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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

【胃がん】副作用をマネジメントし、患者のQOLを高める

2017年2月号
胃がん Part2 副作用をマネジメントし、患者のQOLを高める薬剤師は“最後の砦”の画像
国立がん研究センター がん対策情報センターによると、2016年の胃がんの罹患数予測は大腸がんに次いで2位(133,900人)、死亡数予測は肺がん、大腸がんに次いで3位(48,500人)である1)。近年、トラスツズマブなど分子標的薬の登場により、切除不能進行・再発胃がんに対する化学療法が進歩し、高い腫瘍縮小効果を期待できるようになったが、術後補助化学療法施行例を別とすれば、化学療法対象症例の多くは緩和療法に移行する。国立がん研究センター東病院消化管内科の坂東英明氏に胃がん患者に対する化学療法の基本的あり方と分子標的薬について解説していただいた。また同病院薬剤部の野村久祥氏には、近年、増加傾向にある外来化学療法における薬剤師の役割などについてお聞きした。

Part2 副作用をマネジメントし、患者のQOLを高める薬剤師は“最後の砦”

治療目的によって異なる患者対応

Part.1で触れたように、がん化学療法では、切除不能進行・再発胃がんに対する治療と術後補助化学療法がある。前者では生活の質を落とさないことが重要な目的になるが、後者においては服薬の継続が最も重要になる。すなわち後者では服薬アドヒアランスを低下させない指導に重点を置き、副作用対策が十分に行えることを説明して、患者の過度な不安を払拭し、1年間は継続して服用するよう指導することが大切だ。国立がん研究センター東病院薬剤部の野村久祥氏は「保険薬局で副作用に辛い思いをしている患者さんと遭遇したら、医師に言いにくければ、病院の看護師あるいは薬剤師に患者情報を伝えてほしい」と言う。そうすれば、その情報は医師にも伝わるはずだ。

顧客対応能力に優れた保険薬局薬剤師ができること

副作用の中で患者が辛いと感じる症状の1つは、食欲不振、嘔吐といった消化器症状だ。「治療効果と副作用のバランスを考えるのも薬剤師の役割」と語る野村氏は、「患者の立場に立って、減量や支持療法の提案を積極的に行うことで医師と患者の架け橋になることができ、医師も薬剤師の熱意を理解してくれるのではないか」と考えている。こうしたことの積み重ねにより、薬剤師と医師の信頼関係が深まれば、副作用情報をより聞き取りやすくなる。
副作用について患者が積極的に語ることは少ないかもしれない。そのような時には、薬剤師からの問いかけが重要となる。「一般論だが」と断ったうえで、野村氏は、「高齢者の場合は、1つ1つの副作用名を挙げて、症状の有無を聞き出すクローズド・クエスチョンの方が情報を引き出しやすいでしょう。若年の患者さんには『何か辛いことはありませんか?』といったオープン・クエスチョンの方が有効です」と語る。さらに、「保険薬局の薬剤師は顧客対応能力に優れているはずです。高血圧や糖尿病など慢性疾患の患者に用いるスキルを応用することも考えてみてほしいと思います」と言う。
投与量に関係した副作用では肝機能や腎機能が1つの目安になる。もし、患者から検査値データが得られるなら、その数値から患者との対話をふくらませることができるだろう。血液毒性については病院から患者に提供される資料(薬剤部作成のものが多い)が参考になる。
がん患者の中には、腫瘍縮小効果などをうたった健康食品を利用している患者がいるかもしれない。サプリメントやいわゆる健康食品と抗がん剤の相互作用は不明な点が多いため、野村氏は「サプリメントなどは食品であって医薬品ではありません。患者さんは効果を期待して飲んでいますが、肝機能を悪くするなどよくない副作用を起こすこともあります。身体に悪いというデータも、効果があるという明確なデータもないので、患者さんには摂取しないように指導してほしいと思います」と話す。その際には、患者の心情に配慮し、十分にコミュニケーションをとってアドバイスすることが大切だ。
面分業が進んでいる地域においても、地域の保険薬局ががん化学療法の処方せんを受け付けるケースはそれほど多くくはないかもしれない。患者の多くは治療を受ける病院に近い薬局で調剤してもらうことが多いが、内服抗がん剤が普及するにつれ、市中の保険薬局でもがん化学療法の処方せんを受ける機会が増えてくると見込まれる。
今後は服薬アドヒアランスの向上と副作用モニタリングに保険薬局が介入できる体制の構築が望まれる。「重複処方、相互作用を止められるのは保険薬局だけです。かかりつけ薬剤師がひとりの患者の薬をしっかり管理できる体制が進むことを期待しています」と野村氏が語るように、薬剤師は患者にとって最後の砦である。医薬品の適正使用に関しては医師も細心の注意を払うが、薬の専門家である薬剤師は、副作用をマネジメントして患者のQOLを高めることが期待される。これを忘れずに薬剤師の職能を発揮してほしいと、野村氏は保険薬局の薬剤師にエールを送っている。

引用文献
  1. 国立がん研究センターがん対策情報センター:がん情報サービスがん登録・統計http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/short_pred.html
参考文献
  1. 日本胃癌学会編:胃癌治療ガイドライン医師用2014年5月改訂第4版,金原出版
  2. 佐藤温編:胃がん薬物治療Q&A,ヴァン メディカル,2015年

処方解析のための Case Conference

症例
好中球減少によりパクリタキセル休薬
病勢増悪のため3次治療の末に緩和ケアを選択した症例

●患者プロフィール・現病歴
66歳男性、既往歴なし、家族歴なし、喫煙・飲酒歴なし。2ヵ月で5kgの体重減少を認め、食欲不振を主訴として前医受診。精査の結果、胃がんと診断され当院紹介受診となった。内視鏡では胃壁の肥厚、伸展不良を認める4型胃がんであり、CTで腹腔内に大量の腹水を認めた。

●処方例
飲食物の経口摂取良好で、全身状態も良好だったため、1次治療としてS-1+オキサリプラチン(SOX療法)を選択したが、約3ヵ月後のCTで腹水の増加を認め、2次治療はパクリタキセル毎週投与+ラムシルマブを選択した。さらに3次治療としてイリノテカンを選択した。

●処方理由・経過
好中球減少のため適宜パクリタキセルを休薬しながら治療を継続したが、2ヵ月後のCTで腹水の減少を認め、その後約6ヵ月病勢を安定させることができた。6ヵ月時点で腹水が再度増加しており病勢増悪と判断した。3次治療ではイリノテカンを選択したが、初回評価で腹水のさらなる増加を認めた。全身状態からこれ以上の化学療法の継続は困難であり、その後は緩和ケアを選択した。

薬剤師に期待される服薬指導のポイント

  1. 抗がん剤は副作用と治療効果のバランスが重要。
  2. 重複薬のチェックは副作用を低減する鍵となる。
  3. 疑義照会は根拠をしっかり調べたうえでためらわず行う。
  4. サプリメントなど健康食品もチェックする。

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