剤まで、治療上注意しなければいけないことを知識として身につけておくことが大切だと川澄氏は言う。ゲフィチニブなどEGFR-TKI(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)では、主に皮膚障害と粘膜毒性(下痢や口内炎)が患者のQOLを低下させ、減量や中止になることも多いため、適切に副作用を評価し、的確な対処を心がけているという。
皮膚障害に対しては、外用薬の適切な使用方法を指導するだけでなく、セルフケアについては外来の看護師にも相談して、必要に応じて皮膚科受診を勧める。特にステロイド外用薬は、使用部位によって強弱を考えたり、塗布量や塗布のタイミングなど患者の生活習慣に配慮した指導が継続治療につながる。
一方、免疫チェックポイント阻害薬では、自己免疫関連の副作用(1型糖尿病、大腸炎、甲状腺機能障害)の初期症状について患者教育を徹底する。間質性肺炎の初期症状の説明も大切である。
経口薬の中には食事によって体内動態に影響を与える薬剤も多い。医師と相談して患者の生活リズムに配慮したよりよい内服のタイミングを考えることが大切だ。こうした配慮がアドヒアランスを高めるために重要となる。

特に注意すべき相互作用

EGFR-TKIは肝臓においてCYP3A4で代謝される薬剤が多い。このためCYP3A4に影響を与える薬剤との併用で相互作用が起こる可能性がある。病院でも併用薬は治療開始前に確認しているが、保険薬局においてもどのような患者がどのような薬剤を併用しているか確認することが大切だ。「薬剤師は、薬物相互作用を考慮して、副作用や治療効果に与える影響を予測することが重要です」と川澄氏は言う。また、ほとんどのEGFR-TKIは胃酸分泌抑制薬(H2遮断薬やPPI)との併用で、胃内pH上昇によりEGFR-TKIの吸収が抑制されることが報告されており、可能な限り控えるよう配慮する。
しかし、進行肺がんの患者の多くはがん性疼痛を抱えており、NSAIDsを継続内服している場合は、消化性潰瘍の予防目的で胃酸分泌抑制薬の併用が必要なこともある。リスクとベネフィットを考慮して、注意しながら併用することもしばしばある。川澄氏は「他院での併用薬については把握しきれていない場合もあるので、使用薬剤の薬物相互作用などが考慮される場合は必ず疑義照会をすることが必要です」と話す。

保険薬局薬剤師と病院薬剤師との連携も大切

がんセンターや大学病院などがんを専門に扱っている施設には、がんの専門や認定薬剤師がいることが多い。医師への問い合わせだけでなく、そうした専門薬剤師との連携を通じて、併用薬剤が変更されたときや患者に副作用の可能性があるときなどには積極的に情報提供をしてほしい。EGFR-TKIによる皮膚症状は軽度でも患者のQOLを低下させる。外用薬の使用量やアドヒアランスについての確認、治療開始初期からの副作用を管理する上での患者教育、継続した対処方法の確認などは看護師とも協力して進めるとうまくいくという。保険薬局では看護師と協力することは難しいかもしれないが、地域の勉強会などに積極的に参加して、他の職種と接する機会を増やし、知識を習得するよう心がけたい。

参考文献

  1. 公益財団法人がん研究会 国立研究開発法人日本医療研究開発機構:ALK陽性肺がんに対する治療薬耐性の原因を発見〜より効果的な治療法の選択へ道,平成27年12月25日

処方解析のための Case Conference

症例
オシメルチニブ肝転移の劇的縮小を認めた症例

●患者プロフィール(年齢・性別・生活習慣・家族歴など)
71歳女性。原発性肺がん(腺がん、非喫煙者、ECOG PS 1)、EGFR遺伝子変異陽性(エクソン19欠失+T790M)

●病歴
1次治療としてゲフィチニブ(イレッサ®)、2次治療としてエルロチニブ(タルセバ®)を投与したところ、18ヵ月間の腫瘍縮小が認められた。しかし耐性が出現し、再び腫瘍の増大が認められたため、エルロチニブを中止し、既存の化学療法に切り替えるなど、治療を継続した。
その後、6次治療としてテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(ティーエスワン®)を投与したところ、5ヵ月で腫瘍の再増大を認めた。増大を認めた肝転移巣から再生検を実施したところ、既存の活性型変異(エクソン19欠失)に加えて、T790M耐性変異が検出された。


●処方例
  1. オシメルチニブ(タグリッソ® 80mg)1日1回 朝食後内服
    処方理由:肺癌診療ガイドライン2016年版では、EGFR T790M変異陽性例に対し、オシメルチニブ単剤が、グレードAで強く推奨されているため。
  2. ジフルプレドナート (マイザー®) 軟膏 5g
    処方理由:体幹部、手足の発疹に対する治療
  3. ベタメタゾン吉草酸エステル (リンデロン®VG) ローション 0.12% 10mL
    処方理由:頭皮の発疹に対する治療
  4. ヘパリン類似物質 (ヒルドイド®) ローション 0.3% 50g
    処方理由:発疹の重症化予防 (保湿目的)


●経過
7次治療としてオシメルチニブの投与を開始したところ、投与後2ヵ月の画像所見にて、肝転移の劇的な縮小を認め(図1)、腫瘍マーカーのCEAも著明な低下を認めた(図2)。オシメルチニブにより8ヵ月間にわたり病勢制御が得られ、現在も治療継続中である。副作用としては、グレード1の皮疹をきたしたが、マイザー®軟膏、リンデロン®VGローション等によりコントロール可能であった。
※タグリッソ®は本症例の治療中に発売された

図1 オシメルチニブ使用前後の画像所見

図1 オシメルチニブ使用前後の画像所見の画像

図2 腫瘍マーカーの血清CEA値(ng/mL)

図2 腫瘍マーカーの血清CEA値(ng/mL)の画像

薬剤師に期待される服薬指導のポイント

  1. 服薬アドヒアランスが治療効果に直結する。継続した薬剤師の介入が大切。
  2. 皮膚症状は軽度でも患者のQOLを低下させる。軽視せず治療施設の医師、薬剤師にアドバイスを求める。
  3. 皮膚症状に対しては自宅でのセルフケアを家族も含めて指導する。
  4. 間質性肺炎は重篤化すると死に至ることもあるため、初期対応の理解を深める努力を。

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