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専門医+エキスパートに聞くよりよい服薬指導のための基礎知識

【統合失調症】患者心理に配慮したコミュニケーションが大切

2017年1月号
統合失調症 Part2 患者心理に配慮したコミュニケーションが大切の画像
厚生労働省の2014年患者調査によれば統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害で外来受診している患者数は約70万人と推計されている。訪問看護の充実など社会的環境の整備により統合失調症患者の脱施設化が進み、保険薬局でも外来通院患者に遭遇する機会は増加すると考えられる。そこで、今回は、国立精神・神経医療研究センター病院 統合失調症早期診断・治療センターの吉村直記氏に外来通院している患者の病態や薬物療法の要点などについて解説していただいた。また同センター薬剤部の大竹将司氏には、患者に遭遇した際の服薬指導のポイントについて語っていただいた。

Part2 患者心理に配慮したコミュニケーションが大切

副作用の認識や薬に対する期待 患者ごとの違いを理解する

抗精神病薬の服薬アドヒアランスに影響を与える要因としては、効果を実感できない、副作用、病識、医師―患者間の信頼関係など様々だが、国立精神・神経医療研究センター病院 薬剤部 薬歴管理主任の大竹将司氏は、「統合失調症における再発・再入院の多くの原因は服薬中断です」と指摘する。統合失調症の治療の中心となる抗精神病薬には錐体外路症状、体重増加など様々な副作用があり、抗不安薬、睡眠薬、パーキンソン病治療薬などの併用薬との相互作用にも注意が必要である。
保険薬局で統合失調症患者に対応する場合、まず必要なことは、副作用のために薬剤を中断していないかどうかの確認である。「例えば、抗精神病薬では口渇の副作用がよくみられますが、『家で水をどのくらい飲んでいますか?』といった質問は、口渇の有無を知る目安になります」(大竹氏)。大量に水を飲んでおり、指示通り服薬していなければ、口渇のために薬剤を中断ないし、減薬している可能性がある。
Part.1でも触れたが、統合失調症患者は自分の身体的異常には関心が薄いことが多い。統合失調症の薬物療法では生化学的検査の結果をモニタリングすることは必須だという。保険薬局では、もし可能であれば、患者や家族に生化学的検査の結果を持参してもらうことも大切だ。副作用に対する患者の認識には個人差があり、例えば体重増加には無頓着だが、他の副作用は重く捉えている患者もいる。患者がどのような副作用に悩み、とまどいを感じているかを探り出すような会話も必要となろう。
同じように患者によって治療薬に対する要望も異なる。例えば、多少の体重増加があったとしても飲み心地を優先したいという患者がいれば、副作用が少ないことを第一に求める患者もいる。患者が薬に対してどんな希望をもっているかを聞き出し、医師にフィードバックすることも重要だ。

アドレナリンは併用禁忌喫煙や飲酒にも注意を

大竹氏に、実臨床でとくに注意している抗精神病薬の併用禁忌や相互作用を解説していただいた。ほとんどの薬剤に共通して、アドレナリンは併用禁忌であるため注意を要する。また、抗精神病薬は大半が肝代謝であり、例えばリスペリドンはCYP2D6・CYP3A4阻害薬の影響を受けて作用が増強する。中枢神経抑制薬、喫煙、飲酒なども注意する必要があるという。パリペリドンやブロナンセリンと中枢神経抑制薬や飲酒、降圧薬は相互に作用が増強する。オランザピンは喫煙により作用が減弱し、ブロナンセリンではグレープフルーツジュースによって作用が増強するため注意が必要だ。
大竹氏は「飲み方に注意が必要な薬があり、とくに新しい薬は飲み方が難しくなってきていますから、患者さんへの丁寧な説明が大切です」と話す。例えば、2016年5月に発売されたアセナピンマレイン(製品名:シクレスト®)では舌下投与後10分間は飲食を避ける必要がある。
 「症状がある限り、薬は飲んでいただきたい。患者さんがきちんと服用するためにどのような工夫が必要なのかを考えることが私たちの役割です」(大竹氏)。薬は飲んでください、飲めていますか、といった問いかけだけでなく、どのくらい飲めているのかを聞き出すことも大切だ。例えば80%飲んでいる場合と、20%しか飲んでいない場合では異なる。具体的にどの程度飲めているかを確認した上で、飲めない理由を患者の身になって聞き、服薬カレンダーや服薬支援アプリなど個々の患者に合った服薬支援の方法を考えることが求められる。アドヒアランス向上のためにどのような工夫ができるかを考えることも重要である。
持参薬をチェックすると、ビニール袋に大量の薬を詰め込んでもってくるようなケースがあるという。患者のおよそのアドヒアランス状況がわかるので、家にある薬をすべてもってきてもらうとよいだろう。
統合失調症の服薬指導は一筋縄でいかないことも多い。しかし、安定期にある患者は本音を語ってくれる場合が少なくないという。患者の様子を観察しながら、今の時期なら語ってくれそうだと確信がもてたら、「患者さんの話をよく聞いてほしい」と大竹氏は言う。

参考文献
  1. Wunderink L, Nienhuis FJ, Sytema S, et al: Guided discontinuation versus maintenance treatment in remitted first-episode psychosis: relapse rates and functional outcome. J Clin Psychiatry 68 : 654-661. 2007

処方解析のための Case Conference

症例
飲みやすさを考慮した処方で症状が改善した症例

●患者プロフィール(年齢・性別・生活習慣・家族歴など)
23歳女性。両親と同居。肥満あり。

●病歴
大学在学時から、徐々に大学へ通学できなくなり家に引きこもるようになった。半年ほど前から、「眠れない」と訴え、昼夜逆転の生活へと変化した。その後より、独語、空笑が出現し、時折、怒鳴り声が聞こえるようになった。また、「家に盗聴器が仕掛けられているからなんとかしてほしい」などと言い、警察に電話し、警察官が自宅を訪れたこともあった。そのため、心配した両親に連れられ、当院精神科を受診した。受診時、幻聴、被害関係妄想が活発で、思考滅裂、不眠、感情の平板化、自閉などの症状を認め、統合失調症と診断した。

●処方例
服薬には抵抗感があるようだったが、家族の協力を得て、なんとか服薬してもらえそうであったため、飲みやすさを重視し、リスペリドン液2mL 2×を処方し、不眠に対し、ニトラゼパム5mg 1×を眠前に追加した。オランザピンも選択肢に挙がったが、肥満を認めたため、見合わせた。錐体外路症状、無月経、眠気等の副作用について十分説明し、理解を得た。

●経過
その後、症状の改善が不十分であったため、リスペリドンを6mL 2×まで漸増。呂律不良、若干の四肢のこわばりを認めたため、ビペリデン1mg 1×の処方を追加。その後幻聴は気にならない程度まで改善し、被害妄想を基に行動化することもなくなった。表情には笑顔も見られるようになった。無月経も出現したため、今後、年単位での症状の安定が得られたらリスペリドンを減量し、その減量と合わせて錐体外路症状の程度も評価し、ビペリデンの中止も検討する予定とした。

薬剤師に期待される服薬指導のポイント

  1. 副作用は、患者が異常に気付きにくい場合もあるため、身体的異常をよく観察する。
  2. 血液生化学など検査データを持参してもらい、副作用の有無をチェックする。
  3. 安心して薬を服用してもらうため、副作用の対処法を説明する。
  4. 病識の欠如による怠薬もあることに留意する。

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